『闇属性黒猫の異世界救出物語』〜魔物転生!?いや人間になりたい!

藤村ゆんた

文字の大きさ
64 / 79
第一章 

49話 勇者達一行との戦闘

しおりを挟む
鮮血のように真紅に染まったナーシア瞳が、いつもの柔らかな薄紫色に色が戻る。ナーシアはすぐに目を閉じて静かな寝息を立て始めた。

【ナーシア・ミュラ・クローゼル 】の表記の隣に、【呪い】はもう無い。

痕一つ残らず消え去ったようだ。

…ホッと吐こうとした息を止めた。今はまだ安堵する時じゃない。早くゼフィルスさん達を見つけて、この国からの脱出が先だ。

眠っているナーシアは、一旦影裂界の中に取り込む事にした。自分以外の生き物を影裂界の中に入れるのは初めての事だけど、外と変わらない空間を影裂界の中に作っておけば…きっと大丈夫。作り終わった空間に繋がるように影裂界を開き、ナーシアを入れようとした。

猛烈に嫌な予感がして、後ろを振り返る。今まで感じた事がない、恐ろしい程それは膨大な、そして濃密な…真っ白の魔力の波。身の毛立つ代わりに黒い鱗はビリビリと震え始める。


僕が見つめていた先、宮殿内の中心が微かに発光する。

その瞬間、大量のマジックワードの羅列が輪を描いて浮かび上がる。空間が砂嵐のようにブレた。

そこに現れたのは四人の人間。杖を持つ白いローブの女、野党のような見た目の弓を背負う男、体格に合わない大きな斧を持つ兎耳の少女、そして白い剣を携えた金髪の男。

白いローブの人と金髪の人、この二人を目にした瞬間、その悍ましさに全身の鱗がザワッと逆立つ。この真っ白な魔力が…神聖魔力か。

ああもうッ次から次へと、もう沢山だ!


「…!!!うわっわわっ!凄いホントに真っ黒なドラゴンだ!あんな色見たことない!」

「うお、マジで居やがっか……おい、待て、マノン。周りを見ろ」

マノンと呼ばれた兎耳の幼い少女が周りを見渡す。

「あれ、れれ、大変!?りりちゃんの国の皆が、なんか黒いよぉ…死んじゃってる?全然優魔竜じゃないじゃーん!!」

「既に暴れていたか…ッ。やはりただのドラゴンじゃないようだ。皆、気を引き締めて」

金髪の若い男は険しい顔でそう言い放ち、武器を握り締めた。白ローブの女は表情の見えない顔で周りを見る。

この人達は、僕の事を知っているようだ。僕はこの人達の事を知らないし、まだ何もされていない。だけど、どう足掻いても戦いは避けられない。この状況を見れば、誰だって僕(黒竜)の事を敵だと思うだろう。

教会で感じたものとは比にならない、身も心も焼き尽くすような神聖さ。彼等を見ているだけで、力が入らなくなり、目が眩みそうになる。
触れれば消え、近寄っても消えてしまう。圧倒的な神聖魔力。

この人達に立ち向かっては駄目だ、…今すぐここから逃げなければ。魔物としての本能が限界まで警報を鳴らしていた。


それでも、此処に来た理由を放棄してまで逃げる訳には行かなかった。

影裂界は、黒魔力で構成された亜空間。影裂界を開かない限り、攻撃が届く事はない。
そんな影裂界へと避難させる為に、ナーシアを黒魔力で即座に包み込む。

「迷いなき導をここへ、【アクティナイリュー】」

ナーシアが完全に影裂界の中に沈む前に、白いローブの女が何かを唱えた。

(あ、)

彼女の身体から爆発的に放出されるのは、圧縮された神聖魔力の光線。

(死…)

その光に包まれば、身も魂も音すら残らない刹那の死。

圧倒的な死の予感を前に、身体が放電音と共にブレた。気が付いた時には、20メートル離れた大聖堂の壁に移動していた。

僕が居た場所に、黒竜を軽く凌駕する大きさの眩く白いレーザーが当たる。ナーシアと、ナーシアを取り込もうとする黒魔力が、その光の凝縮に包まれた。同時に感じるのは、身体の一部がゴッソリと削ぎ落とされたかのような喪失感。影裂界の黒魔力が三分の一消えた。

でも、そんなことより、ナーシア…が、。

反射的とは言え、自分だけ避けてしまった事に動揺した。

馬鹿だ、最低が…過ぎる…ありえない…。僕は、。

「ッうぉおおい!!お前、女の子がッ」

弓男が焦った表情を浮かべて、白ローブの女に詰め寄る。その男の様子に、ハッと僕は意識を向ける。

「分かってるわよッ!あの黒竜があの子に何かする前に攻撃したのよ!…はぁ、【アクティナイリュー】は光浄化魔法、魔物しか効かないわ。仕留め損なったけど」

魔物しか効かない…っ。

絶望から希望へ。レーザーが消えた場所に目を向けた時、暗く濁った瞳は碧く澄んだ光を取り戻す。そこには、瓦礫に囲まれ、静かに寝たままの無傷のナーシアがいた。

「もーぅ!ヴィグルったら焦り過ぎ~!あ~でもぉ、マノンも気付かなかったケドねぇ」

戯けたように言うナーシアと同じくらいの兎耳の少女マノン。
金髪の男が手を振ると、ナーシアや生き残っていた神官、教皇と枢機卿達の周りに【マジックシールド(魔法盾)】が現れる。

「俺は一旦生存者を避難させる。シールドを貼ったから、二人は生存者を気にせずに戦ってくれて構わない」

どうやら、この四人の人間はナーシアを魔女だと思っていない…寧ろ黒竜から守るべき人だと思っているようだ。

僕だけが狙いなら、それなら良いんだ。

問題は僕が逃げ切れるかどうかだ…。今のうちに鑑定しよう。

***********************

【ヴィグル】
年齢:31
種族:人族(男)
ーーー【対象者のレベル差が規定値を越えているため、表示出来ません】
称号: 弓使い。暗殺者。選ばれし者。

***********************


***********************

【マノン・メメ】
年齢:**
種族:兎族(女)
ーーー【対象者のレベル差が規定値を越えているため、表示出来ません】
称号: 斧使い。族長の娘。選ばれし者。

***********************

***********************

【リリナ・ロネル・テュシコール】
神職 : 聖女
年齢:16
種族:人族(女)
神聖属性:火、水、氷、雷、土、風
ーーー【対象者のレベル差が規定値を越えているため、表示出来ません】
称号: 神の愛し子。癒す者。救済者。魔法研究者。人類守護者。

***********************

***********************

【ルアド】
年齢:18
神職: 勇者
種族:人族(男)
神聖属性
称号: 
ーーー【対象者のレベル差が規定値を越えているため、表示出来ません】
称号: 神の愛し子。救済者。人類守護者。

***********************


鑑定は全て表示する事はできなかったけど…十分過ぎる情報だった。

神職…勇者、聖女。そして選ばれし者。

RPGゲームやこの世界の御伽噺の主人公達(勇者のパーティ)だ。それが、敵として、僕の目の前に居る。信じられないというか、あまり現実味を感じられない。

今まで戦ってきた魔物や人間よりもずっと強くて当然だ。しかも闇属性に対して圧倒的に猛威を振るう神聖属性。敵う筈がない。

それに…神の愛し子か。これが、物語の中だとしたら、僕は完全に当て馬じゃないか。はは。

絶望する僕に構う事なく、ローブを纏った女性、聖女は怒りに満ちた顔で次々と神聖魔法を放つ。

「私の国の民を…絶対に許さないわッ!」

聖女の言葉に納得する他ない。
聖女は神聖皇国のお姫様で、信仰対象でもある。自分の国が破壊されて、怒って当然だ。

一つでも直撃したら今度こそ確実に消滅してしまう矢が光線のように飛んでくる。
この国の騎士や神官がアーティファクトで使っていた神聖魔法とは規模が違う、桁外れの濃密な神聖魔力で作られた大量真っ白な矢。

その一本一本に死の予感を感じながら、先程の感覚を思い出しながら身体を紫電化させて躱す。


「コイツッなんなの!?」

驚いた聖女は攻撃を一旦やめると、入れ違いに兎耳の斧使いマノンが人間とは思えない脚力で飛び上がり、巨大な斧を空中に居る黒竜に向かって振り翳す。

くッ!!

身体を構成する黒魔力を再び電気のように変質させる。間一髪で移動した黒竜はその場から消え、斧は壁に勢いよく突き刺さった。

「ぬぅ、ズルいよ当たらないよぉ!」

悔しそうにそう言いながら片手を上げると、壁に刺さった斧は回転しながら少女の元へ戻り、パシッと受け止める。

その間に粗野な見た目の男が弓で矢を放つ。魔法が付与された矢は、飛んで回避しても追尾をしてきた。

壁獲得していた《紫電化》という黒神術を使って、壁に当たる瞬間に回避する。魔法で出来た矢は、壁に直撃して粉々に砕けた。

「おい、リーダー。あれ何か分かるか?」

「すまない、さっきから鑑定が上手く作用しないんだ」

勇者の答えに、ヴィグルが「まじかよ…」と怪訝な表情を浮かべる。

そうか、勇者も鑑定スキルを持っているのか。

僕は【対象者のレベル差が規定値を越えているため、表示出来ません】と表示される。
この世界に生まれて半年も経っていない僕と違って、人類を代表する勇者や聖女達とは途方もつかない力の差があるのは当然だ。

勇者が黒竜を鑑定出来ない理由が分からないけど、出来たときても状況はあまり変わらないだろう。

「魔力が今回復したわ。手出ししないで。悪いけど私がアイツを仕留める」

空色に光る液体を飲み干した聖女が、詠唱を唱え始める。この国全体に行き渡る色のない膨大な魔力が、大地を駆け巡り彼女の元へ集っていく。

色のない魔力は、彼女の中に入ると、真っ白に輝く神聖魔力へと変化する。聖女自体がアーティファクトと同じ仕組みなのか、と現実逃避気味に思った。

長い詠唱。特大の…範囲魔法を扱う気だ。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』

チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。 気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。 「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」 「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」 最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク! 本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった! 「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」 そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく! 神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ! ◆ガチャ転生×最強×スローライフ! 無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!

猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・ 何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。 異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。  ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。  断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。  勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。  ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。  勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。  プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。  しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。  それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。  そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。  これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

ブラック企業でポイントを極めた俺、異世界で最強の農民になります

はぶさん
ファンタジー
ブラック企業で心をすり減らし過労死した俺が、異世界で手にしたのは『ポイント』を貯めてあらゆるものと交換できるスキルだった。 「今度こそ、誰にも搾取されないスローライフを送る!」 そう誓い、辺境の村で農業を始めたはずが、飢饉に苦しむ人々を見過ごせない。前世の知識とポイントで交換した現代の調味料で「奇跡のプリン」を生み出し、村を救った功績は、やがて王都の知るところとなる。 これは、ポイント稼ぎに執着する元社畜が、温かい食卓を夢見るうちに、うっかり世界の謎と巨大な悪意に立ち向かってしまう物語。最強農民の異世界改革、ここに開幕! 毎日二話更新できるよう頑張ります!

転生したら王族だった

みみっく
ファンタジー
異世界に転生した若い男の子レイニーは、王族として生まれ変わり、強力なスキルや魔法を持つ。彼の最大の願望は、人間界で種族を問わずに平和に暮らすこと。前世では得られなかった魔法やスキル、さらに不思議な力が宿るアイテムに強い興味を抱き大喜びの日々を送っていた。 レイニーは異種族の友人たちと出会い、共に育つことで異種族との絆を深めていく。しかし……

処理中です...