召喚失敗から始まる異世界生活

思惟岳

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第42話 勇者と宰相

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 「じつは、他にも話がある…」

 苦々しい口調で、ケンイチさんが、話を換えた。

 「ケントたちが、勇者に、襲われたんだ」

 みんなびっくりして、ケント兄妹を見た。

 「だ、大丈夫っす…」 
 「ジュン君が、すぐに助けにきてくれたの」

 ふたりは、詳しい状況を、みんなに説明した。
 オレに貰った『上級ポーション』で、斬られた傷を治したことも。
 まあ。オレも、貰い物を渡しただけだが…。

 じっさい、今のふたりに、怪我などは見当たらない。
 みんなは、ほっと胸をなで下ろした。


 「『第一皇子派』がらみ…でしょうかね」

 アルベールさんが、ケンイチさんに尋ねた。
 ケントさんたちの父親は、シフォン侯爵。
 シフォン侯爵は、『第一皇子派』の『領袖おやぶん』で、いちおう宰相とは対立している。
 魔石と、上級ポーションを牛耳られて、かなり劣勢らしいけど。
 
 「わからねえ。なにしろ、あのバカ勇者は、何をしでかすか分からん奴だからな」
 「ただ単に、クレアを連れ去ろうとした気もするっす」

 「だがよ。『魔剣』で、ケントに斬りかかったんだろう。
  そこまでやるなら、やっぱり、裏で、宰相が糸を引いてるんじゃねえのか?」
 「まっとうな勇者なら、裏があると考えるのが当然なんだがな。何しろ、頭のイカれた野郎でな」

 「まあ、まあ…!そんな方が、勇者を、してらっしゃるのですか!」

 イレーヌさんには、信じがたい話のようだ。
 彼女の召還した勇者サツキは、きっと、まともなニンゲンだったのだろう。
 いや。勇者なんだから、まともなのが当然か?

 「そもそも、『聖剣』さえ使えねえんだ。
  肩書は勇者でも、中身は違うと思ったほうがいいだろうぜ」


 結局、宰相が関わっているかどうかは、現状では『不明』。
 シフォン侯爵が、ミルフィーユに来た時に、この件も含めて話し合うことにした。





 *





 その頃、王都の城では、宰相が頭を抱えていた。

 「勇者は、どうしておる?」
 「自室に、籠もっているそうですが、姫様の話によると、ベッドの陰で震えているとか」
 「そうか。しばらくは、そのまま部屋に籠もってくれれば、こちらも助かるのだがな」


 勇者が、広場で、魔剣の奥義『炎龍』を発動させたという、耳を疑うような知らせが入った。
 とうぜんのことながら、広場は、たいへんな騒ぎとなった。
 街に、火を放ったようなものだ。当然だ。
 すぐに、騎士団を向かわせたが、すでに、騒動はおさまっていた。
 

 「若い男女というのは、やはり、シフォン侯爵のご子息らか?」
 「ええ。元勇者のケンイチ殿が、駆けつけて、連れ帰ったという話です。
  かのご子息らは、ケンイチ殿の従者ですから、間違いないかと」
 「ご息女に手を出そうとした上に、止めに入ったご子息の肩を斬るとは…。
  まったく、とんでもないことをしてくれおった」
 「美しい娘と見れば、見境がありませんからな。あの勇者殿は。
  よもや、侯爵家の娘だとは、知らなかったのでしょう」

 __まあ、

 知っていても、やることは同じだっただろうが…と、中年の役人は思った。

 
 「それにしても、ケンイチ殿が駆けつけてくださらなかったら、どうなっていたことか」

 同じ勇者でも、明らかに格が違う。
 ケンイチ殿だったからこそ、あの愚かな勇者を、叩きのめすことができたのだろう。
 勇者をぶちのめしたのは、黒目黒髪の少年だったという噂もあったが、さすがにそれは、彼にも信じかねた。

 「そうだな。気に食わぬ奴だが、魔剣の暴走を止めてくれたことには、感謝せねばな」
 「しかし、まさか、『魔剣』が使い物にならなくなるとは…。
  いったい、どんな使い方をしたのでしょうな。勇者殿は。」
 「おそらく、あの勇者では、『炎龍』を制御しきれなかったのであろう。
  剣は、惜しいことをしたが、王都に、火が回るよりは、ずっとましじゃろう。
  騎士団長には、魔剣の暴走が止まらぬときは、勇者を斬れと命じておいたが…」
 
 真顔で、物騒なことを言い出した宰相に戸惑い、中年の役人は、あわてて話を換えた。

 「と、ところで、ミルフィーユ領は、今頃、ど、どうなっているでしょうな?」
 「さてな。残念だが、もうあそこは、放棄するしかあるまい。
  現状の武力では、取り返せそうもないからの」

 『下手な嘘だ』と、中年の役人は思った。

 ミルフィーユ領は、宰相にとって、いわば宝箱。
 手に入れるのを諦めるはずがない。

 配下の貴族を、かなり送り込んでも、結局、領地を乗っ取ることができなかった。
 それで、しびれを切らせて、最終手段に出たのだ。

 『放棄した』などとうそぶいているのは、しばらくは、放置せざるを得ないからだろう。
 ひとりでも、住人が生き残っていては都合が悪いから、うかつに王国軍を送れないのだ。

 要するに、宰相は、じっと、待っているのだ。
 ミルフィーユの街の住人が、ひとり残らず死に絶える、頃合いを。


 
 
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