召喚失敗から始まる異世界生活

思惟岳

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第46話 ダンジョン

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 翌日。

 「ねえ、ジュンくん。銀狼たち見なかった?」

 セーラが、朝から、銀狼を探していた。
 いつも、ソファ替わりにしているからだろう。

 「いや、見ていないぞ」


 __そういえば


 毎朝必ず、二匹並んで、朝の挨拶に来ていた。
 なのに、今朝は、来なかった。


 __まさか


 家出か?

 『従魔』って、家出するんだろうか?

 日本で、ふたりの家族が、とつぜんいなくなったせいだろう。
 すぐに頭に浮かんだのは、『家出』の二文字だった。


 __それにしても


 短いつきあいだったな…。


 感慨に耽っていたら、いつの間にか、隣にいた。

 「わおーん、おんおん、わおん、わお、わおん…」

 何か、訴えてるようだ。
 さっそく、通訳のライムが、翻訳してくれた。

 「地下へ通じる入口を見つけたそうですニャ。
  いっしょに、来てほしいと言ってるニャ」


 __地下へ通じる入口?


 なんだろう。

 森の中に、地下鉄の入口でも見つけたのだろうか。
 冒険者ギルドにも、エレベーターがあったくらいだし…。


 「ダンジョンじゃないの?」

 セーラが、まっとうなことを言った。


 __なるほど


 たしかに、異世界だし、魔物の森なんだから、ダンジョンかもしれない。

 朝から、家出したかと思えば、ダンジョンを見つけてくるなんて。
 ほんとに、ダンジョンだったら、褒めてやらねばなるまい。




 「ダンジョンが見つかっただと!」

 ケンイチさんのテンションが高い。

 __いや
 
 地下鉄の入口かもしれないぞ…と言いそうになったが、やめておいた。


 さっそく、銀狼の案内で、現地へ向かった。

 ダンジョンは、森の奥にあるらしい。
 銀狼は、奥へ奥へと進んで行く。
 
 ちなみに、オレが奥へ向かえば、魔物たちは、さらに奥に引っ込むそうだ。
 だから、採取も採掘も、問題なく続けられるのだ。


 「ずいぶん、奥まで来ちゃったんじゃない?」
 「たしかに。こんなところまで来たのは、初めてっすよ」
 「今までは、魔物と何度も戦ってるうちに、日が暮れちまったからな」

 けっこう、鬱蒼としているので、晴れているはずなのに薄暗い。
 背の高い草をかき分け、垂れ下がる蔦を斬りながら進んだ。

 しばらく進むと、きゅうに、銀狼たちが立ち止まった。
 そして、前足で、くいくいと、前方を指している。
 
 「ココ…なのか?」

 尋ねると、銀狼たちが、うなずいた。

 でも、地下への入口なんて、まったく見当たらない。
 ひどく、木や草が茂っていて、前に進むのもたいへんそうだ。

 「銀狼ちゃんたちが、言ってるんだから間違いないよ!」
 「信じても、大丈夫ですニャ」

 セーラとライムが、太鼓判を押している。
 
 「とにかく、行ってみようぜ」

 ケンイチさんが、大剣で、ばっさばっさと斬り進むと、まもなく、金属製の扉が見えた。
 山の斜面の岩壁を削って、大きな門が埋め込まれているのだ。

 __それにしても

 銀狼たちは、どうやって、コレを見つけたのだろう。
 金属だから、匂いでわかったとは思えないし…。
 ちらりと、銀狼を見たら、目を反らされた気がした。

 
 「コレ、けっこう高度な魔法鍵がかかってるよ!」

 セーラが、扉を指差した。

 セーラは、オレの家の魔法鍵を、触れただけで解錠している。
 大神さまですら、てこずりそうな高度な鍵を。

 「魔法じゃない…かもしれませんニャ。
  どっちにしても、セーラちゃんやライムには、開けられそうもありませんニャ」

 「セーラちゃんたちでも、開けられないの」
 「それじゃ、どう考えても、無理っすよ」
 「せっかく見つけたのにな。残念だな」

 みんな、諦めかけた時だった。

 かしゃり!

 アナログな解錠の音がした。

  
 見れば、銀狼が、前足を扉に掛けている。
 
 「お前が、開けたのか?」

 思わずたずねたら、銀狼が、困ったようにうなずいた。

 __うーん

 なんか銀狼たちのようすがおかしいけど、まあ、いいか。
 とにかく、鍵を開けたのだから、褒めてやろう。
 
 頭を撫でようとして、手を伸ばした時だった。


 __くっ!


 思わず、10メートルくらい、飛び退いた。
  
 「ジュン、どうしたっ!」
 
 ケンイチさんは、すでに剣を抜いて、周囲を見渡している。
 ケントさんや、クレアさん。セシリアも、それぞれの武器を手にしていた。

 
 __はあ…


 オレは、大きなため息をついてから、みんなに謝った。

 「すまない。いま、ちょっと、姉ちゃんの気配がした気がしたんだ。
  でも、オレの勘違いだったみたいだ」
 「おいおい。姉ちゃんの気配で、なんで、飛び退くんだよ。
  いったい、どういう姉弟なんだよ。お前らって…」
 
  ケンイチさんが、苦笑しながら、剣をおさめた。

 __どういうって?
 
 「いきなり、姉ちゃんの気配を感じたんだぞ。身構えるのは、とうぜんだろう?」

 聞き返したら、みんな、黙り込んだ。なんで?

 クレアさんが、心配そうに、オレにたずねた。
  
 「あまり、仲がよくないの?お姉さんと」
 「いやいや、クレア。仲が悪いとか、そんなレベルじゃないっすよ」

 「あら?でも、私だって、小さい頃は、セシリアと取っ組み合いの喧嘩をしたこともあるわよ」
 「ね、姉さん!」

 アンナさんに言われて、セシリアが真っ赤になった。
 でも、ふたりのトーク?のお陰で、緊張感がとけた。 
 
 「いや。仲はよかったんだ。家にいる時なんかは、ずっと一緒だったし…」

 誤解されるのもイヤなので、いちおう言っておいた。

 __そう 

 じっさい、仲は、いいのだ。
 小さい頃なんか。いつも『姉ちゃんと結婚する!』って言ってたものだ。

 __あれ?

 言わされてたんだっけ?どっちだっけ?

 混乱していたら、セーラとライムが、気の毒そうにオレを見ていた…気がした。

 
 とにかく、鍵は開いた。
 メンツも揃っている。

 なにしろ、元勇者もいれば、聖女もふたりいる。
 ケントさんとクレアさんだって、従者として、ケンイチさんに同行してきた実績がある。
 挙句の果には、女神と精霊までいるのだ。

 このメンバーで、攻略できなかったら、誰にできると云うのだろう。
 ということで、さっそく、挑戦することになった。
 
 

 「アニキ…」
 「…ん?何だ?」

 「今、オレたちって、誰も足を踏み入れたことのないダンジョンを探索してるっすよね」
 「ああ、そうだな…」

 「どんな魔物がでるのか。どんな罠がまちうけてるのか分からない。危険な冒険っすよね」
 「そりゃ、そうだろう…」

 「何階層あるのかもまったくの未知で、いつ終わるともしれない、気の遠くなるようなダンジョン攻略っすよね」
 「まあ、そう言えねえこともねえな…」

 「…………」
 「…………」

 「でも、これって…。ふつうに、『散歩』って言わねえっすかね」

 ケントさんが、愚痴っていた。
 たしかに、エネミーと呼べる存在が、全く、出てこないのだ。無理もない。

 「ジュンしゃまがいるからには、こうなるのは目に見えていたのですニャ」

 ライムが、得意げに言った。
 
 
 「それでもせめて、ダンジョンなんすから、『罠』を解除しながら進むとか…」
 「うーん。ケントさんのお気持ちはわかりますニャ。
  でも、セーラちゃんが、魔法障壁をアレンジしてくれましたからニャ。
  『罠』なんか、あってないようなものですニャ」

 その、セーラは、銀狼の背中で熟睡していた。
 『最下層に着くまでは、起こさないでよ』とか言って。
 
 「でも、兄さん。時々、矢が飛んできてるよ」
 「ええ…。さっきも、毒を含んだ霧が、吹き付けられました」

 妹のクレアさんと聖女セシリアが、指摘した。
 たしかに。今も、ゴツンっと、何かが、ぶつかったような低い音がした。
 
 「なに言ってるっすか!全部、魔法障壁で、防がれてるじゃないっすか!
  だいいち、落とし穴が開いてるのに、平然とその上を歩くっておかしくないっすか!」

 ケントさんが、なぜか、絶叫していた。

 __そんなこと言われても

 セーラのアレンジした魔法障壁は、大きな箱の形。
 通路いっぱいのサイズなので、落とし穴では小さすぎて、落ちようがないのだ。

 「まあ、そう焦るんじゃねえよ。ボス部屋まで行けば、さすがに、戦闘になるだろうよ」


 淡々と、通路を歩き、階段をおりて行った。
 しばらくすると、地下の10階にたどり着いた。

 この階には、いかにも『ボス部屋』っぽい、巨大な扉がある。

 「ちょっと、歩き疲れた気もするが、ここから本番だぜ。
  みんな、気を抜くんじゃねえぞ!」

 ケンイチさんが、みんなを見渡して、気合いを入れた。
 そして、巨大な扉に手をかけた。


 ギギギギギギギギギギィーーーーーーーーーーーー!

 
 分厚い扉が、きしみながら開いていく。
 
 さあ。いよいよ、戦闘開始だ。

 もちろん。セーラは、銀狼の背中で、かわいい寝息をたてて寝てるけど。


 
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