召喚失敗から始まる異世界生活

思惟岳

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第39話 ケント兄妹と勇者

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 「て、てめえは許さねえっ!絶対、殺す!」

 真っ赤になって、勇者が叫ぶと、剣も真っ赤な炎を帯びた。

 __魔剣なの?

 前代未聞だった。
 歴代勇者の剣は、もちろん『聖剣』。ケンイチさんだって、そうだった。

 『聖剣』に認められなかったのね。

 __勇者のくせに

 召喚は成功したけど、『聖剣』には認められていない。
 ほんとに、ハンパ者の勇者だった。


 「こ、これを、ジュンくんに…」

 兄さんが、自分の剣を差し出した。
 ポーションのお陰で、傷口は塞がった。
 痛みも、ようやく、おさまったんだろう。

 「ジュンくん。コレを使って」
 「うん?」

 剣を差し出した私に、ジュンくんが振り向いた時だった。
 
 「てめえは、スキだらけなんだよォー!」

 そういって、勇者が、炎の斬撃を飛ばしてきた。

 コレが、『魔剣』の性能だ。
 ちゃんと魔力さえ込めれば、誰でも、強力な魔法技を発現できる。

 ジュンくんは、差し出した剣を、そのまますらりと抜いた。
 そして、振り返りざま、飛んできた炎の斬撃を、斬った。

 ひゅん!ひゅんひゅん!
 
 風を切る音だけが、聞こえてくる。
 ただ、それだけで、炎の斬撃が、消えてしまった。

 「め、めちゃくちゃっす…ね。ジュンくんは…。
  剣速だけで、炎の斬撃を、消し飛ばしているっすよ」

 たしかに、ジュンくんの剣筋は、まったく見えない。
 
 __きっと

 速すぎるんだと思う。

 __でも

 ケンイチさんの戦いを、何度も見てきた私にさえ、全く見えないなんて…。
 
 日本は、戦闘とは無縁の国って聞いていたのに。
 いったい、どうなってるんだろう。ジュンくんは…。

 
 まさか、炎の剣戟を、あっさり消されるとは思ってなかったんだろう。
 勇者が、ぽかんとした顔をしていた。

 でも、まもなく我に返ると、声を殺してわらった。

 「くくくくくっ…。
  てめえは、とうとう…。オレを、ホンキで怒らせちまったうようだな…」

 そして、ポケットから、強い輝きを帯びた魔石を取り出し、剣の柄にはめ込んだ。

 __最上級の魔石ね

 もったいぶったように、勇者が言った。

 「…まさか、こんなところで、奥義を披露することなるとはなあ…」
 
 たしかに。王都の真ん中で、魔剣の奥義を放つバカはいないと思う。
 それに、あの魔石は、災害級の魔物と戦う時に使う切り札。
 私と同い年の少年相手に、使うものじゃないし。


 勇者は、魔剣を、目の高さくらいで真横に持ち替え、ぶつぶつ唱え始めた。
 しだいに、魔剣全体が、炎に包まれた。

 「…奥義、炎龍!」
 
 勇者が叫ぶと、剣から、大きな炎が立ち上った。
 そして、その炎は、龍の姿となった。
 もちろん、本物の竜に比べれば、遥かに小さい。
 それでも、ニンゲンくらいなら、丸呑みにできるような大きさだった。
 
 __あれが炎龍

 「やばいぞ、巻き込まれる!」
 「に、逃げろぉーーっ!」
 「ここら一帯が、焼き尽くされるぞ」

 集まっていた人たちが、半ばパニックになった。
 そして、蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。


 グオオオオオオオオオオオオ…!

 
 炎龍は、すさまじい咆哮を上げた。
 そして、牙をむきだして、ジュンくんに襲いかかった…………はずだった。

 ヒーーーーーッ!

 ジュンくんの少し手前で、なぜか、炎龍がぴたりと止まった。
 だらだらと、汗を流しているように見えるけど。たぶん、目の錯覚だろう。
 
 ややしばらく、炎龍は、空中で停止フリーズしたままだった。
 そして、何を思ったのか。いきなり、引き返した。
 必死で、剣の中に戻ろうとしているが、どうやらダメみたい。
 
 ウワァーーーーッ!

 行き場をなくした炎龍は、絶望したような声を上げると、空へ昇った。
 ぐんぐん昇って、雲を突き抜けた時、炎龍は消えた。

 
 「炎龍の魂を封印した『魔剣』ですニャ。でも、魂だろうと、龍は、魔物。
  ジュンしゃまが怖くないはずが、ありませんのニャ。
  あんまり怖くて逃げ出して、剣本体から離れすぎたせいで、消滅してしまったのニャ。
  気の毒としか言いようがないのニャ」


 いつ目が覚めたのだろう。
 ジュンくんの頭上で、ライムちゃんが、淡々と解説していた。

 
 「あ、ありえねえ…」

 勇者が、真横にかまえていた剣が、いっしゅんでびてしまった。
 そして、ぼろぼろになって、地面に落ちた。
 残っているのは、つかの部分だけだった。

 「クソっ!」

 勇者は、柄だけになった剣を、足元に叩きつけた。

 「もう、終わりか?」

 底冷えのするような声だった。
 広場は、しんと静まった。

 「じゃあ、オレの番だな」

 ジュンくんが、言い終わる前に、勇者が吹っ飛んだ。
 それから、すごい勢いで、地面を転がった。
 いっしゅんで間合いを詰めて、蹴り飛ばしたらしい。

 転がり続ける勇者を、大柄の男性が、踏んで止めた。
 ケンイチさんだった。もちろん、アンナさんもいる。

 「あっ、ケンイチさん…」

 ジュンくんが、声をかけた。

 「…ちょっと転がりすぎたから、こっちに蹴ってくれ」
  
 「おいおい。こいつは、いちおう勇者だぜ。
  サッカーボールみたいに、言うんじゃねえよ」

 そう言いながら、ケンイチさんも、勇者を足でぐりぐりしていた。
 
 「宰相の配下の騎士団が、こっちへ向かってるらしいぜ」 
 「そうか。じゃあ、まとめて潰せばいいか?重力魔法とかで」
 「いやいや、そうじゃねえよ。
  騎士団なんぞ相手にしても、面倒なだけだ。さっさと王都を出るぜ」
 「わかった」

 ジュンくんは、ケンイチさんの言うことを、素直に聞く。
 同じ日本人の先輩として、敬ってる感じがする。
 そういうところが、足元に転がってる勇者と違うんだろうと思った。
 ケンイチさんも、ジュンくんのこと気に入ってるみたいだし。


  
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