『闇属性黒猫の異世界救出物語』〜魔物転生!?いや人間になりたい!

藤村ゆんた

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第一章 

42話 神聖皇国エメストリア③

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ナーシア達を待ってから2時間は経過している。

遅いな…儀式、そんなにかかるんだ。後どれくらいかかるんだろう。

神殿近くの広場にある高い木の上で、少し退屈しながら何気なく遠くを見る。

…?

あれなんだろう。

空に何百も浮かぶ飛行物体が見えた。
目を凝らすと、翼がある幻想生物や、航空機やバイクのような機械のものが見えた。その上に居るのは、人?

それらは真っ直ぐこちらに向かってくる。はっと地上を見れば、輝く鎧を身につけた騎士の軍が列を成してキュエイム神殿に向かっていた。

「聖花騎士団の方達よ!」
「おお、なんて素晴らしい」

広場を歩いていたこの国の信徒達が空を見上げるなり驚き、拝む様子が彼方此方で見られる。
聖花騎士団…この国を守る高位の騎士かな。それよりも聖花騎士が乗るアレはなんだろう。
気になって鑑定すると、飛行船と同じようなアーティファクトと表示された。

ペガサスやグリフォン、ドラゴン、まるで生きているかのようなアーティファクトに跨って飛翔する者、近未来チックな機械の形をしたものや、簡素な薄い板の形に乗って移動する者もいる。

問題なのは、そんな彼等がどう見ても物凄い速さでキュエイム神殿に向かっているという事だ。何か神殿で聖花騎士団が集まる行事でもあるのだろうか。

聖花騎士団がキュエイム神殿に着くと、小さく何かを唱えた。すると、さっきまでペガサスの形をしたアーティストが歪んだように曲がって一瞬で剣に変わる。鎖の付いた鎌や盾、生きた白い怪物のようなものまで、武器もそれぞれ千差万別に変わるようだ。

次々と聖花騎士が辿り着き、アーティストを武器に変えて神殿の8つの入り口全てから慌ただしく入っていく様子に、何かただ事ではない予感がした。

神殿では信徒達が帰されて、ナーシアの大規模な儀式をされている筈だ。もしかすると、呪いのせいでナーシアの身に何か危険が及んだのかも知れない。

待機させていた分身で神殿内に入ろうとしたが、聖花騎士団が8つの入り口全てをアーティファクトを使った結界で封鎖されて弾き飛ばされた。

【ホーリィシールド(劣)】
【属性:神聖属性】

駄目だ、鑑定しても情報が少ない。

でもこのシールドは神聖属性なのか…突っ切れる予想ができない。
出入り口にそれぞれ20人ほど、一つの部隊が厳重に封鎖している。

流石に聖花騎士がこれだけ多く封鎖しているとなると、八つの出入口からの侵入は困難かも知れない。

神殿内に直接影裂界を開いてワープをしようとしたが、何かに吸われるように力が入らず、影裂界を開く事すら出来なかった。

まさか…神聖属性の強い土地、聖域では影裂界を使ったワープ移動ができない…?
試しにこの国の住宅地にワープしようとしたが、同じように急激に力がなくなってなにも出来なかった。

言い表せぬ焦燥感が胸の内を襲う。神殿内の様子が全く分からない。ゼフィルスさん達も大丈夫だろうか。

その時、神殿に、機械仕掛けの巨大な馬車が着く様子が視界に入る。あれもアーティファクトだ。
窓も無く、不気味で兵器のような馬車を不思議に思っていると、キュエイム神殿から武器を常に構えた臨戦状態の聖花騎士達がゾロゾロと出てきた。

聖花騎士達に囲まれているのは、連行されている騎士。

…え?

アーティファクトによって拘束され、機械馬車に向かって連行されていく騎士達の顔には見覚えがある。

だって、あの人たちはクローゼル家の、ナーシア達の護衛騎士四人じゃないか!

何があったんだ、どうして騎士達が…。クローゼル家に元々使えていた護衛騎士達が、ナーシアを裏切る筈がない。彼らの忠誠心は高く、ナーシアを想う心優しい人達だ。

心臓がない代わりに、体内の黒魔力が砂嵐のように騒めく。

ゼフィルスさんは、ゼフィルスさんはどこ!?

次の瞬間、思考が停止した。頭から血を流し意識を失ったゼフィルスさんが、聖花騎士達に運ばれていくのが見えた。ゼフィルスさんはナーシアの護衛騎士と共に機械馬車に押し込められた。

なんで、何があったんだよッ!

馬車を追尾しようと分身を飛ばす。

ッがあ゛ッ!?

だが、馬車にたどり着く瞬間に分身が「光る矢」によって貫かた。今まで経験した事のない全身を焼き尽くされたような壮絶な痛みの凝縮、その一瞬で意識が飛び掛けた。

なんだ、これ。

思わず錯乱するほど、恐怖で身体が竦む。聖花騎士の群れがこちらに来る気配を感じて、その場を逃げるように移動した。

嫌だ、怖い。

聖花騎士に、弓の形をしたアーティファクトを扱う者が居た。恐らくアレに打たれたんだ。だとしても、なんだあの
、あの感覚はッ。
この身体で初めて、自分の反対属性である神聖属性の攻撃を受けた感覚に、恐怖と絶望を感じた。
一瞬だけの筈だったのに、鮮明に焼き付く痛み。もう二度とあんな目に会いたくない。

聖花騎士は先程まで居た広場を探索している。僕はその反対の神殿の向こう側で、建物の屋根の内側に隠れ息を潜めていた。

このままこの国を抜け出したい。神聖属性というのは、僕自身にとって一番危険な存在なのかもしれない。特に神聖魔法が特出した聖女なんてもっと危険だ。聖女が居ないうちに逃げるべきなんだ。それなのに…。

黒魔力が恐怖の感情を表すかのように、体の内で縮小する。これだけ逃げたいと思っているのに、身体が動かない。

屋根に張り付いた黒猫は、それどころか、背中から黒い翼を生やして神殿に向かって飛翔した。

あの痛みを、もう一度味わうくらいなら、いっそのこと死んだ方が良い。
もし、ナーシアやゼフィルスさん達がいなければ、そう思って逃げ出した。

空を蹴るように翼を羽ばたかせる。守りたい人を守る為に。

***




神殿にはもう一つの違う機械馬車が神殿に着いていた。ゼフィルスさんを乗せた馬車はもう見当たらない。

あの馬車にナーシアを乗せさせない。

浮かぶ多面立方体の結界に閉じ込められたナーシアが神殿内から現れた。

レッドウルフとオルシヴィオンの分身を2体作り出し、レッドウルフの《火炎達磨》でナーシアを閉じこめる多面結界を攻撃する。だけど、削れるのは自分の回転する身体で、呆気なく消滅した。

ナーシア、今すぐ助けるから、もう少し待っていてッ!

オルシヴィオンの爪から《絶波断》を繰り出し、何度も何度も結界を攻撃する。結界に小さなヒビが入ったが、聖花騎士のアーティファクトを使った飛び道具によって断末魔と共に消滅する。

同じ能力を持つ分身は二つ生み出せない。だから、消える度に、何度も何度もこの二体を作り出した。

本体と決めている黒猫の体内から黒魔力が無くなり始め、影裂界から黒魔力を引き出す。
ナーシアを閉じこめるあの結界は、【聖なる封印の障壁】というアーティファクト。

あれさえ、壊せば、ナーシアを連れ出して、そして、ゼフィルスさんをたすけて、そして、…。

何も計画なんて考えていない。どうすれば良いのか分からない。今は、ナーシアをただ助けるために…、…。

いつも助けられてばかりだった。
僕に人を守れるだけの力があるならって、あれだけ渇望していたのに。いざ守れる立場になったら、

守り方が分からないなんて。

障壁を壊すことができないまま、分身を作り出しては殺され、作り出しては、殺されを繰り返す。あれだけ大量にあった筈の影裂界の黒魔力も、いつの間にか尽きてきた。

戦い慣れていないせいか、直ぐに聖花騎士に攻撃パターンを読まれ、あしらうように切り払われる。

「死ねッ!汚れた魔物どもが何度来ようが我らには通用せんッ」

オルシヴィオンの目の前に聖花騎士が突然現れ、発動中の絶破断を瞬間的に解除する。棒立ちになった僕は、聖花騎士の鎖のついた鉄球によって叩き潰されて死んだ。

彼等は僕を狙うのに、僕自身は結界しか攻撃していない。不利なのは当たり前だ。
人を殺す事なんて考えた事もない僕は、人を殺す事だって出来ない。
そのせいで結界に辿り付けない事も分かっている。だけど、どうすれば良いのか分からない。


「あぁ、なんて悍しいんだッやはりコレは呪いの魔女だ!」
「黒い凶悪な魔物を召喚しているッ一体どれほど使役しているんだ!?」
「あの厄災の魔女の生まれ変わりだ!」

聖花騎士達の言葉が耳に入り、作り出していた分身が掻き消えた。

「ち、ちが…違う、私じゃない、私は魔女なんかじゃな…」

障壁の中で、頭を抱えて怯えながらそう訴えるナーシア。

その声に、頭の芯から凍りつくように血の気が引く感覚がした。

僕は、なにか、とんでもない事を…してしまったんじゃないか?

そう理解して、目の前が真っ暗になった。

後先考えずに、ナーシアを助けようと攻撃したからだ。ナーシアが僕のせいで、魔女だと思われてしまった。

黒狼と黒竜の二体の分身を作り出す黒魔力は、もう既に残されていない。そんな精神力すら、消えてしまった。

最悪で最低な状況。

影裂界には猫もう一つ分作り出す余力がある。念のために、影裂界の中に黒猫を一つ作り出した。
この国に、黒猫一体しか今は残すことしか出来ない。
影裂界にいつでも入ることが出来るけど、影裂界からこの地へ抜け出す事は出来ない。今逃げ出せば、ナーシアとは確実に会えなくなる。

「おいッ!これも魔女の使い魔かッ」

アーティファクトの魔物探知機で、隠れていた黒猫が見つかってしまった。丸い結界に閉じ込められ、僕はナーシアの前に連れてこられた。

「ッエヴィー?エヴィーがどうしてここへ!?」

驚愕と懐疑、そして悲しみに見開く瞳。その桃色の揺れる瞳に映される黒猫。
一瞬で心の内を埋め尽くす罪悪感と死にたくなる程の後悔の波に、感情は追いつかない。ただ、取り返しのつかないことをしてしまったとだけ理解した。
その表情は、記憶の奥底に焼き付いて、きっと、一生忘れる事なんて出来ない。
 
「お願いします、その子は関係ありませんッ!その子を逃がしてくだ…さ…」

障壁に手を叩きつけ、悲痛な声で訴えかけるナーシアだったが、突然気を失って倒れてしまった。障壁を作り出している聖花騎士から状態異常の魔法を使った反応を感じた。

「ほう、どうやらこの猫の使い魔はあの使い捨ての黒い魔物達と違うようだ」

頭上から声が聞こえた。視線を向けると、見えたのは真っ白で長い髭。立派で重そうな冠と金が入った青い派手な祭服。この人は、司祭が最後に連れてきた…キュエイム神殿の神殿長だった。

「この使い魔に何か理由があるのかもしれませんね」

マヌグエル司祭が屋敷の中で密かに相談していた聖職者達も居た。

「ではこの使い魔は我々で一旦調査致しましょう」

この丸い結界の中では、砂時計の砂が落ちるように、黒魔力がじわじわと失われていく。影裂界の中の分身すら、意識を繋げることができない。
精神がおかしくなるような逃げ場のない濃密な神聖な気配の中、僕は理解する。


僕達は、始めから騙されていたんだ。
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