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第10話「決闘」

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「テオ殿。貴殿に決闘を申し込む」
 高そうな装備に身を包んだ剣士から急に勝負を申し込まれた。
 何故相手が剣士かとわかると、これまた高そうな剣を持ち剣先を俺に突き付けていたからだ。あとこうして対峙しているだけでも強いのがわかる。
「なんで決闘するんですか?」
 決闘を申しこまれる意味がわからないので俺は尋ねてみた。
 自惚れかもしれないが、これでも周囲から恨みは買っていないつもりだ。
 だから決闘を申し込まれる意味が全く分からない。セシルさんのファンだろうか。それだったらなんとなく理解できる。先日も街でデートしてそれをバズとヒルダに結構大きな声でからかわれていたから。
 でもそれ以上にどこかで見た事があるような気もするが、何故か思い出せない。
「決まっている。私が貴殿よりも━━」
「やめろ。バカ」
 決闘を挑んできた男に向かって見知った人が拳骨を落した。
「悪いな。テオ」
「ザックさん」
 A級パーティ〈太陽の牙〉のリーダーであるザックさんの姿があった。
 同年代のように若く見えるけど俺より十歳年上だったよな。たしか。
「うちの若いのが失礼したな」
「うちの若いの?……あっ」
 ここで決闘を申し込んできた男の正体に気付く。
「剣士のギルフォード?」
「まさか。わかってなかったのか?」
 ギルフォードが衝撃を受けていた。
「いや、だって、……大きくなったな。成長期か?」
 多分前に会った時より二十センチ以上は伸びている気がする。今では俺よりも少し高いくらいだ。
「テオ殿。我々は同じ歳だということを忘れないでもらいたい。子供扱いはやめてもらおう」
「ああ。悪い」
 素直に謝る。
 冒険者歴が長いとどうしても同年代か少し上くらいは後輩扱いしてしまう。ギルフォードは同じ年齢だし個人ではB級でもA級パーティに所属する冒険者だからむしろ敬意を持って接しなければならない。
 まあ、それはさておき。
「なんでギルフォードは俺に決闘を申し込む?」
 そこだけどうしても知りたかった。
「我が力を示す為だ」
 うん。答えてくれたが答えの意味が全くわからない。
 俺は助け船を求めてザックさんを見た。
「悪いが受けてやってくれないか。テオ」
 そう言いながらザックさんは俺に近づいてくる。
「あとで酒おごるから頼むよ」
「まあ。ザックさんがそう言うなら」
 そしてザックさんが傍に来たところでギルフォードに聞こえないよう小声で話しかけた。
「本当にどういう理由なんですか?」
「ギル坊のやつS級になりたいらしい」
「S級?」
 S級パーティになるには英雄と呼ばれる成果を持ったうえで大陸の真ん中にある聖王国の大陸冒険者ギルド連盟のギルド総帥と十以上の国の国王の推薦を受けたうえで聖堂教会の法皇様より承認されないとなれない。現存するS級パーティは竜殺しの英雄アベルの率いる〈暗闇の白銀〉ただ一つだ。
「A級の今で十分じゃないんですか。こんな言い方あれですけど〈太陽の牙〉のメンバーってみんな高収入でいい生活してますよね。あとあいつ個人だとまだB級ですよね」
 専属受付嬢もいて俺達冒険者が憧れる文句なしの生活だと聞いていた。
「それなんだけどあいつは貴族の生まれでな。男爵だけど金はあったみたいで今の生活にも満足してないそうだ。金稼ぎに来ている貴族出身の奴と違ってちょっと感覚が特殊なんだ。あとA級昇格も決まったぞ。正式には次の更新の時だがな」
 貴族の生まれから冒険者になる者も実は結構いるが、それは実家に金がなくて仕方がなくなっているパターンが多い。ギルフォードのことは前から知っていた顔見知りだったがそんな裕福な家だったとは知らなかった。あとA級昇格が決まったのも。
「そこで言ってやったんだ。今の俺たちじゃS級は無理だって。それで細かい点は省くが、「一対一でテオくらい倒せないと通じない」って言ってしまってな」
 なるほど。つまり俺は練習相手ってわけか。ギルフォードが勝負を挑んできたわけがわかった。
「後ででいいですけど細かい部分もちゃんと説明してくださいよ」
 何を持って俺を引き合いに出したのかが非常に気になる。
 パーティ解除してB級クラスの任務をしていないから次の更新の時にはランクは下がるだろうが、それでも今の俺はB級の冒険者だ。
 A級パーティに所属しているとはいえ、A級昇格が決まっているのは言え同じB級と変わらないはずのギルフォードにはわけるわけにはいかない。少しすると向こうはA級で俺はC級になるわけだが今日は勝たせてもらう。
「いいだろう。決闘を受けるぞ。ギルフォード」

          *

 冒険者同士の決闘とは実はややこしい。
 剣士は木の剣を使い、槍士は木の槍を使うなどして相手を殺す事のないように配慮されている。それでも怪我人は必ず出るし死者も稀に出てしまう。
 あと魔術師が決闘なんてもってのほかだ。
 そこでザックさんの提案により、ギルフォードは木の剣を使い、俺は片手で魔道具である杖を持ちながら木の杖をもう片方の手で持った。攻撃は木の杖だけだが魔道具は防御としては使っていいとの取り決めで互いに納得して決闘を行った。
 結論から言うと俺が勝利した。
 片手がふさがっているとはいえその片手を防御に回させてもらったのだ。
 結構きわどいところだったが俺の攻撃がギルフォードの頭を捕えてそのままギルフォードは気絶して倒れた。
『テオ殿。私はまだ未熟だった。修練を積んで改めて貴殿に挑む』
 目を覚ましたギルフォードは勝手にそんな事を言いながら修練に向かってしまいザックさんはそれを満足そうに眺めていた。
「テオ。決闘後の飲み食いは全て俺の奢りだ」
 それだけじゃ割に合わないなと思いながらも、お世話になっている人のお願いということもあって俺は定期的にギルフォードと特殊な形の決闘をする事になってしまったのだった。
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