俺は夫婦になるつもりだった ~天狗の恋~

夢沢とな

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天太さん、めおと感だしてしまう 四話

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食事のしたくを終えて天太を見ると逆さまになって寝ていて、ユリカは笑ってしまった。
「天太さん、囲炉裏に頭つっこんだら危ないですよ」

でもこの天太、どこか憎めない。

――傷なんてどこにある。
――そなたといっしょにいたら……こうなった。

ユリカは嬉しかった。

「あ、起きましたか?」
「おぅ、いい朝だなあ!」
「いえ夜です」
「おお夜か」

天太は髪をふって灰をはらうと、下半身を掛布団で隠した。彼は寝起きのきょとんとした目でかべをみあげた。そこには自分の衣とユリカの衣がならんで吊るしてあった。

「ユリカ」

「は、はい」
名を呼ばれて少しどきっとする。

「なんです、か?」
「いいにおいがする」
「あ、夕餉を作りました」

厨に背を向ける形であぐらをかいている天太。彼がそわそわする様子を、ユリカはお玉を口元に当てながら見ていた。
もしかして、自分の分あるのかなって思ってるのかな。

「天太さんの為に作ったのです」
「お? おぉ!」
ほっとしてウンウンうなずいている。ユリカは笑いをこらえた。

天太さんやっぱりおもしろい。おしりでてるし。

裸のままでは寒いだろうしこちらも落ち着かない。ユリカは下駄をぬいで畳へあがり、箪笥の前へ進みでた。
「夕餉の前にこれを」
着物と帯を両腕にのせて、天太のかたわらへ持っていく。銀色の露芝模様、男性用の着流しである。
「どうぞお召しになってください」
「夫の物か?」
「夫はいません。ただのもらい物です」
少し嘘をついた。

本当は村で見かけて一目惚れして買ったのである。この着物が似合うようなひとと夫婦になりたいと思って。
もちろんそんな日が来ない事は分かっている。だから一人寂しい夜は、この着物をとりだして顔をうずめた。そうするとほんの少しだけ、夫に抱きしめられているような気になれたから。

「誰からもらったのだ」
「え? 村へおりた時に……忘れました。人づてにもらったのです」
「人づてとは誰だ」
「え? お、覚えてませんってば。とにかくこれを着て下さい。目のやり場に困るのです」

天太は素直に着物に袖を通し、帯をしめながら云った。

「村に用があるなら俺が代わりに行ってくるぞ」
「えぇ?」

何を云ってるんだろうと思ったが、ユリカは熱い鍋を運ぶのに慎重になった。足元に注意して畳へあがり、囲炉裏の鈎に吊るした。

「そういうのも俺がやる。次から云ってくれ」

どうやら天太は気を遣ってくれているらしい。あのまま外にいたら死んでいたから、何か恩返ししたいと思っているのだろう。その気持ちはわからなくもないが、
「次ってどういう意味……」
ユリカは云いかけて、天太に釘付けになった。

着流しに着替えて胡坐をかいている姿に見とれてしまったのだ。
天狗の面をかぶり、ぼろぼろの下衣を履いて、裸で蓑を着ていた彼とはちがう。

「どうした顔が赤いぞ。熱があるのか?」
「いえ、その、天太さんが別人のようなので」
「……」
「立派なお侍様のように見えます……」
ユリカは褒めたつもりだったが、天太は面白くなさそうにした。
「あんなつるっぱげ頭が好きなのか?」
「ちょんまげ頭の事云ってます?」
「まあユリカが剃ってほしいというなら剃ってもよいが……」
さらさらした赤茶色の髪をかきあげる天太を、ユリカは目を丸くして見返した。
「天太さん? そこまで恩に感じないでください」
「おん?」
「倒れていたところを助けたから、何かお返ししようとしてくれてるのですよね? その気持ちだけでじゅうぶんですから」

ユリカが満ち足りた表情で、椀に味噌汁をよそう。そこから香り立つ色香に天太はくらくらした。彼は赤くなって口をとがらせた。
「お、お返し? そ、そうか。お返し、お返ししようとしたんだ、俺は。決してめおとになった……」

「はい、天太さん」

笑顔で椀をさしだされて、天太は素直に両手で受け取った。
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