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第八話 親指サイズの人形劇
しおりを挟むジャックを見送った後、私たちはその場の流れに合わせる形で喫茶店に入った。
「まさかこんな所で再会するとは思わなかったよねー。久しぶりだけど、元気?」
注文を済ませるなりショウゲは気さくな口調で話しかけてくれた。学園の頃と変わらない態度。深い関わりはなかったのに、そんな隔たりを感じさせない独特な雰囲気は彼を確かに人気者にするだけの理由になり得た。
「そこそこ元気にはしているわ。…今日は、ジャックに呼ばれてきたのね?」
「そうだよ。彼とは在学中に親しくなったんだ。それからも不定期にだけど連絡のやりとりはしていた。そうそう、琳子ちゃんのお父さんだったんだね。今回娘の事でって相談されて初めて知ってびっくりしたよ」
「……」
注文のアイスレモンティーが届くも私はしばらく琥珀色の液体をぼんやりと見詰めた。ジャックが私との関係を明かすだけの信頼を得ている。そして多分、過去の事件についてもある程度知識があるのだろう。私の傷…と形容してきたけれど、今更。そんなものについて深く語り合う気はなかった。
「まっ、ぼくとしても全然相談に乗る気なんてないんだけどねー」
悪意など一切感じさせない清々しいまでにはっきりとした本音と笑顔に、私は少しだけ表情を崩して苦笑した。
「でもさ、琳子ちゃん。学園の頃の友だちと連絡ってとってる? ほら、ぼくは途中で転校したからほとんど繋がりなくてね。せっかくだからこの機会に学園繋がりの友だちも欲しいと思って乗っかったって訳だよ。あ、ちなみに翠くんにもそんな理由で近づいてさ」
「…ジャックに私の事で打診された癖に、先に翠に接近した理由は?」
「えーそんなの…」
ショウゲは一旦言葉を区切り口の中を潤すかのようにコーヒーを一口飲むと、口元に不吉な笑みを浮かべて応えた。
「ヤローの思い通りになるなんてつまんないからに決まってるだろ?」
「……」
意外な反応が学園の頃の彼とイメージにそぐわず驚いた。
「あ、日本語ってまだ苦手でさ。何かイントネーションおかしかったかい?」
誤魔化す訳でもなくニコニコ笑うその様は、笑顔でうまく本音を隠すディランにどこか似ている。
「いいえ…それよりも」
親近感―――と言うにはまだ遠い。けれど確かに感じる同属の匂い。レモンティーの酸味と程よい甘さで脳を引き立たせると、私は笑顔で応えた。
「必要以上に、私の周りで学園の話はしないでちょうだいね? 特殊な環境だと自認している以上、むやみに興味を持たれたくないの」
「あー確かにね。じゃあさ、逆に琳子ちゃんは昔話をしたい時。どうしてるんだい?」
「…それは」
翠もジャックも、結衣子さんたちも…みんな、私が学園で傷ついていると思っている。だからわざわざその話題を掘り下げて思い出語りをするつもりもないし、たまにその頃の事を聞かれたとしても当たり障りない程度で留めていた。
だからそうなのだ。私はあの頃の出来事を鮮明に覚えていて、一つ一つの疑問と向き合おうとする時。私はいつも同時に孤独と自分の能力の限界を思い知る。
「―――そういう時、ぼくは琳子ちゃんと語り合いたいなと思っているよ。まぁ、気が向いた時にでもいいんだけどね」
多分、この人は優しいフリをするのがひどく得意で狡猾だ。ディランのような猫被りというのとは少し違う。ディランの好みについてはサトルという基準を元にある程度理解できている。だけど今目の前にいるこの人は、きっと誰に対しても無関心であり。同時に関心のあるフリのできる人だ。
「…私に、貴方の関心を買うだけの要因はないと思うわ」
「確かに。ぼくもただ綺麗なだけの女の子には興味もない。ついでに言うなら過去に何かあったなんて程度の傷、あの学園では掃いて捨てる程いるだろ?」
「勘違いでなければ、同属の匂いがするわ。同属嫌悪って言葉を説明してあげたいくらいに」
「偶然だね。ぼくもだよ。だからきっと…セトくんの事、を知りたいと思うんじゃないかなって」
「!?」
その名前に私は言葉よりも素直に身体が反応した。グラスを持っていた手が震え、思わず言葉が潰えた。食い入るように彼を見詰める私に、ショウゲはお手拭でテーブルにこぼした紅茶を拭きながら応えた。
「あ、でもねー。彼が今どうしてるとか全然知らないよー。ぼくもむかし学園で親しくしてた程度の話だし、それに…色々確かめたい事もあるからさ。ここで全部話す訳にはいかないんだ」
「……っ」
本当は今すぐ彼の事を聞き出したい。思い出が溢れてそれが胸を圧迫し、息苦しささえ覚えてしまった。自分でも笑ってしまうくらい情緒不安定だった。不安で苦しくて、仄かに感じる甘酸っぱさに涙が溢れそうになった。
「大丈夫だよ、琳子ちゃん」
だから彼がいつの間にかテーブルに乗せていた私の手に、自身の指を重ねていても拒絶できなかった。
まだ夏の暑さを色濃く残す九月。日々の暑さは変わらずだが、慌ただしくも忙しい夏休みは終わりを告げた。暑さの為に夏休み前と変わらず、制服は夏服のまま登校する学生たちに混じり、日向も夏服のままの登校となった。夏休み中ずっと続いていた全身の痛みはようやく過ぎさり、今は筋肉痛の代わりに身体のだるさがあるが、それも一晩休めば改善されるだろう。
ただ、問題はそこではない。
昨夜、久々に出してきた制服に袖を通してみて、ディランにその格好で学校に行くの?と散々言われたのだ。さらには目的地は同じだと言うのに、今日は一緒に登校したくないとまで言われては気分が落ち込むのも当然と言えるだろう。
―――そんなにおかしな格好だと言う訳か。
昨夜、何とか袖を通してみたものの、このひと夏でどれだけ伸びたというのか。制服のサイズが合わなくなっていた。秋の新学期には上着はともかく、カッターシャツだけでも長袖にしたいと考えていたのだが、袖が足りなくなっていた。勿論、日向とて、制服はもともとやや大きめを用意していたのだが、ここまでの変化は想定していなかった。スラックスも裾下ろしを試みたものの、こちらはさらに絶望的で、全身制服姿の日向を見たディランには大笑いされてしまった。
仕方なく、元から短い袖の半袖のカッターシャツに急遽購入した私服のスラックスという、中途半端な格好での登校となったのである。
昨夜の散々大笑いされた後に、ディランの「すごく大人っぽくなったよね」という言葉は、わざとらしいフォローにしか聞こえなかった。せめて、日本で出来た友人達には肯定的に捉えて欲しいが、バイト先の中華料理店の店長の件もある。
別人と思われないかの不安も混ざった。
「…久しぶり~。須藤ちゃん、なんか焼けた?」
「夏中外にいたからな」
ふと見ると普段よく話す関と須藤が少し前を歩いて合流したところだった。須藤に関しては最初から日向の少し前を歩いていたようだが、目線の高さに違和感があって、関が話しかけるまで気づかなかった。少し不安が混ざったが、日向は早足で追いついた。
「関、須藤」
普段は日向から積極的に話しかけたりはしないのだが、軽く肩を叩けば、二人は振り返った。須藤に至ってはこれまで日向の手が届かなかったのだが。
「……えと、あの、ドチラサン?」
「日向だ」
「えええええっ」
日向の希望も虚しく、案の定、中華料理店の店長と変わらぬ反応が待っていた。
「嘘だろ? 嘘だろ? 嘘だよな? あ~んなに小さくて可愛かったひなちゃんが、須藤ちゃんと身長変わんないって?!」
教室に着いてからも関の興奮覚めやらず。動揺のあまり、声が大きくなり、校門前で声をかけた時から教室に来るまでずっと周囲の注目の的になっていた。
「小さかったのは認めるが、可愛いは撤回してくれ」
これまで 高身長にあたる須藤と平均スレスレの関、その中で日向は一番低かった。その印象が抜けないのだろう。ほとんど涙目の関を見ると強く言いにくく、日向は控えめに言い返した。
それでなくても、日向からしても、目線の下に関というのは違和感以外の何者でもなかった。
「い~や、認めないねっ! 何? あの、金髪の兄ちゃんも抜いちゃったの?!」
「まぁ、そうだな」
何故ここでディランが話題に上がるのか、ディラン本人はここまで大げさに反応していなかったのだが。
「ああ~、なんか声まで変わっている気がするし!」
「いや、変わってないだろ」
言い出したはずの関はディランの話題など既に飛び越えて、混乱しているようだった。
「友達だと思ってたのに、これを期に可愛い彼女作って、モテモテの人生送るんだ~」
「…何の話だ?」
高が身長が伸びたぐらいで突っ込みどころ満載の飛躍し過ぎの話に日向は頭を抱えた。
それまで黙って聞いていた須藤がここにきてようやく口を開いた。
「そっとしといてやれ」
どうやら関は自分の身長に相当なコンプレックスを感じていたようだった。
それから数日、未だグチグチと言ってくる関に付き合いつつ、割とあっさり受け入れてくれた須藤に感謝しながら、少しずつ日向は今までとは目線の違う生活に慣れていった。
そう言えば、「これからは女子にモテモテになる」という関の予言に疑念しかなかったのであるが。最近、女子生徒の視線を強く感じるようになった気がする。疲れているか、単なる自意識過剰だろうと結論づけ、日向は努めていつも通りに過ごした。
だが、それから少ししてそうとも言えない事態に直面することとなった。
「厘君」
授業を終えた休み時間、数学の教科書やノートを片付けようとしたところで、クラスの女子生徒に声をかけられた。日直でもなく、何かの委員に入っている訳でもないのだが、振り返るとノートを抱えた女子生徒が三人、何か言いたげにこちらを見ているのが、見えた。
「…何?」
屋号で呼ばれるのには慣れなくて、出来るだけ下の名前で呼んでくれと親しい友人には伝えているのだが。その訂正の言葉が出てこなかった。
まず、夏休み前には一切なかったパターンだった。
「あー、その、厘君て、数学得意だって聞いて! 私達、さっきの授業分かんないとこあったから」
「教えて下さい!」
「お願いします」
女子生徒との関わりは数えるほど。教師に尋ねるのが、何より効果的だと思うのだが。文化の違いもあり、一部の例外を除いて、女性との関わりに距離を置いてきたのだが、こんな事態は想定していなかった。
「…先生はさっき急いでるからって職員室に行っちゃったし。忘れる前に復習したいんだよね」
「…………厘君、お願い」
懇願する女子生徒達を邪険にする訳にもいかず、日向は息を吐いた。
「……教えるのは得意じゃないんだが」
「全然いいよ!」
「助かる~」
いつからクラスの女子生徒の勉強を教える便利係になったのだか。そう思いつつも、日向は生来の生真面目さから、数えるほどしか話してこなかった女子生徒達の疑問にひとつひとつ丁寧に答えていった。
であるが。
「…それで、ここはどう解いたらいいかな?」
三人のうち、二人は照れがあるのかさらりと終わったのだが。最後の一人に至っては様子が違っていた。日向も当初はどうすればうまく教えられるのかと拙いながらも模索していて気づかなかったが、気づけば、聞く側の女子生徒が妙に近い。それまではそれぞれ自分の教科書を広げていたのだが、彼女に至っては持っておらず、日向の教科書を覗きこんでいて日向は面食らった。
「~っ?!」
「どうしたんですか?」
わざとなのか、気づいてないのか。日本だとこれは一般的なのか。ディランならば容易に判断してうまく対処するのだろうが、日向には判別出来そうになかった。距離感自体が落ち着かない。これが琳子であれば素直に事情を話せたのであるが、これまで文化的な習慣で距離があるのが普通だった異性との距離感だが、日本に来てそこまで深く気にすることはなかった。そもそも女子生徒達は日向に関心を示さなかったし、日向もそれで問題なかった。
むしろその方がよかったのだ。
肩にかかる長めの髪であっても結わずに下ろしていることが多い日本の女子生徒達を見るのは目の毒で距離を取ることで平静を保ってきた。それが今や近すぎる。
「…いや」
落ち着かない距離感にヒヤヒヤしながらも日向はそれとなく距離を取ろうとした。
「あ、まだ、ここも残ってて」
「…………」
距離を取るはずが、彼女が身を乗り出してきた為に逆に狭まってしまい、日向は額にうっすら浮かんだ汗を拭った。
「……わかった」
さっさと終わらせるに限る。そう判断して、教えることに専念した。
「…厘君、なんだか熱っぽくない?」
「…疲れてるだけだ」
これ以上、顔を見られたくなくて、日向は視線を逸らした。
それから少ししてなんとか全部終わらせると、日向は女子生徒達に断って教室を出た。こんな日に限って関は無駄な気遣いでこちらから距離をとるとはどんな嫌がらせか。ドッと疲れて廊下を歩き出すも、先程の女子生徒達がわざわざ教室を出てきて、声をかけてきた。
「さっきはありがとう、厘君」
「…ああ、まあ」
「厘君、甘いもの好き?」
苦手だと答えにくく、日向は落ち着かない様子で息を吐いた。
「…礼なら必要ない」
「あ、じゃあ、代わりに厘君の苦手な教科、私達教えるよ。ね?」
こんな時に限って女子生徒は先ほどの、友人たちを見た。控えめに見えていた友人たちも、意を決した様子でこちらを見てきた。
「私、国語得意です!」
「…英語ならできます」
「……………」
何がどうしてこうなったのか、日向は困惑しつつも、口を開いた。
「…気持ちは有難いが、遠慮する」
夏休みの間、結局都合が合わず会わずじまいだった友人たちに会いに行こうとサトルたちのクラスに向かった。
サトルとは何だかんだでケータイを使って交流があったが、ディランはもちろん。日向とはほとんど連絡をとっていなかった。慣れないケータイで文章を打つよりは、電話で話したい事を話せた方が気が楽で。でも、アルバイトや人探しで忙しくしていそうな彼の限られた時間を奪うのは気が引けてしまい結局こうして学校が始まるまで声すら聞けずにいた。
だから背が伸びたとは聞いていたけど、声も変わり、クラスメイトらしき女子生徒たちと話している長身の男性を見ても今ひとつ誰かわからなかった。
「……日向?」
厘くんと呼ばれているところを聞いて、まさかと思い呟いた。
「……琳子か?」
呟くような声に反応して振り返った男子生徒は、私を視界に捉えるとほっとした表情を浮かべた。けれど同時に彼を囲んでいた女子生徒たちの視線が一気に私へ注がれ、途端に不穏な空気が漂い始めた。
「…サトルに用か? あ、いや少し時間あるか?」
女子生徒たちに断りを入れると日向は足早に私の元に近寄ってきた。
「……」
こちらに向けられる女子生徒たちの視線に含まれたものを意識するも、見上げなければ顔も見られない背丈になった日向に驚いた。どこか顔立ちも変わったようにも見えて、これまでほとんど身長差なんてなかった彼が一気に前へ進んでしまったような気がした。
「驚いたわ…別人みたいになっていて」
あたりさわりのない感想を述べるも、何故か胸のあたりに穴が開いたような違和感があった。
「ああ、まあそうだな…。悪いが少し移動しないか?」
どういう訳かどうにも落ち着かない様子で日向も息を吐いた。
「…いいわよ」
胸のあたりにある異物の正体がわからないまま、彼の提案に対しほんの一瞬躊躇ったものの私は頷いた。
「助かる」
周囲の視線を気にしていたのか、人気のない屋上へ繋がる階段の踊り場まで移動すると彼はほっとした様子を見せた。
「…付き合わせて悪い。助かった。夏休み前まではこんな状態ではなかったんだが…」
「本当よね。びっくりするくらい変わったわね。……急に、大人びたみたいで…」
何て言えばいいかわからなくなり、私は閊えたまま無理やり笑った。
「女の子にモテモテだったわね」
「…背が伸びただけでここまで周りの態度が変わるとは思わなかったがな。親しい友人ならまだしも、正直、距離感に困っている…」
苦笑した後、日向は買い替えたばかりなのか新しい上着の内ポケットに手を伸ばした。
「そういえば、これ。いつ渡せるか分からなくて、持っていたんだが、祭りのお土産だ」
内ポケットから取り出した小さな紙袋を差し出した。
「お祭りの? 何かしら、開けてもいい?」
「ああ、構わない」
紙袋を開けると中から青いガラスの花がついたブレスレットが入っていた。
「綺麗…。素敵なガラス細工ね」
ブレスレットを手首に通すと光に透かせた。屋上の窓から注ぐ光がガラスを隔てて鈍い輝きを発する。とても綺麗でしばらく私はそれを眺める事で、先程からずっと抱いている何とも言えない複雑な感情が落ち着くのを待った。
「ありがとう…っ」
「あ、いやそれはサトルが選んだもので、結局、僕は金を出すくらいしかしてないんだが…」
黙っておけなかったのか彼は落ち着かない様子で白状した。
「装飾品を選んだこともないし、琳子の好みが分からなくてだな…。だが、喜んでもらえたならよかった」
この夏休み、色々な事が起きすぎた。そしてそのほとんどを私は誰にも伝えていなかった。翠にも、サトルにも。
勘のいい二人はある程度察している事もあるだろう。けれど私からは、敢えて話す程でもないと思っていた。母の過去も、ジャックの涙も、伯父への復讐も。決して辛くはなかったと言えないけれど、だけど、何一つとしてきっと無駄な経験ではない。慰めてもらいたい訳ではない以上。それはただの通過点として、過ぎた出来事を蒸し返して話題にするつもりはなかった。
「行きたかったわ…でも、これがいい思い出になるわね」
夏休みの思い出を締めくくる美しい品に、私は自然と笑みを漏らした。
「なら、よかった。サトルと揃いになってる。選んだサトルにも琳子が喜んでたって伝えないとな。その、言い忘れてたんだが、似合ってる。琳子に青い花の飾り、いいな」
彼から注がれる優しい眼差しを意識し、私はブレスレットが光に当たるよう翳しながら微笑んだ。
「…綺麗よね。とても好きだわ」
「青い色が好きなのか? それとも花だからか? 」
「両方かしら。明るい青色が好きよ。でも花は見ていて気持ちが落ち着くし、自分では育てられないけど好きだわ」
「…そうなのか。あまり詳しくないから、教えてもらっても分からないかも知れないが、好きな花とかあるのか?」
「私は…好きか嫌いと言うよりも、薔薇が、私にとって特別ね」
「薔薇? そうなのか。そういや、ディランが色や本数で花言葉が変わるだとか言っていたな。特別って話、聞いてもいいか?」
好き嫌いではなく、特別という言葉が引っ掛かったのか日向は目を丸くした。
「…母が好きな花だったの。そして」
「あの学園で咲き乱れていたから、かな?」
階下から突然声が聞こえて私は驚き振り返った。けれどある程度、私はこうなる事を覚悟していた。
「ショウゲ…どうしてここに…」
この学園の制服に身を包んだショウゲがヒラヒラと手を振りながら階段を上ってきた。
「知り合いか?」
不思議そうにショウゲを見ると日向は何故か目を見開いた。
「あ、雨の時の学校見学にきてた!」
「そうそう、日向くん♪ 久しぶりだね。何かちょっと逞しくなった気がするんだけど」
「あー、気のせいです、多分。特別鍛えた訳ではないので。…結局、転校してきたんですか?」
「そうそう。会いたい人もいたからね。で、二人は知り合い?」
「…友人だ。で、二人は?」
「私たちは…」
彼との間に既に面識があったと知り意外な面持ちでショウゲを見やった。
「ちょっと仲のいい先輩後輩の関係だよね、琳子ちゃん?」
「…仲がいいのかしらね」
しれっとトボケて返事をするとショウゲは苦笑した。
「仲良しでしょ、家族も公認の仲でしょ♪」
「先輩後輩の関係ということは前の学園で、ということか?」
「そうだよ。と言っても関わり自体はあまりなかったけどね」
「誰かさんがすぐに転校するんだもの。親しくなる暇もなかったわ」
「大丈夫。今からでも十分間に合うからさ」
「本当かしら?」
学園でほとんど交流はなかった。けれど彼はそんな垣根を一気に越えた距離感で接してくる。普段は煩わしくも感じるけれど、何故か今はその気さくさが心地よくて私は思わず小さく笑った。
「…あー。それは一般的な距離感なのか?」
日向は訝しげにショウゲの方を見た。
「一般的? んん?」
よく意味がわからずショウゲは疑問符を浮かべた。そしてしばらく日向を眺めると意味深に笑いかけた。
「…まぁ、興味ない子にまで優しくする訳ないけどね」
「…どういう意味だ」
「いやいや、そのままの意味だよー。むしろ日向くんは無関心な子にも心を込めて接するタイプ?」
「それはそうだが、妙に悪意を感じるのは気のせいか? 学園が同じだからといって、琳子に何か強要するようことはないようにしてくれ」
「まさかぁ♪ 琳子ちゃんに何かしようものなら、周りが黙っていないよ。きっと」
「周りが、じゃない。ただの知人ならともかく、自分だけ蚊帳の外はない話だ」
真剣な表情でショウゲを見たが、今になって気づいたように日向はかしこまった。
「…あ、いや、これから先輩になる人に出過ぎた発言をしました。ですが、こればかりは撤回する気はありませんので。悪しからず」
「なるほど。気を悪くしたなら悪かったね。琳子ちゃんも」
ニッコリ笑い私に向き合うと、その瞳に一種の感情を滲ませて答えた。
「せっかくだからこの場を借りて話しておきたい事があるんだ」
「私が蚊帳の外にならない話なら聞くわ」
「ハハ、当事者だよ。むしろ」
小さく笑うと穏やかな表情を浮かべた。
「琳子ちゃん。この前は突然だったけど、これを機に仲良くなりたいと思っている 。もちろん、友だち以上の関係も含めて、ね」
「…………」
不審な表情を浮かべつつも、日向は何も言わなかった。
「そうね…。以前よりは貴方を理解できたらと思うわ」
意地の悪いやり方だとは思うけれど、彼は今の質問を以て私と日向の正確な距離感を推し量ろうとしているようだ。そして同時に、私が今もセトをどう想っているか確認する為に。だけど不思議と不快感はなかった。むしろ先程まで感じていた胸に穴が開いたような感覚がこの頃になってようやく収まった気がした。
「…以前よりはって、学園で何かあったのか?」
「交流する間もなく転校していったのよ」
事実なのでどう補足する事もできず私は肩を竦め苦笑した。きっと彼の中でショウゲの評価はどんどん落ちていっているだろうけど、それは仕方ない。
「今度はきちんと卒業するまでいるつもり?」
「まぁね。いい加減そうしないとね」
「琳子より先に転校したってことは、ここに来る前に別の学校に行ってたのか? それで行くとそこも長続きしてなかったみたいだが」
「あぁ、何か誤解させちゃったみたいだけど事情があって転校しただけだよ」
「? 学園を出てから、ここに転校するまでの空白期間については聞かない方がよかったか?」
何か不信感を抱いていたのか、日向は首を傾げた。
「んー…」
笑顔は絶やさないながらもショウゲは私の意向を伺うように視線を向けてきた。空港で話した学園の話はあまりしないで、という私の約束を守ってくれているのかもしれない。
「それは追々聞いていけばいいじゃない。親しくなれば、教えてくれるでしょう?」
「そうだね、特別親しくなれば、だけど」
「…親しくって、ショウゲさんは琳子と親交を深めたいのであって、僕はどうでもいいんじゃないのか?」
「やだなぁ、日向くん。ヤキモチ妬かないでよ♪ ぼくはきみとも仲良くなりたいんだから」
「…焼き餅って、そんな訳がないんだが。そもそもそんな話は初耳だからな。…まあ、その、先ほどは失礼しました」
不服そうな表情を浮かべながらも、軽く頭を下げた。
「大丈夫さ。全然気にしていないから♪」
「………まあ、よろしく頼む」
疲れたような表情を浮かべた。
「それじゃあ、ぼくはこれで…」
と退散しようとすり彼の腕を私は思わず掴んだ。
「待って」
「…! どうかしたのか?」
私の突然の行動に驚いたのだろう。日向が口を挟んだ。
指摘されるも何て答えたらいいのかわからなくなり、私は慌てて言い訳を作った。
「…今日、放課後用事はあるの?」
「……あるよ。残念だけど」
優しい口調だったが、表情からそれは嘘だと容易にわかるものだった。
「……そう」
腕を離すも私は自分の失態に思わず溜息を漏らした。
「それなら仕方ないわね。…翠も会いたがっていたわ。いずれ時間を作ってちょうだい」
「わかったよ。近いうちに必ず時間を作る」
そしてやや俯きがちになる琳子の頭を優しく撫でると、
「じゃあ、またね」
と爽やかに微笑みその場を去った。
「………学園での交流は少なかったと聞いたが…」
途中まで話して、結局言葉に出来ず、苛立たしげに息を吐いた。
「…悪い。今話すと奴の暴言しか出てこなくなる。家族ぐるみの付き合いなんだな。…学園のことで話したいことがあったんじゃないのか? 」
「…いいの…ごめんなさい。つい、内輪にしかわからない話題になって」
「…あ、いや、先に席を外した方がよかったな。あいつも部外者がいなければ話したかもしれないのに、貴重な機会を壊して悪かった」
つい頭に血が上ってしまったことが腹立たしく、日向は申し訳なさげに頭を下げた。
「そんなに謝らないで。大丈夫よ。大した話でもないし、何より同じ学校なら話す機会なら多いわ」
言いながらも琳子の視線はショウゲが去った方に向けられていた。
「…私たちも戻りましょう」
「あ、いや、その前に一ついいか?」
「……?」
日向を見つめ頷いた。
「……あまり、頼りにならないかもしれないが、何かあったら相談してくれ。いや、何もなくても、出来る限り力になるつもりだ。…あいつは琳子の知りたいことを教えてくれるかもしれないが、正直、信用ならない。無条件で信用するのはやめた方がいい。…あ、いや、これは勝手な意見だったな。とにかく、あまり無茶はし過ぎないでくれ」
「……」
日向を見つめていた視線を落とすと複雑そうに答えた。
「…私にも、わからないわ」
それは胸の内の苦痛を吐き出すような重い一言だった。
「彼を信じられるかどうかは、今はどうでもいいわ。…どうせ、私が聞きたい言葉は一つだから。でも…彼は、確かに同じ学園に身を置いた人だから。だから…」
言い切れずに琳子は苦笑した。
「ごめんなさい。でも、私にも正解がわからないわ」
「………」
琳子は学園で探している人がいる、今の自分と同じように。それがどれだけ大切なことかは当人にしか分からないことだが、たとえ小さな可能性であってもかけてみたいのだろうと思うと日向は一度、言葉を飲みこんだ。
「………わかった。琳子は好きなようにしたらいい。ただし、アイツの警戒はこちらでする。アイツに学園のことで何か教えてもらうのに、身を削るような選択をするくらいなら、僕の名を出せ。ただの友人でお門違いなら、肩書きは変えて構わない」
「……」
少し考え睫毛を伏せると琳子は視線を落としたまま答えた。
「わかったわ」
そして小さく息を吸うと
「そろそろ戻りましょう。休憩時間がなくなるわ」
「…そうだな」
琳子と途中まで一緒に戻った後、それぞれの教室で別れて日向は教室へと戻った。次の授業が移動教室ということもあって、教室には人は残っていなかった。もう誰もいないからと照明が落とされた暗い教室に一人きりだと分かると緊張の糸がゆるんで日向は静かに息を吐いた。
「…………」
琳子に先ほど自分は何を言ったのか。思い返してみるに支離滅裂で荒唐無稽にもほどがある。自分の中で覚悟を持って伝えたハズの言葉が冷静になってみると何一つ言葉になっていなかったことに気がついて、頭を抱えた。
何を伝えたかったのか、日向自身わかっていなかったのが、今なら分かる。ただ、分かるのはそこまでだ。
なんでもいいから、琳子の力になりたいと思って、言葉にしていた。関係が変わったとしても構わないというのも、全てが本心で、後から考えると意味のわからない言葉の並べたようで、何一つ伝わらなかったと思う。
普段であれば、もう少し建設的な意見を出せたハズなのだが。
焦っていたのだと思う。
フッと脳裏に浮かんだのは先ほどの琳子とショウゲの親しげなやりとりだった。
学園で何があったのか、詳細はわからない。サトルのような親友でも無ければ、なんでも器用に立回るディランのような気遣いもままならない。逆に琳子に気遣われてさえいるくらいだ。
自分の至らなさは自覚しているつもりであるし、それを補うよう努力をしていい関係を築きたいと思っていた。
だが、ショウゲにおいては。
友人の一人、というわけではなさそうだ。琳子が何より知りたい学園のことに詳しくて、知己の仲だ。家族ぐるみの付き合いだとも聞いた。自分が琳子と同じ立場になったとして、探し人の手がかりに少しでも近づけるなら、どんなことでもして知りたいと思うだろう。琳子の気持ちは痛いほどよく分かる。―――だと、いうのに。
素直に応援出来ない自分がいるどころか、それは嫌だと思う自分がいて、あまりの自身の身勝手さに吐き気がした。
琳子が何をどう選択するかは琳子自身が決めることだ。探し人の手がかりを少しでも得る為に、ショウゲに頼るのも一つの手だ。そこまで分かっていてなお、ショウゲの手を取る琳子を見たくないと思ってしまった。
学園の事に詳しいわけでも、ないというのに。
「………最低、だな」
誰もいない教室で、ほとんど声にもならない言葉がこぼれた。
濃い影を落とすアスファルトが発する熱を感じながら、私とサトルは他愛のない話を楽しみつつ歩いていた。そしてもう少しで駅に着くというところで私は、不意に会話の流れを一方的に止めた。
「どうしたの?」
「……ちょっと、夏バテみたい」
休みの最中に初めて熱中症を経験してから、こまめに水分をとるようにはしているけれど。それでもこの暑さに耐えるには元々の体力が足りていないのかもしれない。
「大丈夫? どこかお店に入って休む?」
サトルの提案に私は首を振ると、自販機を見つけてスポーツドリンクを買い近くの公園で休む事にした。
「今年は猛暑らしいね」
木陰に守られたベンチに並んで座るとサトルも買ってきた緑茶を飲みながら呟いた。
蝉の鳴き声に高く澄んだ空に聳える入道雲。時折吹く風は熱気を孕んでいて、まだまだ続く夏の暑さを予感させた。
「……傷つけたかもしれない」
熱された公園の砂場から上がる陽炎を眺めているうちに、私は無意識にそう漏らしていた。
「誰を?」
すかさず問い返されて言葉に詰まる。
「もしかして日向を取り囲んでいた女子たちの事? だとしても、関係ないよ」
教室の前でのやりとりをサトルもどこかで見ていたのだろう。そう言えば女子生徒たちの顰蹙を買っていたなと今更ながら思い出しながら、私は苦笑しつつ首を振った。
「違うわ。…ショックだったのよ。急に成長して…大人になっていくみたいで、何だかわからないけど不安になって…。中身は何も変わらないのに、見た目が変わっただけなのに」
変わってしまった彼を見て急に現実を突き付けられた気がした。私たちが大切に想うこの『今』が一生続く訳ではないのだと、当然の事実を指摘されたように錯覚して。怖くなった。
だからショウゲが。あの学園で短い間でも共に過ごした人が現れた途端、何故か彼の存在に縋りたくなった。
「まぁ…確かにあれだけ急成長したら色々と思うところもあるよ。実際に周囲の反応が激変したのもそれに要因するだろうし」
ペットボトルの中身を一口飲み、ふぅと小さく息を吐くとサトルは空を見上げた。
「今のぼくらは身体と心が一番不安定で、繊細な時だ。でも、わざわざ他人の変化に琳子が振り回される必要はないよ」
確かに彼からしたらいい迷惑でしかないだろう。どうしようもない変化を受け入れるしかないのだから。どんなに否定したところで、私も、変わっていく。かつて過ごした学園の日々も、記憶に留める事しかできないセトの面影も。すべて過去になっていく。
「……変わりたくないって…想うのは、私のエゴ…」
せっかく水分を摂ったのに、それは再び塩辛い水となって目元から溢れそうになった。しかし必死の想いで涙を堪えている間。私は強く手を握り締めていた。
変わりたくない。忘れたくない。もう一度会うまで、絶対に忘れたくない。私が必死になればなるほど、それはただの子どもの我儘になる。成長を止めるなんてできない。わかっているけれど、わかりたくない。
「……」
悩ましげに黙り込むサトルをこれ以上困らせたくなくて、私は爪痕がついた拳を解いて立ち上がった。
「ごめんなさい、サトル。…もう、帰りましょう」
『日向だ。話し忘れてたんだが、週末空いているか? 夏休みの思い出にと花火を当てたんだが、よかったら消費に付き合ってくれないか?』
それから数日後、日向からメッセージが届いた。もう夏休みはとっくに終わっているけれど、確かに真夏の暑さは陰りも見せず。何一つとして夏らしい思い出を作れなかった私は、随分と悩んだがこの提案を受け入れる事にした。
ショウゲとの一件以来彼とは直接顔を合わせる機会がなかった。正確には私がそれとなく避けていた。それまでそれとなく感じられていた彼から寄せられる好意が、ショウゲの所為で予期しない方向へ進んでしまうのではないかと怖かったからだ。
浴衣と普段着を並べてしばらく考え込む。約束の時間が近づいているけれど、どちらにしようかなかなか決められなかった。夏祭りで着る筈だった執着から出しきて浴衣だけど、もしも待ち合わせ場所にサトルがいなかったら―――。きっとサトルが参加するのなら、事前に私に何らかの連絡もあっただろうという予想もあったけれど、やはり楽しい思い出を作りたいという気持ちから私は母の浴衣を借り、二人からもらったブレスレットを手首に通した。
「行ってくるわね」
階下に降り翠に声をかけるとリビングから顔を出してくれた。
「帰りは大丈夫か?」
「あぁ…」
確かに花火をして帰るのだから辺りは暗くなるだろう。普段から防犯ブザーは持ち歩いているけれど、翠の心配も理解できた。
「あまり遅くならないようにするわ。駅に着いたら連絡する」
ケータイを取り出しアピールすると、ふっと小さく笑い頷いてくれた。それからふいに表情を変えると、私を見詰め尋ねてきた。
「その友だち…というのは、お前にとって誤解ない関係でいられる相手なのか?」
それは以前私も同じ質問を、翠にした事があった。翠と恋人(と勝手に私が思っているだけかもしれないけれど)についてだ。お互いが互いの望まない関係には決してならない、一方的な想いに苦しめられる事のない関係―――というニュアンスで、私たち兄妹間で時々暗号のように使っていた。
その質問をした時、翠は滅多に見せないような力の抜けた優しい笑顔でこう答えてくれた。
「そうであるよう…願っているわ」
どちらが誤解してしまうのか。そんな風に自問自答してしまったが、私は安心した様子の翠に手を振って家を後にした。
駅で数駅程行ったところにある川辺で待ち合わせだった。どこかの軒先から響く風鈴の音色にひぐらしの鳴き声。辺りを照らす夕陽が何となく過ぎゆく季節の切なさを感じさせる。
橋のすぐ近くに佇む大きな人影を見つけ、何故か一瞬、胸が痛んだ。
「お待たせ…」
そんなよくわからない胸中を隠し、私は何食わぬ顔で声をかけた。
「…いや、大して待ってないから問題ない」
涼しげな浴衣姿の琳子に日向は思わず目を奪われていたが、気をとりなおして口を開いた。
「…その、よく似合っている」
夏休み、夏祭りに琳子が来ていたら、こんなに綺麗だったのかと今更ながらに思うと、なんだか複雑な気持ちになった。
「……」
辺りを見回し琳子は首を傾げた。
「サトル、たちは…?」
「…………」
静かに息を吐くと、覚悟を決めて深々と頭を下げた。
「騙すようなことをして悪い。二人は呼んでいない。ただ、この前のこともあって琳子と話がしたいと思って、だな。夏の思い出を兼ねて花火をしたいと思ったのも事実だ。だが、きちんと話さなかったのは本当に申し訳ない」
今までの自分であれば、きっと当然のようにサトルやディランも呼んで四人で花火を楽しむ選択をしただろう。だと、いうのに。
「…最低だというのは理解している。だが、どうしても琳子と二人で話がしたい。…その、花火ももちろんやれたら嬉しいが」
「この程度のサプライズ、最低な訳ないじゃない」
小さく笑い日向の手元から花火の袋を取り上げると、振り向きながら歩き出した。
「行きましょう。花火を楽しみたいわ」
「…いいのか?」
最悪、その場で解散もあり得ると覚悟していただけに日向は驚いた。
「ほら、早く来て」
苦笑しながら琳子は日向を手招きした。
「ああ、そうだな」
河原に降りて橋の下まで来ると、日向は持ってきていたバケツで水を汲んだ。風を気にしながら、マッチでロウソクに火をつけた。
「……好きなのを選んでくれ。沢山あるからな」
「花火って久しぶりだわ」
最初に目についた花火を手に取ると、琳子は早速火をつけて火花が散る様子を楽しんだ。
「綺麗ね…」
「そうだな。…僕も久しぶりかもしれないな。琳子は小さな頃にやったきりだったりするのか?」
日向も琳子の隣で手近な花火に火をつけると鮮やかな光が次々に色を変えていった。
「夏には毎年していたわ。みんなで色々な花火を持ち寄るの」
「そうなのか。それは…楽しそうだな」
その頃の琳子を想像すると、日向は自然と表情を綻ばせた。
「むかしより派手な花火が増えた気がするわ」
「…そうなのか? いや、実は僕の国だともう少し大きい設置型の花火の方が主流でな。手で持ってやるのは初めてだから、変化が分からなくてな」
すっかり消えた花火をバケツに入れると、日向は新しい花火を手に取った。
「打ち上げ花火ね。私もむかし見に行ったわ」
琳子も新しい花火を手にした。
「手でやるのとは桁違いだが、これはこれでいいな」
手に取った花火に火をつけるとバチバチと勢いよく爆ぜながらも、小さな光があちこちに散っていった。
「…ねぇ?」
まだ火をつける前の花火を片手に、蝋燭の前でしゃがんだまま琳子は日向に声をかけた。
「…私、貴方を傷つけたんじゃないかしら?」
「それを言うなら、僕の方が…っ。あ、いや、悪い。こちらが、琳子を傷つけたんじゃないか? あの場では頭に血が上って、余計な発言をした」
思わず声がきつくなりそうなのに気づくと日向は静かに息を吐いた。
「…ずっと謝りたいと思っていた。だが、気づけば余計なことばかり言いそうで、本当に悪かった」
「……私も、失礼な態度だったわ。見た目が変わったから…つい」
言い切れずに琳子は黙り込んだ。
「何も変わらないのに、ね」
「いや、そうもいかないだろう」
なんと言えばいいかと日向は苦笑した。
「僕個人の性格は変わったつもりはないが、見た目が変わるとやはり戸惑うものだと思う。ただ、戸惑う分、それだけ夏休み前の僕に多少なりとも思い入れを持っていてくれていたからじゃないかと考えたら、これもまた悪くない」
「それは…」
やや考え花火を蝋燭に近づけると
「友だちだもの。当然でしょう?」
と苦笑混じりに答えた。
「…………そう、なのか。いや、琳子はそうなのかもしれないが、最近の僕は何かおかしいのかもしれないな。今日だって最初はサトルやディランも誘うつもりだったんだが、今日はどうしても琳子と話がしたかった」
「……。話せてよかったわ。誤解ない関係でいたいもの」
視線を日向から逸らし呟いた。
「……誤解ない関係?」
今一つ分からない様子で日向は目を丸くした。
「ごめんなさい。よく翠との間で使う言葉だったから、つい」
小さく笑い火がついた花火を眺めた。
「…長く、途切れない対等な関係でいたいって意味に捉えてもらえたら嬉しいわ」
「…? たとえ関係性が変わったとしても、お互いの対等な関係は変わらないんじゃないか? 少なくとも僕は琳子とは対等でありたいと考えているが」
「…ありがとう、日向」
肩を竦め琳子は微笑んだ。
「………むしろ、僕の個人的な感情で、琳子を不快にさせるんじゃないかと考えているが。アイツの件だって、本来なら琳子の背中を押すのが正しいと、頭では理解しているんだが」
苦虫を噛み潰したように日向は苦い表情を浮かべた。
「……。あんな人だから誤解され易いけれど、悪い人ではないのよ。それにこの先私がどんな選択をしたとしても。私はいつも後悔しない方を選んでいるって事を覚えていて欲しいの。傷ついたとしても、それは必要な過程だと思っていて」
「……だからって、琳子が傷つくのを黙ってみていろっていうのか?! 友人だ、なんだと言いながら、何もするなって言うのか! それのどこが友人だ! …そんなの、友人でもなんでもないだろうが…」
「傷つくのを恐れていたら何も変わらない。勿論、最初から傷つくつもりの選択肢なんてないわ。だから…もっと、私を信じて。どんな結果でも、私は後悔しないから」
「…琳子は後悔しなくても、僕は後悔する! 琳子のこと知りながら、何もしなかったことをきっと後悔する。…分かっている、これは琳子の問題だ。僕が立ち入るべき話じゃない。僕の勝手な感情で、単なる我儘だ。琳子の選択を尊重するが、…だからって、何もしないで見ていることは出来ない。…何か力になりたいと思うのは迷惑な話か?」
「……意地悪な質問ね」
苦笑しながら消えた花火の燃え滓を眺めた。
「だから、嫌だったの。親しくなれば深く関わろうとする。適度な距離を保てないなら…私たち、の関係は終わるしかないわね」
「……だったら、終わっても構わない。ただの知人に戻ったところで、今と何も変わらない。友人の名がついていたところで、琳子の力になりたくても必要のないただの役立たずが、ちょうどいい立ち位置になるだけだ。名ばかりの立場に拘るつもりはない。………たとえ関係が変わったところで、琳子が危惧するようなお互い対等な関係というのを変えるつもりはない」
「…もぅ…」
溜息を漏らし独り言のように呟いた。
「知人程度の関係で、私の為にそこまで気を配る必要なんてないじゃない」
そして日向に再び視線を向けると
「最初に言ったように、私は私が一番後悔しない選択をしていくわ。でも、私が傷つくという前提は私の力量不足を意味し、私に対する信頼のなさを意味しているわ」
悲しげに尋ねた。
「だから、もう少し。私のやる事を信じて欲しいの」
「…………」
自らを落ち着けるように日向は静かに息を吐くと少しずつ言葉にしていった。
「…… 琳子が思っている答えとは違うかもしれないが、琳子のことは信じている。だからこそ、関係が終わっても構わないと言った。琳子は人との距離感を気にしているみたいだが、たとえ関係が変わっても根本的なものは変わらないと思った。信じていないなら、こんな馬鹿な話はいい出さない。関係が切れれば、それで終わりだからだ」
そこまで話して、日向は視線を琳子へと向けた。
「…心配性なのは信頼のなさから来ている訳じゃなく、単なる僕の個人的感情と性質だ。何かあれば頼って欲しいし、力になりたいのは信じてないから言っている訳じゃない。……琳子のことを好きだから、馬鹿みたいな発言を繰り返してる。…琳子は信じて見守る親のような存在を求めているのかもしれないが、僕は親じゃない。琳子と同じように悩んで自分のやり方を模索している最中のまだまだ未熟な存在だ。琳子のやり方は尊敬するし、尊重もするが、心配するのは琳子を信頼してないからでは断じてない」
「………」
長い沈黙の後に溜息を漏らすと何とも言えない表情を浮かべ苦笑した。
「私たちって、本当に不器用ね」
それから新しい花火を取ると蝋燭に近づけた。
「貴方の言いたい事はわかったわ。だから……私もこれ以上は否定しない」
「……………」
とうに火の消えてしまった花火へと日向は視線を落としていた。
「……最低だな、琳子の力になりたいと言いながら、琳子を傷つけているのは結局僕自身か…せっかく琳子は自分の意思を伝えてくれたのに」
ここ最近の自分の言動は矛盾している。琳子の事を思うなら、そのまま彼女の背を押して応援するのが効果的だ。頭では分かっているのに、話している内にどうしても譲れない気持ちを否定された気がして、我慢ならなかった。
それが何かと思った時、先程ぶちまけた自分の言葉がストンと腑に落ちた。
「……ああ、そうか。本当に……最低なのか…」
自分の中で答えが見えた時、日向は呆然と呟いていた。
「……貴方が最低な訳、ないじゃない」
しばらく日向の様子を眺め、溜息混じりにぼやいた。
「……何を言っている…? 最低なんだよ! 琳子は深く関わるような関係を望んでいないのに、それを何より知っているのに……僕は……琳子のことが…友人だとか、そんなのじゃなくて、女として…好きなんだぞ! どう考えたって問題しかないじゃないか…!」
冷え切った花火の残骸を取り落としたのにも気づかず、日向は頭を抱えた。
「…いい友人になれると思っていた。なりたかった! 女の友人なんて初めてで、慣れないこともあったが、少し離れた距離を保ちながら互いを尊重する関係は心地よかった。なのに、今は自分から台無しにしようとしてる。何より琳子の力になりたいのに、くだらない嫉妬で足を引っ張って台無しにするだろう自分が…分かるんだよ。最低…じゃないか。琳子には自分の望みを叶えてほしいのに」
ずっと胸の奥にしまっていた言葉を吐き出して、日向は視線を落とした。
「……!」
目を見開き日向を見詰めていたが、彼が視線を外すと同時に表情を歪め苦しげに俯いた。
「……ごめん、なさい…」
花火を離した指を握りしめて、蚊が鳴くような小さな声で呟いた。
「私、には……」
絞り出す言葉はどれも震えていて、今にも消え入りそうな儚ささえあった。
「貴方の気持ちを、受け止められない。今以上の関係を、望まない。…本当、に、ごめん、なさい…っ」
泣き出しそうな顔で日向を見た。
「………分かっている」
既に充分過ぎるほどに予想出来ていた言葉ながらも、日向はぐっと苦い苦い気持ちを飲みこんで、琳子に寄りそうと小さく笑みを浮かべてみせた。
「…きちんと返事をくれて、ありがとうな、琳子」
「貴方の所為じゃない。私が…私の、問題なのよ」
一点を見詰めたまま琳子は必死に涙を堪えた。それでも堪らず一筋の涙を流すと、浴衣の袖で目元を拭った。
「…ごめん、なさい…頭が…混乱して」
「………混乱して、当然だ。こんなかたちで伝えることになるとは思ってなかった。琳子の気持ちを追い込むだけだと分かっていたのに…な。何も言わずに済ませることが出来なかった…」
持っていたハンカチをそっと琳子に手渡すと、日向は視線を落とした。
「…今までずっとどこかで気づかないようにしていたんだと思う。関係が壊れるのは目に見えていたから、な。……結局、僕が自分の気持ちを優先しただけで、琳子が気に病む必要はない…」
「……」
ハンカチを握りしめたまま、琳子は黙り込んだ。その瞳の涙は既に乾き、虚げにどこかを眺めていた。
「……ごめんなさい。ハンカチは洗って返すわ。もう、帰らないと…」
「……ああ、そうだな。引き留めて悪かった。…今日は来てくれて嬉しかった…」
ぐっと言葉を飲み込むと、日向は表情を緩めた。
「…ありがとな、琳子」
何も考えられない状態になっても身体は帰り道を覚えているらしい。どこをどう通ってきたか記憶にはないが、気がつけば現在借りているディランの部屋にまでたどり着いていた。
こんな日に限ってディランは外出でもしているらしい。いや、幸いというべきか。真っ暗な室内に一つ明かりをつけただけで、日向はその場に座りこんだ。
「…………最悪だ」
小さな言葉は当人以外誰にも聞かれることなく、ただただ溢れ落ちた。今の今まで自分の気持ちに気づかなかったことが、今になって自分の気持ちに気づいたことが、気づいた気持ちをそのまま伝えたことが、何もかもが腹立たしかった。
黙っているということは出来なかった。
何も知らないまま、知らないフリを続けて、偽りの友人を演じるのは卑怯なことに思えた。気づいた気持ちを気づいたまま、伝えてしまった。
その結果が、これという訳か。
どうしようもなくなって涙を必死に堪えながら拒絶するしかなかった琳子の姿が今も目に焼き付いている。決して琳子を傷つけたい訳ではなかったというのに。結果を見れば、何より傷つけたのは自分自身だった。
誰かを好きになるのは初めてだった。きっと幸せな気持ちになるのかと楽観的に考えていたのだが、現実は想像とは遥かに違う感情をもたらした。琳子を傷つけたくないと思いながら、彼女の結論に酷く衝撃を受けて、十分に予想出来た答えだったはずなのに、想定以上に自分までもが自分の気持ちに打ちのめされているだなんて。
――――誰かを好きになることが、こんなに苦しいとは思わなかった。
琳子は最初から友人以上の関係を望んいなかったというのに。ずっとずっと目を塞いで、耳を塞いで、いつの間にか育ってしまった自分の気持ちに蓋をして、生温い、しかし変わらない関係を続けていければよかったのか―――。
砕かれた想いが何度も頭から離れなかった。きっとあの場にもう一度戻れたとしても、同じことを繰り返すだけだろう。
琳子を傷つけたくないと思いながら、結局、琳子を傷つける―――――
「…………何やっているんだ、僕は」
この気持ちに気づかなければ、きっと今まで通りの二人でいられたのだろう。そうは言っても、気づかないままだった自分など、今では想像もつかない。
この焼けつくようなありもしない痛みは自分でも気づかずにいた感情の大きさで、抑えつけることなど出来そうになかった。
あまりに自分勝手過ぎて辟易する。
―――せめて琳子の望みを叶えたい。琳子が望むなら、再び友人として接したいと思ったが、琳子がもし他の誰かと付き合う事になれば、穏かな関係を続けていけそうになかった。とても、こちらの心が保ちそうにない。
相手が琳子の探し人ならば、まだ諦めもつくのだが。
「まだいもしない相手に嫉妬とは馬鹿が過ぎる…」
どんな顔をして琳子に会えばいいと言うのか。そこでふと自分の失態に気づいて、日向は頭を抱えた。
「……ハンカチ、返す必要はないと言い忘れていた」
琳子だって当然傷ついているのだから、日向に会いづらいに違いないというのに。
駅に着くまでの記憶がなかった。気がつけば私は家まであと数メートルという所でようやく我に返り、慌ててケータイを取りだした。黒い液晶画面に映った自分の顔を見て、ここまで我慢していた涙が一気に溢れ出た。
「……っう」
泣きながらまだ混乱する頭で色々な事を考えた。翠がきっと心配しているから連絡しなきゃ、とか。傷つけてしまった彼に今後どう接したらいいのだろ、とか。こんな顔のまま帰る訳にはいかない…泣きじゃくりながら暗い夜道を一人でいる事に不安を覚え、とにかく家に近づこうと歩いた。
「……」
玄関の扉が開く音と同時に誰かの話し声が聞こえた。目を凝らしてみるとそれは私たちの家から何故かショウゲが出てきたところだった。玄関先で翠と会話を交わしている。そして楽しげに笑いながら彼は敷地から出て、ゆっくりと歩いてきた。
どうして彼が私たちの家にきたのだろう。そして何を呑気に歩いているのだと、完全な八つ当たりとわかっていながら苛立ちを覚えた。
「…り、琳子ちゃんっ?!」
もしかしたら街路樹の下に佇む浴衣姿の私を見て一瞬幽霊とでも勘違いしたのかもしれない。驚いた素直なリアクションに些か気持ちがすっきりしたのを感じたが、それでも普段の落ち着きは取り戻せなかった。
「私たちの家に、一体何の用?」
「何のって…いやぁ…琳子ちゃんが誘ってくれたんでしょ?」
きょとんとした表情をし、困ったように顔を掻きながら答えた。
「翠くんが会いたがっているから時間を作ってって」
「………」
そうだった。と気づくも、もう取り繕うのさえ面倒になってしまい私は黙り込んだ。
「ん~…で? やけに突っかかってきてくれるけど、泣いている理由に関係するのかな」
「……だとしたら、何? 貴方に話せば何か解決でもしてくれるの?」
「いや、それは聞かなきゃわかんないでしょ。まぁ、それに…泣いている女の子を放っておくなんて騎士道に反しているしねぇ」
騎士道が聞いて呆れると呟いたけれど、でも、確かに今の私は混乱している。こんな顔をしたまま家に帰れば翠を心配させてしまう。
涙を浴衣の裾で拭うと私は翠にメッセージを送り、少し友だちと話してから帰るから心配しないでとだけ伝えた。そして私たちは近くの公園へ場所を移した。
「あ、待って」
ベンチに座ろうとする私を止めるとショウゲは慣れた手つきでハンカチを敷いた。
「せっかく綺麗な恰好…キモノ? 汚れたらもったいないしね。何なら涙も裾じゃなくてそのハンカチで拭いたらいいのに」
彼に指摘されてようやく私は、それまでずっと握り締めていたハンカチの存在を思い出した。
「大切なものなのかな、それも」
独り言のような質問に答える訳にもいかず、私は首を振ってベンチに腰をかけた。
「でさ、翠くんからは琳子ちゃんは友だちと出かけてるって聞いてたんだけど? 仲良しな友だちから虐められちゃったのかなぁ」
私を気遣うような優しい口調だけど、その目は楽しげに細められていた。一体彼は何を考えて私に関わろうとしているのか考えるうちに、自然と言葉が零れた。
「……貴方からは、一切関心を感じないわ」
「そんな事ないよ。興味津々だって♪」
ふざけた口調だけど、それは逆に余計な憶測を排除した気楽ささえ感じさせた。
「……誰かに好かれるって事が、私には…ひどく、恐ろしいものだった、から」
口にしてしまえば案外何て事もないように聞こえた。ショウゲの表情にも特別変化はない。だから私は、大丈夫。きっと大した話ではないと自分を励まし続けた。
「母親の代から続けられていたストーカーの所為で私たちの人生は滅茶苦茶になったわ。ただ偶然通っていた図書館で知り合っただけで、私は、一度だって彼を好きにならなかった。でも…意図して行動していた事もある。翠が私と距離を置きたがっていると知って、あの男を使って。翠の関心を買おうとした」
徐々によそよそしい態度をとるようになった翠にもう一度遊んで欲しくて、愚かな私はのちに自分の家族を殺した佐久田賢治と親しくなり、家に招いたり母に紹介したりした。幼い私はとにかく兄の。翠の関心を買いたかった。以前のように仲良く遊んで欲しかった。
そしてあの男は、若い頃から目をつけていた母の、その娘との運命的な出会いを果たしたと倒錯して―――お互いが、お互いに事実を都合よく誤解して関係を構築していった。
学園で記憶を取り戻した後も、私はセトに対する自分の気持ちがわからなかった。誰かを愛した事もなければ誰かに愛されるのを恐れていた私。だけど周囲は私とセトはきっと両想いだと囁き、その噂は私から余計な異性を遠ざけるだけの効果が確かにあった。
セトは私に対して特別優しかった訳でもない。もしかしたら気まぐれに親しくしてくれた時もあったかもしれない。だけど私にとってその無関心さが気楽だった。もしかしたら彼を好きなのかもと思った時も、代償を求めずに済む。彼は私をきっと好きにはならないという前提のような確信があったから。だから他人に恋い焦がれるなんて恐ろしい気持ちに、再び人生を振り回されずに済むと思えた。
「―――壊れ、ちゃった…」
友人として、いつまでも対等に関わり大切にしていきたいと思っていた関係が、壊れてしまった。元には絶対に戻れない。彼が自分の気持ちに気づいてしまった以上、私はもう傍にいられない。握り締めていたハンカチが涙で濡れていく様をぼんやり眺め呟いた。
「…何ていうか、きみは本当に。あの頃と変わらないんだね」
冷たささえ感じるその言葉に、私は顔を上げた。
「それでも、まだ学園にいた頃の方がうまくやっていたように見えたけど…ぼくの買い被りだったのかな」
笑っているけど瞳には感情がない。けなしているようだが、口調はとてもぞんざいでその癖口元には絶えない笑顔が浮かんでいる。
「ゲンジローにモリア…えーとレオ…あぁ、名前も忘れるぐらい大勢の男子生徒に想いを寄せられていたけどうまくあしらって楽しく愉快な生活を送っていたように見えたんだけどな。今更ボーイフレンドとうまくいかなくなったからって傷つくって…どうしたの?」
「………」
そう、だった。あの頃の私は他人から寄せられる好意をすべて、利用していた。それが一番円滑に物事を進められて、その癖互いの要求を最大限に満たせていると思っていたから。親しくしていた友だちでさえそうだった。彼女は自分の孤独を埋める為に私を利用し、私もまた、彼女を踏み台にして学園での立場を固めていった。
「…変わりたくないと思っていても、私たちは、変わっていく生き物でしょう」
どんなに否定してみても、止められない。変わるしかない。変わっていく。良くも悪くも私たちは―――成長していく。
「そうだよねぇ。だからかな。ぼくらみたいな厄介な思春期捻くれ野郎たちが、きっと永遠に変わらないような気さえしてしまうセトくんに…惹かれてしまうのかもしれないね」
彼を知る人からその名前を聞いた途端、それまで流れていたものとは違う感情を宿した涙が溢れて止まらなくなった。
「…セト…は、今…も…生きている、の?」
緊張のあまり声が掠れる。最後に会ったのは炎上する学園の中だった。やる事があると言って私たちを置いて行ってしまった彼は、その後も生きているのか。その一言が誰にも聞けなくて。苦しくて、名前を聞いただけでも涙が溢れる。
「残念だけど、ぼくも学園を出てからは全然彼の事を知らないね。ツテだけは多いから例の炎上事件後に気になって探したけど…事件のショックからかな。みんな知らないの一点張りで」
何て事もない世間話の一つとでも言いたげにそこまで語ると、ショウゲは小馬鹿にした様子で私を見た。
「でもさぁ、そんなに生きているかどうか気になるならジャックに聞けばいいんじゃないの?」
そんな事、わかっている。わかっているから聞けない。今でも学園長の秘書を務めるジャックに彼の安否を尋ねて、その答えが―――否だった場合。想像しただけで指先が震えてくる。
「……もったいないね、確かに」
まるで独り言のように呟くとショウゲは私の手からハンカチを奪った。
「あ…っ」
突然の行動に驚き呆然とする私を置いて、公園の闇夜に消えるとしばらくして戻ってきた。
「まったく…きみはさぁ」
溜息交じりの口調には先程までの冷ややかさは消え、まるで子ども相手に手を焼いている年上の風格さえ漂わせていた。
「泣き顔まで綺麗なんだから。いい加減、持てるモノは何でも利用してやるだけの覚悟を決めたらどうだい?」
水で冷やしてきたハンカチで私の目元を拭う手つきは、不自然な程親切だった。そしてベンチに座る私と同じ目の高さまで腰を下ろすと、まっすぐと見詰めてきた。
「琳子ちゃんにだけ、教えてあげるよ。これって結構ぼくの弱点なんだけどさ。ぼくはとっても残念な事にとっくのむかしにある女性に心を奪われちゃったんだ」
「……その人は、今は…?」
だからか、と妙に納得してしまった。女好きと噂されていた学園時代の印象とはだいぶ違う彼の態度。優しく親切だけど、それは飽く迄上辺だけのように感じられていた。私が周囲の人間関係を円滑にするべくしていたように、同じ類のものだ。
「成績が悪くて学園を追放されちゃってね。きみと同じだよ…と言いたいけど、実際のところ琳子ちゃんほど一途でもないながら…ぼくも時々よそ見をしながら彼女の行方を捜している」
「………」
私と同じ立場にあると言いたいのだろうけど、何故今頃になってそんな話をしてきたのだろう。そう言えば彼が日本へくるきっかけを作ったのはジャックだった。学園長秘書として今も世界中にある学園の情報を一挙に引き受ける彼からの個人的な依頼を受ける代償として、その恋人の行方の手掛かりを得たとしたら。こうして自らの弱点と称して弱みを晒した事実を、実際に距離が縮まったと解釈していいのかもしれない。
「何だか色々と計算していそうな顔だね」
何とも言えない複雑そうな表情で笑うショウゲ。
「でも知っての通り、あの学園に集う子どもたちは本当に面倒な環境にいた連中ばかりだからね。個人情報の保護については過剰な程厳しいんだよ。いっその事諦めようかなと何度も思う程度に、ね」
「……それでも…諦められなかったんでしょう?」
「まぁ…しばらく暇潰しにはなるかなと思ってね」
素直じゃない態度に私も思わず吹き出した。
「ふふ…ぷっふふ…」
「そんなに笑わないでよね。正直、自分でもこんな気持ち初めてで戸惑っているんだからさ」
私の横に改めて腰を下ろすと脚を組みリラックスした様子でぼやくその姿は、普段の飾ったショウゲとは違いひどく親近感が湧いた。不思議な気分だ。先程までは何て表現すればいいのかわからないくらい辛い日になってしまったと、激しい自己嫌悪に苛まれていたというのに。
「……恋って、そう言う…ものなのかしら…」
「さぁねぇ…」
熱を帯びた目元を彼のハンカチで冷やしながら呟く。ショウゲは適当な返事をして、小さく溜息を漏らした。
そうして私たちはしばらく茂みから聞こえてくる鈴虫の音色に耳を傾けた。澄んだ夜空を照らす月が、もうすぐやってくる物悲しい季節を予感させた。
「…さっきの男子見た?」
廊下で擦れ違う他クラスの女子の声につられ、不意に脚を止めた。
「メチャクチャかっこよくない? 背も高くて…」
「厘くんでしょ? 最近人気あるよね」
顔を寄せ合い互いに頬を赤らめる姿はこれから花開こうとする蕾のようで、居心地の悪さから慌ててその場を去った。
いつからかこんな風に彼の評価を聴く機会が多くなった。そのどれもが彼の人格や外見を褒めるもので、今更ながら周囲が彼の価値に気づきただしたのだと思った。
あの日彼は信じて見守る存在を求めていた私に、それは親ようなものだと言った。だけど私は、それが親の役目だと知らなかった。母の死後いくらか彼女について理解を深めてきたとは言っても、生前の彼女の自由奔放すぎる人生のすべてを受け入れられた訳でもない。夜毎相手を替え、時に家に連れ込んでは遊んでいた母。放任主義とも言えば聞こえのいい育児。父親不在の環境。でももしも私が、信じて見守る両親の下で育ったなら。家庭での孤独感に苦しみ、図書館通いもせずあの男に出会いもしなかったなら。きっと自分に向けられる特別な感情に恐れを抱き、誰かを愛する恐怖に苦しまなかっただろう。そして友だちと一緒にあぁして気になる異性の噂話をして頬を染め、彼を傷つける事もなかった。
だけどそれは―――私ではない。
すべての経験が今の私を作りだしている。だから、生まれ育った環境が違い誰かを愛していたかもしれない私がいない以上。私が彼の想いを受け入れるという選択も、存在しない。
「……っ」
不意に向けた校庭に彼を見つけ、一瞬息を止めてしまった。
彼にはああ言っていたけれど、それでもどんな選択をしたって、いつだってそれで本当によかったのかと自問自答して後悔してしまう。だけど何度も悩んで、その選択が間違っていなかったと思えるように。私は努力をしていかなければいけない。
この選択が、最も後悔のないものだったと確信できるように。
琳子に呼び出されてサトルが向かった先は体育館の裏という普段から人気のない場所だった。よっぽど他人の目につかない場所がよかったのだろうと思いつつも、そんなにも彼と顔を合わせたくないのかといくらか切なさを感じた。
「サトル」
石段に腰をかけていた琳子がサトルに気づき手を振った。穏やかな表情で彼女を手招く姿に一番危惧していた問題が、ただの杞憂に終わった事を悟った。
「呼び出してごめんなさい」
「いや、いいんだ。それよりどうしたの?」
最近課題やテストが重なってなかなか顔を合わせる機会がなかった親友の顔を眺め尋ねた。
「大した用事じゃないの。申し訳ないんだけど、これを、日向に返してくれるかしら…?」
と言って、琳子は綺麗にアイロンがけされたハンカチを差し出した。
「……」
二人の間に起きた事は既に聞いているし、その結果距離が生まれているのも知っている。だがさすがに人から借りたものをあまり関係のない自分が間に入って渡すのに抵抗を感じてしまい、サトルは黙り込んだ。
「…そんなに、日向に会いたくはない?」
琳子の親友だと自負はしていても、日向とも親しくしている。二人の想いが実らなかった事は非常に残念だが最初からある程度見えていた結果でもあった。だからせめて、時間がかかってもいいから元の関係に戻れたらいいのにと友人の立場から願っていただけにこの提案はどうしても受け入れがたいものもあった。
「……色々と、サトルからしても思うところはあるでしょうね。けれど今の私たちにはまだ時間が必要なの」
確かにそうなのだろう。色恋沙汰に関しては疎い自分でも互いの心境は想像できる。けれどそのハンカチを自分から日向に返してしまえば、まるで二人の仲は完全に切れてしまうような気がして。どうしても素直に頷けられなかった。
「私は…誰かに愛されるのが怖いって、気づいたの」
「え?」
差し出したままだったハンカチを持つ手を下すと、琳子は穏やかな笑みを絶やさないまま続けた。
「セトに対する気持ちにも自信が持てないって言っていたじゃない? それも多分…自分が誰かを好きになるって事が受け入れられないんだと思うわ」
「そんな…っ」
そんな筈はないと言って躊躇った。中等部から見てきた琳子は、非常に多くの異性に好かれていた。だが誰からの告白も受け入れた事もなく、同性の友人に関してもサトル以上に親しくしていた人物は見当たらなかった。
「―――だって、みんな。私を好きだって言いながら私を傷つけていくじゃない」
笑ったまま。目元には涙なんて一切ないのに、サトルの目には琳子が大粒の涙を流しているように見えた。
「翠は私に対する気持ちを自覚した途端、距離を置いて私を遠ざけた。あの男は私を独占したいからという理由で、私の家族を殺した。想いを告げられ丁重にお断りした翌日には、教室内で私を男好きの悪女と言いふらし加害者のように扱われる。……私は、必ず誰かを好きにならないといけないのかしらね?」
琳子の笑顔が能面のように剥がれ、その下から空虚な眼差しが覗いていた。その途端サトルは気づいた。
いくら二人の問題だからと割り切って納得していたつもりでも、やはり心のどこかで親しい二人がうまくいく事を願っていた。そしてできたらうまくいかなくても、すぐに元の関係に戻れると勝手に期待していた。それをハンカチを代わりに返すという提案を受けて、決して叶わない結果になったのだと思い知らされ。やり場のない感情を無意識に琳子に向けていた。
「……ごめん、琳子」
こんな謝罪で彼女の心が晴れる事はないだろう。けれどサトルは俯いたままそう呟くのが精いっぱいだった。
「珍しいね?」
二学年上の教室に向かうとショウゲの姿はすぐに見つかった。向こうも私に気づくとそれまで彼を囲っていた輪から抜け出し、廊下まで出てきてくれた。そして開口一番に楽しげに嫌味を言われてしまった。
「借りた物があったからよ」
先日ベンチに敷く為に貸してくれたハンカチを渡すと、私は愛想もなく答えた。
「あぁ、もう返しちゃうんだね。まだ持ってくれていてよかったのに」
「私が貴方のハンカチを持ち続けなくちゃいけない理由なんて、一切ないでしょう」
「返して貰う為に会いに行く口実になるでしょ」
相変わらずの軽口にただ溜息しか出てこない。本当は一方的に迷惑をかけてしまった謝罪の意も込めてちょっとした焼き菓子も用意したのだけど。実際に目の当たりにしてより実感してしまったが、彼はとても周囲の人間の関心を惹きつけるタイプの人だった。今も私たちの周りに何気なくいる上級生たちが、この会話に聞き耳を立てて好奇心を隠す事なく晒しているのがわかった。
「そうだ、せっかくだからちょっと付き合ってよ。もう帰るだけでしょ?」
「でもLHRがあるわ…っ」
拒もうとしたが珍しく強引に腕を掴むとショウゲは私を連れてその場から移動した。そうして連れてこられたのは美術室だった。
「この時間はほとんど生徒がいないからさ。放課後は部活の為に教室が開いてるんだよ」
石膏像が並ぶ棚に油彩絵具の独特な匂い。少し黴臭ささえ感じるそこは、何だか心が落ち着くだけの静かさがあった。
「…女性を連れ込む常習犯なのかしらね。こんな風に振り回されるのは不愉快だわ」
「まぁまぁ、この前かけられた迷惑料もこれでチャラにしてよ」
アハハと笑いながらショウゲは窓を開けた。カーテンが風を受けて膨らみ、爽やかな秋の空が覗いた。
「で、その後はどうなったの? 関わった以上気になってしまってさ」
「…その件についてはチャラになったんじゃないのかしら?」
「純粋にこれは、琳子ちゃんを気遣っての質問だよ」
わざとらしく胸に手を当てて慈愛深い笑顔を見せるも胡散臭い。とは言え、どういう流れであっても私自身がどこかで吐き出したいと思っていたのかもしれない。
「……ただひたすら…気まずいだけよ。できるだけ顔を合わせないようにしているわ」
「振った方がそうなんだから、振られた方はもっと気まずいだろうね」
当たり前の事だけどそう言われてしまえば反論もできない。サトルに対しても思ったけれど、何故私がこんな風に責められて気まずい想いばかりしなければいけないのだろう。
「…だから…何?」
いい加減に、疲れてしまった。私は自分の気持ちを正確に伝えただけなのに、振った方は加害者にでもならなければいけないのだろうか。一方的に想いを寄せられても、それを必ず受け入れなければいけないだなんて誰が決めたのか。
「むかしセトくんがさ」
舌先まで出かけていた憤りが、彼の名前を聞いた途端にお腹の奥まで戻ってしまった。そんな私の反応を観察するように見詰めると、ショウゲは再び壁にかけられた絵画作品たちに目を向けて続けた。
「ぼくに嫌いな童話はあるか、って聞いてきたんだよね。この年になって童話の話題? とも思ったけど…まぁ、大して興味もなかったから取り敢えず思いついたタイトルを言ってみたんだよね」
セトは人知れず、ずっと学園で物語を書いていた。それは幼少時より続けてきた習慣のようなもので、彼の隠し扉の部屋には山のように創作童話や絵本が積まれて埃を被っていた。だからその質問も、実にセトらしいなと不意に口元が緩んでしまった。
「親指姫が…嫌いだって言ったんだ。ヒキガエルやらコガネムシやら…あとはネズミだっけ? 誘拐されたり居候になってモグラと結婚させられそうになったりした癖に、最後は燕に乗って花の国の王子様と結婚してめでたしって言う話が、どうも主人公が受け身過ぎてむかしから苦手だったって話したら…彼は何て言ったと思う?」
「……セトなら…」
今こうして、学園の事を思い出し彼の名前を出して誰かと話し合える喜びを密かに感じながら私は。彼ならばなんて答えただろうかと考えた。
「―――親指姫が後に訪れる物語の展開を予想し、自らの美貌を駆使しチャンスを見逃さず燕を利用し、権力を手に入れたと考えたら…そのしたたかさは称賛に値する…」
ショウゲは一瞬虚を突かれたような、そんな表情を見せてから小さく微笑んだ。
「そうだよ。彼は親指姫はとてもやり手なのかもしれないね、って言っていた」
「………っ」
何故かわからないけれど、急に胸が熱くなり目の奥から何かが込み上げそうになった。今は生きているのかわからない遠い存在になってしまったけれど、この瞬間。私とショウゲの間では、セトは確かに存在している。そんな確認に似た何かを感じ取ったからだろう。
「ねぇ、琳子ちゃん。きみがいくら拒もうと、きみに惹かれて寄せられるカエルやコガネムシ、モグラみたいな連中が寄ってくる。しかも現実には王子様の元に連れて行ってくれる便利な燕はいないかもしれない」
ショウゲはその青みがかった不思議な色をする瞳に私を映すと、一人観客を決め込んだ傍観者の眼差しを向けた。
「けれどその美貌は、武器になる」
石膏像たちが複雑な表情を浮かべるその中で、ショウゲだけは。これから始まる観劇に、期待と好奇心を抱いているようにも見えた。
とある裕福な王国に暮す王子の元に、戦いに敗れ片足を失くして帰ってきた兵士が訪れこう言いました。貴方はすべてを持つが故に満ち足りるという幸せを知らない。その言葉の真実を知る為に、王子は自らの脚を切断しそれを与えました。
それからと言うものの王子の元に、この国が引き起こした幾つもの戦争で身体の一部を失くした多くの国民たちが集いました。王子は彼らに足りないもの与えることで、己がいかに満ち足りていたかを思い知らされたのでした。
やがて完成した義足が届けられた時、王子に残っていたものは何一つありませんでした。
幸せに歪んだ王子の寝顔さえそこには残っていなかったのです。
(『義足を待つ幸福の王子』より)
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