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第二部 首を繋がれた王と姫君
第十四話 頭巾を失った赤ずきん
しおりを挟む第十四話 頭巾を失った赤ずきん
―――This is the story of Kikuko.
新しい音楽が流れ再びダンスが始まった。
仮面をつけた生徒たちが制服と共に普段の自分を脱ぎ捨てて、男と女になり身体を密着させて踊り続ける。むせ返るような薔薇の香りが辺りに充満して、頭がぼんやりとする。輪の中にキサメを捕まえたベティが、自慢げに彼の首に腕を回し悠然と踊っている。サエやジェニファーたちも仮面をつけて踊っていた。
―――薔薇の香りに意識をすくわれそうになる。
ふいに言葉を区切りベンバー教授は心配げにリンコの顔を覗き込んだ。さっきよりもリンコの顔色が悪くなっていたので、あたしも気になった所だ。
「大丈夫かい?」
彼の手がリンコの肩に触れようとした瞬間、俯いていたリンコは身体をビクッと震わせて怯えた表情でベンバー教授を見上げた。
瞼が隠れるくらい大きく両目を見開き、ものも言わずに彼を見詰めた。
「リン…」
普段の彼女から想像もできない表情に戸惑う。
「―――母に会う為に、日本にいたんですか?」
虚を衝かれた表情の後にベンバー教授は狼狽をあらわにした。同時にリンコの目的を察した。でも日本人離れした面立ちの二人を見比べ一概に否定はできない。ピリピリした空気を肌で感じ息苦しさを感じる。緊迫した面立ちの二人の狭間に立ち、居場所のなさを実感して苦しくなった。
「ユイコさんとはまだ繋がりがあるんですか? それとも彼女が単独で動いているの?」
次第に語気が荒くなっていくリンコに圧倒され口をつぐんだまま見守った。
「貴方が傍にいてくれたら! 私たちは、家族はバラバラにな」
悲鳴に似た叫び声は突然、途切れた。
蒼褪めたリンコの顔がスローモーションに足元へ沈んでいく。彼女の長い髪が顔を撫ぜ、ふんわりと舞いながら地に着くまでの間、あたしは一歩も動けずに硬直していた。
賑やかな音楽が鼓膜に張りついて離れない。
リ、ン、コ、が、倒れ…た…
脳は続く行動を早くも指示してきているのに、足元で横たわったままの彼女を見下ろしたまま呆然と立ち尽くした。
「!」
視界の端に黒い髪が映る。咄嗟にベンバー教授だと思ったが、リンコを抱きかかえ立ち上がった人物を見て軽い衝撃を受けた。
「ただのひきつけです。ドクター・アンジーの元へ連れていきます」
仮面の奥で黒い瞳が冷ややかにベンバー教授を一瞥すると、ミドリは踵を返した。
「ミ、ミドリ」
我に返ったベンバー教授が慌てて発した。上体をひねりこちらを睨むように見るミドリから、冷たい鋭利な刃物を連想させる感情を察し思わず目を逸らした。
「彼女は……あの、例の事件について何も覚えていないのか?」
眉間に皺を寄せると「当たり前でしょう。惨事を目の当たりにしたんですから」と苦々しげに呟いて歩き去っていった。
例の事件…?
人混みに消えていく彼の背中を見て反射的にあたしは動きその後を追った。ベンバー教授の呼ぶ声が聞こえたけどリンコの身が心配で必死に走った。酔った生徒や教授たちが邪魔でなかなか進めない。ましてや着物の所為で股を広げて歩けずどんどん距離が開いていく。
甲高い笑い声や音楽がうるさく、右へ左へと流れる群れに足止めをくらい人垣の向こうで扉が開くのを見て絶望的な想いが身体を貫いた。
「ミドリィ!」
あたしたち、やっと友だちになれたのに、またリンコは手の届かない所へ行ってしまう。狂宴に紛れてガドレの主が仲間を探す。気に入った生徒を見つけ、コレクションの一つにしてしまう。
「お願い! 待って!」
生徒会はガドレの主の息がかかっている。主に捧げる子どもたちを選別する為にある。だからリンコを憎んでいる彼が彼女を捧げてしまう。選ばれし乙女は閉じ込められたあたしたちの象徴。世界を変えようとした恋人を殺し、変わらないこの世界を求めた乙女はあたしたちの願望。
選ばれた人々の為だけに扉は開かれる。鍵を手に錠を携える選ばれた子どもたち。門前に集まる迷子たちを、取り残されたあたしたちを見捨て―――
「リンコォ!」
扉を叩き彼女の名前を連呼する。
鍵がかかってどんなに押しても開かない。イヒヌゥのあたしの為に、扉は開かない。門前のあたしたちは世界に閉じ込められて……
カチッという音が響き静かに扉が開いた。
隙間から入ってくる冷たい風が泣き腫らしたあたしの顔を撫ぜ、廊下に佇むミドリはうんざりした面持ちで
「鍵を見たって密告しないでくれよ」
とぼやいた。
医務室に向かうあたしとミドリの影が後方に大きく伸び、二人分の足音が人気のない廊下にこだました。
涙が乾いて目元がヒリヒリしている。顔を洗いたい気分だったけど今だ意識を取り戻さないリンコが心配で、なおかつずっと沈黙したままのミドリの反応が怖くて我慢した。
なんだか不思議な感じだ。リンコと仲直りした途端、今まで見ようともしてこなかった色々なことが気になった。毎年行われてきたガドレの最中に、生徒会たちが数人の生徒を勧誘し、声をかけられた生徒たちが翌日から姿を見せなくなったことにも大して疑問を抱かなかった。
モリアが消えたと知っても、彼もセトに選ばれたんだと思って納得しようとしていた。だけどリンコはいつも信念を持って行動している。当たり前だと思って忘れようとしていたことにも、彼女はちゃんと疑問を抱いて突き進んでいく。
セトが彼女をダンスに誘った時もやっぱり、と思った。この世界に染まらずにいるリンコは周りから浮いている。一人だけ色が違うように、遠くからも目立っている。だから多くの人の目を惹いてしまうのだ。けどこの人は? リンコの実の兄なのに、いつも彼女に冷たく当たる彼はどんな心境でいるのだろう。
普段の穏やかな雰囲気など微塵にも感じさせない、仮面の向こうにある瞳を捉え問いかけた。
「……どうしてリンコを嫌うの?」
声が闇に吸い込まれていくようにして消えていく。数秒前と変わらない沈黙の中に、あたしもミドリも溶けて一緒になってしまうんじゃないかと錯覚した。肩を並べて歩いているだけで頭の中は不安でいっぱいになる。彼が考えていることがわからず想像が掻き立てられ、恐怖の糧となっていった。リンコはいつもこんな空気にさらされていたのだろうか。あたしなら一日で発狂してしまう。
微動だしない彼女の様子を伺おうと、身を乗り出したその時
「幸せには常に犠牲がつきものだ」
と唐突に語り出した。
「だからベンバー教授について…色々と嗅ぎまわらない方が身の為だ」
どうしてそんなことまで知っているの? と聞きたかったけど、威圧的な強い口調に抗えず黙って耳を傾けた。
「妹も父親の正体を明らかにするのを拒絶している。それにこれは、ぼくらの問題だから心配してくれるのは嬉しいけど、あまり家族間のことにまで口を出さないで欲しいな」
やんわりとした柔和な物腰で微笑むと、ミドリは医務室の扉に手をかけた。
「右ポケットに鍵が入っているから開けてくれないかな」
とお願いしてきた。リンコを抱いているから両手が塞がっている。ガドレの最中だし教授たちのみならず、ドクター・アンジーまで出払っているんだ。
彼の右側に回りポケットに手を入れて探していると
「こんな所を見られたら即、罰ゲームゆきだね」
と苦笑した。
「あたし…」
真鍮の鍵を穴に差し込みながらずっと閉ざしていた口を開いた。
「友だちだから、リンコが本当に望んでいることを叶えてあげたい」
扉を押す間も背中に視線を感じた。
「だからリンコがそう、口に出さなかったとしても……父親のことを知りたいんだって思っている。あたしのしていることは、間違いないって信じているから」
お母さんは言いました。
『決して寄り道をせずにお祖母ちゃんの家へ向かうのですよ』
赤ずきんは頷きました。
『知らない人の後をついていかないわ』
お母さんは満足げに微笑むと赤ずきんを家から送り出しました。ぶどう酒と焼きたてのパンを持たせて。彼女の姿が森の奥へ消えていくまで、ずっと戸口で立って手を振り続けました。赤いずきんが真っ暗な木立の向こうに完全に飲まれてしまうのを見届けると、お母さんは戸を閉めて内側から施錠しました。
いくつもいくつも鍵をかけて、小さな穴から蟻だって入れないよう塞いでしまうとやっと安心した面持ちで溜息をついたのです。それからお気に入りの椅子に腰をかけて編みかけのセーターを取り出すと
『これで私の身は、安心だわ』
と呟きました。
安心だわ…と……呟きまし………
「何を呟いたんだ?」
霞がかった視界の向こうで聞き慣れた声が笑う。しっかりと貼りついた瞼を慌てて引き離し暗闇の中に光を注ぐ。濃いシルエットの中に浮かぶ眼鏡の形を見つけ、目の前にいる人物を察した。
「……翠?」
胸元までかけられた温かな毛布の感触に気づき、いつの間に食堂から医務室へ移動したのだろうと、咄嗟に記憶を遡った。ベンバー教授に向かって叫んだ後、頭の奥で何かが意識の強制終了を行ったような感覚。前後の記憶が曖昧で、でも確かに何かを思い出している手応えだけを感じた。
「友だちには席を外してもらっている」
やけに『友だち』という箇所が嫌味に聞こえたが、ぼんやりとする頭は夢の中身を反芻していた。
何かを暗示しているような夢だった。赤ずきんのお話にあんなシーンはあっただろうか? 重たい瞼を動かし瞬きを繰り返す。上体を起こそうとすると、どこかで打ったのか頭が痛かった。長い髪が顔にかかって鬱陶しい。ガンガンと痛みが響く頭を抑えてベッドに凭れかかると
「どこまで思い出したんだ?」
と、鋭い口調が向けられた。
「……目の前が真っ赤になって…」
かぶりを振り、目にかかる髪を掻き上げて答えた。
「それ以上思い出せない」
「殺されたんだよ。母さんに好意を寄せていたストーカーに」
「!」
耳を疑う言葉に全身が硬直する。
「ショックで半年ほど入退院を繰り返していた。ただそれだけのことだ」
「…本当に……それだけ、なの?」
薄闇の中で微光を受け反射する仮面を見上げ、彼がまだ何かを隠しているのではないかと勘繰った。
「そこまで思い出せたら十分だろ。死体の切断面まで思い出す必要はない。犯人の死刑も確定し、舞台になった別荘も処分した。もう、過去なんだよ」
嫌な類の重みを持って響く言葉を繰り返し、無意識に唇を噛み締めた。思い出したいけど、事実を目の当たりにするのが怖い。辺り一面が赤く染まった現場を想像するだけで身の毛がよだつ思いにさらされる。
目の前で行われた殺人。母のストーカー。ショックで入院をしていた……
でも府に落ちない。最後の大切なピースが欠けているような気がしてならない。事件にはまだ続きがあって翠はそれを意図的に隠している。
「仕事が残っているから戻るよ」
私の視線を振りきるように踵を返すと、扉の向こうで待機していたキッコと言葉を交わして出ていってしまった。
「いきなり倒れたからびっくりしたわぁ」
駆け寄ってきたキッコがまるで子犬に見える。純粋な愛情を放出し、嬉しそうに尻尾を振っている気がして、翠との会話の後だからなお更愛しく感じられた。
「心配かけてごめんなさい」
「うぅん、元気そうでよかった」
自然と口元が緩む。温かな感情が沸々と込み上げ、常についてまわっていた警戒心が解きほぐされていくのがわかった。
壁にかけられた時計を一瞥し、ベッドを抜けドレスの皺を伸ばす私を眺めていたキッコが言いにくそうに口を開いた。
「あたしもベンバー教授じゃないかって、思っているの。リンコの本当のお父さんだって証拠を」
「もう…いいの」
彼女の科白を遮り、暗澹とした想いを伝えた。
「翠の言う通りだから。知らない方が傷つかないでいられる。例え彼が私の父だとしても既に、違った人生を歩いているんだから。それにもう、私たちは家族じゃないもの」
「で、でも…本当にそう思っているの?」
「……父親の正体を明らかにすることで、これまでの関係をリセットして、また家族をやり直せるんじゃないかって思っていた」
扉を出て静まり返った廊下へ出る。遠く離れた食堂から甲高い笑い声が響いてきた。
「だけどそんなこと、もう関係ない。父親が誰であろうと、お祖父ちゃんもお祖母ちゃんもストーカーに殺されていた。お父さんがいたとしても、私はあの殺害現場に出くわしていた。お母さんを憎んだだろうし翠は私を嫌っただろうから。今更、過去を変えられないもの」
私のことはどうでもいい。辛い過去と向き合いたくない。すべては希望的観測だった。
「それより今は、モリアがどこへいったのかが気になるわ」
貼りつけた笑顔は心なしか歪だったのだろう。けれど今はどんなに努力しても、普段見たくうまく笑う自信はなかった。そんな私の顔を見てキッコは複雑な面持ちで目を伏せた。
「どうして……リンコを嫌うのって、ミドリに聞いたの」
「優秀な人生を歩く上で私が唯一の汚点だからよ」
わずかに顎を引くとキッコは一点を見詰めて続けた。
「幸せには常に犠牲がつきものだって…言われた。だけど、あたし、その…会った頃からミドリのことかっこいいとか言って、見てたからわかったんだけど」
着物の裾を握り締めるとキッコはか細い声で呟いた。
「ミドリはいつもリンコを見ている。さっきも倒れたリンコの元に一番に駆けつけてきたわ」
立ち竦む彼女の姿を眺めてふっと肩の力を抜いた。私以上にキッコの方が落ち込んでいるようにさえ見える。出会った当初の彼女からは想像もつかない姿だ。
―――キッコはある一点に於いてひどく鋭いところがある。
だけれど私はそんな彼女の疑問に答えるつもりはない。私と翠の間にあるもの。それは家族という皮を被った他人という、居心地の悪い距離感だけだ。
「彼にとって駒の一つなのよ。ドジを踏んだら結果的に翠にも被害が及ぶから、監視しているだけだわ」
もの言いたげな様子だったが手を繋ぎ歩き出すと、自らも歩調を速めた。
食堂へ戻ると宴は終盤を迎え、早速鍵を持っていた所を見つけられた生徒たちが罰ゲームを受けていた所だった。壇上に並び出されたお菓子を選んで食べていく。三分の二の割合でお菓子に激辛調味料が入っているらしく、あまりの味に咳き込む生徒も多く見られた。
また面白いリアクションを示した生徒には更に特製シュークリームが出され、二択のどちらかにカスタードの代わりに納豆が入れられていた。トルシェンは見事、納豆入りを当ててしまい両目を飛び出さん勢いで開眼すると壇上から飛び降りトイレへ駆けていった。
大爆笑が沸き一斉に拍手が起こると、司会役の生徒が壇上に上がり宴の終了を告げた。
穏やかな音色が奏でられ帰りを促された生徒たちが各々に食堂を出ていく。あたしたちも出ていこうとしたが壇上から下りてくるティルの姿を見つけると、リンコは立ち止まり
「先へ行っていて。彼女に少し話しがあるの」
と断って彼女の元へ駆けていった。人混みに消えていくリンコの後ろ姿を見送り、あたしは流れに身を任せて歩き出した。
思っていたよりもあの二人の溝は深かったのかもしれない。普段の優しい態度に騙されて気づきもしなかった。リンコはミドリを恐れている。あんなに強い人が、恐れている。
そしてベンバー教授が口にした例の事件って…
かぶりを振り勝手な想像に歯止めをかけた。あたしはリンコを信じよう。そして今できることを最優先させるんだ。まっすぐ寮へ向かう集団から離れて廊下の隅に寄った。人気がなくなってからモリアを探してみよう。そういえば消えていった生徒たちはどこへ行くのだろう。ずっと考えもしなかったけど、よくよく思い出せば入学以来、顔を見ない生徒が何人かいたことに気づいた。
「大和撫子という言葉はきみの為にあるのだね」
おちゃけた口調につい相好を崩す。白いタキシードが金髪によく似合っている。爽やかな笑顔を絶えず向けるキサメに微笑みかけると
「これで一年はベティと公認の仲になっちゃたわね」
「ならば明日はきみに申し込もうかな。キッコが相手なら誰も文句を言えないさ。ただ一晩で多くの男を敵に回してしまうのは、恐ろしいけれどね」
やっぱりキサメはプレイボーイだわ、と改めて認識したもののつい顔を赤らめてしまった。
「副会長の仕事はまだ残っているんじゃないの? ミドリはまだ向こうにいるみたいだけど…」
と言いつつも、彼が仕事を抜け出してきたのは明白だった。
「副会長の役目を果たすよりも、ぼくはきみの身が心配なのだよ」
「どうして?」
「心優しききみのことだ。リンコの過去を知って悲しみを共感しているのでは、と思ってね」
一瞥を向けると廊下に飾っていた薔薇を一輪、手に取り芳しいその香りを吸い込んだ。
「当時十歳だった彼女は頻繁に図書館へ通っていたらしいね。純粋な心は純粋な精神のみ宿る。だから事実は傷跡のみ残し、記憶から抹消させられた」
訝しむあたしの顔を覗き込むと意味深な口調で更に続けた。
「彼女は何故、母親をあぁも憎むようになったのか。そして兄であるミドリを恐れ、異性を避けるようになったのか…」
青い瞳が照明の少ない廊下できらりと光る。いつの間にか肩に腕が回され、彼の身体が密着していた。あまりに慣れないシチュエーションにあたしの心臓はドキドキし過ぎてオーバーヒートしそうだった。
「けれど同性ならば尚更彼女の過去は辛く耐え難いものだと捉えるだろうね…」
耳元でキサメはひどく甘く囁きかけてきた。
リンコの過去に…何があった……の?
目まぐるしく感情が駆け巡る。間近に迫るキサメは何かを知っている。あたしの知らないリンコを、彼は知っている。
「……教えて」
想いが溢れこぼれ落ちた。それは抑えていた感情の堰をきり、気がつけば叫んでいた。
「リンコについて知っていることを全部教えて! あたし…あたし、リンコの為に何ができるのか知りたいの」
あたしは完璧なリンコの『完璧な』友だちになりたい。頼ってほしい。信頼を与えてほしい。彼女の傍らにしかあたしの居場所はないの。世界中のどこにだってあたしの居場所はない。だから希望のすべてを捧げたい。
―――リンコの為なら死んだっていい。
玉座から開放されたティルは終始、暗い面持ちで佇んでいた。誰もいない談話室の片隅に椅子を設けると、私が座るのを待って彼女もようやく腰を下ろした。
近くで見てようやく気づいたけど、彼女の目元は幾筋もの涙の痕が目立っていた。赤く腫れた瞼を上下させると、か細い溜息を吐き虚脱した面立ちで私を見た。
「……モリアが消えたの」
大して反応を示さず、背凭れに背中を預けただけだった。
「もしかしたらこれは…ベンジャミンの時と同じかもしれない。明日ガドレが終わりしばらくしてから転入期間が始まるでしょう? そうしたらもっと沢山の生徒が消えて」
「―――消えるのは……仲間と、コレクターのどちらかよ」
薄い肩を震わせるとフッフッと笑い出した。機械仕掛けの人形が息を吹き返したようにぎこちない動作で上体を曲げると泣きながら笑った。
「でも例外がいたわ。七年前にファルバロが本気で恋をした相手がいた。彼女は彼に殺されたの。あのグドゥの塔から突き落とされてっ! 私とベンジャミンは見ていたの。長い髪の毛が鳥の翼みたいに広がって……あぁ、空を飛ぶんだって思ったその瞬間に、チュチュは頭から落ちていったわ」
興奮してティルは剥き出しになった肌を激しく掻き毟った。何度も繰り返し掻くうちに、血が滲み流れ出す。
「やめて!」
手足をバタつかせるティルの腕を掴み必死に抑えるも、彼女は更に激しく抵抗を続けた。
「誰もここから抜けられない! 彼を愛しているなら永遠にこの地に縛りつけられればいいわ! 手始めに貴方のお友だちから消えていった。だから言ったのよ! 彼を助けなきゃ…被害はもっと広がるって。次に危ないのは誰かしら……私は最愛の人を失ったのよ」
「もうやめて!」
腕に爪を立てられ鈍い痛みが走った。
触れ合う肌を通じて彼女の悲しみが伝わる。強く、そして確かな愛を二人は育てていたのに、それを奪われた底知れない恨み。ティルを抱き締め、私は知らないうちに涙を流していた。
「ごめん…なさい……ごめんなさい…」
もっと早くに気づいていればよかった。心のどこかで、ティルの警告を無視しようとしていた。希望を持ちたかった。セトがそんな罪に手を染めているだなんて、思いたくなかった。
「……彼を…愛している、んでしょう?」
真摯な眼差しが私を捉えて離さない。
答えなければいけない。ずっとずっと逃げてきた質問から。
―――でも
『でも?』
こんなにセトのことを考えている。常に頭のどこかで彼を想っている。それでも恋だとは認めないのは、何故なの? 架空の世界。物語の中で人々はいとも簡単に恋をしていく。それなのに私は未だに拒んでいる。
『怖いの…』
闇に怯える少女がか細く呟いた。
『リボンをちょうだいって言われるのが…怖いの』
道を歩いていく私。行き先は決まっていつも図書館だった。学校に友だちはいないから、同じように孤独を背負う人々が集うあそこなら、誰も私に友だちがいないだなんて気づかない。
『でもね、今日は友だちになれそうな人と出会ったの』
嬉しそうに微笑む幼い私。長い髪を二つに分けて赤いリボンを結っていた。
胸には赤ずきんの本。
『この本をとってくれたの』
足元に伸びる影が広がり一人の男の形へ変わった。見覚えのある顔。大して特徴のない人混みに紛れればすぐに忘れてしまいそうな穏やかな面差しの青年。
『あっ、お兄ちゃん』
優しく微笑むと彼は私の頭を撫ぜた。全身に電流が走ったような衝撃が走る。身体の底から沸き立つ憎悪と嫌悪。
『ご本を読んであげるよ』
『本当に?』
二人は手を繋ぐと私に背を向けて歩き出した。
止めたい。止めなくちゃいけない。でも鉛を飲んだように体が動かない。だめ、行かないで。行っちゃだめなの!
「だめ……だから…」
こめかみから汗が流れる。
掠れた声を震わせ紡ぐ。次第に焦点を取り戻し始めた視界の隅に、ティルの怯えた顔を見つけた。
「男の人は…怖いの。狼に食われるのは……悪い子だから」
「男性恐怖症なの?」
「違う…わからない……」
戸惑いながら、どうしても確信が持てず押し殺した声で
「ごめんなさい」
と誰に対する謝罪かもわからずに、私は無意識にそう呟いていた。
白い煙が月光を受けて消えていく。
煙草をくわえたキサメの横顔がひどく大人びて見えた。年も大して変わらないはずなのに、彼やミドリたちは同じ時間の流れの中でなんてうまく立ち回っているのだろう。
そしてリンコはどうしてそんなに悲しい過去を背負ってもなお、強く美しいのだろう。
「……信じたくない…」
誰もいない空き教室にあたしのすすり泣く声がこだまする。
「なんと言おうとも事実は変わらない」
窓枠に腰をかけていたキサメが輪の形をした煙を吐き出しながら、容赦なく返された。
「あの男がリンコの父親だということも、彼女が経験したことも紛れもない事実なのだよ」
「でもリンコと喋っている時だって全然…顔色一つ、変えないで……」
あたしは床の上で膝を抱えて呟いた。
「学園は舞台。ぼくらは役者。中でもバロに近いものほど演技力は磨かれるものなのだ」
「だからってお菓子にそんな薬を混入して…リンコが…娘がそれを食べているのを平然と見ていられるの?」
と言ってから急に下腹部から異物が込み上げてこようとする気配が伝わった。
毎日おいしく食べていたお菓子に薬が入っている。知らないうちに薬漬けにされていた。必死に胃の中のものが逆流しようとするのを阻止しながら、頭の中で彼の話を整理し考えを巡らせた。学園があたしたちを意のままに操る為に? それなら生徒たちのほとんどが中毒だってことになる。
「彼は家族を捨てた身だからね。もはや娘とも思っていないだろう」
ポケットから携帯灰皿を取り出すと吸殻を捨てると、清々しい面持ちで宙を仰ぎ大きく深呼吸をした。両腕を頭上に向かって伸ばしながら
「他人事だから無情だと思えるものさ。実際の身に降りかかれば嫌でも受け止めるしかないのだよ。それ以外に方法はない。きみが望むならぼくが調べた彼女の過去を打ち明ければいい。きっとそれをきっかけにすべてを思い出すだろう」
そんなこと…できないと否定し、俯いた。
あたしの胸中を察し冷笑を向けると窓から離れ、机の合間をすり抜けて入り口まで移動していった。
沈黙は逆にあたしを責め立てる。自分の勇気のなさや腑がないのなさを痛感して、あれだけ息巻いていたのに結局は、現実を目の当たりにして泣きじゃくるしかできないんだ。
キサメはドアノブを掴むと上体を捻り
「もっとも……時間の問題で思い出すだろうけどね」
と、捨て台詞を残し立ち去ってしまった。
遠のいていく足音に耳を澄ませながら考えた。ありがままの事実を伝えるべきなのだろうか。父親の正体もミドリが彼女を憎む訳も、リンコは知らない。
それもあたしに委ねられている。もしもリンコがセトのことを好きだとしたら、どうなってしまうのかしら。彼がリンコの想いに応えたとしても彼女が最後の選択を拒んだら…
「…殺されちゃう……」
恐怖に臆し新たな涙が込み上げてきた。ずっと握っていたハンカチはもうぐちゃぐちゃに濡れているので、着物の裾で拭いながら立ち上がるとよろよろと歩き出した。
傍らに人がいないだけで沈黙が耳に障る。脚が痺れている。だけど急いで帰ろう。寮に行けば誰かがいる。今はただ周囲を覆うこの闇が怖かった。ずっと味方だと信じていたこの学園に潜む漆黒の世界が―――
「ちゃんと意見したんだ」
「ヒッ!」
背後で誰かが突然呟いた。
血の気がひいて心臓がバクバクと飛び上がる。怖くて、誰がいるのかわからなくて動けなくなった。
「ぼくだって本当はこんなことしたくないけどさぁ。でも台本通りに進めるのがぼくの役目だもん」
空気が動くのと同時に薔薇の香りがした。
「だ…誰なの……」
唾を飲み込み尋ねる。
「シィクンツッが勝手に動かなきゃ、きみはまだ舞台に立っていられたのにねぇ」
からかうような陽気な口調。聞き覚えのある声なのに、初めて聞くような違和感が耳に残った。
「余計なこと知らなきゃ最後までリンコの友だち役を熱演できたはずなのにさ。かわぃそーに」
身に迫る危機を本能で察し悲鳴を上げようとしたその時。目の前に別の誰かがあらわれ、あたしの口元を布で塞いだ。薔薇の香りが身体の中に吸い込まれる。
「いくらぼくでもね…王様の命令には従わなくちゃいけないもん」
闇の向こうに彼の茶色い瞳を捉えた瞬間、意識は強制終了を告げた。
長い夜が終わり、ようやくガドレは最終日を迎えようとしている。
泣き疲れた私とティルはお互いを支えるようにして寮まで戻ると、ベッドに身を預けすぐに深い眠りへついた。覚えてはいないけど沢山の夢を見た。寝起きもあまりいい気分ではなかった。だけどベッドを抜ける時に起きたティルが
「おはよう」
と微笑みながら挨拶をしてくれた。
ぶ厚い雲が空一面を覆って朝日を遮っている。蠢く灰色の雲の動きを目で追いながら
「……雨が降りそう」
とぼやいた。
「ガドレの終わりはいつも天気が荒れるの」
欠伸をしながらティル起き上がると大きな伸びをする。そんな仕草までどこか絵になってしまうから素晴らしい。
「これから本格的に冬が始まってすぐに転入期間が始まるわ。そうしてバロの手によって選ばれた生徒たちが消えていく」
カーテンを開けると眩しげに目を細めた。キラキラと輝く彼女の黄金の髪を一瞥し、顔を洗いに部屋の外へ出るとちょうど隣のドアも開き早くも着替え終わったサエが出てきた。
声をかけると私を見て一瞬驚いた表情をした。
「あれぇ、キッコと一緒じゃなかったの?」
「え…? 一緒も何もガドレが終わってから会っていないわ」
「だってぇ……昨日から帰ってないのよぉ? ガドレの間はシュカたちのチェックも入らないし、てっきり一緒にいるんだと思ったぁ」
心臓を鷲掴みにされたような衝撃が走る。
「ち、ちょっと!」
サエの声に背を向けて彼女が出てきた部屋へ飛び込んだ。
「キッコ!」
そこに彼女の姿はない。机もベッドもクローゼットも、すべて何時間か前までは触れていたはずなのに、無情にもそれらから彼女の温もりを感じられなかった。
キッコが……消えた…
膝から力が抜けその場に座り込んだ。
壁の向こうでキサメが笑い出した。それまでは身支度を整えて寮の部屋でのんびりと過ごしていたのに、何を思い出したんだろう。『ぼく』と同じ疑問をミドリが抱くのを待っていると、ベッドで本を読んでいた彼が
「悪巧みはうまくいったのか?」
と起き上がり椅子にかけていたスーツの上着に手をかけた。
悪巧み? 狭い通路の中でそこに秘められた意味について考える。キサメはいつそんなことをしたんだろう。ガドレの間は四六時中、教授たちが協力し彼らシィクンツッを監視している。だからそんなに目立った行動をとれる訳がない。ミドリの質問に微笑を浮かべるとその笑顔を保ち鏡に向かい、キサメは丹念に櫛を入れながら答えた。
「あぁ、キッコのお陰で学内の失踪にパターンがあることがわかったよ」
鏡と向き合うキサメの背中を一瞥し、引き出しにしまっていた昨夜の仮面を取り出すとそっと胸ポケットへ入れた。
―――今宵はガドレの終演。最高の宴が行われる。
それが理由なのかわからないけれど、二人の行動を覗き穴から監視している間、妙な緊張が身体を包み息苦しかった。
「モリアの場合はセトの意思が反映されている」
「彼の意思が反映されることは稀だと思っているのだよ。彼女の場合はリンコの父親の正体を告げた翌日の失踪だ。これこそ主流パターン。バロの命令と言わざるを得ない」
「つまりは…あの男からの警告だな」
「そぅ。次に危ないのはぼくか、ミドリだ。もしきみが突然消えてしまったら、大勢の女子が泣くだろうね。特にチェボンあたりがぼくの好みだな」
大袈裟なリアクションをまじえる彼を無視し、ミドリは上着についた埃を払い落とすと意味深に呟いた。
「簡単に消せやしないさ」
鏡に映るキサメの目が怪しく光る。櫛を手元に置くと、ワックスで髪を整え様々なポーズを作りながら
「まったく…彼女は自分の存在価値に気づいてないなんて、なんて不幸で美しいのだろうね。きみの唯一のアキレス腱であり、学園に服従する父親の弱みでもあるのだから」
『ぼく』の視線がキサメへ集中している間にバタンとドアが閉まる音がした。見ると室内からミドリの姿が消えていた。静まり返る辺りの空気が急に重たく感じられた。窓の外で巨大な雲が流れていく。風に揺られて木立がざわめいていた。雨が降りそうだと思ったその時、ガラスに水滴が飛び散った。すぐにそれは激しさを増して瞬く間に大雨の天気へと変わっていってしまった。
「自らの正体を隠そうとする父と、本心では父親を知りたがっている娘」
風雨に掻き消され聞きとりにくくなる彼の声をもっとちゃんと捉えようと、穴に耳を寄せる。雨音がテレビの砂嵐を連想させ、キサメの独り言は遥か彼方から聞こえてくるナレーターのようだった。
「与えられた環境はとても屈折していて、彼女自身が過去を思い出すのを拒んでいる。まさか完璧だと信じていた兄の想いが……家族はバラバラになってしまっただなんて想像もできないだろう」
フッと口元を綻ばせたような溜息が漏れる。
「それにしても、彼が指名した役は随分と…難しいね。彼女の一番の友人が消えたのも本来、台本になかった展開なのだから」
「!」
危険を感じ咄嗟に覗き穴から身を離す。小さな穴の向こうで彼は『ぼく』を見詰めて微笑んでいた。
生徒会室の大きな扉の前で翠は待っていた。
昨日とほぼ同じ装い。ただ違うといえば仮面をつけず、ポケットへ入れているというぐらいだ。ミドリは私とティルの顔を交互に見ると、何も言わず身を翻し生徒会室へ入っていった。廊下に残された私も、ティルに促されてようやく重たい足を動かした。
赤く腫れた目を見てミドリはなんて思っただろう。キッコの失踪を知れば、また私の無力を笑うだろうか。その光景を想像しぐっと奥歯を噛んだ。今は何よりもキッコを見つけ出したい。モリアと共に無事でいてくれたら、安否を確認できたらもう何もいらない。
どうか生きていて……
肩を優しく叩かれティルと共に豪華なソファに腰を下ろす。クリーム色の壁には天井まで届く大きな本棚が並び、そこには様々な書物が収められ、空いたスペースには可愛らしい小物が飾られていた。
やはりテーブルには深紅の薔薇が飾られており、毛足の長い絨毯を越えて近づいてきた翠は花瓶の足元に一枚の写真を置いた。
「ユンの姉のチュチュだ。既に死亡している」
セトが愛した少女。彼の手によって殺され、学園に存在を消された……
こちらに向かって目を細めて笑いかける彼女から視線を逸らし、床一面に散らばった本に注目した。彼女の背景に写る壁の落書きも、確かに見覚えがある。確信した私の表情に気づいて翠が尋ねてきた。
「見覚えがあるのか?」
「個人レッスンを受ける時に使っていた秘密の部屋よ。落書きも本にも覚えがあるわ」
するとティルがテーブルの上に身を乗り出し、写真に鼻を突きつけて眺めるとしばらくして思い出したかのように答えた。
「これはバロの息子が恋人に贈った本だわ」
「恋人に?」
眉間に皺を寄せ翠は尋ねた。
「バロの息子は精神を病んでいたのよ。だから恋人にこうして毎年童話を贈っていたらしいわ。けれど大量に贈るから彼女が読み終わったら再び回収していたと聞いたけど…ここに集められていたのね」
「図書室にも混じっている可能性がある」
写真を受け取り再びよく観察してみる。レッスンの時は大して気にも留めていなかったが、国内外を問わずに集めたものだろうけどタイトルだけを見ると創作童話も含まれているようだ。
そういえば以前に図書室でセトの本を見つけたこともある。美しく装丁された本を思い出し、作者名のなかった人魚姫のお話。あれももしかしたらユキオさんの創作だったのかもしれない。
「チュチュの右側にある、この本は…創作なの?」
「えぇそうよ。ユキオは自分で物語を作るのが好きだったみたいだから」
と言葉を区切ると、改めてティルは翠を見上げた。
「私を呼んだのはファルバロの婚約者だからでしょう? 色々と聞きたいなら、私にも協力してくれるわね」
「それに見合うだけの情報を提供してくれたらな」
素っ気ない返答にティルは嬉しげに頬を染め、長い睫を上下させた。こうして絡むようになってから気づいたけれど、ティルはとても表情豊かで自分の気持ちに正直な性格の持ち主だった。そして根拠のない彼女の前向きさは、いつも後ろ暗いところばかり気持ちがいってしまいがちな私を明るく導いてくれる。そんな彼女が私と翠の間に立つことで、重くなりがちな空気にささやかに浄化するような錯覚が生まれた。
「彼女は塔から転落して亡くなったの。あまりに酷い死に顔に家族が引き取るのを拒否したから、内々に学園が死体を処理したらしいわ。本来なら誰にも知られずにチュチュは消えるはずだったけど誰かが噂を流したのよ」
「ユンがその張本人だ」
「本当に? ユンはチュチュをとても慕っていたわよ」
「単なる嫉妬からだ。優秀な姉を慕う反面で憎んでいた。けれど彼女が人知れず闇に葬られるのは忍びないから……見事なまでに歪んだ根性だよ」
二人の会話に耳を傾けるも、いつのまにか意識はまったく別の所へ集中していた。
狼に食われるのは悪い子だけ。最後に笑うのはいつも正義の味方。じゃあどうしてお母さんのストーカーに殺されなくちゃいけなかったの? モリアだけではなくキッコまで消えてしまった。狼はこの学園にも潜んでいるのだろうか。
違う。メール・ヴィ学園、それ自体が…独自の価値観に基づいた正義を貫く狼なんだ。
こめかみあたりに汗が浮かぶのを感じ、二人に気づかれる前に席を立った。背中に貼りついた翠の視線を意識しつつも、焦燥感に煽られ頼りない足取りで部屋を出る。ティルに声をかけられたが応じる余裕もなく出ていった。
廊下には誰もいなかったので熱が冷めるまで適当に歩いた。気になるのに思い出そうとすると、頭の奥で何かにロックがかかったような感覚になる。急に寒気を感じ辺りを見回した。いつの間にか廊下の端まできていた。
静まり返った校内に不気味に外の激しい雨音がこだまする。生徒たちが食堂に集まっているからか、水を打ったような静寂に耳が刺激される。気の所為か背後で誰かの気配を感じた。もちろん、振り向いても誰もいない。
かぶりを振り昂る気持ちを落ち着かせようとするも、心臓はバクバクと飛び上がり全身を駆け巡る血潮が理性を奪っていった。
…こんな……暗い夜だった。
カーテンから漏れる明るい光に憧れて、私は窓辺に近づいて中を覗こうと背伸びをしていた。けれど背は届かず私は壁越しに聞こえる翠の笑い声に耳を傾け、沸々と込み上げてくる感情を正当化しようと躍起になっていた。
長い間我慢し続けてきた憎しみや、虐げられる悲しみや妬みに火がついて心の底から強く願った。
―――翠に思い知らせてやりたい。
暗澹とした思いを溜息に変えて吐き出す。けれど胸につかえた混沌とした気持ちは一向静まる気配を見せなかった。
「……ッ」
雨にまじって誰かの笑い声が聞こえた。風に操られた枝が窓ガラスを叩く。気の所為かもしれない。だけど…
逡巡していると今度はもっと高い声で、悲鳴にも似た声が廊下の奥から響いた。
部屋に戻り翠たちを連れてこようか。けれどあの声には聞き覚えがある。高鳴る胸を押さえ走り出した。長い廊下を駆けながら思った。壁に飾られた絵画作品はテーマもサイズも統一性がないけれど、圧倒的に人物が登場するものが多い。肖像画を筆頭に風景画や、静物画にも鏡などの小道具を通じて必ずどこかに人物の姿が認められる。
額縁を通じて誰かが私を見ているような気がした。絵の具に塗り込められた、沢山の目が一挙手一投足を監視している。悪い子どもを選び狼に捧げる為に見張っている。
その中心にいるのは―――貴方なの?
笑い声が近づくにつれ弱々しく消えていく。灯りの少ない廊下の向こうで、大口を開けて待っている螺旋階段の入り口へ飛び込むと
「セト!」
と彼の名前を叫んだ。
「どこにいるの…? ねぇ、セトなんでしょう!」
語尾が頭上に続く階段にぶつかって、静寂を切り裂こうと幾重にもこだました。手摺りに掴まり下の段に向かって更に続けた。
「キッコが消えたの。どうして……どうして、私から友だちを奪おうとするの!」
身を乗り出して叫んだ衝動で、髪に挿していた青い薔薇が落ちていった。漆黒の中へ溶けるようにして消えようとする薔薇の行方を目で追い、慌てて手を伸ばそうとしたその時
「赤ずきんには友だちがいませんでした。優秀な兄といつも比べられ、人と少し違う容姿や父親がいないことにもずっとコンプレックスだけを抱いて育ちました」
声は頭上から響いている。淡々とした調子だけど今まで接してきたどの人格とも違う、何か異なる雰囲気を漂わせていた。
「そんな赤ずきんに狼は言いました。きみのお母さんはとても綺麗だね。でもきみはもっと綺麗になれるよ。ぼくはきみを愛してあげられる。誰よりも大切にするよ」
キュッと心臓が縮まる。どこかでその科白を聞いたことがあったんじゃないかしら。
「…上に、いるの?」
手摺りから離れゆっくりと階段を登る。一段ごとに軋む床板と足音を確かめながら進んでいると、視界の隅に白いものが舞いながら落ちていくのを捉えた。
雪? まさか…
「狼は赤ずきんに恋をしていたのです。赤いリボンを欲しいと思っていた。けれど大人たちが構築する社会はそれを認めなかった」
「…恋?」
と口にしてから急に嫌悪感が蘇った。何だろう、この気持ちは。怖くって気持ちが悪くて……今にもあいつが両腕を伸ばせてきそうだった。暗がりの道を一緒に歩いて帰ったお兄ちゃん。いつも優しく本を読み聞かせてくれていた。私は本当のお兄ちゃんよりも、お兄ちゃんを慕っていった。
翠は憧れ。すべてが勝っている。だから出来損ないの私を嫌っている。けれどお兄ちゃんは私を誰よりも好いてくれている。どんな時も真っ先に駆けつけてきてくれる。
チラチラと雪のようなものが散っていく様子を見て我に返った。
「お母さんは面倒な子どもがいなくなるからと思い、赤ずきんが狼と親しくなるのを快く思っていたのです。狼が彼女に特別な思いを抱いているとは露にも知らず」
昂る感情が波のように押し寄せてくる。思い出したくない記憶を、今すぐ開放しろと頭の奥で激しく鳴り響く。逃げるように駆け上ると踊り場に座り込むセトの姿を見つけた。
黒いマントを羽織っているので辺りの色と同化し、俯いた彼の表情が伺えない。何を握っているのだろと思い、初めて手元に目を向け驚愕のあまりしばし言葉を失った。
「誰の話しだと思う?」
膝の上に散った花びらに鮮血を滴らせながら、彼は落ち着き払った態度で尋ねてきた。
手に握った白い薔薇の花を引きちぎる。棘がささって指から目の覚めるような鮮やかな色の血が流れた。
「…ハッハッハッハ」
人形が動き出すようなぎこちなさで笑い声を上げると、首を左右に大きく揺らしながら顔を上げた。
「!」
だらしなく開いた唇の端から一筋の血を流し、私を見ているようでどこか遠くを眺めながら
「これはぼくが作った物語。ユキオが死んだから、今度はぼくが作ったんだ」
感情のない音を繋げただけの言葉が床に落ちて響き渡る。
どうして? と逡巡してからあまりに異様な光景に咄嗟にすべてを察した。これが学園にばらまかれている薬の効果? バロの庇護下にいると思っていた彼自身も薬に侵されていたの?
「アーハッハッハッ」
奇声を発しながらちぎった薔薇を掻き集め、頭上に向かって投げた。
「キーレィ! ねぇキレイだよねー」
舞い散る花が雪のようだ。子どものようにはしゃぐセトの姿が涙で歪んだ。辛くて、悲しくて…涙が止まらない。堰を切ったようにとめどなく溢れ出た。
どうしてこんなに胸が苦しいの?
―――狂ってしまったセトを見るのが辛いの。
じゃあ誰に助けを求めたらいいの?
―――誰もいないから彼は狂ってしまった。
「……きみもキレイだね」
床に手をついてセトは近づいてきた。足元に寄る彼の顔を見た途端、堪えきれずに膝から崩れ落ちた。
「うっ……う…」
ただ、ただ無力なままの私。涙だけは涸れずに出てくるのに何も打開策を生まれない。
「キレイな顔。長い髪の毛。ねぇ…」
傷だらけの手が頬を撫ぜる。間近に迫る彼の顔を改めて見た途端、胸が張り裂けそうなくらい切なくなった。
「…助けたい…の」
腹の底から一言一言を絞り出した。
「こんな…気持ち、初めて…でも、でも……セトを助けたい」
しばしの沈黙。けれどセトは顔色一つ変えず私の目を覗き込んだ。
「枯れないまま。綺麗なままでいたいなら、ぼくがきみを殺してあげる。綺麗過ぎた彼女と同じように、リンコもぼくの元にいてくれるなら…」
と突然かぶりを振り、激しく頭を掻き毟った。
「だめだ! 死んじゃだめ! ここに、きみの為に、世界をあげる。地上にネバーランドを作ってあげる! ぼくの命を賭けて作るよ。だからリンコはここに―――」
セトは目を見開くと態度を急変させた。そして目の前に見えない相手を作り出し、必死に叫んで反論していく。
「馬鹿! お前はまた一人になりたいのか。みんな新しい国へ行ったんだよ。バロの息子もチュチュもベンジャミンも。みんなを新しい国へ導くのがお前の役目なら、彼女だって誘うべきだ」
涙を流しセトはなおも続けた。
「やめて。もういやだ! もういやだよ。助けて! 助けて!」
頭の中にいる沢山の彼の分身たちに向かって悲痛な面持ちで叫ぶ。
そんな異常過ぎる姿を見詰め、喉元まで出かかっていた言葉が震える。理屈も証拠もいらない。今、私に助けを求める彼こそが『本当のセト』なんだ。
「イヤ―――!」
甲高い悲鳴を上げると彼の表情に影が宿る。それまでの感情的な表情が消えて温かみも感じさせない、白皙としたセトの顔だけが暗闇に浮かび上がった。
「ぼくが、好き?」
卑屈でどこか挑発的な言い方だった。
「ずっとむかしに起きたあの事件以来、きみは男性を生理的に嫌っていたのに。面白いなぁ。どうしてそんなことが言えるの? 気持ち悪いんじゃないの? だってぼくもあの狼と同じだよ。赤ずきんの気を惹こうとして凶行に及んだ正義の狼」
全身の血が一気に引き本能が警鐘を鳴らす。ここにいてはいけない。だめ。だけど真実を迎える恐怖を前に足が竦み、根が生えたみたいにピクリとも動けなかった。耳を澄ますだけで体内の奥から鼓動が聞こえる。
俯く私の毛が写真で見たチュチュのように広がっていた。
この長い毛を結んだリボン。お気に入りだったのに、いつからかつけるのをやめるようになった。それはいつから? 引き出しにはお母さんと一緒に集めた、色とりどりのリボンが綺麗に折り畳んでしまってあったはずなのに―――
頭の奥で火花が散った。
「『お祖母さんのお家へ向かう赤ずきんに、狼は声をかけました』」
ふいに思い起こした童話の件を口走った。
狼は悪い子を食べる。狼に食べられた赤ずきんは悪い子。けれどどうして食べられたの?彼女は寄り道をしてしまったから。正しい道から外れてしまった。大人の言いつけを守れなかった…
「……お兄ちゃんにお願いしたの。私を嫌う人を、消してって。本当は知っていたの。私のことを、誰よりも愛していた癖に憎むから―――っ」
私は嫌われているから。上辺だけの関係を保てても心から私を認めてくれる人はどこにもいない。それは家族でも同じだった。
「リン、コ」
静かに立ち上がると空気を震わせてセトは呟いた。両脇に垂らした指を握り、座り込む私に近づくと頭上で手を開き薔薇の花吹雪を降らせた。
「バロに食われるな」
意表を突く言葉に咄嗟に面を上げる。意味を理解するのとほぼ同時に、壁に隠されていた回転扉の向こうに彼の後ろ姿が消えていった。
「!」
驚いて立ち上がろうとして毛先が床にひっかかる。鈍い痛みに腹立たしく振り返えり視線を向けた闇に、あの男の姿が浮かび上がった。
階段を登る前に落とした青い薔薇を持ち『狼』は優しく微笑み囁きました。
『さぁ、忘れものだよ。赤ずきん…』
食堂に集まる生徒たちはグラスを片手に演劇部による劇を楽しんでいた。
教授らもアルコールを持ち親しい同僚と肩を寄せ、または好意を抱く者同士愛を囁き合っている。
『では貴方は湖の伝説を再現しようとしているのですか?』
普段は兄を演じているナルキがパルトロの役を熱演している。毎年劇の内容は異なるが、やはり伝説を意識しているらしく乙女や剣を持つ男、そしてパルトロなどの役は必ず出てきた。去年はハッピーエンドだった。けれど今年は所どころに笑いを取るシーンが組まれ、物語の流れは悲劇に向かっているのに何度か爆笑が起こった。
観客の目は舞台に集中し、誰も『ぼく』がそっと集団に紛れたことにも気づかない。
美しく装った生徒たち。既に何人かが候補に選ばれ、近々表舞台から消えるだろう。バロは仲間を増やし物語は順調に進んでいく。
「先日、彼女からメールがきたんだ」
ふいに人込みから離れ、壁際でワインを酌み交わしているベンバーとジャックの会話が耳に届いた。
「彼女って…ユイコか?」
頬を桜色に染めたベンバーが顎を引いて頷く。彼を一瞥しワインを一口飲むと、ジャックは長い溜息を吐いた。
「別れてから一度も連絡をとっていなかったんだろう?」
「…あぁ」
「それで彼女は何と?」
「素っ気ない文章で近状報告程度だよ」
乾いた笑い声がこぼれた。グラスを空にするとさほど酔いの回っていない面持ちのジャックは、ベンバーの肩を軽く叩き
「ぼくの目には、学園に戻ったのを後悔しているように映っていない」
と優しくも力強い説得力を伴って囁いた。
「どんな代償を払ってでも、ここへ戻ることを決意しただろう?」
「そう…後悔はしていないさ。ただ、失ったものの価値を改めて考えさせられたんだ」
吐き捨てるように答えると、まだ飲みかけのグラスをテーブルに置いた。
「……幸せになりたい。仕事にもやりがいを見つけているし友人にも恵まれている。けれど夜、ベッドに入るといつもあの頃のぼくが現れるんだ。大人たちに見捨てられ、壊れかけた心で学園に入った。そこで同じような境遇の生徒たちと、理想的な他人との距離の置き方を学んでいくはずだった」
前髪を掻きあげるとベンバーの潤んだ瞳が覗いた。
「与えられた環境に疑問を抱くこともなく過ごしていただろう。ハスミとユイコと出会うまでは」
ジャックは悲しみに耐えるような表情でベンバーを見守った。
「学園の存在意義を追究するうちにユキオの過去を知った。けれどぼくにはどうすることもできなかったんだ。ハスミのようにあそこを出る勇気も持てず、自滅していくユキオをただ遠巻きに眺めているしかできなかった」
「自分を責めたってしかたがない。確かにバロは彼を虐げていたがそれに見合う罰を受けている」
彼の慰めも耳に届かなかった様子でベンバーはなおも続けた。
「彼女が出ていった後、ぼくらは…自然と付き合うようになった。でもそれは、学園に染まりきれない自分たちを慰める為だったんだ」
短い自嘲を挟み悔恨の言葉を続ける。
「ハハ…むかしヒサコさんにも言われた。ぼくは生徒に自分の過去を投影して、罪滅ぼしをしようとしているだけなんだ。自意識過剰にもほどがあるわねってさ」
顔を片手で覆い「…まさにその通りなんだよ……」と呻いた。
拍手が沸き起こる。劇が終わり、幕を下ろした舞台にキャストたちが並びお辞儀をしていた。近くを通りかかった給仕からグレープフルーツジュースを受け取ると
「あら、いつの間にきたの?」
深紅のドレスに身を包んだカナムラが妖艶な笑みを浮かべ近づいてきた。今日はやけに気合が入っている。彼女が歩いた背後で大勢の男子生徒たちが顔を赤らめていた。
「バロがお待ちかねよ」
そっと手を差すと『ぼく』にエスコートを求めてきた。
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