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第九話 忘れ去られた眠れる森
しおりを挟む誰もいない屋上には秋の花々たちが咲き乱れ、心地の良い風に吹かれてその可憐な花弁を揺らしている。その花たちに隠れるようにして私は一人昼食をとっていた。
本来はサトルたちのように園芸部の部員が花のお世話の為に屋上の鍵を輪番で預かっているけれど、私は少し無理を言って鍵を借りてきた。サトルもこの前の事に後ろめたさを感じているらしく渋々ながらも貸してくれた。そして私が勝手にスペアキーを作る事も予測していただろうけど何も干渉してこなかった。多分それが彼女なりの気遣いと思い甘えた。以来、教室で食べる気になれない時などはこうしてこっそり屋上に上がっていた。
「………」
最近の私は少し怠けている。色々な事情が面倒に感じてしまい、今朝はいつもきちんと結んでいた髪さえ櫛を通しただけのまま登校した。
たかだか珍しく髪を下していただけの癖に、周りの反応が煩わしくてこうして屋上に逃げたのだ。長い毛先を摘まんでぼんやりと考えてしまった。一方的な批判や先入観が恐ろしくなり、真面目に見えるようにと始めた三つ編みだった。嫌われてしまわないようにと恐れていた癖に、実際に誰かに好意を寄せられのを嫌がるという矛盾。ショウゲに指摘されるまでもなく私は。これまでの短い人生の経験を通して自分の容姿が優れているという自覚があった。けれどそれはいつだって私を幸せにはしてくれなかった。
だけど少し前までの私だったなら。硬く結んだ三つ編みをお守りのように大切にしていた頃だったなら、気が乗らないからと言ってクラスメイトの誘いを断り屋上に逃げ込むなんてしなかっただろう。
いつも、多分、それは過剰に。私は周囲の眼を意識し過ぎていた。
だからこうして誰かに干渉されずに唯一人で息を吸うのが、ひどく新鮮で。同時に自由奔放に振る舞っていたセトに自分を重ねてしまい―――気分がよかった。
とは言え長い髪は風に吹かれて毛先が絡まりやすい。ポケットに入れていた予備のゴムで簡単にまとめると、手摺りに近寄り校庭を覗き込んだ。
休み時間を利用して遊ぶ学生たちの中に混じる彼の姿はすぐに確認できた。男女数人と談笑をしながら歩いている姿は、やはり遠くからでも目立つ。端正な容姿に気さくな性格のショウゲは、学園でもいつもあぁして数人の気の知れた風に見える友人たちに囲まれていた。余程の事がない限り、彼を嫌う人はいないのではないかと思えるぐらい。年齢や人種とかいった壁を簡単に越えて距離を縮める才能があった。だから私は彼から忘れられない人がいると聞いても、真偽の程が見極めきれず疑っていた。似ているからと言って、況してや同じ学園を出ているからと言ってすべて鵜呑みにして信じられる訳がない。
ショウゲは何か私に期待しているようだけど、私は、他人に何かを施せる程余裕がない。
「おい、ショウゲ?」
不意にその場で固まった彼に声をかける友人たちの声が私の耳まで届いた。呼びかけられてすぐにショウゲは我に返り、何でもないとばかりに笑いかける。そして何事もなかったかのように去っていく。
そうやって時折彼が向ける、誰かに似ている女性を見詰めるその切なげな眼差しだけは。どうしても他人事だと言って片づけられなかった。彼と私は似ているのだと思う。
ふわりと吹いてきた少し冷たさを感じる秋風が、私の毛先を弄んだ。風が行くその先に懐かしい彼の面影を描いてみた。私の身長が少し伸びたように、彼も背が伸びているのだろうか。あの火事で燃えた毛がいつの間にか長くなってきた。以前よりも女性らしいふくらみが生まれてきたけれど、セトは……
今も、生きているのだろうか。
何度思い出しても出会った当時の彼しか思い描けない。それが私を苦しめる。会いたいと強く願っても、真実を確かめるのが怖くて前に進めない。
「戻ってくるって…言ったじゃない…」
伸ばした指先に触れた、彼の最後の感覚。その約束だけが虚しく胸を締め付けた。
涙ぐみそうになるのを堪えて空を見上げる。この季節はいつも私を感傷的にさせてしまう。数日後に迫る母の一周忌と、その後の忙しさで去年はすっかり忘れられてしまった私の誕生日。また一つ、歳をとる。そうして年月を重ねていき、いつかすべてが楽しい思い出になるまで。私はあとどれだけの涙を堪えたらいいのだろう。
いつの間にか頬に流れていた涙を、乾いた風がそっと拭っていった。
教室で帰りの準備をしていると廊下の方から私を呼ぶ声が聞こえた。
「琳子ちゃん」
よく通る低音は一瞬にして周囲の視線を集めた。が、当の本人はそんなもの歯牙にもかけずヒラヒラと手を振って私を呼んでいる。
「ちょっ…! あの人ショウゲ先輩じゃない?」
「わ、マジでかっこいい…っ」
と囁き、様々な憶測を広げ私を見やるクラスメイトたち。
「………」
自分の魅力を正しく理解していながら、どうしてこんな面倒事を起こすのだろう。それも確信犯故に余計に憎たらしい。ひそひそ話が次第に遠慮ない噂話になり、それが更に鬱陶しくなりぞんざいな所作で教科書を鞄に詰め込むと、私は何か聞きたげな周囲の態度を完全に無視して立ち上がると廊下へ出た。
「ちょっと、待ってよ~」
苦笑いしながら慌てて私の後を追うショウゲ。これでしばらくはまた、新しい噂の標的になってしまうだろう。
「ごめんってば~。そろそろ機嫌直してよね♪」
学校の敷地を出た後もしばらく無視を続けていたが、このままでは埒が明かないと察し脚を止めた。
「わざわざ女子生徒の憧れの的と名高い貴方が、わざわざ私の教室まできて、わざわざ私を名指しで親しげに呼ぶ理由は一体何かしら」
「『わざわざ』って三回言ったね。確か日本語では強調したい言葉を繰り返すんだよね♪」
嫌味も通じているのかよくわからないこの態度。都合のいい時だけ留学生を気取るその狡猾さは本当に時々、心底うんざりしてしまう。
「まぁまぁ、そんなに怒らないでよ♪ ちょっと考えてみてよ? ぼくと琳子ちゃんが付き合っているかもって周りが勝手に勘違いしてくれたらさ。超ハイスペックな彼氏から琳子ちゃんを奪おうとする身の程知らずは自然と淘汰されていくでしょ? だからあの二人ってもしかして…って程度に匂わせておいてもいいかなと思っただけだよ」
「自意識過剰が皮を被って動いているみたいな人ね」
「正しく自己分析したまでだよ」
ニコリと笑うその顔は。ディランの笑顔をよく人は天使のようだと称えるけれど、ショウゲの場合は犬のようだ。但し、無邪気で従順そう―――という仮面をつけたただの性悪だけど。
「それで、用事って程の用事じゃないんだけど…せっかくだからぼくと翠くんと三人でご飯でも食べに行かない?」
「え?」
予想を遥かに超えた提案に私は思わず彼を凝視してしまった。
「いや、だからさぁ、本当は琳子ちゃん一人を誘ったら絶対に警戒して一人じゃこないでしょ? それなら学園時代からある程度交流のある翠くんも交えて久しぶりに旧友との絆でも確かめてみようかなってね♪」
「確かめるような絆なんて一切ないでしょう」
「それは三人でお話ししてみて見つけてもいいじゃない」
「……っ」
反論しようとする私に被せるようにしてショウゲは続けた。
「ちなみに翠くんからは許可もらってるからねぇ」
意味深に片目を瞑って見せる彼を見て、ふと疑問が湧いた。そう言えば翠はショウゲとどんな態度で話をするのだろう。彼には決して外さない仮面を外した素の自分を見せているのだろうか。
飾らない翠を知るのは私と母と時任氏。亡くなった元ルームメイトの彼。そしてある程度知っていると思うのが、恋人(?)くらいだ。こうして数えたら存命している人だけに絞ると本当に数少ない。前の花火の日も、私が帰るまで二人で会っていたようだから思っているよりも翠とは深い繋がりを作っているのかもしれない。二人の関係を見極めるいい機会かもしれない。それによってショウゲが実際に私にとっても有益な存在となり得るか判断材料くらいにはなるだろう。
「いいわ。その代り…退屈させたら、許さないから」
「……。もちろん、琳子ちゃんを満足させられるよう精一杯努力するよ」
恭しくもどこか芝居がかった態度で頭を下げるショウゲ。その姿を見下す私は、何と悪女っぽく見えた事だろう。
後日私と翠はショウゲとの待ち合わせ場所に向かって歩いていた。本当は彼より迎えの車を寄越すと連絡があったのだけど、丁重にお断りをして現地集合へ変えてもらった。
「彼の養父母について知っているか?」
「いいえ…。というよりも、調べたけれどどれも信憑性に欠けると思って」
かつての学園での友人ルートを使ってみたが、ショウゲの正確な情報はなかなか得られなかった。大富豪の隠し子や愛人だとか割とよく聞く内容から、実は孤児で大企業を立ち上げただとか…誰も彼もが後ろ暗い過去を持つ学園の子どもたちなら、多少現実離れした話でも否定しきれない。
「そうか。非常に…影響力を持つ人物だという事は確かなようだ」
翠はそう呟き明言を避けた。
「養父母と言うと、実の両親は既に他界しているの?」
「それも詳細不明だ」
今の短い会話から察するに、ショウゲはデザインベビーの可能性があるようだ。社会的地位のある養父母が優秀なDNAを持つ男女の受精卵を購入し育てたのだろうか。
「どこにいても目立つタイプだ。……疲れないよう、適度な距離を心掛けた方がいい」
「……そう、ね」
気遣う言葉に私は静かに頷いた。不思議なもので、いつの間にかそれを自然な口調で口にするようになった翠と同様。私もいつの間にかそういった優しさを受け取る事に、少しずつ。慣れてきたような気がした。
「……本当に、どうやっても目立ってしまう人なのね」
「そのようだ」
私たちが呆れた口調で呟くその視線の先には、ローズガーデンの入口に佇む周囲の注目を一身に受けるショウゲの姿があった。
「やぁ、二人ともこっちだよ」
眩いばかりの笑顔を向けられて、私たちは笑顔で手を振り返す前にこっそりと。二人で同時に溜息を漏らした。
都心から少し離れたここは最近オープンした世界各種の薔薇を楽しむローズガーデンだった。広い庭園には色別、種類別と様々な分類で美しく育てられた薔薇たちが彩り芳しい香りを漂わせていた。
まるでクィーン・メアリー・ガーデンズのようでイギリス留学時代を思い出させた。そうした記憶も後押し、以前から気になっていた場所だけに、ワクワクしてしまう気持ちは抑えがたかった。
「一万株の薔薇が植えられているんだってさ」
ショウゲが入口で貰ってきたパンフレットに目を通しながら教えてくれた。
「きみにこんな崇高な趣味があるとは思わなかったよ」
「まぁね、花を嫌う女の子がいないからってだけだけど」
「尤もな理由だ」
傍らで軽口を叩きあう二人から離れ、私は気になった花壇を回って歩いた。花を愛でるのはむかしから好きだった。けれど実際にそれを自分の手で育てようとなると、手間を惜しまず愛情をかけなければいけない作業が性に合わないと感じ、すぐに辞退してしまった。私には緑の指はないのだと早々に諦めてしまったけど、やはり誰かが美しく咲かせてくれた花々はその努力の成果もありひどく美しい。
サトルのように植物を育てられるような人が我が家にきてくれたら、きっとあの荒れた庭ももう少し綺麗になるのではないだろうか。そう言えば翠が留学した後に、サトルに家を貸す話をしようと思ってすっかり忘れてしまっていた。
振り向くとまだ二人で何か楽しげに話していたので私は湖水に沿って歩き出した。
九月の、まだ夏の暑さが残る日々が続いていたけれど。やはり所々に猛暑も翳りを見せ始めている。水辺だからか涼しくて、穏やかな風が運ぶ薔薇の澄んだ香りに心から癒される。
先日身内だけで済ませる予定だった母の一周忌には、どうしても参加したいと言う部下たちを引き連れた芹沢さんがやってきた。去年も葬儀の後すぐに日本を立ったのでスタッフの方々にもきちんと挨拶もできずにいたのでちょうどいい機会だった。
仕事をしていた時の母の話を聞くのは新鮮だった。女性社員には嫌われていると思っていたけれど、嫌いでも認めざるを得ない才能があると言われ、母の死を惜しむ口調からも察するものがあった。
母の死からようやく一年が経った。環境の変化についていくのがやっとだった。一年前の私は、翠との間に阻む見えない壁に悩みながらあの学園で生涯忘れられない出会いを経験した。たった数か月の夢のような悪夢のようでもあったそこでの生活は終わってしまったけれど、それでもまだ、懐かしさよりも寂しさの方が勝ってしまう。
「琳子ちゃん?」
後ろから呼び止められて私は振り返った。最初の場所から然程移動した訳でもなかったけれど、何故か翠の姿が見えずショウゲが立っていた。
「…話は終わったの?」
「話って言うほどのものじゃないよ~。翠くんには向こうで飲み物買いに行ってもらってるから、よかったら一緒に行かない?」
入口付近にカフェがあったのを思い出し私は頷いた。
「気持ちがいい天気でよかったねぇ。ここなら薔薇も見頃だし、あまり人もいないからちょうどいいかなぁって思ったんだ」
「そうね」
確かにオープンしたてで見物客が少ない訳ではないけれど、敷地が広く花壇で間合いがとられているのでお互いの肩がぶつかるような事もなかったし、誰もが花に夢中だった。
「ねぇ、翠くんっていいお兄ちゃんだと思わない?」
唐突な話題に何て答えていいかわからず、私はショウゲを見詰めた。
「言葉の端々から色々な感情を感じるんだよね。でも一番強く感じられたのは琳子ちゃんに対する強い責任感かなぁ」
「……」
これは私の出方を伺っているのだろう。ショウゲは何かにつけ私の反応を確かめるような言動を見せてくる。日本に帰って平和慣れてしていた私には久しぶりのやりとりだ。いつも本音を隠してお互いの利益を探り合うやり方。あの学園で生徒たちはそうやって敵味方の区別をつけてきた。
「彼が私に対して何の責任を持つと言うのかしらね」
冷めた表情で薔薇を眺め呟いた。
「お互いに自律した関係を求めてきたわ。今更私が異父兄妹の彼に求める事は何もない。そして翠もそれをよく理解しているわ。だから…余計な詮索は、不要よ」
最後は警告のつもりだった。歩み寄り爪先をヒールで踏みつけ、耳元で囁くとショウゲからそっと離れた。
「…フフ」
「何がおかしいの?」
表情一つ変えないどころか、楽しげに吹き出され私は思わず眉間に皺を寄せた。
「翠くんも同じような事言っていたよ。本当にきみたちって、よく似ているよ。まぁその自覚はないんだろうけど」
「…私たちを試したのね」
「試したも何も、歪な兄妹関係だから気になっただけだって。お互いの事は適度に利用している癖に、気遣いの仕方はまさしく他人行儀過ぎるよね。でもそれすら織り込み済みですってそれぞれに認識しているから、そりゃぁ距離はなかなか縮まない訳だ」
「貴方に何がわかるの? 知ったような事を言わないで」
不愉快だった。私たちを勝手に評価して訳知り顔で割って入ろうとするその態度。見透かされているような錯覚に陥ってしまう。
「知っている訳じゃないよ。ただ、ぼくからしたらもっと二人で、きちんと話し合わなければいけない話題が多そうだなって思ったんだよ。きみたちは揃いに揃って、本音を上手に隠すからね」
「そんな…っ」
反論しようとする私の口を、ショウゲは人差し指で押えて黙らせた。
「きみは翠くんの足枷にならないよう、最良の妹を頑張って演じているんだろうけど、それは翠くんも同じだよ。きみの邪魔にならないよう、これ以上傷つけてしまわないよう。彼は全神経を使ってきみとの距離を調整している。そんな息が詰まりそうな関係を続けたいって言うなら構わないけどさ、お互いに疲れを感じ始めてるんじゃないの?」
「………」
何故か急に泣きたくなった。今までの私たちはすべて無駄だったのだろうか。翠がそんなに辛い想いをしているなんて、どうして気づけなかったのか。ショウゲが指摘する内容はすべて図星で心当たりがあるからだ。だから否定できなくて、反論の言葉を失ってしまう。
「…それで、一体誰の妹に手を出していると思っているんだ」
「んー…」
ショウゲの後ろから冷たい声が聞こえ、それまで眉一つ動かさなかった彼が凍りついた笑顔で振り返った。
そこにはテイクアウト用に持ってきてくれたと思しき三人分のドリンクを持った翠が、冷ややかな表情で立っていた。
「あ、ここの紅茶には薔薇のジャムを入れるらしいから取ってくるね~」
明らかに逃げる理由を述べると、ちゃっかり自分の分のドリンクだけ受け取りショウゲはそそくさとカフェに向かって走っていった。
「大丈夫か?」
ホットの紅茶を私に手渡し翠は気遣うように尋ねてきた。水辺の冷たい風を受けていつの間にか身体が冷えていたらしく、温かな紅茶の感覚にほっと安心感を覚えた。
「……」
「アイツは話を盛る傾向がある。適当に聞き流せばいい」
「…本当にそうかしら」
吐き出してみればそれは案外簡単に言葉にできた。
「私たちは…問題からずっと目を逸らして。核心に触れてしまわないようお互いに気をつけてきたわ。でもそれがどれだけ危険なのか、気づいたわ。私たちの…弱みになる」
「……話し合うべきだと言うのか」
「そうよ。あの事件が起きた日からずっと、私たちは背を向けてきたままだった。でも私は…いつまでも悩んでいたくはないの。できる事なら…許されたいと思っている」
私がいつも翠に対し抱いている感情。それは罪悪感の他にならなかった。愚かだった幼い私が、佐久田賢治をダシに使い翠との関係修復を図ろうとしなければあの事件は起きなかった。そこから付随したすべての不幸について、元々の原因を作ってしまった私が謝罪をした事がなかった。
私たちの間で、あの事件は禁句になっていた。すべてが汚点だった。だから長く目を逸らし続けていた。
「何故…」
震える声で呟くと翠は冷静さを取り戻そうとするかのように額に手を当て小さく息を吐いた。
「気持ちを軽くする為だけの謝罪なんてただの偽善だと思っていた。その一言で過去を帳消しにできる訳もなく、現状が好転する予兆さえもたらさない。…あの夜、確かにあの男は罪を犯した。幼い子どもに欲情し浅はかな行動に出た」
「………っ」
身体の震えを押え必死に込み上げてくる感情を飲み込んだ。こうして翠と例の事件について詳しく話をするのは、これが初めてだった。恐怖と罪悪感と、羞恥心。様々な負の感情が混じり激しい頭痛と共に吐き気までした。
「だからと言って―――欲望の対象にされた幼女を責めるのが道理というなら、それはもはや倫理から外れている」
「……え…」
ようやく息の仕方を思い出し新鮮な空気を求め吐き出すと、翠は俯きその表情を隠していた。
「…あの家で、誰一人として血の繋がりがないと知った時。生まれて初めて孤独を感じた。だが周囲の好奇の眼差しから逃れる術を身につけ、戦っていかなければならない時にお前の存在は…ぼくの支えでもあった。唯一対等な立場にある、お前が、あの男に奪われるのが許せなかった。例え何度事件の夜に戻ったとしても、ぼくはあの男を殴り殺そうとするだろう。今度こそ、確実に息の根を止める覚悟で」
最初私は、翠に責められるのだと思った。
すべてはお前の責任だと。謝罪だけで済む問題ではないと、積年の恨みつらみをぶつけられると思っていた。けれど違う。これは翠の、償いの言葉だった。
「なん…で…」
言いながら私は、涙を流した。
「なんで…翠が……謝るのよ…私が、私が悪いんじゃない…っう…お、お兄ちゃんは…悪くないでしょぉ…っ」
気がつけば翠が私を抱き締めていた。まるで小さな頃、泣きじゃくる私につられて泣いてしまった自分の泣き顔を見られないようにしていたあの時のように。翠も私も、むかしの幸せだった頃に戻って涙を流した。
長い間続いてしまった私たちの兄妹喧嘩が、今ようやく、終わりを迎えた。
その日は結局ショウゲと合流せずに私たちは帰途に着いた。泣き腫らした私の顔をショウゲに見せる訳にはいかないとでも思ってくれたのか、お互いに疲れを感じてしまい帰りはタクシーに乗った。
それから簡単な夕食を二人で準備して、その際に翠が留学後の家の運営の仕方にも話し合い。そして久しぶりにゆっくりとリビングで眠るまでの時間を取り留めのない話題や、ドラマを見て過ごした。
ベッドにもぐり、普段からあまり見る習慣のないケータイを確認するとショウゲから連絡がきていた。開けてみると、文章はなくドヤ顔のスタンプが送られていたので無視してそのまま電気を消した。
「………」
翠との和解は自分でも驚くほど心を軽くしてくれた。
今ならどんな問題でも解けてしまいそうな昂揚感。微睡む意識の下で私は、そろそろ向き合わなければいけない彼との問題を思い出していた。
あれから学園で過ごす度、日向は自分がどこか上の空になっていることに気がついた。授業の際だけは集中を切らさないように心がけたが、ふっと休みに入った途端に、糸が切れたように緩慢になる。どうやら周囲にはうまく誤魔化せているようだが、それだけ彼らは日向当人には関心を持っていないということだろう。気づけば親しげに話しかけてきている女子生徒たちも含めて。
あの日以来、琳子とは会っていない。当然だ。あの花火の日に全て決まってしまったのだから。そうは言ってもどうやら気持ちに整理はつけられていないようで、日向の目は気づけば琳子の姿を探していた。そもそもクラスが違う琳子は探したところで、そう簡単に見つけられる訳もなく、何をやっているんだと自分の奇行に反吐が出そうだった。
それでも、遠目でふと見かける琳子に内心、複雑な感情を抱いた。これまで友人として近くで話をしてきた分、遠目から見た琳子は近寄り難いくらいの美人なんだなと離れてみて改めて気づいた。琳子が美人なのは最初から知っていた筈なのだが、話していると近寄り難いだとかそんなこと考えたことがなかった。分からないところはたくさんあるが、琳子と話をするのは心地よくて楽しかった。琳子は秘密主義で知らされないのを寂しく思ったが、琳子の事情を考えるとそうならざる得ないのが痛い程分かった。なんでも器用にこなすように見えて、実は絶妙なバランスで必死に立っていたんだろうなと今になって思えて、胸が痛くなった。
―――そんな琳子に自分の気持ちをぶつけてしまったのか。
「…馬鹿じゃないの?」
どうしようもなくなって、学園から帰ると珍しくいたディランに思わずぼやいたら、罵倒の言葉が返ってきた。大して詳しく話してないのに、把握能力が想定以上だ。
「は?」
「恋心自覚して即告白して、失恋て自業自得でしょ。琳子ちゃんもいい迷惑だったと思うよ。恋とか愛とかそんな話出来る状態じゃなかったっていうのに」
唖然とする日向を置いてディランは話を続けた。
「何の為に告白した訳? まさか、振られるのが趣味だとでも?」
「趣味な訳ないだろ!」
あまりの言い様にギロリとディランを睨みつけたが、罰が悪すぎて日向は視線を落とした。
「…こんなふうに…琳子を…好き、になるなんて自分でも、思わなかったんだ…。ずっと、友人をやれると思って…」
馬鹿みたいだ。自分の失態に辟易するのに、言葉は震えて必死に嗚咽を抑え込んだ。
「それは無理な話でしょ」
「いや、お前だって琳子の友人だろうが」
「でも決定的な違いがある。僕にはサトル君という最愛の恋人がいるけど、日向君にとっての異性の友人はそれだけで特別なことだよね」
「何が…言いたい…?」
訳が分からなくて日向はぼやいた。
「日向君だってどこかで気づいていたはすだよ? 日向君にとって琳子ちゃんは特別だって。ただ、自覚した瞬間に伝えるべきじゃなかった。そんなの、自分にはこの感情は持て余すから断ってくれって、最初から諦めてるようなものじゃない? 馬鹿としか言いようがないよね」
「それは…っ」
続く反論の言葉は出てこなかった。衝動的な行動だったと今なら分かる。分かるのだが。
「…こんな気持ち初めてで……なら、どうすればよかったんだ…?」
考えてみたところで答えは出てこず、後悔の念ばかりが渦巻いて、何一つない答えが見つからなくて。
日向は頭を抱えてその場に崩れ落ちた。
「もう…過ぎ去ったことで、やり直しなんてきかないんだぞ…」
琳子に伝えたかった言葉、実際に伝えた言葉、小さな所作に至るまで昨日のことのように目に浮かぶ。
「…それだけ後悔してるなら、日向君、もう一度琳子ちゃんとお話してみない?」
「琳子ちゃん♪」
廊下で呼び止められる事にもいい加減慣れてきた。放課後の人気もなくなった校舎で振り返ると、いつもの愛想のいい笑顔を浮かべて周囲に撒き散らす彼の姿があった。
「琳子…?」
彼と面識のないサトルは身構えた様子で私の出方を伺っていた。こういう時の彼女は忠犬のような可愛さがある。つい頭を撫でてみたくなる欲求を押えながら、私は頷き返した。
「大丈夫よ。今のところ実害のない人だから」
「ちょっとー友だちに対してその説明ってひどくない?」
「無駄口を叩いていないで用件を言ってちょうだい」
「この前先に帰っちゃったでしょ。それで、これ」
と言ってショウゲは「お友だちにも」と言って私たちにラッピングされた袋を手渡した。
ローズガーデンのロゴが印字されており、中には薔薇の香水が入っていた。
「お土産も何も買ってないでしょ? よかったらこれ、記念にね」
「ぼくまで貰う訳には」
「いーよ。どうせ誰かにあげるつもりだったんだから。でもあげるなら、可愛い子にあげたいでしょ」
「……」
困った様子で私を見やるサトルに笑顔で頷くと、小さく息を吐いてショウゲに向き合った。
「それで、貴方の点数稼ぎに貢献できたのかしら?」
「えー? 何の話?」
ハハハと朗らかに笑うショウゲに詰め寄ると
「茶化す必要はないわ。私たちの兄妹喧嘩にピリオドを打ってくれたんだもの。それをジャックに報告すれば、高評価を受けられるでしょ」
と耳元で囁いた。
「そして一定の評価基準にでも達したら、貴方の目的である例の彼女について情報開示される条件になっているのかしら。だとしたら…この程度の見返り、安すぎるくらいだわ」
「もー琳子ちゃん、そんなに熱烈に迫らないでよ」
頬を赤らめわざとらしいくらい優しく私の肩を支えると、ショウゲはニッコリと笑いかけてきた。
「堅物で有名だったジャックも、娘が関わると人が変わるようだね。知れてよかったよ」
そして再びサトルに視線を向けると
「そう言えば自己紹介もまだだったね。琳子ちゃんとは以前同じ学園にいたショウゲだよ。よろしくね」
「…琳子の友人のサトルです。よろしくお願いします」
「あ、日向君。そんなとこにいたんだ」
「!?」
廊下で見つけた三人に釘付けになっているところで声をかけられて、日向が振り返るとそこにはディランがいた。
「あれ、なんか驚いた?」
「あ、いや…」
廊下を歩く道すがら琳子がいるのに気づいたものの、結局声をかけられずにいたとも言えず、事情の説明に困ったところで、ディランは当の原因に行き当たったらしい。目敏く三人の中にサトルを見つけて、二人が何かプレゼントらしきものを受け取ったらしいと悟ると、日向の背を押して笑顔で輪の中に割って入った。
「こんにちは、何やってるんですか?」
「ディラン?!」
二人に気づいたサトルは顔色を変えた。
「な、何で…」
「…サトル君、迎えに来たよ~。一緒に帰ろ? あ、ちなみにそれはなあに?」
笑顔でサトルを引き寄せるとプレゼントらしきものをちらりと見た。
「あ、こちらの…ショウゲさんからお土産にもらったんだ」
琳子とお揃いでプレゼントされた薔薇の香水を見せて答えた。
「ん? もしかしてサトルくんの彼氏?」
初対面のショウゲはディランに会釈した。
「初めまして。ショウゲです」
「こちらこそ初めまして、サトル君の彼氏のディランです。失礼ですが、サトル君とは初対面ですよね?」
「そうそう。さっき自己紹介したんだよねー?」
「あぁ、はい…」
気まずげに頷きディランを見上げた。
「プレゼントはたまたま居合わせたからもらっただけで、深い意味はないよ」
「…そっか。よかったね」
サトルを愛しげに見つめると、くるりと視線をショウゲに向けた。
「ありがとうございます、ショウゲさん。あ、でも、今後下心絡んでくるようなら、その時はお断りさせていただきますね」
「あー確かにサトルくん程の美少女なら彼氏も不安が絶えないよね。でもぼくはその点大丈夫だよ? 心奪われた人がいるから。ね、琳子ちゃん」
いきなり話題を振られ、琳子はそっぽを向いて黙り込んだ。
「そうなんですか?」
「…………」
ディランと同じく琳子に視線が行ってしまい、日向は複雑そうに視線を逸らした。
「で、ディランくんは恋人のお迎えにきて…日向くんは?もしかしてぼくに何か用かい?」
「…いや、別に、学年が違うのになぜここにいるのかは気になったが」
「そんなの、琳子ちゃんに会うために決まってるでしょう。それに割とぼくは色々な学年に出没しているからね」
「…悪い、別にショウゲに用がある訳じゃない」
少し考えた後、頭を下げた。
「そう? じゃあ琳子ちゃん、行こうか」
「なっ?! ショウゲには用はないが、琳子には話がある」
「……」
沈黙したまま琳子はショウゲと目を合わせると、少し考えてから頷いた。
「いいわ、何かしら」
「………」
言い出した手前、覚悟を決めたらしく、日向は真っ直ぐに琳子を見て、口を開いた。
「……その、この前は悪かった」
深々と頭を下げた。
「今度、きちんと話をさせてほしい」
「……」
複雑そうに眉を寄せると、琳子は小さく頷いた。
「また、連絡する」
「…ね、ショウゲさん。ここのバラの庭園て、どんな感じでした? 画像はいくつか見つけたんですけど、実際に行ってきた人の感想が聞いてみたいなと思って」
サトルから香水の袋を見せてもらっていたディランが尋ねた。
「すごくよかったよ。色々な種類があったし、まるで別世界のような景色だったね。家族連れやカップルも多かったよ」
「それはいいですね。ありがとうございます。…サトル君、バラの庭園とか興味あるかな?」
振り返ってサトルを見た。
「薔薇の庭園…興味はあるよ。行ってみたいけど」
香水を一瞥し、遠慮がちに答えた。
「じゃ、今度空いてる日を探して行ってみない?」
「あぁ、いいよ」
仲睦まじい様子にショウゲは微笑んだ。
「いい関係だね。羨ましい」
「なら、ショウゲさんも片思いの相手にアプローチしたらいいじゃないですか」
「?!」
ディランの言葉に日向は声に出さないまでも、ぎょっとした表情を浮かべた。
「そうだね。それは…その時がきたら、必ずするつもりだよ。なかなか受け止めてくれなさそうだけどね」
「タイミングも大切ですけど、近くにいるなら目を離さない方がいいと思いますけどね」
「そうだねぇ。でも、ぼくは大切なものこそ、いつも自由でいて欲しいかなぁ。自由に羽ばたいている姿が美しい人だから」
サトルの傍を離さないディランにニッコリと笑いかけた。
「それだとすぐに自分から羽ばたいてどこかに行っちゃいそうですけどね。どこかの誰かにとられないかとか不安にならないですか」
「不安? あぁ、不安…アハ、そんな事考えた事もなかったなぁ。好き過ぎて相手を束縛した結果、最も美しいと思っていた姿を見れなくなるって…悲劇じゃない、それ?」
「誰のものにもならないと思っていた彼女が誰かと付き合って、自分とは違う人生を歩む姿を見ることになる方が悲劇だと思いますけどね。まあ、それも自由のうちならいいんですけど」
「……あぁ!」
何か思いついたようにポンっと手を叩きショウゲは琳子を見た。しかし琳子は全く意図がわからず怪訝そうに彼を睨んだ。
「ごめんごめん。ちょっと違う事が閃いてさ。え~と、そろそろ琳子ちゃんを連れ出してもいいかな?」
「…閃いてって、何かあるのか?」
明らかに思いつきといった反応に日向は訝しげにショウゲを見た。
「まぁまぁ、それは内輪の話になるから勘弁してよ」
困ったように苦笑しショウゲは琳子の腕を取った。
「いいかな、琳子ちゃん?」
「……」
琳子は考えるようにショウゲを見た。
「…どういう事情であれ、強要は関心しない」
琳子の腕を掴むショウゲの手を払いのけ、日向はギロリとショウゲを見た。
「あぁ、強要するつもりはないよ? 決めるのは琳子ちゃんだ」
「……行くわ。サトル、悪いけれどまた明日」
「あ、うん…」
「せっかくだしサトル君と待ってようか? 別に急いでる訳じゃないし、一緒に帰ろう?あ、日向君はバイトだったよね」
「…ああ」
「…大丈夫よ、二人とも。先に帰ってちょうだい」
少し考えると琳子はショウゲの腕を掴み、二人に手を振った。
ショウゲはジャックとの取引内容について否定しなかった。ならば彼が私に対し何らかの不利益が生じる行動はとならないだろう。だからと言う訳でもないけれど、先程の彼の言動は引っ掛かるものがあり提案に応じる事にした。
「あ、琳子ちゃん。せっかくだから教室に鞄取りに行かせてよ」
階段を降りようとしてショウゲは私の腕を引っ張ると呼び止めた。
この時間なら部活帰りの生徒たちも多く教室に余計なギャラリーはいないだろう。何よりいつまでも彼の腕を握っている訳にもいかなかった。
パッと手を離すと、彼の背中について上級生たちの階へ向かった。
「放課後になると生徒の姿がなくなるって…何か慣れないよね」
人気のない空き教室の前を通りながら、ショウゲは誰ともなしに呟いた。
「暗くなったら完全に校舎は締め出されて、ぼくらは追い出されるんだよ?」
確かに学園では巨大な城を改築して子どもたちの学び舎兼日常の居住スペースを作っていた。使用されない教室は安全の為に鍵をかけられる事もあったが、あそこはまるで学園に集う子どもたちの大きな家のようだった。
夜の点呼の時間まで学園の至る所に生徒たちの姿が溢れて、大きな家で寛ぐ子どもたちの姿は幸せなものだった。薄暗い照明が照らすその下で、温かな暖炉の周りに集う種族国境を越えた子どもたち。手には本や甘いお菓子が握られて、他愛ないお喋りはいつまでも終わらなかった。
「……さっき、私に気遣ってくれたの?」
向き合わなければいけないと自覚してはいたけれど、それでもやはり気まずさは拭えなかった。きっとどんな言葉をかけても私は結果的に彼を傷つけてしまうだろうし、彼にはそんな事をしたくない。だから顔を合わせない方がずっと気楽だったけれど、ディランとショウゲの恋愛談が始まると余計に居心地が悪くて堪らなかった。傷口を抉られていくような感覚が息苦しくて辛かった。
「気遣いと言えば気遣いだよね。でもディランくんとの話で気づいた事があって」
教室の前で止まるとショウゲはニコッと愛想よく笑い自身の席に向かって歩いていった。
小さな机と椅子が規則正しく並ぶ小さな教室。すべてが予め定められた場所に納まるその場所に、彼が佇む景色がひどくチグハグに感じてしまった。
「誰もいないからおいでよ。廊下にいる方が目立つよ?」
「……」
そうかもしれない。そっと背中を押された気がして、私は教室に脚を踏み入れた。
「さっきの会話でね、ちょっと日向くんを虐めたくなって琳子ちゃんを好きになったらって仮定で話していた…のはまぁ、バレてるよね。そりゃ♪」
会話中の私の不機嫌そうな態度を思い出したのかショウゲは小さく笑った。
「カゴに入れたらきみの魅力は半減してしまうだろうと思ったよ。だからと言って外で自由に飛ばせていたら…もしかしたら誰かのモノになってしまうかもしれない。いつまでも自由でいると思っていても、それをきみが望むのか。いつか自らが望んでカゴに入っていくかもしれない」
「…そんなもしもの話をされても、わからないわ」
誰かに愛され束縛される状態をカゴに入れた鳥にでも例えているのなら、サトルはまさにその状態だろう。でも何故だろう。彼女からは一切そんな不自由さなんて感じない。時々恋人の度の過ぎた嫉妬に手を焼くくらいで、それ以外のサトルはディランといる時。こちらが妬いてしまいそうなぐらい素敵に映って見えていた。
でも確かに私がサトルの立場になったとしたら。きっと息苦しくて、手足も自由に動かせないと状況はただただ苦痛でしかないだろう。
「ぼくが知るセトくんは、他人とのしがらみをひどく嫌う…周囲に無関心な子だったよ。自分の心を守る為にそうして周りに対する期待を失くしていった子たちを多く知っているけど、彼はその類だと思った」
椅子に座り机から教科書を出すかと思いきや、ショウゲは雑誌やらゲームを取り出し鞄に詰めていった。
「無関心でも、時に…本当に稀に、誰かに関心を抱く瞬間がある。でもそれをどう表せばいいのかわからなくて、結局無関心を装うんだよ。今までは当たり前にできていたソレを、今度は意識して演じなければいけなくなる。内心ではひどく焦るんだ。こんな風にしている間に小鳥を誰かに奪われてしまうかもしれないって…ね」
鞄に入れようとした鍵がショウゲの手元から床に落ちた。一瞬拾おうかと思ったけれど、彼の足元に跪くような姿勢になるのが気に入らず。私はそれをただ眺めるだけにした。
「束縛を恐れる小鳥に関心を持ってしまった…孤独な子がいたんだなって…ディランくんとの会話で思い出したんだよ」
息を吐き出すように溜息を漏らすと、ショウゲは私の足元に屈んだ。
「あそこではみんなそうだったよね。本音なんて隠して合言葉に縋るんだ」
私の目の前に拾い上げた鍵を持ち上げ、唇だけ動かしあの言葉を呟く。
『錠をかけて鍵は飲み込め―――』
聞いたところで答えなんて誰にもわからない。でももしもセトが私を、ほんの少しでも気にかけていたとしたら。私を、好きだとしたら、私は…応えようと思えたのだろうか。
答えがわからない。でも、震える手で無意識にショウゲが持つ鍵を握り締めていた
これがセトの心にかけた錠を開ける鍵だとしたら。私は真実を知りたいと思うのか。それとも何も知らないまま。恋にもなりきれていない感情だったと切り捨てられるだろうか。
「…でも、まぁ。どんな恋でも相手がいないと始まる訳もないし、始まってもいないものを無理やり終わらせるなんて無理な話だよね」
「何を企んでいるの?」
「あのねぇ、そろそろいい加減信じてよね。こう見えてぼくは無害で慈悲深い性格なんだって」
嘘くさい微笑みを浮かべそっと手を伸ばし私の頬に触れた。
「ぼくの望みは、きみの願いを叶える事だよ」
笑顔と比べてその口調は本当に、嘘なんて混じっていないように聞こえた。優しく頬を撫でるとゆっくりと離れていく指のぬくもり。何故か不思議と、彼に触られても嫌ではなかった。
「……私の願いは…誰かに叶えてもらいたいものじゃないの。私が、私の力で叶えなければ意味がないわ」
「そういう強気なところ、結構好きだよ」
途端にニッコリと相好を崩すショウゲに、私は小さく溜息を漏らし一歩離れた。
「そぅ、ありがとう」
二人の間にできた距離にショウゲは眉を寄せて苦笑すると、長い脚を伸ばしリラックスした様子で机に頬杖を突いた。
「…で? そんな琳子ちゃんの望みって何だい?」
話は終わりとばかりに踵を返していた私は、呼び止められ振り返りショウゲを見た。ちょうど夕焼けが彼の表情に影を作っていた。
「―――どんな結果であってもいいの。私はただ…いつも、私らしくありたい」
黄昏色に染まる教室。人気のない廊下。整然と並ぶ勉強机たち。窓の向こうからは部活帰りの生徒たちの賑やかな談笑が聞こえてくる。どこにでもあって、何も珍しくない日本の学校の風景。そこに佇むショウゲという存在が、強烈な異彩を放っていて目が離せなかった。そして同時に、彼からも向けられる強い眼差しを感じた。
ほんの少し、悪戯心が湧いた。
私が一歩近づくと、彼は前回のローズガーデンで足の指を踏まれた件を思い出したのか爪先を床から離して警戒した。表情が心なしか硬くなっている。きっと傷がまだ疼くのだろう。
そんな彼の輪郭にそっと指を添えると、顔を寄せて耳元で囁いた。
「貴方が自分の目的の為に私を利用すると言うのなら、私はもっと貴方を使わせてもらうわ」
「……っ」
何かを飲み込むように口を噤むと、ショウゲはほんのり赤くなった顔を隠しもせずに私に向けて笑った。
「ちょ…っ心臓に悪いよ、琳子ちゃん」
「許可なく私に触るからよ」
「も~本当に琳子ちゃんって女王気質だよね…。そのうち琳子ちゃんのハイヒールに踏まれたいって男が列を成すんじゃない」
「その光景は既に母親が実現しているから、私は興味ないわ。私のヒールをそんなもので汚したくないもの」
「辛辣~」
アハハと楽しげに笑うショウゲに釣られ、私も口元を緩めた。そうして途切れない話を続けるうちに、私たちは二人で駅に向かいそれぞれの家へと帰って行った。数日後、この日教室から出てきた私たちを見た生徒たちが、私たちが付き合っているという噂を流した。そうなるだろうと思っていた事態だけに不快ではなかった。以前ショウゲが言っていたように男子生徒から声をかけられる回数が減ったので、やはり効果ある行動になったようだ。
ある日の休日。私用でどうしても必要になった物を買いにディランは普段はあまり行かない隣町へと足を運んだ。この辺りの事情は日向にも話したことがなく、出かける際には単にお出かけとだけ伝えてきた。買った物は持ち帰らずに送ってもらうものなので、買い物に行くとも言い難い。
結局、いくつかのデパートで適当に選び、輸送費込みで支払いを済ませた。移動もあって朝から出ていたが、昼過ぎにはリストの項目を全て購入出来たのはよかった。
これほど多く購入してもディランの手元に残るのは店頭で思わず購入したサトルへのプレゼントの小さな紙袋のみだ。
昼食のピーク時間を過ぎたので、今からなら多少並ばずとも昼食を取れるだろうとデパートを出た。
休日と言うことで買い物に訪れた大勢の人でごった返していた。デパートの立地が町の中心部と言うこともあって、周辺は繁華街だ。
「あれ?」
人の海を抜けようとした時、見知った顔を見つけた。大勢の人もいるので、多少近くまで歩いてディランは声をかけた。
「琳子ちゃん、久しぶり。珍しいね、こんなところで会うなんて」
「あら…」
ディランに気づくと琳子は周囲を見回した。
「奇遇ね。デートの最中かしら?」
「いや、今日はちょっと私用で。サトル君とのデートだったらよかったんだけどね。琳子ちゃんは買い物?」
「えぇ。ちょっと散財しにきたの」
クスッと笑い琳子は頷いた。
「父親から誕生日祝いに現金をもらったから、センスのないプレゼントを使い切ってしまおうと思って」
「…ああ、何渡すか決められなくて現金だったんだね。どう? 使いきれそう?」
琳子の反応にディランは小さく苦笑した。
「残念ながらまだ余っているのよ」
肩を竦め苦笑した。それから思いついたようにディランを見ると、
「嫌じゃなければ、ランチでも一緒にどう? よければ奢るわ」
「わぁ、いいね。せっかく誘ってもらったんだし、お金は僕が出すよ。そのお金は琳子ちゃん自身の為に使わなきゃね」
琳子を見るとディランはふわりと笑みを浮かべてみせた。
「その点は抜かりないわよ?」
片目を瞑り意味深に笑った。
「下心なく、誘ったりしないから。貴方に、聞きたいことがあるの。…見返りありきだから」
「琳子ちゃんが下心って、サトル君の大事な友人にそんな心配はしてないし、心配は無用だよ。僕も、琳子ちゃんとはお話ししてみたかったんだよね。で、どこか近くの美味しいお店に行こうか? 」
「そうね。お勧めのお店があるの。そこでもいいかしら」
「勿論。琳子ちゃんのおすすめのお店、気になるしね」
珍しい偶然とは思いながらも私はディランを連れて、繁華街から離れた小さな個人経営の喫茶店へ向かった。店内は昼間だというのに、落ち着いた照明器具や焼き煉瓦の壁や装飾影響もあって薄暗い。古いレコードが壁に飾られ、微かに聞き取れる程度の音量でクラシック音楽が流れていた。
店内にはまだ客の姿はなく、年老いたマスターが一人で準備をしていた。
「わぁ、なんだか昼間とは思えないね。時間の感覚忘れちゃいそう。とはいえ、ここなら落ち着いて話せそうだね」
店内を見回すとディランはソファの席を勧めてくれた。
「頑固で職人気質のマスターだからどの料理も美味しいわよ。少し耳が遠いのが玉に瑕だけど、ゆっくり過ごすなら最適なの」
「内緒話も出来ちゃう訳だね」
ディランは小さく笑った。
「そういう事」
ニッコリ笑うとメニューを広げた。
「私はグラタンセットにしようかしら」
「僕はピザとパスタのセットにするよ」
それから二人で注文を済ませると、調理が始まり店内はいい匂いで満たされた。
「お腹空いてきたわね」
「そうだね。お昼にしても、少し遅い時間だし余計にね。…それにしても、琳子ちゃん。このお店はどうやって見つけたの? 結構、穴場だよね」
「…むかし、母に連れてきてもらったの」
コップの中身を見詰めたまま私は答えた。親しい友人とならきっと楽しくお喋りしてしまい、この静かな空気を味わう店の雰囲気にそぐわず却って迷惑をかけてしまうだろう。ディランが言ったように、あまり人に聞かれたくない話をする時でもなければきっと誰も連れてこなかった。
「留学する前に一度だけ。帰国してから調べたらまだマスターも健在って知って、気になっていたのよ」
「ああ。じゃあ、琳子ちゃんのお母さんが見つけた思い出のお店なんだね」
「ふふ」
柔らかな表現に私は思わず小さく笑って視線を店内に向けた。軒先が広いので小さな窓から店内に入る光が少ない。お蔭で昼間でも明りが必要だけど、温かな橙色の光はどこか暖炉のぬくもりを連想させる。剥き出しの煉瓦に飾られた様々な絵画作品。小さな店内に距離を離して置かれたテーブルたち。古城を改修して造られた学園の華美な雰囲気とはとても離れているけれど、でも、子どもたちが就寝までの時間を過ごしたあの談話室と似たものを感じる。
柔らかくて温かい。
偶然見つけたと言っていた母は、よくこの店に通っていたそうだ。彼女がここで何を思い出していたのか、考えると少し切なく。そしてその気持ちにひどく共感してしまった。
少ししてマスターが注文の料理を運んできた。
「わぁ、美味しそう。これは期待出来るね」
今出来たばかりの熱々の料理を前にディランは目を輝かせた。
ディランのリアクションに満足すると、私はまだグツグツと湯気を立たせるグラタンを掬った。
アツアツのピザを口にしたディランが思わず感想を漏らす。
「あ、美味しい…っ」
私も同じ言葉を返し、しばらくこの豪華な食事を楽しんだ。
「二人で食事なんて初めてね」
「そういえば、普段はサトル君達がいるからね。今更になるけど、琳子ちゃんとしては僕と二人で大丈夫?」
「何となく…今日偶然会って気づいたの」
薄暗い周囲の僅かな明りを集めて反射する、ディランの美しい金髪を眺めながら私はゆっくりと語り出した。
「今、一番。恋をしている人なんだなって。それなら…私の不躾な質問にも、もしかしたら答えてくれる気がしたの」
「まぁ、僕に答えられることなら、なんでも聞いて。今、一番恋してるはその通りだろうね。サトル君への気持ちを一般的に型にはめるのは難しいだろうけど、一つの例ではあると思うよ」
「…恋をしたら、自分は誰かに恋をしているってわかるものなの?」
静かな店内にも関わらず私は小さな声で尋ねた。
「…分かるよ。でも、すぐには分からないこともあるけどね。僕はサトル君に出会って、彼女しかいないって自分の気持ちを決めたけど、ある程度育ってからじゃないと恋だと自覚出来ないタイプもいるじゃない?」
彼は穏やかな笑みを浮かべた。
「…琳子ちゃんは自分が誰かに恋しているって思う?」
「……」
しばらく考え込むも首を振った。
「わからないわ」
正直、それは一番素直な答えだった。
「なら、こういうことは焦って答えを出す必要はないと思うよ。どうしても今すぐ答えを出したいなら、別だけど」
「……人を好きになれないままで、いいのか疑問を抱くようになったのよ」
「琳子ちゃんは誰かを好きになれる人だと思うよ。今はいろんなことが重なって悩むことがたくさんあると思うけど、その疑問を抱ける分、前に進めるようになるよ。まずは、どうしてそう思うようになったか、考えてみたらいいんじゃないかな」
「……っ」
戸惑うようにディランの話を聞くとしばらく手元を見詰め考え込んだ。
「…絶対に、忘れたくない人がいるの。けれど、それが恋なのかわからないわ。自分の気持ちなのに、自分でもわからないままにしておくのが苦しいの。人を愛せない私が、誰かに愛されるなんて許せないのよ」
変わりたくないとずっと思っていた。だけど変わらないと前には進めないと気づいた。だから自分が一体、何を求めているのか知る必要があった。けれどそれを詳しく説明できずに私はいつの間か苦しげに眉を寄せていた。
「…なんというか、琳子ちゃんは真面目だね。別に嫌いじゃないなら、愛されちゃってもいいじゃない? 愛することも素敵だけど、愛されるのも素敵なことだしね。まぁ、そんな簡単に割り切れたら、相談なんてしてないか」
苦笑し、ディランは琳子に視線を戻した。
「そこまで悩むなら、琳子ちゃんの忘れたくない人への気持ちは恋に近い何かかもしれないね。これは僕が断定するものじゃなくて、琳子ちゃんが決めるものだけどね」
「…貴方の初恋は、サトルなの?」
「…………少し、違う、かな」
やや沈黙した後、口を開いた。
「…これが恋なんだって無理矢理自分に言い聞かせて、自分で自分の暗示に望んでかかったことならあるよ。…サトル君じゃなくてね。サトル君の時はああ、サトル君しかいないなってほとんど直感みたいなものだったけど、気持ちは全然違った。心が満たされたのはサトル君が初めてだったからね。だから、本当の恋という意味ではサトル君が初恋なんだって思うよ」
「………」
多分ディランにはあまり口に出したくないであろう過去があるとはわかっていた。私自身そこに興味もなく、ディランも私にそれを打ち明ける必要などないのでお互いに触れずにきた。けれど今初めて、彼の口からそこに少しだけ触れる話を聞いた。
私の事情をすべて打ち明ける訳にはいかないけれど、それでも、私の問いかけに真摯に向き合う彼にせめてもの誠意を見せるべきだと思った。
「…ずっと、愛される事が素敵なものとは思えずに生きてきたわ。一方的に押し付けられ、奪い、壊していくその感情が怖かった」
「…それは相手が欲しいと言う欲望であって、愛とはいえないよ。その人を思いやる気持ちが大切なんだって思う。まあ、僕もサトル君に出会うまでは気づけなかったけどね。琳子ちゃんの今揺れ動く気持ちは…まだ形にならなくても、そんな怖いものじゃないよ」
本当にそうなのだろうか。私は確信が持てずに苦笑した。
「わからないわ。…実際に、彼の告白を断って…お互いに傷つけて終わってしまったもの」
と気まずげに視線を落とした。
「私にとって、恋は、盲目という言葉以上に周りを見えなくさせる…厄介なものなのよ」
「…初恋だと特にそういうところがあるかもね。自分の気持ちになかなか気づけないし、恋の定義もわからないからね。…周りをきちんと見られるようになるには、一度目の恋だと難しいのかもね」
ディランもなんとも言えない表情を浮かべた。
「……今さら、話し合う事なんてあるのかしら…」
ふと、窓の向こうを眺めながら日向から連絡すると言っていた件を思い出し独り言のように呟いた。
「なら、僕から日向君に話は必要ないって伝えておこうか? あるいは琳子ちゃんから伝言を受け取って伝えるとか」
「……」
しばらくディランを見詰めると、視線を逸らし考え込んだ。そして再びゆっくりと言葉を紡いだ。
「私にとって、セトが絶対に忘れたくない人だとしたら。彼はできるだけ傷つけたくない人よ」
小さく笑うも笑顔がそのまま維持できなくて、何故か胸が切なくて苦しくなった。
「残念ながら私の周りには、彼ほど誠実で優しくて…真っ直ぐな人はいなかったわ。だから一緒にいて、新鮮だった。…彼との繋がりを大切にしていきたいと、思っていたわ。……私と関わっても、彼を傷つけるだけじゃないかしら…」
「う~ん、傷つくかどうかは日向君が決めることなんじゃないかな。それに、日向君はそれは気にしないと思うよ。むしろ、琳子ちゃんを傷つけたくないのが一番みたいだから」
小さく苦笑した。
「気持ちが落ち着いてから、ゆっくり考えてみてもいいかもね」
「…そうね、ありがとう」
ふっと肩の力を抜くと微笑んだ。
「どこまでも、優しいんだから…」
「それは琳子ちゃんも同じだよ。すごく優しくて、誰かのことを大切に思いやりを持てる人。 愛だとか恋だとか関係なく、ね。優しいから、これだけ悩んじゃうんだと思うよ」
「優しくしてくれるから、私も優しさを返しているだけよ。…私を利用する人には同じく利用しているわ。でもそうね、せっかく褒めてもらえたから素直に受け止めておくわね。ありがとう」
「…さ。冷めないうちに残りも食べよう? せっかく琳子ちゃんに紹介してもらったお店の料理、美味しいんだから、熱いうちに食べないとね」
「それもそうね」
ニッコリ笑うと再び料理に手をつけた。
「あ、それと。サトル君、琳子ちゃんのことすごく心配してたよ」
しばらく食事した後、琳子へと視線を向けた。
「サトル君のことだから、多分、親身に相談に乗ってくれると思う。恋の話もね、同性だからこそ分かる話もあるんじゃないかな」
「そうね…。最近、サトルには心配をかけているとは思っていたの」
と苦笑した。
「…彼と私の噂を気にしていたみたいだけど、何も聞いてこないから」
「サトル君のことだから、琳子ちゃんの口から聞くまでは噂は噂だと思っているんじゃないかな。大切な友人に憶測だけで判断されたくないし、したくもないじゃない? 噂の真偽を確かめるようなことはしないと思うよ。それって噂に振り回されて相手を信じてないってことにもなるしね。…そうじゃなくて、サトル君は純粋に琳子ちゃんのことを心配しているんだよ」
「……」
ディランの言葉に琳子は頬を染めてはにかんだ。
「私は大丈夫よ。胡散臭い人だけど、悪い人ではないのよ? サトルにもまた話しておくわ」
「そう? まあ、琳子ちゃんがいいなら、いいんじゃない? 周りも静かになって、少しは落ち着けるんじゃないかな」
「そうね…。恋愛感情はなくても付き合える相手だから」
「そういえば。確認なんだけど、ショウゲさんも琳子ちゃんも同じスタンスなんだよね?」
「…そうだと思っているわ。少なくとも、今は」
「きちんと確認を取った方がいいんじゃないかな? こういうことって、自分は本気じゃないのに、向こうが実は本気だったみたいな相互に行き違いがあるとあまりいいことはないからね。僕も昔、そういう付き合いしたことあるけど、好意持たれちゃうとあとあと面倒だから」
「……」
それはきっとない、と思ってから何を根拠にそこまで信頼しているのだろうと自問自答してしまった。考え込む私にディランは
「何か困ったことがあったら、相談して? 僕が無理そうなら、サトル君にでも。きっと親身になって一緒に考えてくれると思うよ」
とふわりと柔らかい表情を浮かべてみせた。
それから食事が終わると私はディランと別れ、満たされたお腹を消化させるべくゆっくりとした足取りである場所へ向かった。休日の昼下がり。繁華街には様々な人で溢れている。街頭での催し物も多く学生の多い地域ということもあり、同じ年代の人々が楽しいこのひとときを謳歌するように、美しく装い誰かの隣で。もしくは遠くにいる誰かと繋がりながら、歩いていた。
それは色鮮やかなパレードの中を一人ぼっちで歩いているような不思議な気分だった。言葉の通じない異国で突然遭遇した盛大なお祭り。だけど周りのように楽しみ方がわからなくて、私は流れていく景色をただ眺めていた。
もしかしたら私は、ずっと、寂しかったのかもしれない。
学園という非日常の連続の中に身を投じて、忘れられない出会いを経験したのに。それを一切振り返る暇もなく再び最も嫌っていたこの国の日常へ戻ってきてしまった。そんな私に向けられる優しさに罪悪感しかなかった。貴重な時間を費やしてまで私に心を砕いて欲しくなくて。できる事ならもう誰一人として私に構わないでいてくれたらいいのに。そうしたら私は、心ゆくまで自分の気持ちを確認して、声の限り泣いて。もう一度彼に会いたいからと叫んで旅立てたかもしれない―――
噴水の前で本を読む彼の姿を見つけた瞬間、無音だった世界に音が蘇った。
「琳子ちゃん…」
どこか安堵した表情で私を見る彼の顔を見上げ、先程の会話の一部を思い出していた。
『優しくしてくれるから、私も優しさを返しているだけよ。…私を利用する人には』
―――心置きなく、少しの罪悪感さえ抱く必要もなく利用できる相手。それがショウゲと私の正確な関係だった。
「日が暮れる前に会えたらいいなぁと思っていたから、早めに会えて嬉しいよ。きてくれてよかった」
本を片づけるとショウゲは私に微笑みかけながら近づいてきた。
「行くとは一言も言っていないわ。貴方が勝手に待っていると言っただけでしょう」
何をするでもない。ただこの日この時間帯にこの場所で待っているから、気が向いたら会おうとだけ言われた。
「結果的に、琳子ちゃんがきてくれた。過程はどうでもいいんだよ。ぼくは結論に感動している訳だからね」
嘘偽りなどないとでも言うような笑顔に対し、私は思わず溜息を漏らした。
「どこかお店にでも入ろうか」
自然な動作でスコートをするかのように手を差し伸べてきたので、私はその手に今朝買ったばかりの本を数冊入れた紙袋を渡した。電子書籍化が進む昨今の流行だけど、アナログな私はこうして一枚一枚ページをめくる喜びを手放したくなくて、紙媒体の書籍を買い集めていた。
「いいえ、外を歩きたいわ」
「いいねぇ。喜んで」
何が楽しいのかよくわからない笑顔で頷くと、ショウゲは近くにあるという公園へ私を連れて行った。
少し陽が傾き出すと以前までの夏の暑さはなく、ほんのりと肌寒さを感じる季節になってきた。紅葉し始めた木々の姿が目立ち乾いた風が掠れた枝葉を揺らしていく。澄んだ青空を見上げ広い公園のベンチを見つけると私は腰を下ろして少し休む事にした。
飲み物を買いに行った彼の背中を見送る。
少し動いたとはいえまだ満腹感は健在で、程よい気候と開放的な景色に私は少し眠気を誘われた。
久しぶりに行ったあの店の食事はやはり美味しかった。偶然とは言え叶ったディランとの会話でも、いくつか的確なアドバイスがありひどく有意義だった。会計を済ませて店を出ようとした時、それまで無言だったマスターから母の事を尋ねられた時は。本当に驚いて声が思わず上擦ってしまった。
『母は…去年の秋、亡くなりました』
そう答えるとマスターは何かを諦めるような、悲しげな眼差しを見せた。彼女の死は派手に報道されたそうだ。過去の事件を引き合いに出し、有名ブランドの名物女社長が事故死になったとワイドショーを賑わせたらしい。だから少なからずともマスターも母の死は予知していたのだろう。
黙って頷くとマスターはレジから離れ厨房に消えた。私は、ディランに促されるまでそこを離れられなかった。
「………」
右中指に嵌めた青い鳥の指輪を指先でなぞりその感覚を確かめる。これから先も、私は母の死を嘆く人たちときっと出会っていくのだろう。死者が残す思い出を噛み締め嘆く姿に自身を重ねてしまう。
―――もしもセトがあの火事で死んでしまっていたとしたら。
今まで具体的に考えないよう避けていた事がふいに脳裏を過った。
学園の友人たちと時折交わすメールの中で、不自然なくらい出てこないセトの名前。あれだけ強烈に人々の心に焼きついた生徒はそういない。もしかして意図的に彼の話題を避けているのだろうか。
「眉間に皺が寄っているよ。何か考え事かい?」
突然額に温かなものが触れて私は顔を上げた。
見るとショウゲがレモンティーのホットを持って笑っていた。
「…生産性のない事よ」
根拠もなく想像だけで物事を推論してしまったと反省しながら応えた。
「琳子ちゃんは直感や感性を大事にするタイプかと思っていたけど、案外理性で物事を量るタイプなんだね」
「……自然と、そうなったのよ」
確かに母は直感タイプの人だった。自分の感性で決めていく性格だったが、翠はまさに合理的にすべてを計算した上で答えを出す人だったので、そんな二人と暮らしていれば混じり合うのも致し方ない。
「…それで…今日は、何をするつもりだったの?」
温かなレモンティーで冷えた指先を温めながら、私はぼんやりと目の前に広がる芝生を眺め尋ねた。
「何もしない一日にするつもりだったんだよ。けれど琳子ちゃんがきてくれたから、薔薇色の日になったかな」
「回りくどい事を言わないでちょうだい」
「いやだな、本当だってば」
アハハと笑うショウゲの姿は本当に屈託ないものだった。学園でも、気がつけばいつも誰かとつるんでこんな風に笑っていた。むしろ笑っている姿しか見た事がなかった。
「……貴方が探している恋人は…私が学園に入る前に消えたのよね」
「まぁね。成績が悪くて退学させられたって話したよね。ちょっと頭が足りない子だったからねぇ…いやはや」
「名前は? どんな人だったの?」
珍しく食いついて問いかける私にやや驚いた表情を見せたがショウゲは質問に答えてくれた。
「…って名前でえっとどんな…って言われるとなぁ…あ、日本語の四字熟語にぴったりな子だよ。確か、猪突猛進って言葉!」
パチンッと指を鳴らすと何故か両目を輝かせて答えた。
「……褒めているつもりなのかしら」
「ん? 褒めているつもりじゃないね。だって、彼女はぼくが手を出した子たち全員フルボッコにしていたからねぇ」
しれっとした態度で爆弾発言を投下するものだから、私もややショウゲから距離を離して呟いた。
「…貴方の趣味を疑うわ。悪食は身を滅ぼすわよ」
「いいんだよ。それで。…ぼくの為に、そこまで懸命になってくれる人に会った事がなかったんだよ。こう見えてもね、寂しい孤独な幼少期を過ごして今に至るんだからね、ぼくは」
と言ってどこか翳りのある表情を浮かべ溜息を漏らした。きっとこれが私ではない普通の感覚を持った人が聴いていたなら、切なさに胸を痛め彼を労わってでもいただろう。
「一ミクロンも興味ないわ」
「つれないねぇ」
派手に吹き出すショウゲに私も小さく微笑んだ。
「恋人の出身地は知らないの?」
「あそこで、わざわざ『Where Are you from?』なんて聞く馬鹿だと思うかい? そんな事を聞いた日には、全校生徒からぼくがフルボッコにされているよ」
「そうね…。帰る場所がない人を相手に、聞いていい言葉じゃないわね」
ショウゲは同意するように静かに頷いた。
お互いに何を思い出しているのかよくわかる沈黙が流れる。けれどそれは決して不快ではなかった。一日に何度も、私はこうして学園を思い出す。だけど今はそれが一人ではない。言葉にはしないけれどお互いがお互いを通して、鮮明に記憶を呼び起こし懐かしいあのひとときに慰められている気がした。
秋風が私の長い髪をなびかせる。冷たい風。冷たい世界。突き刺さる刃を伴った言葉たち。
「あそこは…いつも、暖かかった」
まるで心の内を読んだかのようなタイミングで、ショウゲは木枯らしを受けながら呟いた。
「生まれて初めて、夜を…眠れたよ」
自分の視界にかかる髪を指でどけながら私は、改めてショウゲの彫りの深い横顔を見た。不思議な色をした青い瞳の下に刻まれた隈。目元の影と一体化して普段はそこまで気にならないけれど、不眠を告白した今。それは今も眠れない夜を過ごしていると証言していた。
「次の春。それまでに彼女を見つけられなければすっぱりと諦めるつもりでいる」
「………どう、して」
何の前触れもなく言い渡された宣言は、どういう訳かひどく私の心を揺さぶった。
「…どうしてって…さ。わかってるだろ、きみなら」
泣きだしそうな瞳をしてショウゲは笑った。敢えて言葉にしないだけで、私にならわかるだろうというソレ。わかっている。
来年には彼も卒業をする。成人を迎え、一足先に、大人になっていく。
「………っ」
激しい吐き気と眩暈に思わず口元を手で塞いだ。追い詰められていく。嫌な予兆だ。心が、余裕を失くし、呼吸が乱れそうになる。
―――誰もが大人になっていくのだと思い知らされた時。同じ学園で時を過ごした彼の存在に救われた。同じく会いたい人がいて、探していると聞いて。まるで他人事とは思えず気になった。
そんな彼が自身の想いに終焉の時を決めている。大人になろうとしている。
「…そんな…」
掠れた声で呟くと私は息を吸ったまま吐き出せなくなった。
「大丈夫。そのまま息を吸ったらいい」
全身の体温が一気に下がった次の瞬間、ショウゲが耳元で囁いた。口元には先程私が渡した紙袋が宛がわれ、促されるままにゆっくりと息を吸い込んだ。
呼吸が落ち着くまで身体の震えが止まらなかった。過呼吸になるのは久しぶりだった。若い女性に多いらしいけど、今日たまたま紙袋を持っていて助かった。
「…大丈夫よ」
指先がまだ冷え切っていたけれど落ち着いてきた。紙袋を離すと心配げにショウゲが顔を覗き込んできた。
「ありがとう…」
普通に呼吸ができるありがたさを感じながらそう答えると、ショウゲはまるで奇妙なものでも見るかのように私を見詰めてきた。
「まさか琳子ちゃんからお礼を言われる日がくるとは思わなかったよ。大丈夫かい? 酸欠になって頭がおかしくなったのかな」
「………」
ひどい言われように無言で睨み返すと、ショウゲはふざけた笑顔で肩を竦めた。そして憤慨する私をしばらく眺めると、その表情に何か複雑な色合いを滲ませた。
「琳子ちゃん」
冷たい風が私たちの間に吹き抜ける。
「……。いや、きみが幸せだったらいいのにね」
何かを言いかけて、一度唇を噤むとショウゲは切なげに微笑んだ。
きっと私たちはよく似ているから。だから彼が今、何を言いかけたのかわかってしまった。
けれど同情されたくないからわからないふりをする。どんな慰めの言葉をかけられたって、それは気休めにしかならない。同志だと思っていた彼が前に進もうとしていると知らされた今の私の心情を、彼は正確に汲み取っていた。その上で、同情も慰めも排除した彼の願望を口にした。
「…幸せに、ならなきゃいけないのかしら。それを義務だとでも言って押しつけられる側の気持ちを、誰が慮ってくれるのかしらね」
常々、私の事を大切に想ってくれる優しい人々からかけられるその言葉。
幸せにならなきゃいけない、笑っていて欲しい。みんなが思い描くその幸せというものが―――私の思う幸せとかけ離れていると誰が気づいてくれるのだろう。
「生きているのか死んでいるのかもわからない人を想って、探すのが幸せなのかわからない。私の事を一番に想ってくれる人と一緒になった方がきっと誰もが思う幸せなんでしょうね。時間は有限だとか、青春の無駄遣いだとか…自分でもわかっているわ。傍から見たら理解できない結果だとしても、私が欲しいものは私自身が納得して得た答えだけなのよっ」
周りの期待に応えるべく、一方的な視線から逃れるべく。私は自分自身を殺して誰にも批判されないような振る舞いを演じ続けてきた。だけどもうそんなものに価値を見出せない。目に見えて幸せになれる道があるとしても、それを選ぶなんてできない。自分を不幸にしたとしても、私にとっての納得した答えはそこにある。
「私の…私の為の人生なのよ」
苦しかった。後悔なんてしたくないと思っていても、それでも自分の選択を恨んだ。誰かを好きになれない自分が欠陥品のように思えて、誰かに想いを寄せられても拒絶しかできない自分が忌まわしかった。
「…大人になんて…なりたくない…」
―――セトに会いたい。
同時に心の中で呟いたその声だったけれど、ショウゲの耳には確実に届いていたようだった。まるで鏡を見ているような気持ちで私を見ているのだろう。
切なげに寄せられた眉間に、今までで一番深く皺が刻まれていた。
「……探しに行こう。傷ついてもいいと、きみが言うなら」
長い沈黙の後に、ショウゲは苦しげにそう答えた。
放課後、屋上で待っているーーー。
そう、連絡して当日、日向はサトルから借りた鍵で屋上の扉を開いた。散々悩んだ挙句、出した結論を元に日向は数日前にサトルから鍵を借りることにした。琳子と話をしたい旨を伝え、
琳子の親友であり、誰より一番の味方であろうとするサトルからすれば、琳子を傷つけてしまった自分を何より許さないだろう。そう覚悟の上で、鍵を貸してほしいと頼んだのだが、思っていたのとは違う反応が返ってきた。
「今回だけ、目を瞑る」
そのまま鍵を渡されて、拍子抜けして思わず「いいのか」と確認をとってしまったくらいだ。
「一応、部活動の一環で屋上を管理しているから内密にしてくれると助かる。……わざわざ頼むくらい、必要なんだろ?」
喉から手が出るほど必要としていたのは事実だったので、日向は鍵を握りしめて、感謝の気持ち伝えた。
「……恩に着る。この借りは必ず返す」
小さく笑うとサトルは
「肩の力を抜いて、気張らずに話せよ」
とアドバイスまで送ってくれた。正直ここまでしてくれるとは思わなかった。サトルは日向にとっても友人ではあったが、琳子が何より優先されると思っていたし、琳子を置いて日向に味方するようにはとても思えなかった。
今でこそ、琳子の事情を知っているが、 琳子と出会ってサトルやディランを交えて初めてレストランに行った時の日向が無知ゆえに突いた琳子のトラウマに激昂し、必死に彼女を守ろうとしたサトルが今でも鮮明に思い出せる。あの時は訳が分からないことばかりだったが、当時の自分がどれだけ酷い過ちを犯したのか今なら痛いほどよく分かる。
サトルのことは琳子とは違って異性の友人という意識がなかった。それはサトルがディランがよく例えるような琳子を守るナイトのような存在に見えて、ひどく眩しく、羨ましかったからだ。自分には決してなれない。当の本人のサトルには口が裂けても言えないが。
「…………もっと責められると思ってたんだが。最初のサトルの警告通りになったし、むしろ忠告があるなら今からでも向き合いたいと思う」
「…忠告も何も」
苦笑し日向を見た。
「なるようにしかならないけど、後悔しないといいね」
認めるしかない。今のサトルは「琳子の」ではなく「琳子と日向、二人の」友人として接してくれているのだと、自分の愚かな劣等感まで自覚するに至り、日向は己を恥じた。
サトルのようになれなくとも、琳子のよき友人でありたいと願っていたはずの自分が、いつの間にか、変わってしまっていた。
屋上の扉を開けると、心地の良い秋風が吹いて青空が見えた。少し時間を置いてから再び屋上の扉が開いた。そして辺りの様子を伺うようにして琳子が現れた。屋上の手摺から下校していったり、部活に励みだす生徒たちを眺めていた日向は屋上の扉を開ける音で、振り返った。
「……琳子」
琳子の姿を見て、表情を綻ばせた後、日向は琳子の方へと歩み寄った。
「わざわざ呼び出してすまない。来てくれてありがとな」
「……」
日向を見上げ琳子は首を振った。
「まず初めに謝罪させてほしい」
琳子の前に立つと日向は深々と頭を下げた。
「花火をしに行った日、舞い上がって琳子の事情も考えずいきなり告白して悪かった。琳子には無理に気を遣わせたし、あの日の行動は自分でも無神経で軽率だったと思う。本当に悪かった」
「……」
言葉に詰まった様子で黙り込むと、小さく息を吐き出し短く答えた。
「わかったわ…」
「…いや、その…言い出しておいてなんだが、謝罪は別に受け入れる必要はない。謝罪されたら受け入れなければならないなんてことはないし、嫌な気持ちをわざわざ溜め込むようなことはする必要はない。いや、むしろ吐き出して、怒りをぶつけるのが当然だ。…悪い、本当に反省している。だが、後悔はしていない。琳子を好きだと思った気持ち自体は嘘じゃないからだ」
そこまで話して日向は視線を上げた。
「……」
何か言いかけ一度黙り込むと、琳子は複雑そうに眉を寄せた。
「一つ、聞かせてちょうだい。…何故、私だったの?私は、貴方に何もしてあげられていなかったわ。たまたま他の女子生徒たちより少し身近にいただけよ」
「……努力家なところ、意地を張るところ、友人想いだが、誰かに頼るより自らの手で解決するところ。可愛いところ。正直、こちらとしては友人として力を貸すくらいしたかったんだけどな。どんな時でも自らの足で立とうとする琳子以外は考えられないな」
琳子の言葉に苦笑し、静かに言葉を続けた。
「別に何かが欲しかった訳じゃない。確かに最初の出会いは偶然だったし、たまたま共通の友人がいたことでお互い友人になれたと思う。だが、他の女子生徒ではきっと腹を割って話そうなんて思わなかった。他人からしたら馬鹿なおとぎ話にしか聞こえない、話までな。あの時はまだ自覚なんてなかったが、琳子だから話そうと思えた」
「……貴方の気持ちがわかったから。決して他人事として流せなかったわ。…会いたいと切望する気持ちを、同じ立場にある者として、ただ共感したかった」
言いながら視線はゆっくりと落ちていった。何と言えばいいかわからず、苦し気に吐き出した。
「ただ…それだけの事、だったの」
ズキリと胸が痛んだが、日向はそれでも顔を上げた。
「それだけの事…が、僕にはとても大きな事だった。…琳子にとっては些細な事だったかもしれないが。……ただ、これも一つのきっかけに過ぎなくて、結局僕はすごく焦っていたんだと思う」
そこまで話して日向は静かに息を吐いた。
「……何かに急かされているというか、焦っていたのは最初ショウゲを見たからだと思った。恋が何か理解出来ていない自分では到底太刀打ち出来るものではないし、自分の至らなさばかりが見えて焦ったのは事実だ。自分の気持ちを自分で理解出来ていなかったし、琳子の気持ちへの配慮も足りなかった。心の底から、申し訳ないと思う」
「……」
しばらく日向を見上げると、琳子は苦笑した。
「そうね。正直、戸惑ったし、何故今の関係を壊そうとするのかって腹立たしくも思ったわ。…そのくらい、貴方の存在が大きかったのね」
小さく息を吐き続けた。
「…貴方は、私の憧れだったんだわ。今更だけど、そう気づいた」
「…………」
流石にそれは過剰評価だろうという言葉を飲み込んで、日向は苦い表情を浮かべた。この場を収めるために言葉を尽くしてくれているのが、よく分かった。だからこそ、自分も誠心誠意言葉を尽くしたいと思う。
「……結局、僕が焦ったのはどこかで琳子がいなくなるような確信のない漠然とした不安を抱いていたからだと思う。僕は友人を探す為に日本に来たが、琳子の探し人はここにいる訳じゃないだろう?……琳子との大事な友人関係を壊すとか、琳子からすれば変わらない関係を求めていたのを気にかけるほどの余裕がなかった。穏やかな時間を壊して悪かった」
「…お願いだから、それ以上謝らないで」
琳子は切なげに訴えた。
「貴方に謝られると…私も辛いわ」
「…いや、これは僕の身勝手が招いたことだから、琳子が気に病むことはない。琳子の返事は既に聞いているし、今更、強要することはないから、心配する必要もない」
安心させるように、日向は穏やかな表情を浮かべた。
「今日この場に来てもらったのは謝罪をする為でもあったが、もう一つ別の話をしたいと思って来たんだ」
「話?」
「…ああ。まずその話をする前に今の気持ちを話しておく。琳子と友人として接している時、僕にとっては穏やかで心地良い時を過ごしていたと思う。琳子にとってどうだったかは分からないが、関係を壊されるのに腹を立てたことを考えると少なくとも悪くはなかったんだと思う。琳子のことを好きな気持ちはそう簡単に変わることはないが、それ以上に琳子の気持ちに添いたいと思う」
話すうち、日向はまっすぐに琳子を見つめた。
「琳子の希望を聞かせてほしい」
「………っ」
目を見開き日向を見上げると、複雑そうに眉を寄せて俯いた。
悩むように黙り込むと、息を吐き出し小さな声で呟いた。
「……私は…戻れるなら…」
消え入りそうな小さな声で答えるとそのまま沈黙した。
「………」
琳子の言葉を一言一句聞き漏らさぬよう沈黙を続けた後、日向は泣き笑いのような複雑な表情を浮かべた。
「………正直、話せるのは今日が最後かもしれないと覚悟していた。謝罪もせず、気まずいまま疎遠になるのだけはしたくなかった。最後の思い出くらいはきっちりケジメをつけたいと思っていたからな。………何もかも全て元どおりとはいかないが、明日からは友人としてよろしく頼む」
やや躊躇った後、日向はそっと右手を差し出した。
「……」
しばらくそれを見つめると琳子は手を出して握り締めた。そして抑えきれない感情を堪えるようにして片方の手で目元を押さえた。
「…貴方は…本当に、いつも真っ直ぐで眩しくて堪らなかった」
指に力を入れ、肩を震わせ続けた。
「貴方みたいに、なりたかった…」
「……? そうは言うが、こんな性格厄介なだけだぞ。もっとディランみたいに自分の気持ちに素直になれていればと後悔することばかりなんだが」
今にも泣きだしそうな琳子に戸惑い、複雑そうに伸ばしかけた手を止めた。
「現に今も琳子を抱きしめたいと、今したばかりの約束に後悔し始めているんだが」
「……っ」
涙を溜めた瞳で日向を見上げた。
「私は…いつも傷つけたくないのに、傷つけちゃうのね…」
「……………」
言葉に戸惑い、結局上着のポケットからハンカチを取り出して、そっと琳子の目元を拭った。
「……僕の勝手にまで琳子が付き合う必要はない。それに琳子が思うほど理想的とも言い難いしな」
「ふふ、私の理想を知らないからよ」
涙を流しながら表情を崩して笑った。
「今まで貴方ほど、優しい人に会った事がないもの。…利害関係なく、付き合えた友人もサトルが初めてだったくらい、私…大切にしたい人が少なかったの」
「サトルは琳子にとって最高の親友じゃないか。言っておくが、これまで何度もサトルには腹が立ったし、同時にサトルみたいになりたいと思うことがあった。あれだけ親友想いの友人は他にいないだろう」
複雑そうに日向は苦笑した。
「今の話はサトルには秘密にしてほしい」
「アハ…っ」
つい吹き出すと笑った。
「けれど覚えていてちょうだい」
日向の手を両手で握ると真摯な眼差しを向けた。
「本当に…いつも、どんな時も貴方は憧れの存在だった。貴方みたいになれたら、と何度も思ったわ」
「……どう考えても損ばかりする性格なんだがな。僕みたいなのは目指さず、琳子には自分の願いを叶えてほしい。…だが、そうだな。琳子の言葉は褒め言葉として受けとっておく」
握られた両手を愛しげに見つめて、日向は力なく笑みを浮かべてみせた。
「…そう言えば、琳子は卒業後はどうするんだ? それとも近々、転校の予定だったりするのか?」
「……卒業後はきっと、日本にはいないわ」
そっと手を離すと苦笑し答えた。
「だろうな。正直、いつ琳子が発つか分からなくて、こんな無茶苦茶な時期に告白することになったが、後悔はしていない。何も言えずに終わらせたくなくて、琳子には迷惑をかけた。…だが、琳子が探し人に会えることを心から願っている」
「……」
琳子は黙ってただ微笑んだ。
「…ああ、そうだ。卒業後の話、なんだが。いつになるか分からないが、店を持ちたいと思っている。日本に来て様々な文化に触れたおかげで輸入雑貨を扱ってみたいし、他に客を迎え入れられるような喫茶スペースを設けたりしてな。まだ夢の話だ。サトルやディランも卒業後も日本にとどまるかは不明だしな。…いずれ自分の店を持てたら、サトルやディランにも遊びに来てもらったりな。その時、どんな未来になっているか分からないが、もし気が向いたら遊びに来てくれると嬉しい」
「日本でお店を?」
「故郷じゃ自分の好きに店を開くなんて難しいからな。僕やディランやサトルや琳子みたいな行き場のない連中がひととき安らげる店を作りたいと思っている」
まだ夢の段階の話なので、気恥ずかしさまじりに話を続けた。
「軌道に乗ったらいずれ世界的に展開したいと考えている。二号店はディランの国に作ったりな。アイツ、でかい土地抱えているみたいだから、安くなるよう交渉してみるのもいいと思ってな。…まぁ、まずは一つ目の店を持つことを第一目標に努力するつもりだ」
「…素敵ね」
眩しげに日向を見上げた。
「………悪い。まだ夢の段階の話なのに、話が大きくなりすぎた。まぁ、何年後になるかは分からないが、また会えたらいいなとそういう話だ」
「……」
柔らかく吹く風で膨らんだ髪を軽く抑えると琳子は遠くを眺めた。
「……その頃、何をしているかしらね」
「…さあな。正直、どうなっているかは分からないな。案外、琳子のことだから、探し人を見つけて新たな道を歩んでいるかもしれないな」
日向もまた遠くを眺めた。
「……」
何かを言いかけて黙ると、琳子は優しい眼差しで日向を見上げた。
「…私も、貴方の幸運を願っているわ」
「…………」
複雑な表情を浮かべつつも、日向は笑みに変えた。
「…悪い。流石に高望みだった。卒業までいい友人となるよう約束する」
「?」
意味がわからなかった様子で疑問符を浮かべた。
「……?」
琳子の様子に日向も目を丸くした後、おずおずと口を開いた。
「…あー。その、卒業後、いつになるか分からないが会えたらいいなと話したが、それには答えることが出来ないから、幸運を祈るという言葉を返してくれたんじゃないのか?」
「…アハ」
日向の反応につい吹き出すと琳子は笑いながら答えた。
「わざわざ会う約束をしなくても、友だちならいつでも会えると思っていたわ。…貴方が会いたくなったら。もしくは私が会いたくなったら、いつでもどこにいても必ず、会いに行くわ」
「ああ、ぜひ来てくれ。しばらくはここで探しものを続けるつもりだ」
琳子の言葉に日向は表情を和らげた。
「見つかるといいわね」
「…そう、だな。お互いに」
放課後、ディランと一緒に帰る約束をしていたサトルは部活で使った植木鉢等を片づけに園芸部の備品管理倉庫へ向かった。校舎から離れていて普段から人気などない場所にあるそこは、倉庫の裏側が知る人ぞ知る生徒たちの喫煙スペースになっていた。とは言ってもサトルたち非喫煙派が多く在籍する園芸部の監視のお蔭もあり、最近ではめっきりそこで紫煙を見かける事は減った。そもそも未成年の喫煙は禁止されており、当然学内で生徒が喫煙など言語道断と思っているのだが、どういう訳か今日に限って珍しく煙草の香りが漂っていた。
「……」
気づいてしまえば放っておく訳にもいかず、恋人を呼んで対処するよりも証拠だけでも押さえておくべきと考えたサトルは息を殺し倉庫の裏に近づいた。最悪の場合片づけから帰って来ないサトルを心配して他の部員たちが様子を見にくるだろう。それでもいざという時の場合を考えて、シャベルを握り締めるサトルは裏を覗き込んで呆然とした。
「あ」
目が合うなり何とも間抜けな表情を浮かべる先輩を見下ろし、サトルは内心の戸惑いを隠しながら問い詰めた。
「……何してるんですか」
「あはは、やぁ。久しぶり? サトルさん」
一応の面識はあるがそこまで接点のないショウゲ。琳子を介して会った程度で、あまり得意なタイプではないからできるだけ近づかないようにしていた相手だ。
「学内は禁煙ですが」
「うん、だよね」
全く悪びれた様子もなく、慣れた手つきで咥えていた煙草を携帯灰皿に収めると。ショウゲはポケットから臭い消し用のブレスケアを口に含んだ。
「どうしても、ちょっと吸いたくなったんだよ」
いくら本人が気をつけて隠していたとしても学内で隠れて煙草を吸う学生がいるのは周知の事実だった。しかしショウゲに関しては学内では一回も喫煙現場を見かけた事がない。プライベートではどうかわからないが、制服を着ている間くらいはマナーを守る人物だと思っていただけにこの目撃はサトルにとっても意外なものだった。
「…普段から吸われているんですか?」
「まぁね。ヘビースモーカーって言われる程度には吸うけど、学校では吸った事ないよ。ここではって意味だけど」
つまり琳子たちがいた学園では吸っていたという意味だろう。
「…意外ですね。そこまで普段から自らを律している方が今日に限って…」
と呟いてからふと思い当たる事がありサトルは口を噤んだ。
―――今、琳子は屋上で日向と話合っている。
今日の為にわざわざサトルに屋上の鍵を貸して欲しいと頭を下げにきた日向を思い出し、あんなに真摯な態度で頼まれたら絶対に拒めないだろうと思った。二人が今、どんな結論を出しているのか当人以外にはわからない。だからサトルも花壇の植え替えをしている間も落ち着かず、他の部員に心配されてしまったくらいだった。
「……ごめんね、サトルさん。臭いが少ない奴にしたけど、ばれちゃったなぁ」
ヘラヘラと笑う態度は多分いつもと変わらない。時々見かける彼の姿と、何一つ変わりない。気の合う友人に囲まれていつも笑顔を絶やさず、周囲との距離をちょうどいい程度に保つ姿がいつも琳子と重なった。
自分によく似ているから、気にかけてしまうのだと琳子は言っていた。同じ学園で短い時でも共に過ごした仲間だから、『彼』を知る数少ない人だから―――
「はい、これ。賄賂ね」
サトルの前に突然差し出された飴。突然思考を遮られ、サトルは虚を突かれたような表情でショウゲを見上げた。
「初犯だから見逃してよ♪」
元より密告するつもりもなかったのだが、サトルは渋々それを受け取った。
「……気になるんですか? 琳子が何て返事をしているか」
受け取ったもののディランにばれたら面倒だろう。早々に証拠隠滅をしてしまおうとサトルは飴を口の中に入れた。
「ん~…どうなんだろうね? だって琳子ちゃんって、愛とか恋とかそーいう感情を信じないんでしょ」
珍しくどこか冷めた口調でショウゲは答えた。しかしどうでもいいとばかりに否定しておきながらも、無関心を装えきれていないようにも見えた。
「……。本人に言ったらきっと怒りそうですね、ソレ」
ここでいつものようにヘラヘラ笑われでもしたら、サトルの中でショウゲはやはり悪印象のままだった。
「サトルさんも勿体ないと思わない? ぼくが女の子だったら日向くんみたいな子、絶対キープしておくけどね。本当に真っ直ぐでぶれないいい子だよね」
正式に付き合うでもなくキープという表現を使うところが彼の狡猾な性格を表しているのだろう。思わずプッと吹き出して笑ってしまった。
「確かに日向は、あぁ見えてなかなかの好青年だと思いますよ。自信は追々ついてくればいいんですけど」
「まず二・三人適当に付き合ってみて慣れたらほどよく解れそうだよね」
「できる訳がないじゃないですか。あの堅物は天然です」
まるでディランと話しているような気になりながらも、サトルは口元に微笑みを浮かべながら応えた。
「だよね~…」
ハハハと乾いた笑いを漏らしながらショウゲは頭を抱えた。気だるげにも見えるその様子にやや不安を覚え尋ねた。
「…大丈夫ですか?」
「うん、まぁね。万年不眠症がここ最近ちょっと悪化しているだけだから」
「………っ」
声をかけようとしてサトルの制服のポケットが震えた。ケータイと取りだし画面を確認すると、琳子から連絡が入っていた。
「……和解…したみたいですよ。日向と」
「…そっか」
頭を抱えたままショウゲは呟いた。
「………」
画面を開いたまま何て声をかけていいのかわからず黙り込むと、再びサトルのケータイが震えた。ディランから部活が終わったから迎えに行くと連絡が入った。しばし逡巡したが、蹲るショウゲを相手に自分にできる事は何もないと判断すると
「…飴、ご馳走様でした。ぼくは帰ります」
「うん。またね、サトルさん」
ほんの少し顔を上げると、ショウゲは夕陽を背に受けるサトルを見て僅かに目を細めた。
まるでその表情が迷子になってしまった幼い子どものように見えた。
「…煙草は程々にして下さい」
そんな風に傷ついてもそれを傷だと認識すらできなさそうな彼に対し、どんな風に声をかけたらいいのかわからなくなった。
兄妹愛や仲間意識とでも形容してしまうにはあまりに複雑すぎる。好意と言うには未熟過ぎるかもしれない。けれど、琳子は確かにショウゲの存在を頼り始めている気がした。むしろ彼女自身も自覚していないだけで、何か特別な感情が芽生えようとしているのかもしれない。
そう思うと噂もすべてが虚言とも言い難いが、実際のところはわからないものだ。ただ一つ確信を持って言える事は、二人はよく似ている。親しくなっても踏み込めない領域があり、常に周りに対し警戒している。本当の自分を見破られないよう幾重にもベールを重ねていった結果、自分自身でさえ本来の感情を把握できなくなっているのではないだろうか。
「難しい注文だね」
苦笑しながらショウゲが手を振る。
憶測の域を出ない二人の立ち位置が掴めず疑問符を浮かべるも、サトルは結局使わずに済んだシャベルを片づけると恋人の元へと向かった。
秋風に寒さを感じるその日。奇しくも私の誕生日だった。駅のホームで落ち合ったサトルはどこか落ち着かない様子で、私の顔を見ると
「本当にいいの?」
と尋ねてきた。
誕生日プレゼントに何が欲しいかと聞かれて、私はしばらく悩んだ。普段の私ならきっとこんな提案なんてしない。況してや学園に関わる事に於いては特に、周囲に与える影響を気にしてきた。
「…私らしくないでしょう?」
逆に問いかけると、サトルは気まずそうに表情を曇らせつつも頷いた。
「直前まで取り止めようか悩んでいたの。でも…今日、きっと私は…傷つくわ。その時に傍にいて欲しいの。私が、私らしくない選択をしてしまわないように」
サトルはしばらく私を見詰めると、その瞳に強い決意を滲ませて頷いた。
「……必ず、止めるよ」
神妙な面持ちのサトルとはひどく対照的に、私たちに気づき手を振ってくるショウゲの陽気な姿を見つけた。今日も迎えを寄越すという彼の提案を断り、サトルを連れて電車で行く段取りへ変更した。
彼はセトを探しに行こうと言った。もしかしたら学園と縁のないサトルを連れてきた事で、彼は当初の予定から外れた行動に移すかもしれない。部外者に対してひどく閉鎖的な態度をとりがちな、学園に集う迷子たちの特性。学園の深淵を覗く行為に繋がるのだろうか。そうだとしても、何一つ後悔なんてしない。むしろ彼が人生を捧げようとしたあの巨大組織の謎を少しでも理解できたなら。何かが変わるだろうか…
「琳子ちゃん、サトルさん、お待たせ♪ 慣れない路線だったから遅くなっちゃってごめんね」
貼りつけたような優しい笑顔。何度も見てきたあの学園に溢れた笑顔を彷彿とさせた。
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