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令嬢の本性と幕引き(前編)
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グレース様はひざまずき、皇女殿下、と呼びかけた。マリアベル様に意識がとらわれていたから、突然呼ばれて驚く。平静をよそおって、返事をする。
「何かしら、レディ・グレース」
「至高の御身に対する数々の無礼、大変申し訳ございませんでした。この罰はいかようにでもお受けいたします」
あまりの態度の変わりように戸惑ってしまう。本当にグレース様がフィンリーの協力者なら、きっとあの無礼なふるまいにも意図があったのだろう。
グレース様は深く頭を垂れ、首をあらわにしている。この姿勢は、首を落とされても構わない、という最大限の謝罪を示すものだったはず。もちろん私はそんなことは望んでいない。
見かねたのか、フィンリーが事情を説明してくれる。
アズライト侯爵の動きを不審に思った宰相閣下が、私に敵対する行動をとるようグレース様に命じたこと。陽動として、マリアベル様の動きを誘う目的があったこと。フィンリーは全て事態を把握していたこと。
今回のように私の懐に入り込もうとしたとしても、反対にグレース様に便乗して私に敵対しようとしたとしても動けるように対処はとっていたらしい。
「そ、それなら、謝らなくても……」
フィンリーにまで報告が済んでいるのなら、私に文句を言う筋合いはない。それも、ちゃんと目的があってのことならなおさらだ。
「いいえ、そうは参りませんわ、殿下。これほど美しく、麗しく、清らかで、愛らしくて、完璧で、神のごとく」
「グレース」
フィンリーが口を挟むと、グレースは咳払いをした。
美しくて麗しくて……? それはまさか私の話をしているのだろうか。身の丈に合わない褒め言葉に冷や汗が出る。
「失礼致しました。とにかく、帝国の至宝たる殿下にあのような無礼な真似をしてお咎めなしというわけには」
「ですが……」
グレース様は頑として譲らない。困ってフィンリーを見ると、彼も苦笑していた。
「ではグレース。余の仕事を宰相とお前に一ヶ月分任せる、これでどうだ?」
「謹んで承ります、お任せくださいませ!」
とんでもないことを言い出したフィンリーを呆然と見上げる。
「あれは変わり者なので、結婚せずに祖父の跡を継ぎたいそうですよ」
「……ということは、宰相に?」
「そういうことです。アイリスも、グレースへの罰はこれで良いですか?」
もちろん、私に不満があるはずもない。大丈夫なのだろうか、と心配にはなるけれども、フィンリーが任せると決めたくらいなら何とかなるのだろう。
グレース様も心なしか嬉しそうに見える。
「恐れながら皇帝陛下、一言申し上げてもよろしいでしょうか?」
「なんだ、グレース」
許可を得たグレース様は、愛らしい微笑みを浮かべた。礼儀正しく礼を述べると、大きく息を吸い込む。
「それでは言わせていただきますが、陛下は皇女殿下の神のような優しさに甘えすぎだと思います。わたくしが陛下の寵愛をたまわるなどと世迷い言を申し上げたとき、皇女殿下がどれほど悲しいお顔をなさったことか! 悲しそうな表情すらこの世界に存在する誰よりも愛らしくお美しかったのはさすが皇女殿下と言いたいところですが、それにしても、この馬鹿女は何を言っているのかしら、とお思いにならなかったのは陛下の愛情表現が足りていないからではないでしょうか、それに」
「待て、それは一言なのか」
あまりの早口に一部聞き取れなかったが、フィンリーを責めているように聞こえた。途中に過大すぎる私への賛辞がはさまっている気がしたが、きっと気のせいだ。気のせいに違いない。
「では短くまとめます。愛らしい皇女殿下の素晴らしさが最も引き立つのは陛下と共にいらっしゃるときだと言うことをお忘れなきようお願い致しますわ」
「……お前に言われるまでもないが、肝に銘じる」
「何かしら、レディ・グレース」
「至高の御身に対する数々の無礼、大変申し訳ございませんでした。この罰はいかようにでもお受けいたします」
あまりの態度の変わりように戸惑ってしまう。本当にグレース様がフィンリーの協力者なら、きっとあの無礼なふるまいにも意図があったのだろう。
グレース様は深く頭を垂れ、首をあらわにしている。この姿勢は、首を落とされても構わない、という最大限の謝罪を示すものだったはず。もちろん私はそんなことは望んでいない。
見かねたのか、フィンリーが事情を説明してくれる。
アズライト侯爵の動きを不審に思った宰相閣下が、私に敵対する行動をとるようグレース様に命じたこと。陽動として、マリアベル様の動きを誘う目的があったこと。フィンリーは全て事態を把握していたこと。
今回のように私の懐に入り込もうとしたとしても、反対にグレース様に便乗して私に敵対しようとしたとしても動けるように対処はとっていたらしい。
「そ、それなら、謝らなくても……」
フィンリーにまで報告が済んでいるのなら、私に文句を言う筋合いはない。それも、ちゃんと目的があってのことならなおさらだ。
「いいえ、そうは参りませんわ、殿下。これほど美しく、麗しく、清らかで、愛らしくて、完璧で、神のごとく」
「グレース」
フィンリーが口を挟むと、グレースは咳払いをした。
美しくて麗しくて……? それはまさか私の話をしているのだろうか。身の丈に合わない褒め言葉に冷や汗が出る。
「失礼致しました。とにかく、帝国の至宝たる殿下にあのような無礼な真似をしてお咎めなしというわけには」
「ですが……」
グレース様は頑として譲らない。困ってフィンリーを見ると、彼も苦笑していた。
「ではグレース。余の仕事を宰相とお前に一ヶ月分任せる、これでどうだ?」
「謹んで承ります、お任せくださいませ!」
とんでもないことを言い出したフィンリーを呆然と見上げる。
「あれは変わり者なので、結婚せずに祖父の跡を継ぎたいそうですよ」
「……ということは、宰相に?」
「そういうことです。アイリスも、グレースへの罰はこれで良いですか?」
もちろん、私に不満があるはずもない。大丈夫なのだろうか、と心配にはなるけれども、フィンリーが任せると決めたくらいなら何とかなるのだろう。
グレース様も心なしか嬉しそうに見える。
「恐れながら皇帝陛下、一言申し上げてもよろしいでしょうか?」
「なんだ、グレース」
許可を得たグレース様は、愛らしい微笑みを浮かべた。礼儀正しく礼を述べると、大きく息を吸い込む。
「それでは言わせていただきますが、陛下は皇女殿下の神のような優しさに甘えすぎだと思います。わたくしが陛下の寵愛をたまわるなどと世迷い言を申し上げたとき、皇女殿下がどれほど悲しいお顔をなさったことか! 悲しそうな表情すらこの世界に存在する誰よりも愛らしくお美しかったのはさすが皇女殿下と言いたいところですが、それにしても、この馬鹿女は何を言っているのかしら、とお思いにならなかったのは陛下の愛情表現が足りていないからではないでしょうか、それに」
「待て、それは一言なのか」
あまりの早口に一部聞き取れなかったが、フィンリーを責めているように聞こえた。途中に過大すぎる私への賛辞がはさまっている気がしたが、きっと気のせいだ。気のせいに違いない。
「では短くまとめます。愛らしい皇女殿下の素晴らしさが最も引き立つのは陛下と共にいらっしゃるときだと言うことをお忘れなきようお願い致しますわ」
「……お前に言われるまでもないが、肝に銘じる」
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