召喚失敗から始まる異世界生活

思惟岳

文字の大きさ
43 / 55

第43話 シフォン侯爵の来訪

しおりを挟む
 翌日の夜。

 闇の中に、魔法陣が、光を放った。
 数人の男女が、その光に、青く照らされた。

 「着いたよ…」

 大司教のばあさんが、魔法で灯りをつけながら、言った。
 
 「…その扉を出て、階段を上れば、教会の墓地に出るんだ」
 「わかった。手間をかけちまったな。帰りは、侯爵家から直接、転移する予定だ」
 「それじゃあ、アタシは先に、ミルフィーユに戻ってるよ。気をつけて行きな」

 
 ここは、王都の教会の地下室。
 緊急用に、転移魔法陣が設置されていた。
 もちろん、知っているのは、大司教のばあさんだけらしい。
 

 ミルフィーユは、今。
 あふれる魔物に、蹂躙されてることになっている。
 だから、ケントさんのお父さんは、こっそり招待するしかない。
 それで、夜に転移してきたわけだ。

 
 墓地を出て、裏道から貴族街に入った。
 侯爵家の門をくぐり、ケントさんの案内で、使用人の出入り口から、屋敷に潜り込んだ。
 
 「早かったな、ケント。
  ケンイチ殿には、すっかり手間をかけてしまった。感謝する」

 リビングでは、侯爵が待ち構えていた。
 がっしりとした体躯で、ケントさんによく似たイケメンだった。
 となりにいるのは、奥さんだろう。
 クレアさんが歳をとった感じの美人だ。
 そして、ケントさんたちと同じで、ふたりとも、髪も目も翡翠みどりだった。
 


 「話は、向こうに着いてからでいいだろう。すぐに出発したいが、かまわないか?」
 「もちろん、かまわない。馬車の手配も済ませてある」
 「いや。この部屋から、直接、ミルフィーユまで転移する。ジュン頼めるか?」
 「わかった。向こうへ行くひとは、ケントさんのお父さんとお母さんのふたりでいいのか?」
 
 誰にともなく尋ねると、ケントさんが、両親に確認してくれた。

 「父上と母上だけで構わないそうです。よろしくおねがいします。ジュンくん」

 __え?

 ふつうの口調なので、いっしゅん、戸惑った。
 両親の前では、いつもの『…っす』は、使えないらしい。
 もともと、イケメンだから、こっちの口調のほうが似合ってる気がした。
 
 ふたりだけでいいと聞いて、ほっとした。
 執事やら侍女やら、ぞろぞろ来たら、ちょっと面倒だ。




 * 



 「ようこそ、ミルフィーユへ!」

 転移するなり、アルベールさんが、にこやかに迎えてくれた。

 「アルベール!ほんとうに無事だったのだな!」

 シフォン侯爵は、たちまち、アルベールさんに駆け寄った。
 そして、アルベールさんの両手を、確かめるように握りしめた。
 とても、社交辞令には見えない。

 __もしかして

 仲良し? 


 「こうして、生きていられるのは、そこにいるジュンくんのお陰です。
  そして、彼を連れてきてくれたケンイチ殿のお陰でもあります」

 そういって、オレを紹介してくれた。

 「そうか。挨拶が遅くなりすまない。
  ケンイチ殿に『転移する』と言われて、すっかり動転しておったのだよ。
  しかし、ほんとうに、ミルフィーユまで転移してしまうとは、まさに奇跡だよ」

 ちょっと興奮気味のシフォン侯爵に微笑みながら、アルベールさんが教えてくれた。

 「『転移』可能な『設備』は、いくつかあるんですけどね。
  『転移魔法』そのものは、必要な魔力量が大きすぎて、ほとんど誰も使えないのですよ」
 「そうだったんだ」


 
 話が一段落したので、本題に入ることにした。

 ここは、『第一城壁』の内側。
 アルベールさんの屋敷で、広い会議室のような場所だ。

 みんなが席に着くと、アルベールさんが、侯爵の前に、大きな箱をふたつ置いた。

 「…開けてもいいのか?」
 「ええ、確かめてください」

 箱のなかには、それぞれ、『魔石』と『上級ポーション』が、びっしりと詰まっていた。

 「こ、こんなにたくさん、譲ってもらえるのかね」
 「なんの。コレは、ほんの一部に過ぎんよ」

 レギンさんが、誇らかに言った。
 じっさい、みんな狂ったように働いていたから、すでに、けっこうな蓄積がある。
 そろいもそろって、仕事大好きなひとたちだった。エミールさんは別として。


 「そ、そうか。…まったく」

 箱の中をじっと見つめながら、侯爵は、つぶやいた。

 「…これまでの苦労は、何だったのだろうな。 
  貴族の屋敷ほど、良くも悪くも、さまざまな魔道具が使われているだろう。
  『魔石』が不足すると、たちまち生活に支障がきたすのだ。
  とくに、きついのは、『警備面』が手薄になることだ」

 ケントさんのお母さんが、続けて言った。
 
 「怪我や病気の治療だってそうよ。
  上級レベルの治癒魔法の使い手って、めったにいないの。
  だから、『上級ポーション』に頼らざるを得ないわ。
  それでも、どうにもならないことだって、少なくないのだけれどね…」

 そう言って、オレの顔を、じっと覗き込んだ。なんで?

 「わたしは、領袖という立場上、相談を受けることも多くてね。
  『魔石』と『上級ポーション』を、何とか手に入れてくれないか、と頼まれることが何度となくあった。
  そのときが、ほんとうに、つらかった…。
  なにしろ、宰相に、その両方を握られていたからね。
  わたしは、いつの間にか、あの男には、逆らえなくなっていた。
  そして、聖女さまが、皇位を剥奪され、王都を追放になった時さえ、見て見ぬふりをするしかなかった。
  ミルフィーユから、王国軍が撤退し、君たちが危機に陥っていた時も…ね」

 「ち、父上…」

 まさか、派閥の領袖である父親が、人前で、弱音を吐くとは思ってもみなかったんだろう。
 ケントさんが、困惑していた。

 「私たちは、すでに、危機は脱しているし、セシリアも、穏やかに暮らしています。
  だから、マルセル。これまでのことは、もう、気にする必要はありません。
  じつは、私も、これからは、遠慮なくやらせてもらおうと思ってるんです。
  君も、領袖なんて、さっさと譲って、やりたいことをやればいいと思いますよ」

 マルセルとは、シフォン侯爵の名前だろう。
 やっぱり、仲良しなんだと、あらためて思った。  


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

本当の外れスキルのスロー生活物語

転定妙用
ファンタジー
「箱庭環境操作」という外れスキルしかないエバンズ公爵家の長男オズワルドは、跡継ぎの座を追われて、辺境の小さな土地を与えられて・・・。しかし、そのスキルは実は・・・ということも、成り上がれるものでもなく・・・、スローライフすることしかできないものだった。これは、実は屑スキルが最強スキルというものではなく、成り上がるというものでもなく、まあ、一応追放?ということで辺境で、色々なことが降りかかりつつ、何とか本当にスローライフする物語です。

転生特典〈無限スキルポイント〉で無制限にスキルを取得して異世界無双!?

スピカ・メロディアス
ファンタジー
目が覚めたら展開にいた主人公・凸守優斗。 女神様に死後の案内をしてもらえるということで思春期男子高生夢のチートを貰って異世界転生!と思ったものの強すぎるチートはもらえない!? ならば程々のチートをうまく使って夢にまで見た異世界ライフを楽しもうではないか! これは、只人の少年が繰り広げる異世界物語である。

異世界転生日録〜生活魔法は無限大!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
☆感想の受付開始しました。 【あらすじ】   異世界に転生したルイは、5歳の高熱を境に、記憶を取り戻す。一度は言ってみたい「ステータス・オープン」で、ステータスを見れることに気付いた。スキル「生活魔法∞(無限大)」を発見。その意味を知るルイは、仄かに期待を抱いた。  それと同時に、今世の出自である農家の四男は、長男大事な両親の態度に、未来はないと確信。  家族に隠れて、ステータスにあったスキルの一つ「鑑定」を使い、村のお婆(薬師)相手に、金策を開始。  十歳の時に行われたスキル鑑定の結果を父に伝えたが、農家向きのスキルではなかったルイは「家の役には立たない」と判断され、早々に家を追い出される。   だが、追放ありがとう!とばかりに、生活魔法を知るべく、図書館がある街を目指すことにしたルイ。  最初に訪れた街・ゼントで、冒険者登録を済ませる。だがそのギルドの資料室で、前世の文字である漢字が、この世界の魔法文字だという事実を知ることになる。  この世界の魔法文字を試したルイは、魔法文字の奥深さに気づいてしまった。バレないように慎重に……と行動しているつもりのルイだが、そんな彼に奇妙な称号が増えて行く。  そして、冒険者ギルドのギルドマスターや、魔法具師のバレンと共に過ごすうちに、バレンのお師匠様の危機を知る。  そして彼に会いにいくことになったが、その目的地が、図書館がある魔法都市アルティメットだった。  旅の道中もさることながら、魔法都市についても、色々な人に巻き込まれる運命にあるルイだったが……それを知るのは、まだ先である。 ☆見切り発車のため、後日変更・追記する場合があります。体調が不安定のため、かける時に書くスタイルです。不定期更新。 ☆カクヨム様(吉野 ひな)でも先行投稿しております。

転生したおばあちゃんはチートが欲しい ~この世界が乙女ゲームなのは誰も知らない~

ピエール
ファンタジー
おばあちゃん。 異世界転生しちゃいました。 そういえば、孫が「転生するとチートが貰えるんだよ!」と言ってたけど チート無いみたいだけど? おばあちゃんよく分かんないわぁ。 頭は老人 体は子供 乙女ゲームの世界に紛れ込んだ おばあちゃん。 当然、おばあちゃんはここが乙女ゲームの世界だなんて知りません。 訳が分からないながら、一生懸命歩んで行きます。 おばあちゃん奮闘記です。 果たして、おばあちゃんは断罪イベントを回避できるか? [第1章おばあちゃん編]は文章が拙い為読みづらいかもしれません。 第二章 学園編 始まりました。 いよいよゲームスタートです! [1章]はおばあちゃんの語りと生い立ちが多く、あまり話に動きがありません。 話が動き出す[2章]から読んでも意味が分かると思います。 おばあちゃんの転生後の生活に興味が出てきたら一章を読んでみて下さい。(伏線がありますので) 初投稿です 不慣れですが宜しくお願いします。 最初の頃、不慣れで長文が書けませんでした。 申し訳ございません。 少しづつ修正して纏めていこうと思います。

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

スキル【幸運】無双~そのシーフ、ユニークスキルを信じて微妙ステータス幸運に一点張りする~

榊与一
ファンタジー
幼い頃の鑑定によって、覚醒とユニークスキルが約束された少年——王道光(おうどうひかる)。 彼はその日から探索者――シーカーを目指した。 そして遂に訪れた覚醒の日。 「ユニークスキル【幸運】?聞いた事のないスキルだな?どんな効果だ?」 スキル効果を確認すると、それは幸運ステータスの効果を強化する物だと判明する。 「幸運の強化って……」 幸運ステータスは、シーカーにとって最も微妙と呼ばれているステータスである。 そのため、進んで幸運にステータスポイントを割く者はいなかった。 そんな効果を強化したからと、王道光はあからさまにがっかりする。 だが彼は知らない。 ユニークスキル【幸運】の効果が想像以上である事を。 しかもスキルレベルを上げる事で、更に効果が追加されることを。 これはハズレと思われたユニークスキル【幸運】で、王道光がシーカー界の頂点へと駆け上がる物語。

魔力0の貴族次男に転生しましたが、気功スキルで補った魔力で強い魔法を使い無双します

burazu
ファンタジー
事故で命を落とした青年はジュン・ラオールという貴族の次男として生まれ変わるが魔力0という鑑定を受け次男であるにもかかわらず継承権最下位へと降格してしまう。事実上継承権を失ったジュンは騎士団長メイルより剣の指導を受け、剣に気を込める気功スキルを学ぶ。 その気功スキルの才能が開花し、自然界より魔力を吸収し強力な魔法のような力を次から次へと使用し父達を驚愕させる。

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

処理中です...