召喚失敗から始まる異世界生活

思惟岳

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第38話 王都へ

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 翌日。

 オレたちは、ワンボックスカーで、王都に向かった。

 オレたちとは、オレとライム。
 ケンイチさんと、アンナさん。
 そして、ケントさん兄妹だ。

 セシリアは、王都には入れない。
 だから、『上級ポーション』づくりのお手伝いをするそうだ。

 セーラは、念のため、ミルフィーユに残って貰った。
 オレが王都へ行けば、魔物が、ミルフィーユ周辺に戻ってくるかもしれない。

 『第三城壁』は、未完成とはいえ、魔物に対する防御力だって、これまで以上。
 そもそも、オレの魔力で出来ているから、魔物も簡単には近寄ってこないはず。

 それでも、念のために、セーラに残ってもらったのだ。
 ちょっと、むくれていたけど。


 さらに、ミルフィーユに、『転移魔法陣』を設置した。
 どんだけ高度な魔法かと思ったが、とくにアレンジもしなかったせいか、意外とあっさり設置できた。
 これも、セーラたちちび女神が、ありったけの魔法を、オレに授けてくれたお陰だろう。


 
 夕方には、王都近郊に到着。
 森の奥に入って、『家』を設置した。
 

 *



 そして、翌朝。

 オレたちは、王都に入った。
 
 「まず、ジュンの冒険者登録をしようぜ。
  あの夜は、そんな余裕がなかったからな」

 ということで、冒険者ギルドへ。
 二度も勇者をやっていたケンイチさんと一緒なので、とうぜん、注目を浴びた。

 「おい、黒目黒髪が、もうひとりいるぞ」
 「でも、今の勇者じゃないよな」
 「じゃあ、いったい誰なんだ?」
 
 ひそひそと、冒険者たちの声が聞こえてくる。

 「ねえねえ。あの黒髪の子ってさあ、少し前に、セシリアちゃんに押し倒されてた子じゃない?」
 「そうよねー。アタシもそうじゃないかと思ってたんだ」
 「たしか、召喚には失敗したけど、セシリアちゃんが愛のちからで、呼び寄せた子だよ!」
 「へえー。愛の力で、世界を超えたんだね。やるじゃない!」
 「ああ…、オレも、それくらい愛されてみてえ!」
  
 __くっ!

 余計なことを覚えていた女性冒険者がいた。
 それを真に受けるバカも、相変わらずいるし…。

 ライムは、鳴らない口笛を吹いて、聞こえないふりをしていた。


 冒険者登録は、つつがなく終了した。
 わざわざ、元勇者がやってきて、手続きを手伝ったんだから当然か。

 
 「オレたちは、これから、ケントの実家へ行って、それから、あいさつ回りだ。
  ギルドでも、街でも、好きなところをぶらついて来たらいいんじゃねえか。
  まあ、お前なら、何があっても大丈夫だろうし」
 「わかった。そうする」
 
 冒険者ギルドで待ち合わせをすることにして、ケンイチさんたちは、ギルドを出ていった。

 すっかり忘れていたが、ケンイチさんは、勇者勤務を終えて、日本に帰還するんだった。
 日本では、営業マンだっていうからな。挨拶まわりとか、身体に染み付いてるんだろう。
 
 ケントさん兄妹は、実家へ帰るというのに、ちょっと思い詰めたような表情していた。
 すこし気になったが、黙っていた。


 ひとりになったので、ギルドの二階に、行ってみることにした。
 ちょっとした、図書館があるらしい。受付嬢が教えてくれた。

 階段を登ろうとしたら、近くに、見覚えのあるドアがあった。
 ドアの横には、見覚えのあるボタンも付いている。

 思わず立ち止まると、本を抱えた司書さんが教えてくれた。

 「ふふっ。気になるでしょ。
  『開かずの扉』って言われていてね。大きなギルドには、たいがいあるのよ。
  でも、あの扉が開いたっていう記録は、ひとつもないの。
  だから、ほんとうは、ちょっと変わった壁にすぎないとも言われてるのよ」
 「そう…なのか」
 
 どこからどうみても、エレベーターにしか見えないが、動かないのなら確かめようもない。
 そもそも、階段があれば、使えなくても問題はないし。
 
 __まあ、いいか

 気にしないことにした。 

 ちなみに、オレは、この世界の文字も読めるし、書ける。
 テンプレなので、これも、気にしないことしている。

 本棚に『魔物図鑑』を見つけたので、眺めることにした。

 __へえ

 こんな魔物がいるのか。
 けっこう、面白い。
 
 __しかし

 リアル異世界にいるのに、『図鑑』でしか魔物を見られないとは…。
 なんだか、悲しくなってきたので、『図鑑』は閉じた。

 街へ出るのも、おっくうなので、しばらく、本を眺めることにした。
 本は、わりと好きだし。
 ライムは、頭の上で、熟睡している。
 異世界の本を読むというのも面白そうだ。

 どのくらいの時間が経ったろうか。
 片っ端から、本を読み漁っていたら、ギルド内が騒がしくなった。

 
 「また、あの勇者の野郎が、女の子に絡んでやがる」
 「ホント、どうしようもない男よねえ。アイツ」
 「女の子をかばおうとした男が、肩を斬られたって話だぞ」

 __うん?

 なぜだろう。とても気になった。
 本を戻して、オレも、外に出てみることにした。
 
 
 ギルト前には、ひとだかりができていた。
 その中心には、ひと組の若い男女がいた。
 そして、黒目黒髪の日本人と、対峙していた。

  
 「勇者のオレが、可愛がってやると言ってるんだぞ。邪魔するんじゃねえよ。
  調子こいて、庇おうなんてするから、こういう目に遭うんだ!」

 頭と性格の悪そうなイケメン日本人が、文字通り、調子こいていた。

 __アレが

 ケンイチさんの後継の勇者か。

 聖女セシリアが、オレの召喚に失敗したあと、第二王女が、召喚した日本人だ。
 『異世界の恥は、かき捨て』とでも思って、ハメを外してるんだろうか。

 __ん?

 勇者は、右手に、血のついた剣を握っている。
 勇者の前には、血に染まった肩を押さえて、若い男が、うずくまっていた。
 そして、その男を庇おうとしている女の子の顔が見えた瞬間とき


 オレは、キレた。



 *


 
 (Side ???)

 噂には聞いていたけど、ほんとうに、頭のおかしい男。

 冒険者ギルドに入ろうとしたら、しつこく言い寄ってきた。
 あんまりしつこいから、兄さんが、止めに入ってくれた。

 そしたら、いきなりキレで、兄さんを斬りつけた。
 信じられない出来事だった。

 冒険者ギルドの前で、こんなことをするなんて、狂ってるとしか思えない。
 兄さんも、まさか、剣を抜くなんて思わなかったんだろう。
 かわすこともできずに、斬られてしまった。

 __こんなヤツが

 ケンイチさんの後継の勇者だなんて…。
 考えただけでも、腹が立った。
 
 早く、兄さんを治療してあげたいけど、いつまた、兄さんに斬りかかるともしれない。
 今は、兄さんを庇うだけで、精一杯だった。

 勇者は、第二王女が召喚した。
 第二王女は、宰相の孫娘だ。
 みんな、それを知ってるから、遠巻きに見ているだけで、誰も助けに入ってくれるひとはいなかった。
 
 
 その時。


 「ちょっと、通してくれ」

 聞き覚えのある声がした。
 人混みをかき分けて、姿を現したのは、ジュンくんだった。

 __助かった

 なにしろ。ジュンくんの魔法は、暗部十人衆すら圧倒した。
 にわか勇者ていどなら、きっと負けない。

 張り詰めていた気が緩んだのか。
 思わず、涙がこぼれた。

 
 私の視線を追ったのだろう。
 勇者が、ジュンくんに向かって言った。

 「へえ…。お前、もしかして日本人か?
  ケンイチ以外にも、日本人がいたんだ」

 ジュンくんは、勇者になど目もくれずに、ゆっくりと近づいてきた。
 なぜか。瞳が、蒼く光っていた。
 
 「これを使ってくれ」

 彼が差し出したのは、見覚えのある『上級のポーション』だった。
 ちゃっかり、ミルフィーユで貰っていたらしい。

 「てめえ、無視してんじゃねえぞ!」
 
 私が受け取ろうとした時、勇者が声を荒らげた。
 そして、ジュンくんの背中を斬りつけた。
 
 「ジュンくんっ!」

 思わず叫んだら、なぜか、勇者が、宙を舞っていた。
 そして、頭から地面に落ちて、二度三度と、地面を転がった。

 __え?

 まったく、見えなかった。
 見えているのは、ジュンくんの背中と、握り込めた拳だけ。
 
 __もしかして

 殴ったの?
 背中を斬られる寸前だったのに…。
 
 「はやく、治療してあげたほうがいい」

 背中を向けたままのジュンくんから、やさしい声が聞こえてきた。

 兄さんの肩にポーションを掛けてると、倒れていた勇者が起き上がった。
 そして、悔しそうに言った。

 「ちっ、油断しちまったぜ!」

 __え?

 いきなり背中を斬りつけたくせに、油断するも何もないだろう。
 言っていることが、無茶苦茶だった。

 __でも

 ケンイチさんもそうだけど。召喚された勇者は、とても頑丈だ。勇者補正だったかな。
 二・三度と頭を振ると、勇者は立ち上がった。
 そして、キョロキョロと、何かを探し始めた。

 「コレか?」

 ジュンくんは、足元に転がっていた剣を、軽く踏みつけた。
 そして、ふわりと浮き上がった剣を、蹴り飛ばした。

 カラン、カラン、カラン…

 足元に転がってきた剣を追いかけて、勇者が、あわてて拾った。
 ものすごく、みっともない姿だった。
 
 自分でも、そう思ったんだろう。

 「て、てめえは許さねえっ!絶対、殺す!」

 真っ赤になって、勇者が叫んだ。



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