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第三部:精霊との対話
第12章:幻影と沈黙 第2話:侵食する光
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迷宮の空気が、目に見えない膜のようにまとわりつく。
僕の胸元に下げた光の玉は、最初こそ淡く揺れていたが、気がつけば熱っぽく脈打っている。
「……変だな」
つぶやいてみるが、声すら自分のものではないような感覚があった。
「ニコ、どうした?」
カイさんの声が背後から聞こえる。僕は「大丈夫」と返すつもりが、口が思うように動かない。足元の苔の感触が遠ざかり、空気中の結晶の粒が視界を舞い始める。
(おかしい。……これは、前の階層の幻覚よりも強い)
「少し、休もう」
クレアさんが提案し、ガルドさんが周囲を警戒する。
僕たちは岩陰に腰を下ろす。だが、僕の光の玉は休ませてくれない。
手のひらの中でどんどん鼓動を早め、やがてビリビリとしびれるような熱に変わった。
「……顔色が悪い」
リリィが心配そうにのぞき込む。
「……大丈夫、たぶん」
返事がどこかへ吸い込まれていく。
みんなの声は遠い。精霊の気配すら、混線したノイズのようにざわめいている。
壁の結晶に触れた瞬間、世界がゆっくり歪む。青白い光が天井から滴り落ち、床の苔の緑と交じり合う。
何もかもが、きらきらと壊れていくみたいだった。
(僕の“光”が、暴れてる……)
改めて光の玉を握りしめると、その脈動が腕から胸、全身に伝わる。自分の鼓動と玉の脈動が同調せず、逆に互いを食い合うような苦しさがあった。
「ニコ、しっかりしろ」
ガルドさんの声が鋭く響く。
「水、持ってくる」
カイさんが言い残して走る。
でも、僕の意識はまるで水底に沈んでいくみたいだ。
足元の苔が揺れ、結晶が伸び上がり、世界の輪郭がぼやけていく。
何かが頭の奥で“ざわざわ”と広がっていく。自分の心の声が、まるで他人の声に変わっていく。
「――ここは、どこ?」
誰の声だろう。
「僕は、誰?」
自分自身の記憶さえ、遠くなっていく。
気がつくと、光の玉が手の中で暴れる。
(僕……僕、なのか?)
周囲の精霊たちが一斉に警戒したのが分かった。
リリィが小さくつぶやく、
「ニコの玉……おかしい」
クレアさんが叫んだ。
「ニコ君、戻ってきて!」
でも、クレアさんの声すら、まるで分厚いガラス越しのように遠かった。
僕の中に、見知らぬ光が侵食してくる。全身が灼けるように熱くなり、逆に思考はひどく冷たかった。
(光の玉――精霊の玉が、僕を飲み込もうとしている?)
自我の輪郭が崩れる。
仲間の顔が溶け、景色が崩れ、世界はただ白い光と闇だけになる。
――だれか、たすけて。
遠ざかる意識のなか、かすかにクレアさんの声だけが響いていた。
だけど、言葉の意味がすぐに溶けて消える。
僕の頭の中では、光の玉が際限なく膨張し、身体の内と外を分ける境界が失われていった。
(なにもかもが、光の中に溶けていく……)
白い光、青い熱、名もなき気配が渦を巻く。
“自分”という存在がばらばらにちぎれて、意識の海を漂い始める。
――ニコ君。
誰かが呼ぶ。懐かしい声――いや、これはクレアさんだ。
けれど、その声ですら波紋のように遠ざかる。記憶の断片が浮かび上がる。幼い日の朝、名前を呼ばれた瞬間の温度。仲間たちと焚き火を囲んだ夜。リリィの澄んだ瞳、カイさんの陽気な声、クレアさんの静かな祈り。
すべてが、光の奔流に呑まれていく。
――僕は……誰だったっけ。
意識の奥底で、何かが必死に抵抗している。
「僕は……僕、だ」
唇が動いても、声にならない。
胸の奥に重く熱いもの――それが、僕の光の玉。
突然、玉の輝きが暴力的な閃光に変わり、視界が一面の白で埋め尽くされた。
(苦しい……でも、離れたくない)
うっすらと、誰かが僕の手を強く握っている感触が伝わる。
「ニコ君、聞こえてる? 私たちは、ここにいるから」
クレアさんの声だ。リリィの短い「大丈夫」と、カイさんの「戻ってこい!」という叫びも混じる。
僕は必死で意識をつなぎとめようとした。
(ここから、消えたくない。みんなの声が……僕を呼んでいる)
光の奔流の中で、精霊の気配が突然変わった。
恐れでも怒りでもない。ただ、静かな“共鳴”の音が、僕の胸の奥で響いた。
――おそれないで。
言葉にはならないけれど、確かに伝わるものがある。
(僕は、僕でいいの?)
そのとき、胸元の玉がかすかに揺れ、僕の意識の海に波紋が広がった。
光の奥で、“僕”が小さな炎のようにゆらめきながら、呼び戻される。
「……ニコ君!」
クレアさんの声が、ようやくはっきりと届く。
身体のどこかで、誰かが僕を強く引き寄せてくれたような気がした。
「……う、あ……」
呼吸が戻る。僕は、自分の声がまだ現実に届くことに驚いた。
顔を上げると、クレアさんが僕の手を強く握り、涙ぐんだ瞳でこちらを見ていた。リリィが静かに僕の肩に手を置き、カイさんがほっとしたように息をつく。
ガルドさんは黙って、みんなを囲むように立っていた。
「……よかった、戻った」
クレアさんが小さくつぶやく。
光の玉は、今は静かなぬくもりだけを手のひらに残している。仲間たちの輪の中で、ようやく現実に戻ってこれたことを、僕は全身で噛みしめていた。
「みんな、ごめん。……迷惑かけた」
そう呟くと、カイさんが「バカ、気にすんな」と頭をはたき、リリィが短く「無事でよかった」とだけ言う。
クレアさんは何も言わず、手を離そうとしなかった。
胸元の光の玉が、今度は静かに――でも確かに、僕の心と呼応していた。
僕の胸元に下げた光の玉は、最初こそ淡く揺れていたが、気がつけば熱っぽく脈打っている。
「……変だな」
つぶやいてみるが、声すら自分のものではないような感覚があった。
「ニコ、どうした?」
カイさんの声が背後から聞こえる。僕は「大丈夫」と返すつもりが、口が思うように動かない。足元の苔の感触が遠ざかり、空気中の結晶の粒が視界を舞い始める。
(おかしい。……これは、前の階層の幻覚よりも強い)
「少し、休もう」
クレアさんが提案し、ガルドさんが周囲を警戒する。
僕たちは岩陰に腰を下ろす。だが、僕の光の玉は休ませてくれない。
手のひらの中でどんどん鼓動を早め、やがてビリビリとしびれるような熱に変わった。
「……顔色が悪い」
リリィが心配そうにのぞき込む。
「……大丈夫、たぶん」
返事がどこかへ吸い込まれていく。
みんなの声は遠い。精霊の気配すら、混線したノイズのようにざわめいている。
壁の結晶に触れた瞬間、世界がゆっくり歪む。青白い光が天井から滴り落ち、床の苔の緑と交じり合う。
何もかもが、きらきらと壊れていくみたいだった。
(僕の“光”が、暴れてる……)
改めて光の玉を握りしめると、その脈動が腕から胸、全身に伝わる。自分の鼓動と玉の脈動が同調せず、逆に互いを食い合うような苦しさがあった。
「ニコ、しっかりしろ」
ガルドさんの声が鋭く響く。
「水、持ってくる」
カイさんが言い残して走る。
でも、僕の意識はまるで水底に沈んでいくみたいだ。
足元の苔が揺れ、結晶が伸び上がり、世界の輪郭がぼやけていく。
何かが頭の奥で“ざわざわ”と広がっていく。自分の心の声が、まるで他人の声に変わっていく。
「――ここは、どこ?」
誰の声だろう。
「僕は、誰?」
自分自身の記憶さえ、遠くなっていく。
気がつくと、光の玉が手の中で暴れる。
(僕……僕、なのか?)
周囲の精霊たちが一斉に警戒したのが分かった。
リリィが小さくつぶやく、
「ニコの玉……おかしい」
クレアさんが叫んだ。
「ニコ君、戻ってきて!」
でも、クレアさんの声すら、まるで分厚いガラス越しのように遠かった。
僕の中に、見知らぬ光が侵食してくる。全身が灼けるように熱くなり、逆に思考はひどく冷たかった。
(光の玉――精霊の玉が、僕を飲み込もうとしている?)
自我の輪郭が崩れる。
仲間の顔が溶け、景色が崩れ、世界はただ白い光と闇だけになる。
――だれか、たすけて。
遠ざかる意識のなか、かすかにクレアさんの声だけが響いていた。
だけど、言葉の意味がすぐに溶けて消える。
僕の頭の中では、光の玉が際限なく膨張し、身体の内と外を分ける境界が失われていった。
(なにもかもが、光の中に溶けていく……)
白い光、青い熱、名もなき気配が渦を巻く。
“自分”という存在がばらばらにちぎれて、意識の海を漂い始める。
――ニコ君。
誰かが呼ぶ。懐かしい声――いや、これはクレアさんだ。
けれど、その声ですら波紋のように遠ざかる。記憶の断片が浮かび上がる。幼い日の朝、名前を呼ばれた瞬間の温度。仲間たちと焚き火を囲んだ夜。リリィの澄んだ瞳、カイさんの陽気な声、クレアさんの静かな祈り。
すべてが、光の奔流に呑まれていく。
――僕は……誰だったっけ。
意識の奥底で、何かが必死に抵抗している。
「僕は……僕、だ」
唇が動いても、声にならない。
胸の奥に重く熱いもの――それが、僕の光の玉。
突然、玉の輝きが暴力的な閃光に変わり、視界が一面の白で埋め尽くされた。
(苦しい……でも、離れたくない)
うっすらと、誰かが僕の手を強く握っている感触が伝わる。
「ニコ君、聞こえてる? 私たちは、ここにいるから」
クレアさんの声だ。リリィの短い「大丈夫」と、カイさんの「戻ってこい!」という叫びも混じる。
僕は必死で意識をつなぎとめようとした。
(ここから、消えたくない。みんなの声が……僕を呼んでいる)
光の奔流の中で、精霊の気配が突然変わった。
恐れでも怒りでもない。ただ、静かな“共鳴”の音が、僕の胸の奥で響いた。
――おそれないで。
言葉にはならないけれど、確かに伝わるものがある。
(僕は、僕でいいの?)
そのとき、胸元の玉がかすかに揺れ、僕の意識の海に波紋が広がった。
光の奥で、“僕”が小さな炎のようにゆらめきながら、呼び戻される。
「……ニコ君!」
クレアさんの声が、ようやくはっきりと届く。
身体のどこかで、誰かが僕を強く引き寄せてくれたような気がした。
「……う、あ……」
呼吸が戻る。僕は、自分の声がまだ現実に届くことに驚いた。
顔を上げると、クレアさんが僕の手を強く握り、涙ぐんだ瞳でこちらを見ていた。リリィが静かに僕の肩に手を置き、カイさんがほっとしたように息をつく。
ガルドさんは黙って、みんなを囲むように立っていた。
「……よかった、戻った」
クレアさんが小さくつぶやく。
光の玉は、今は静かなぬくもりだけを手のひらに残している。仲間たちの輪の中で、ようやく現実に戻ってこれたことを、僕は全身で噛みしめていた。
「みんな、ごめん。……迷惑かけた」
そう呟くと、カイさんが「バカ、気にすんな」と頭をはたき、リリィが短く「無事でよかった」とだけ言う。
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胸元の光の玉が、今度は静かに――でも確かに、僕の心と呼応していた。
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──これは転移を手に入れてしまった少年と、それに巻き込まれる現地住民の異世界ドタバタコメディである。
序章まで一挙公開。
翌日から7:00、12:00、17:00、22:00更新。
序章 異世界転移【9/2〜】
一章 異世界クラセリア【9/3〜】
二章 ダンジョンアタック!【9/5〜】
三章 発足! 異世界旅行業【9/8〜】
四章 新生活は異世界で【9/10〜】
五章 巻き込まれて異世界【9/12〜】
六章 体験! エルフの暮らし【9/17〜】
七章 探索! 並行世界【9/19〜】
95部で第一部完とさせて貰ってます。
※9/24日まで毎日投稿されます。
※カクヨムさんでも改稿前の作品が読めます。
おおよそ、起こりうるであろう転移系の内容を網羅してます。
勇者召喚、ハーレム勇者、巻き込まれ召喚、俺TUEEEE等々。
ダンジョン活動、ダンジョンマスターまでなんでもあります。
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