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第一章
過去の話③ side廼華
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三中 紡 が行方不明になって、ちょうど2週間。
これまでに、私は見好と一緒に出来る限りの事をした。紡の顔写真が付いた張り紙を見好と一緒に隣町まで貼って、情報提供を呼びかけた。新聞にも、ニュースにも載った。だけど、状況は変わらない。
母親は紡が居なくなった現実を直視しようとせず、「こんなに良くしてやったのに、あの子は私を見捨てたのね!」なんて言って言う始末。元々思い込みが激しい人だと思っていたけど、本格的に頭がおかしくなってしまったようだ。
父は自分の息子が行方不明になったのに、相変わらず仕事に入り浸ってばかりだ。行方不明になった紡をどう思っているのか聞いたが、「あぁ、捜索届けは出したがな。後の事は警察がなんとかするだろう。廼華、お前も来年は受験だ。紡を心配する暇があったら志望大学に向けて勉強をするんだ」と冷たく言われるだけ。家族が突然居なくなったのに、普通これだけ冷静でいられるものなのか。
私には両親の事が分からない。
ただ、これだけは言える。私の家族は、紡と見好だけしか居ないのだと。
紡のクラス、5組の聞き込み調査も生徒全員終わった。結局、口裏を合わせたかのように対して情報は得られなかった。紡が居なくなったの土曜日のあの日、そしてあの日以前何かがあったのは間違いない筈なのに、何も分からないのは悔しかった。
生徒一人が学校の中で忽然と姿を消したのに、学校はいつも通り授業が行われる。本当は学校なんて行く気分じゃない。だけど、家に居たら母親と会わなきゃいけないし、父親に叱責される。それなら帰ってきた紡に教えられるように、授業を受けていた方が良いのかも知れない。
「使われていない4階の多目的教室で現れる呻き声の幽霊、アレに関係があるのよ」
「あの北校舎の4階、出るって有名だもんね。あそこの階のトイレ、決まった時間に行くと鏡の中に引きずり込まれるとか」
「そういえばこの学校の屋上で飛び降り自殺した人がいるってさー。そん時からずっと施錠されてるらしいけど、行方不明になった生徒が居なくなった日、空いていたらしいぞ」
「こんなん夏ネタじゃん、これから寒くなるのにどうすんだよw」
「いや実際にいなくなってるヤツいるからヤベェって」
クラスの中では、神隠しとか、学校の怪談に交えた噂話が絶えなく飛び交う。彼等にとっては、良い話題のようだ。
**
「ここのクラスの人は、行方不明になった生徒が廼華の弟だって事知らないんだね」
放課後、誰も居なくなった教室で見好が呟く。
そう、紡の事愚か、クラスの人に自分の事を話した事がなかったから知らないのは当たり前だ。何も言わなかった自分に落ち度がある。
部活で遅くなった廼華は、速やかに帰り支度を済ませて見好と教室を出た。
玄関に着き、靴を履き替えようと下駄箱から靴を取り出した時、一通の手紙が入っていた事に気づく。靴の下に隠されるようにあった小さな手紙。
「お、ラブレターかな。廼華はモテるからね」
茶化す見好を無視して、その場で手紙を開ける。
「!」
表情を殆ど変える事がない廼華の目が見開く。
「え、何が書いてる?」
他人のラブレターの内容を聞くなんて不躾な事普段なら絶対しない。しかし、廼華の様子に普通のラブレターじゃないことに気付いて思わず覗き込む見好。
『何があったのか、全てお話しします。土曜日の3時。北校舎の多目的教室で』
小さな手紙には、そう短く書かれていた。
手紙を摘む廼華の白く細い手は小さく震えていた。
「…っ」
漸く、望んでいた紡の出掛かりを掴めるかもしれない。手紙を握る力が自然と強なり、小さな紙がシワになる。
私が知らない、紡の出来事。それが知れるのなら、なんだってする。
「廼華」
見好が、廼華の唇をそっと触れた。いつのまにか唇を強く噛んでいたらしい。鉄の味が舌先に広がる。
「…名前も何も書かれていない。事情聴取してから2週間目の今、これだけ慎重に伝えなきゃならないほど、5組の内情は色々ヤバイんだろうな。勇気を出してくれたこの子を守る為にも、内密に行動しなきゃね」
この場には今のところ生徒はいなさそうだが、周りを見渡しながら、一応慎重に声を潜めて言う見好の言葉に、力強く頷く。
紡が消えた先に、近付ける予感がした。
***
土曜日の日まで、時間がいつもよりずっと長く感じた。気が急いているからだろう。5組の様子、事情聴取の時の話の内容、手紙の事、全てが延々と頭の中で繰り返し流れていた。
そして、土曜日の朝を迎える。心臓の鼓動がいつもより早いまま、身支度を整え見好と登校する。
「3時まで時間があるから、廼華は一旦家帰ってから向かう?」
と言う問いに首を振る。
土曜日は12時半までの半日授業。部活は6時まであるが、今日は当然休む。
時間までは2時間半あるが、一旦帰るのは面倒だ。それに、私にとって誰も使っていない教室で長時間過ごすのも、家で過ごす事と変わらない。寧ろ、誰もいない教室の方が居心地が良い。
「授業が終わったら、もう待つ事にする」
「分かった。俺の方は時間まで部活手伝ってからそっち向かう」
学校に着き、階段の踊り場で少し立ち止まる。次、三好と会う時は、約束の時間。
意志の強さの表れのように、透き通る翡翠色の瞳が真っ直ぐ見好を捉える。
私には今、心の底から信頼できる存在がいる。紡が突然居なくなっても、なんとか精神を保っていられるのは、見好という心の支えがあったからだ。もし、見好まで居なくなってしまったら、私は…。
見好は、決意の込もった同じ瞳で私を見つめ返した。安心すると同時に、悲しくなった。紡の側には誰もいない。
私には想像が付かない程、孤独で、寂しい想いをしているに違いない。早く見つなければ。
これまでに、私は見好と一緒に出来る限りの事をした。紡の顔写真が付いた張り紙を見好と一緒に隣町まで貼って、情報提供を呼びかけた。新聞にも、ニュースにも載った。だけど、状況は変わらない。
母親は紡が居なくなった現実を直視しようとせず、「こんなに良くしてやったのに、あの子は私を見捨てたのね!」なんて言って言う始末。元々思い込みが激しい人だと思っていたけど、本格的に頭がおかしくなってしまったようだ。
父は自分の息子が行方不明になったのに、相変わらず仕事に入り浸ってばかりだ。行方不明になった紡をどう思っているのか聞いたが、「あぁ、捜索届けは出したがな。後の事は警察がなんとかするだろう。廼華、お前も来年は受験だ。紡を心配する暇があったら志望大学に向けて勉強をするんだ」と冷たく言われるだけ。家族が突然居なくなったのに、普通これだけ冷静でいられるものなのか。
私には両親の事が分からない。
ただ、これだけは言える。私の家族は、紡と見好だけしか居ないのだと。
紡のクラス、5組の聞き込み調査も生徒全員終わった。結局、口裏を合わせたかのように対して情報は得られなかった。紡が居なくなったの土曜日のあの日、そしてあの日以前何かがあったのは間違いない筈なのに、何も分からないのは悔しかった。
生徒一人が学校の中で忽然と姿を消したのに、学校はいつも通り授業が行われる。本当は学校なんて行く気分じゃない。だけど、家に居たら母親と会わなきゃいけないし、父親に叱責される。それなら帰ってきた紡に教えられるように、授業を受けていた方が良いのかも知れない。
「使われていない4階の多目的教室で現れる呻き声の幽霊、アレに関係があるのよ」
「あの北校舎の4階、出るって有名だもんね。あそこの階のトイレ、決まった時間に行くと鏡の中に引きずり込まれるとか」
「そういえばこの学校の屋上で飛び降り自殺した人がいるってさー。そん時からずっと施錠されてるらしいけど、行方不明になった生徒が居なくなった日、空いていたらしいぞ」
「こんなん夏ネタじゃん、これから寒くなるのにどうすんだよw」
「いや実際にいなくなってるヤツいるからヤベェって」
クラスの中では、神隠しとか、学校の怪談に交えた噂話が絶えなく飛び交う。彼等にとっては、良い話題のようだ。
**
「ここのクラスの人は、行方不明になった生徒が廼華の弟だって事知らないんだね」
放課後、誰も居なくなった教室で見好が呟く。
そう、紡の事愚か、クラスの人に自分の事を話した事がなかったから知らないのは当たり前だ。何も言わなかった自分に落ち度がある。
部活で遅くなった廼華は、速やかに帰り支度を済ませて見好と教室を出た。
玄関に着き、靴を履き替えようと下駄箱から靴を取り出した時、一通の手紙が入っていた事に気づく。靴の下に隠されるようにあった小さな手紙。
「お、ラブレターかな。廼華はモテるからね」
茶化す見好を無視して、その場で手紙を開ける。
「!」
表情を殆ど変える事がない廼華の目が見開く。
「え、何が書いてる?」
他人のラブレターの内容を聞くなんて不躾な事普段なら絶対しない。しかし、廼華の様子に普通のラブレターじゃないことに気付いて思わず覗き込む見好。
『何があったのか、全てお話しします。土曜日の3時。北校舎の多目的教室で』
小さな手紙には、そう短く書かれていた。
手紙を摘む廼華の白く細い手は小さく震えていた。
「…っ」
漸く、望んでいた紡の出掛かりを掴めるかもしれない。手紙を握る力が自然と強なり、小さな紙がシワになる。
私が知らない、紡の出来事。それが知れるのなら、なんだってする。
「廼華」
見好が、廼華の唇をそっと触れた。いつのまにか唇を強く噛んでいたらしい。鉄の味が舌先に広がる。
「…名前も何も書かれていない。事情聴取してから2週間目の今、これだけ慎重に伝えなきゃならないほど、5組の内情は色々ヤバイんだろうな。勇気を出してくれたこの子を守る為にも、内密に行動しなきゃね」
この場には今のところ生徒はいなさそうだが、周りを見渡しながら、一応慎重に声を潜めて言う見好の言葉に、力強く頷く。
紡が消えた先に、近付ける予感がした。
***
土曜日の日まで、時間がいつもよりずっと長く感じた。気が急いているからだろう。5組の様子、事情聴取の時の話の内容、手紙の事、全てが延々と頭の中で繰り返し流れていた。
そして、土曜日の朝を迎える。心臓の鼓動がいつもより早いまま、身支度を整え見好と登校する。
「3時まで時間があるから、廼華は一旦家帰ってから向かう?」
と言う問いに首を振る。
土曜日は12時半までの半日授業。部活は6時まであるが、今日は当然休む。
時間までは2時間半あるが、一旦帰るのは面倒だ。それに、私にとって誰も使っていない教室で長時間過ごすのも、家で過ごす事と変わらない。寧ろ、誰もいない教室の方が居心地が良い。
「授業が終わったら、もう待つ事にする」
「分かった。俺の方は時間まで部活手伝ってからそっち向かう」
学校に着き、階段の踊り場で少し立ち止まる。次、三好と会う時は、約束の時間。
意志の強さの表れのように、透き通る翡翠色の瞳が真っ直ぐ見好を捉える。
私には今、心の底から信頼できる存在がいる。紡が突然居なくなっても、なんとか精神を保っていられるのは、見好という心の支えがあったからだ。もし、見好まで居なくなってしまったら、私は…。
見好は、決意の込もった同じ瞳で私を見つめ返した。安心すると同時に、悲しくなった。紡の側には誰もいない。
私には想像が付かない程、孤独で、寂しい想いをしているに違いない。早く見つなければ。
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