英雄は根に咲く

ぼん

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第一部:冒険の根を張る

第5章:紅蓮の口づけ 第4話:5つの光

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 炎熱の溶岩洞の最奥、薄暗い空間に静寂が戻っていた。《焔殻蜥蜴》との激戦の末、一行はついに依頼された探索と魔獣駆除を完了した。

 裂けた地盤と焦げた岩の隙間を避けながら、僕たちは慎重に出口への道を辿っていく。

「……ようやく、ひと段落ね」

 クレアさんが息をついた。肩先で光の玉がかすかに瞬く。

 その隣を歩くリリィは、黙ったまま矢筒の中を確認していた。

 ガルドさんは足音すら静かに、後方を警戒する。戦いは終わっても、この階層の危険が去ったわけではない。

 その中で、一番前を歩いていたのは──カイさんだった。

「ふぅ~、燃えたねぇ今回は!まさかあんな火トカゲに出くわすとは思わなかったけどさ、みんな反応早くて助かった!」

 片手剣を背に戻し、肩で息をしながらも笑顔を絶やさない。額に滲んだ汗すら、どこか誇らしげだった。

「派手な割に傷ひとつないじゃない。……というか、そもそも火の海に突っ込むような真似、普通じゃないからね」

 クレアさんが半ば呆れ顔で言うと、カイさんはあっさりと肩をすくめた。

「熱には慣れてる方なんだよ。あとは……勢い? あんまり考えてたら、動けないし」

 軽口のようでいて、どこか本気の混じった声だった。

 僕はそんな背中を見つめながら、小さく笑った。最初は浮ついて見えた彼の言葉や態度が、今は不思議とまっすぐに響いていた。

 ──仲間ってのは、守らなきゃ意味ねぇんだよ。

 戦いの中で放たれたその一言が、まだ胸に残っている。

「この先に安定した休憩場所がある。風も通るし、座れる岩場もあったはず」

 リリィが短く報告する。

 僕が頷くと、一行は再び歩き出した。

 洞窟内は相変わらず蒸し暑く、岩肌からは微かに赤い輝きが滲み出ていた。何度も来たくなる場所ではない、と僕は苦笑する。

 やがて、風が吹き抜ける中継地点──裂けた岩盤の陰に広がる窪地に到着すると、彼らはほぼ同時に腰を下ろした。

「ふ~、命のありがたみを噛みしめるね……ほんと」

 カイさんがごろんと仰向けになり、頭の後ろで手を組む。

「この空気でも、まだマシに感じる。さっきの熱地獄がひどすぎて、感覚が壊れそうだったわ」

 クレアさんが髪をまとめながら言った。

 岩壁に背を預けたガルドは無言だったが、その肩越しに光の玉が脈動していた。

 疲労と静けさが、その輪郭をくっきりと浮かび上がらせていた。

「ねぇ、ニコ君」

 クレアさんが顔を向ける。

「あの子、どうするつもり?」

「……どう、って?」

「いつまで“同行者”のままでいるのか、って意味」

 その問いに、少しだけ視線をカイさんへ向けた。

 目を閉じて寝転ぶその顔は、どこか無防備だった。けれど、一度でも彼の“本気”を見た今、その態度が作り物でないことは明らかだった。

「……僕は、カイさんのこと、嫌じゃないよ」

 その声に、クレアさんが少し目を細めた。リリィもそのやり取りに耳を傾けていたが、視線はまっすぐ地面に向けられていた。

 焔に焼かれた空洞の中で、わずかに吹いた風が、その言葉を柔らかく運んでいった。

「ふぁ~あ……やっと落ち着いた。ほんと、よく生きてたな俺」

 岩に寝転んだまま、カイさんが大きくあくびを漏らした。炎の気配が遠ざかり、地熱もいくらか穏やかになったとはいえ、全身の疲労は隠せない。

「でもさ──」

 そう言って、彼は上体を起こし、僕たちの方を見た。

「なーんか楽しそうだし、しばらく混ぜてもらっていい?」

 いつもの調子。軽く、悪びれもなく、けれど真正面からの申し出だった。

 冗談のようで、冗談ではない。そんな空気が一瞬、窪地に静けさをもたらした。

「また突然ね」

 クレアさんがふっと息を漏らすように笑った。

「でも、そう言い出すと思っていたわ」

「僕も……ちょっと予感してた」

 僕がうなずくと、カイさんは「だよなぁ!」と人懐っこく笑った。

「助けてもらったし、実力もある。足引っ張るタイプじゃない」

 クレアさんが淡々と言う。

「うるさいのは変わらないけど、動きは悪くなかった」

 リリィが視線を向けることなく、短く答える。

 ガルドさんは何も言わなかった。けれど、少しだけ肩をすくめたその仕草は、否定の意思ではなかった。

「それじゃあ──決まり、かな」

 僕が静かに言った瞬間だった。

 その胸元で浮かぶ“光の玉”が、ふと、やわらかく輝いた。

 いつもと変わらぬ存在だったはずのそれが、まるで心の鼓動と共鳴するように、淡く脈打っていた。

「……あ」

 リリィの肩先でも、風の精霊の光が反応する。

 クレアさんの、ガルドさんの、そして──カイさんの玉もまた、静かに瞬いた。

 五つの光が、一瞬だけ、互いに波を送り合う。色も輝きも、まるで別々なのに、どこか響き合うように揺らいだ。

「な、なに今の……? 光が、共鳴した?」

 クレアさんがそう言いながらも、口調にわずかな戸惑いが混じる。

「いや、たぶん──違う」

 僕はゆっくりと立ち上がり、光の玉を見つめた。

「僕たち、揃ったから……じゃないかな」

 五人での旅。

 誰もが足並みを揃える必要はない。強さも違えば、歩幅も違う。けれどそれでも、同じ場所を目指し、互いを見つめられるなら──

 それは、確かに“ひとつの灯り”になる。五つの光が交わり、ただ一度の共鳴を果たしたことは、誰の錯覚でもなかった。

「よし、それじゃあ──新生・ブルーミング・ルーツ、ってことで!」

 カイさんが両手を広げて叫んだ瞬間、リリィがすかさず言葉をかぶせる。

「名乗るの、早い」

「え、そこ!?」

「うるさい」

 短く斬り捨てられ、カイさんが肩をすくめる。

 だがそのやり取りに、クレアさんが笑い、ガルドさんがわずかに目を細めた。そして僕も、光の玉を見つめながら、小さく微笑んだ。

 ──確かに始まった。ようやく、この五人で。
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