召喚失敗から始まる異世界生活

思惟岳

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第26話 黒狼

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 暗部たちと別れて、街道を突っ走っていたら、セーラが身を乗り出した。 

 「あれって、ブラックウルフじゃない?」
 「逃げないにゃんて、不思議なブラックウルフ、ニャ」

 ライムの言うとおりだった。

 じつは、ここまで、まだ一度も、『魔物』という存在を目にしていない。
 オレの魔力のせいで、逃げてしまうらしい。
 
 「ちょっと、停めてみるか。ジュンも、魔物を見てえだろう?」
 「ああ。もちろんだ」

 ということで、オレたちは、ブラックウルフの、やや手前に車を停めた。
 二匹いるようだが、やはり、逃げようともしない。
 
 「あ、あれって、ブラックウルフっすよね?」

 奇妙な格好で、ぺたりと座り込んでいるブラックウルフに、ケントさんが首をかしげていた。
 なにしろ、全体にグレーというか。白に近いのである。

 「…希少種っすかね?」

 だんだんと、近づいていくうちに、謎が解けた。
 ぺたんと座っていたブラックウルフは、すでに失神していたのだ。
 
 「ジュンの、魔力に当てられたらしいな。
  こりゃあ、まるで、『ホセ・メン○ーサ』みてえだぜ」

 そう言って、ケンイチさんが笑っている。

 いやいや。そんな大昔のアニキャラ。誰も知らんだろう。
 オレだって、姉ちゃんが、昔のアニメ好きでなかったら、知らなかったんだから。 

 「ふふふ…。ボクは、むしろ、『ヤブキ・○ョー』を思い出しちゃったヨ」

 なぜか、知ってるちび女神が、隣にいた。
 
 「それにしても、なんで、失神するまで逃げなかったのか、ニャ?」

 ライムが、不思議そうに言ったが、すぐに理由がわかった。

 失神ウルフの後ろには、はらわたが露出しているウルフが、横たわっていた。
 息をしているようだから、まだ、かろうじて生きているらしい。

 「瀕死の仲間を見捨てられずに、必死で、ここに、とどまったんっすねえ…」
 「なかなか、健気なウルフじゃねえか」

 ちょっと、しんみりする話だった。
 見かけは、あまりにも、残念だったが。
 
 「ここは、ジュン君の出番だよ!」
 「治癒魔法の練習には、ちょうどいいのニャ」

 セーラだけでなく、ライムも乗り気だった。

 「やってみるか」

 オレは、死に掛けたウルフに手をかざして、魔法を発動した。

 「ああっ、そんな無造作に発動したら、だめニャ!」
 「…え?」

 すでに、オレの手からは、激しい光がほとばしり出ていた。
 そして、あっという間に、周囲は、真っ白になった。
 
 「うおっ!」
 「きゃあっ!」
 「ひっ!」
 「ま、まぶしいっ!」

 あちこちから、悲鳴が聞こえてくる。治癒魔法のはずなのに。

 ………

 まもなく、光がおさまった。
 すると、クレアさんが「ああっ!」と声をあげた。
 兄のケントさんと一緒に、ケンイチさんの従者をしている女の子だ。

 「き、傷跡が、消えてるよ!」

 じつは、クレアさんは、白いセーラ服を着ている。
 なぜか、オレが通うはずだった高校の制服だ。
 それなりの進学校だが、制服のかわいらしさで、女子から人気があった。
 今どきの制服だから、もちろん、ミニスカートだ。

 もちろん、オレの家のクローゼットにあったものだ。
 なぜ、高校の女子制服まで入っていたのか、考えたくもないが…。

 今朝、セーラに誘われて、女性陣は、四人とも、着替えていたのだ。
 メードイン・ジャパンの洋服に。

 「よかったっす。クレアは、けっこう、気にしてたっすからね」

 兄のケントさんが、目を潤(うる)ませている。

 ケンイチさんたちも、みんな、うなずいていた。
 クレアさんは、オレと同い年くらいの女の子。
 まるで、アニメから出てきたような、翡翠の髪の美少女だ。
 みんな、気の毒に思っていたのかもしれない。

 傷の大きいのが、太もものあたりにあったらしい。
 そのせいだろう。オレは気づかなかった。いや、ホントに。

 みんなで、クレアさんを祝福していると、パタパタと地面を打つ音が聞こえてきた。
 さっきの、ブラックウルフたちだった。

 そういえば、こっちがメインだった。忘れていた。
 
 二匹とも、幸いなことに、全快したらしい。
 しっぽを激しく振りながら、犬すわりして、オレを見ていた。
 治癒魔法を使ったのは、オレだと、理解してるみたいだ。

 「でかい…」

 目の高さが、オレとさほどかわらない。
 どうみても、ライオンのようだった。いや、むしろ、乳牛うしか? 

 「それにしてもよ。ずいぶん、ゴージャスになってねえか?」

 全快した、二匹のウルフを見て、ケンイチさんが首をかしげていた。


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