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第18話「この世界に来て一番の衝撃を受ける告白」

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 どこの家でも問題は起こる。
 オスカーという跡取りをバルク王国にとられたルグランジュ公爵家は未だ生まれぬオスカーの子を跡取りにすると決めた。跡取りが生まれない場合は俺を跡取りにするなどと恐ろしい結論が出た。
 そんな状況だったが、なんと無事に後継者となる男の子が誕生した。
 オスカーの子ではない。オスカーの父の子。つまりオスカーの弟だ。
生まれた跡取りが成人するまで宰相閣下が頑張る事になるのには変わらないが、ひとまずルグランジュ公爵家の問題は解決したのだった。
 そして我がバーネット子爵家の問題。
『お兄様。夜の相手がいなくてお困りのようでしたらアーテリーが夜伽の相手を致します』
 このアーテリーの発言の意図がわからなかったのだが。
「お兄様。私はどこにも嫁ぎません。ずっとこの屋敷にいます」
 大事な話があると言われて聞いてみたらそんなことを言われてしまった。
「アーテリー。今はまだ気にいる相手がいないだけでそのうち運命の相手が見つかるから。そんな早く結論を出すな」
 アーテリーはまだ若い。十四歳だ。
 学園に通わせるなどしてゆっくりと婚活させればいい。
「そんな相手はいません。未来永劫できません。私はお兄様が好きです。だからお傍に置いてください」
 ここまで言われればさすがにアーテリーのあの発言の意図に気付く。
 兄として慕ってくれているのはわかっていたが、ちょっと可愛がり過ぎたのだろうか。行き過ぎだ。アーテリーのブラコンぶりがとんでもないことになっている。
 普段は口数の少ないアーテリーの自己主張を聞いて俺は「うん」とも「だめ」とも言わずにただアーテリーの頭を撫でた。

          *

 アーテリーの結婚が決まった時には男を殴ってしまいそうだ。というくらいシスコンと呼ばれるくらいには妹が好きなことは自覚している。もしもアーテリーを泣かせるような男がいたとしたら、生まれてきたことを後悔するような目に会わせてやる。絶対に。そう誓った事もある。
 だからと言って今のアーテリーの発言を喜んでもいられない。
 一回相談しているけど、なんかセシルにも相談しにくい内容だ。
「父上。少し宜しいでしょうか」
 育ての父であり実の祖父であるビクトールに相談する事になった。
 俺の話を聞いたビクトールは、最初は驚いていたが、すぐに何か考え込む仕草を見せた。
「父上?」
 俺は固まったままのビクトールに心配そうに問いかけた。
 ビクトールはゆっくりと口を開いた。
「まさか、気付いていたのか」
 ビクトールのその呟きは俺に対してのものではない。自分に対してのものだ。そしてその発言はアーテリーに対してのことだろう。
「アーテリーが何に気付いているのですか?」
 俺はビクトールに尋ねた。
 ビクトールは俺をじっくりと見る。
「父上」
 じっと見られて戸惑っていると、ビクトールはため息を吐いた。
「実はな、ヴェイン。お前とアーテリーは本当の兄妹ではないのだ」
「はっ?」
 この世界に来て一番の衝撃を受ける告白だった。
 
          *

「俺とアーテリーが本当の兄妹じゃない?どういうことですか?」
 ビクトールの発言に驚き、驚きからたっぷりと固まって時間が経過してようやく口を開いた。
 ビクトールも俺の反応が当然のものと思っていたようで俺の動きが再開するまでそのまま待っていてくれた。
「お前とアーテリーはバーネット家の血筋だが両親が違うのだ」
 ちょっと待て。俺が生まれた時にはこの屋敷にいて両親らしき人物はいたしその両親らしき人からアーテリーが生まれたはずだ。
「元々私の息子は一人しかいなかったのだが、息子夫婦は中々子供ができなかった。そんな時に私の弟フリックの息子クロードとラフラン伯爵家の令嬢ティアラに子供が生まれた。それがお前だ。ヴェイン」
 両親が違う話を飛び越して祖父が違う話だった。
「では、私は父上の実の孫ではないということですね」
「そう言うことだ。ヴェイン。お前は私の弟の孫だ。バーネット家の血筋に間違いないがな」
 そしてビクトールは再び話し始める。
 話はこうであった。
 ラフラン伯爵家のお家騒動があって祖父フリックと父クロードと母ティアラは命を落としてしまった。
 そこで子供のいなかった息子夫婦の養子として俺を引き取ったそうだ。
 両親の興味が薄かった理由が納得できた。
 実の息子ではなかったのだ。
 そしてその数年後にアーテリーの母が身籠った。
 二人ともとても喜んでいたそうだが、生まれてきたのが女だった事にショックを受けたそうだ。跡取りとなる男児が欲しかったのだろう。それでアーテリーにも会わずにいる内にビクトールと喧嘩になって夫婦ともに勘当されたとのことだ。
「このことは誰にも言うつもりはなかった。バーネット家の血筋に間違いはないし、ただでさえ両親のいない二人。実の兄妹として育ってもらいたかった。ヴェイン。このことを隠したままの私を怒っているか?」
「いえ、全く」
 俺は即答した。
 かつてない衝撃発言だったが、ゲームの設定どおりビクトールの孫はアーテリーだけだったとわかって少し納得したくらいだ。
「元々両親と喋ったことなど無いので関係ないです。もとより血のつながりなど関係なく私は父上の子です」
 見たことない両親よりもビクトールや屋敷の人達が俺の家族だ。
「だが、このことは誰にも話さないようにしていたのだ。何かの拍子でヴェインが知る事があるかもしれないと覚悟していた事もあったが、まさかアーテリーが知るとは」
 ビクトールは本当に心当たりがなさそうだった。
 屋敷の人間は俺の両親についての話はしないように言い含めていたそうだ。実際屋敷に人達からそんな話は一切聞かなかった。元々俺も聞く気はなかったし。
「わかりました。もう一度アーテリーと話をしますのでその時に聞いてみます」
 どうやって情報を得たのか含めて、俺はもう一度アーテリーと話をすることを決めた。

          *

 その日の夜。
「セシル。実は俺とアーテリーは父親と母親が違うんだ」
 俺は身籠った愛しい妻に衝撃的な事実を告げた。
「ヴェイン。それでは他人よ。……祖父が同じビクトール卿と言う事かしら」
 いきなりの事に驚きながらもセシルはさすがに頭の回転が速い。
「いや、俺の祖父は父上の弟。……ビクトールの弟らしい」
 俺はビクトールから聞いた話をそのままセシルに伝えた。
「そうだったの。ヴェインはラフラン伯爵家の血筋だったのね」
「伯爵って言っても俺が聞いた事ないしこの辺りの貴族じゃないのかな」
「ラフラン伯爵家は十五年前に途絶えた名家よ。そんなに遠くの領地ではなかったと思うわ」
「そうか」
 俺が生まれたのが十七年前。
 ビクトールは言わなかったが、俺の両親が死んだお家騒動でそのまま一族が滅んだようだった。
「セシル。知らなかった事とは言え、これまで黙っていてすまなかった。あとで宰相閣下にも説明して謝罪する」
 下手をすればバーネット子爵家がルグランジュ公爵家を騙した形になるのではないだろうか。
「別に血筋的に問題ないから大丈夫よ。気にしないで」
 セシルは優しく俺の頭を撫でる。
「ありがとう」
 俺はそのままセシルに甘えた。
 セシルはこう言っているが、ルグランジュ家には改めて伝えておこう。
「でも確かに、アーテリーは誰から聞いたのかしら?」
 セシルもそこが気になったようだ。
「ああ、それで明日またアーテリーと話をする」
 ビクトールと別れてすぐにアーテリーに会いに行ったがアーテリーは既に眠っていた。アーテリーは生活習慣が少し変わっている子で半日以上眠り続ける日もあるのだ。
 ビクトールには俺が話してみると言ったものの、どう話せばいいのかモヤモヤしたまま夜を過ごすのだった。
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