召喚失敗から始まる異世界生活

思惟岳

文字の大きさ
33 / 55

第33話 そして、魔物はいなくなった

しおりを挟む
 「ジュンくんはね!おっ○い耐性が低すぎると思うんだよ!」

 聞き慣れない造語で悪態をつく、セーラと手をつないで、まだ早い、朝のミルフィーユの街中を歩いていた。
 ちょっとふくれているのか、セーラは、それきり口をきこうとしない。

 黙っていると、セーラは、女神のように美しい。

 とくに、今日は、金色の長い髪をツインテールにしてるので、かわいらしさが際立っていた。
 しかも、チェック柄のリボンで髪を結び、星をかたどった小さな髪留めで飾っている。
 もう、人間離れした愛らしさで、あふれていた。
 
 すべて、イレーヌさん二十歳という、元聖女の手によるものである。
 とにかく、この元聖女は、ちび女神をかまいたくて、うずうずしていた。
 彼女は、もとより、犬好きであったが、ちいさい子も大好きだった。
 小さいと云っても、セーラは、高学年か、見ようによっては、中一くらいだけど。

 もっとも、そんなのは、見かけだけのこと。
 実際の年齢など、それこそ、天文学的な数値になるのかもしれない。
 まあ、知らないし、知りたくもないから、オレも、適当に云ってるだけだ。
 
 というわけで。

 むくれているお陰で、深窓の令嬢モードになったセーラと、手をつないで歩いていた。
 いずれにせよ。こうして、異世界に同行してくれたのだ。
 ちょっと、小学生っぽいけれど、手をつなぐていどのサービスくらい、何ということはない。

 
 「ほんとうに、一匹もおらんのう…」

 『第二城壁』から外に出ると、レギンさんが、しみじみとつぶやいた。

 「あの魔物の大群は、どこに行ったのかしら?」
 「まったくだぜ。城壁の外は、魔物に埋め尽くされてたってのに」
 「すさまじいとしか、言いようがありませんね」


 小鳥のさえずりさえ聞こえてくる、ミルフィーユの長閑のどかさに、誰もがあきれていた。
 ちなみに、ふつうの動物は、オレから逃げ出したりはしない。
 オレを、恐れるのは、魔物だけらしい。

 「森の奥で、息を潜めているんですニャ」

 ライムが、森を、肉球で指して言った。
 その森だって、ここから眺めている限りは、おだやかなものだ。

 「王都からここまで来る間に、二匹しか魔物を見てないんっすよ」

 そのことばに、ぴんと来たのか。

 「まあっ!その二匹が、この子たちだったのね!」

 そう言って銀狼の頭をなでなでしながら、イレーヌさんは、じっとオレを見た。
 何か尋ねたいようだったが、我慢しているらしい。
 彼女の豊かな胸を睨みつけているセーラに、気を使ったのだろう。

  
 「それにしても、わざわざ、竜騎士を使って、城門を開けさせるとはな」
 「もう、狂っているとしか、思えないっすよ」

 「要するに、このミルフィーユを、我々から奪い取りたいのでしょう」
 「そうじゃの。あのまま、我らが魔物に殺されていたら、この地は、王国の直轄となったろう。
  そうなれば、あとは、宰相の思うがままになっておったろうな」
 「自分のものになった時点で、大規模な戦力をつぎ込むつもりだったんだろうぜ。
  今までは、わざと戦力を抑えて、採掘も採取もできねえようにしてたくせにな」

 __なるほど

 よくある話だった。
 アニメとか、ラノベとかの話だけど。

 「とにかく、ジュンがいるうちに、採掘と採取を再開したほうがいいな」

 ケンイチさんの言葉で、みんなの視線が、オレに集まった。
 
 「そうなると、しばらくは、ここに居てもらわねばならんが…」

 どうやら、オレに気を遣ってるらしい。
 図々しい人たちではないようだ。

 短い沈黙の後、セーラが、セシリアを呼んだ。

 「聖女セシリア。お前から、ジュンくんにお願いしなさい。
  勇者ケンイチは、いずれ、日本に帰還するのです。
  失敗したとはいえ、ジュンくんを召喚したのは、お前にほかなりません。
  お前が、しっかりとえにしを結びなさい」

 セーラが、まるで、女神のようなことを言った。
 何か、悪いモノにでもかれていないか、心配になった。


 「は、はい」

 聖女セシリアは、とにかく素直。
 言われるままに、オレの前に駆けてきたが、なんと云えばいいのか。戸惑っている。

 すると、また、セーラが口を開いた。

 「今夜から、毎晩エッチなことをしてもいいから、お願いを聞いて…と言えばいいのです」

 どうやら、き物は落ちたらしい。
 ちょっと、ほっとした。

 「わ、わかりました!」

 __えっ

 わかっちゃったの?

 しかし、このまま、さっきのセリフを言わせると、オレの人格が疑われかねない。
 律儀なセシリアが、復唱する前に、オレから話した。

 「今のオレには、行くところもないし、やることもない。
  それに、セシリアが、王都を追放されたのは、オレのせいでもある…」

 実際には、オレ…というより、『庭付きの一戸建て住宅』のせいだが。

 「…もし、よければ、ここで世話になりたいと思ってる。
  世話になるからには、ちゃんと働くつもりだ」

 __ふっ

 いちおう、まっとうなセリフを吐けたようだ。
 ここは、清らかに、握手を交わすシーンに違いない。

 しかし、差し出した手をすり抜けて、聖女セシリアが抱きついてきた。
 そして、感極かんきわまったかのように、声を上げた。

 「…ジュンくん。ありがとう!」

 「「「「「「「!!!!!」」」」」」」」

 周囲に、緊張が走った。
 
 いったい、オレを何だと思っているのだろう。
 
 たしかに、多少の脆弱ぜいじゃくさがある事実は、否定すまい。
 しかし、オレの大脳には、元聖女のイレーヌさんのゴージャスな弾力が、刻印されているのだ。
 今更、セシリアサイズで、魂の侵食を許すことはないのだ。

 なにはともあれ。

 こうして、オレは、ミルフィーユという街で、しばらく厄介になることが決まった。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

本当の外れスキルのスロー生活物語

転定妙用
ファンタジー
「箱庭環境操作」という外れスキルしかないエバンズ公爵家の長男オズワルドは、跡継ぎの座を追われて、辺境の小さな土地を与えられて・・・。しかし、そのスキルは実は・・・ということも、成り上がれるものでもなく・・・、スローライフすることしかできないものだった。これは、実は屑スキルが最強スキルというものではなく、成り上がるというものでもなく、まあ、一応追放?ということで辺境で、色々なことが降りかかりつつ、何とか本当にスローライフする物語です。

転生特典〈無限スキルポイント〉で無制限にスキルを取得して異世界無双!?

スピカ・メロディアス
ファンタジー
目が覚めたら展開にいた主人公・凸守優斗。 女神様に死後の案内をしてもらえるということで思春期男子高生夢のチートを貰って異世界転生!と思ったものの強すぎるチートはもらえない!? ならば程々のチートをうまく使って夢にまで見た異世界ライフを楽しもうではないか! これは、只人の少年が繰り広げる異世界物語である。

異世界転生日録〜生活魔法は無限大!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
☆感想の受付開始しました。 【あらすじ】   異世界に転生したルイは、5歳の高熱を境に、記憶を取り戻す。一度は言ってみたい「ステータス・オープン」で、ステータスを見れることに気付いた。スキル「生活魔法∞(無限大)」を発見。その意味を知るルイは、仄かに期待を抱いた。  それと同時に、今世の出自である農家の四男は、長男大事な両親の態度に、未来はないと確信。  家族に隠れて、ステータスにあったスキルの一つ「鑑定」を使い、村のお婆(薬師)相手に、金策を開始。  十歳の時に行われたスキル鑑定の結果を父に伝えたが、農家向きのスキルではなかったルイは「家の役には立たない」と判断され、早々に家を追い出される。   だが、追放ありがとう!とばかりに、生活魔法を知るべく、図書館がある街を目指すことにしたルイ。  最初に訪れた街・ゼントで、冒険者登録を済ませる。だがそのギルドの資料室で、前世の文字である漢字が、この世界の魔法文字だという事実を知ることになる。  この世界の魔法文字を試したルイは、魔法文字の奥深さに気づいてしまった。バレないように慎重に……と行動しているつもりのルイだが、そんな彼に奇妙な称号が増えて行く。  そして、冒険者ギルドのギルドマスターや、魔法具師のバレンと共に過ごすうちに、バレンのお師匠様の危機を知る。  そして彼に会いにいくことになったが、その目的地が、図書館がある魔法都市アルティメットだった。  旅の道中もさることながら、魔法都市についても、色々な人に巻き込まれる運命にあるルイだったが……それを知るのは、まだ先である。 ☆見切り発車のため、後日変更・追記する場合があります。体調が不安定のため、かける時に書くスタイルです。不定期更新。 ☆カクヨム様(吉野 ひな)でも先行投稿しております。

転生したおばあちゃんはチートが欲しい ~この世界が乙女ゲームなのは誰も知らない~

ピエール
ファンタジー
おばあちゃん。 異世界転生しちゃいました。 そういえば、孫が「転生するとチートが貰えるんだよ!」と言ってたけど チート無いみたいだけど? おばあちゃんよく分かんないわぁ。 頭は老人 体は子供 乙女ゲームの世界に紛れ込んだ おばあちゃん。 当然、おばあちゃんはここが乙女ゲームの世界だなんて知りません。 訳が分からないながら、一生懸命歩んで行きます。 おばあちゃん奮闘記です。 果たして、おばあちゃんは断罪イベントを回避できるか? [第1章おばあちゃん編]は文章が拙い為読みづらいかもしれません。 第二章 学園編 始まりました。 いよいよゲームスタートです! [1章]はおばあちゃんの語りと生い立ちが多く、あまり話に動きがありません。 話が動き出す[2章]から読んでも意味が分かると思います。 おばあちゃんの転生後の生活に興味が出てきたら一章を読んでみて下さい。(伏線がありますので) 初投稿です 不慣れですが宜しくお願いします。 最初の頃、不慣れで長文が書けませんでした。 申し訳ございません。 少しづつ修正して纏めていこうと思います。

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

スキル【幸運】無双~そのシーフ、ユニークスキルを信じて微妙ステータス幸運に一点張りする~

榊与一
ファンタジー
幼い頃の鑑定によって、覚醒とユニークスキルが約束された少年——王道光(おうどうひかる)。 彼はその日から探索者――シーカーを目指した。 そして遂に訪れた覚醒の日。 「ユニークスキル【幸運】?聞いた事のないスキルだな?どんな効果だ?」 スキル効果を確認すると、それは幸運ステータスの効果を強化する物だと判明する。 「幸運の強化って……」 幸運ステータスは、シーカーにとって最も微妙と呼ばれているステータスである。 そのため、進んで幸運にステータスポイントを割く者はいなかった。 そんな効果を強化したからと、王道光はあからさまにがっかりする。 だが彼は知らない。 ユニークスキル【幸運】の効果が想像以上である事を。 しかもスキルレベルを上げる事で、更に効果が追加されることを。 これはハズレと思われたユニークスキル【幸運】で、王道光がシーカー界の頂点へと駆け上がる物語。

魔力0の貴族次男に転生しましたが、気功スキルで補った魔力で強い魔法を使い無双します

burazu
ファンタジー
事故で命を落とした青年はジュン・ラオールという貴族の次男として生まれ変わるが魔力0という鑑定を受け次男であるにもかかわらず継承権最下位へと降格してしまう。事実上継承権を失ったジュンは騎士団長メイルより剣の指導を受け、剣に気を込める気功スキルを学ぶ。 その気功スキルの才能が開花し、自然界より魔力を吸収し強力な魔法のような力を次から次へと使用し父達を驚愕させる。

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

処理中です...