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夫婦になってくれないか 最終話
しおりを挟む「俺は醜い天狗だ。人間の男に会い目が覚めただろう……」
悲しげな瞳をユリカは見つめた。
「醜くなんてない。天太さんは天太さんだもの」
ユリカは天太の真っ赤な頬に手をそえて、への字口に唇を押しあてた。
どうかこの思いが伝わってほしい。
私はあなたが好きなの――。
「いいのか、俺で」
天太が横を向いて聞く。
「うん。天太さんがいい」
ユリカは不思議な気持ちだった。私はずっと天太さんの顔なんて見ていなかったんだ。この人の眼差しを見ていたんだ。
「そうだ、これを」
天太がかたわらに置いていた布生地をすくいあげ、ユリカの膝の上にそっと乗せた。
「似合いそうだと思い、買った」
ユリカはたとう紙の紐をといた。現れたのは赤い着物と帯、目もくらむような花々が刺繍されている。
城のお姫様が着るような振袖だ。
「綺麗……! これを私に?」
「ああ。この為に村へ行ったのだ」
「……ありがとうございます。とっても嬉しいです……!」
本当に……凄く嬉しい。
胸がいっぱいになって着物に見とれていると、天太が云った。
「俺はこれからもこういう、物でしかそなたの気を引けない男だぞ」
「ぷっ、ふふふっ」
真面目くさった様子で云う天太に、ユリカは噴き出した。
「では私は何で天太さんの気を引けばよいですか? お味噌汁?」
「そなたはそのままでよいのだ」
天太がユリカの掛け布団に視線をうつす。ユリカも自分の体を見おろした。……?
「生まれたままの姿だとなおよい」
「天太さんっ」
二人は笑い合った。どちらともなく手を握って寄り添った。
天太がユリカの体を抱き、ユリカは彼の温かな肌に顔をうずめた。とても幸せな気持ちで。
天太さんと一つになりたい……。
言葉を交わさずとも互いにそう感じたはずだ。
だが天太は云う。
「按ずるな。これ以上は……しない」
お互いの手はこれ以上ないくらい固く握り合っているというのに。
「天太さんは、し、したくない……?」
「ユリカが、し、したくない、だろ」
「て、天太さんが口説いてくれるならしたい……です」
云ってユリカは真っ赤になった。こんな大胆な台詞が自分の口から飛び出すなんて。
それが云えたのは天太が自分を愛してくれていると分かったから。
ユリカは天太の胸に頬をくっつけてどくんどくんと脈打つ鼓動を聞いた。
「口説き文句など、お、俺には一つしか思い浮かばない」
「なあに?」
ユリカが見上げると、天太は至極まじめな口ぶりでこう口説いた。
「俺と……夫婦になってくれないか?」
終
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