残念ながら主人公はゲスでした。~異世界転移したら空気を操る魔法を得て世界最強に。好き放題に無双する俺を誰も止められない!~

日和崎よしな

文字の大きさ
170 / 302
第四章 最強編

第169話 要請

しおりを挟む
 ダース・ホークはリオン城の応接間にてリーン・リッヒと会談していた。

 魔導師の最強格たるE3エラースリー同士が戦うことは禁忌であり、接触すること自体避けるべきことであるが、ゲス・エストの登場によって、E3エラースリーひいては彼らをようする各国のパワーバランスは崩れてしまい、そういった忌避きひ事項というものが意味をなさなくなった。
 それどころか、最強の魔術師エアの出現により、むしろE3エラースリー同士が協力する必要性すら出てきたのだった。

 世界の敵になったエアはイーター化したドクター・シータに一度は捕らえられた。
 それはエアという世界的脅威を排除する絶好の機会であったが、それをゲス・エストは拒んだ。エアに手を出せば、ゲス・エストが世界の敵に回る。

 ダースはエアを敵に回すよりはゲス・エストを敵に回すことを考えた。
 誰もゲス・エストには敵わないが、それはタイマンだったらの話だ。E3エラースリーが手を組めば、おそらくゲス・エストは倒せる。
 世界を守るには、エアを排除し、その後にゲス・エストを排除するしかない。

 そう考え、E3エラースリーへ働きかけをしようと考えていた矢先に、ゲス・エストがドクター・シータを倒してエアを解放したとの連絡を、ゲス・エスト本人から受けた。
 これでもうエアに手出しはできなくなった。
 あとはゲス・エストがエアを倒すことを信じて待つしかできない。

 だがもしゲス・エストがエアに敗れ、エアが再び世界の脅威として活動を始めたならば、ダース・ホークをはじめとして、世界各国の代表者たちは対応を迫られる。
 そして、その未来が来る可能性は濃厚である。

 ダース・ホークはまずはリーン・リッヒに対して情報と方針の共有をおこない、同意を得るためにリオン城を訪れた。
 公地代表とリオン帝国代表、E3エラースリーのうちの二人が手を組めば、ジーヌ共和国もシミアン王国も諸島連合も追従する以外の道はない。
 問題は護神中立国の守護者である盲目のゲンにも協力してもらえるかどうかだ。
 護神中立国だけは特別な存在で、神をたてまつるために存在する国であり、国自体も神の庇護ひごを受けている。
 だから盲目のゲンはダースとリーンが連名で要望を出したとしても一蹴いっしゅうすることができるのだ。
 護神中立国の守護を使命とする盲目のゲンが話に乗ってくれるかどうかは五分五分ごぶごぶといったところ。

 なんにせよ、まずはリーン・リッヒと話をつけなければならない。
 ダースは目の前に出された茶菓子に手をつけ、茶をすすった。

「リーン・リッヒ。僕は世界連合というものを立ち上げようと考えている。その目的はもちろん、世界的脅威であるエアに立ち向かうため、世界を一致団結させるためだ。議長はどこの国にも属さない公地代表の僕が務めるつもりだ。そして、リオン帝国、ジーヌ共和国、シミアン王国、護神中立国から一名ずつ代表者を選出し、五名でおこなう議会を適宜てきぎ召集できるようにしたい」

 リーン・リッヒは腕を組んでうなった。
 そんな彼女を黙って見守り、ダースは返答を待った。

 リーン・リッヒが皇帝の座に就いてどれほどになるだろう。光沢のある白い生地に赤と金の模様と縁取りが施された眩しい正装も、だいぶ様になっていた。
 太い芯が通っているようにまっすぐの彼女の姿勢は、騎士のころから変わらず、人間の理想形としてのお手本のようで美しい。顔やスタイルも彼女ほど端麗な者はそうはいない。

 ダースは知り合いへの相談程度の心構えだったが、リーン・リッヒのほうは皇帝の仕事としてダースと打ち合わせをしているという気配であった。
 彼女は真剣で気の引き締まった顔を上げ、ダースを直視した。

「世界連合の結成については異論はない。公地代表が存在するのはいささか奇妙ではあるが、E3エラースリーを集約するためには仕方ないでしょう。ただ、諸島連合から代表をつのらないのは、大きな反発を買うのではないか?」

 二つ返事で了承を得られなかったことに、ダースは面倒臭さを感じた。
 彼にとっては、世界の危機を前に、政治的な話は些細ささいな問題でしかなかった。

「反発を買ったところで、どうということはないよ。小さな国の集合体。彼らは連合といいつつも、まとまりがないし、戦力にはならない。言葉が悪いけれど、邪魔なだけだ」

「公地の者である君は発言も自由なのだろうが、一国の代表としては慎重にならざるを得ない。発言一つを取ってもそうだし、相手が誰であろうとだ」

 今度はダースが腕を組んで唸った。分からなくはない。立場というものがあることは理解できる。
 それもリーン・リッヒのような堅物が皇帝という重責の座に就いたのなら、仕方のないことかもしれない。
 しかし、合理性に欠けることは明白だ。

「それは分かるけれども、そんなことを言っている場合ではないよ。エアの脅威、世界の危機はすぐそこに迫っている。早急に対策を立てなければならないんだ。ぶっちゃけると、守護四師がいなくなったジーヌ共和国はいらないし、平和ボケしているシミアン王国もいらない。E3エラースリーである三人の力を束ねる必要があって、E3エラースリーと、魔導学院の四天魔と、リオン帝国の五護臣がそろえば、それ以上の戦力増強は見込めない」

「だからといって、ジーヌ共和国とシミアン王国をないがしろにすると、世界が二つに割れて戦争になる可能性がある。戦争の結果は目に見えているが、国としてお互いに退くわけにもいかず、死者は大量に出るだろう」

「だからこその世界連合というわけだよ。ジーヌ共和国とシミアン王国を含めて連合とすることは、忖度そんたくでしかないし、最初からあなたの立場に譲歩した形での提案なんだ」

 リーン・リッヒはダースの読みが思ったより深かったことに驚き、まゆをピクリと上げた。そして、今日では初めてほころんだ顔を見せたのだった。

「分かった。けれど、その判断を私一人で下すわけにはいかない。皇帝といえど、手順を踏まなければならない。リオン帝国は独裁国家ではないのだから」

「それくらいは待つさ。問題は次、盲目のゲンだ」

「盲目のゲン殿……。彼は奉神の国の守護者だ。私たち二人がかりで説得しなければ動いてはくれないだろう」

「そうだね。それでも動いてくれるかどうか五分五分ってところだよ。忙しいところ悪いけれど、一緒に来てくれるかい?」

 ダースは握手を求めて手を差し出した。
 リーン・リッヒの反応を待っていたところ、突然の出来事にダースはビクッと体を反応させた。

「もうその必要はない」

 その声が応接間の白い壁に響いたのは、あまりにも突然だった。
 姿は見えないが、どこからともなく湧き出てくる声は、聞き覚えのある声だった。

「この声、もしかして、エストかい? 君なのかい?」

 ダースは立ち上がった。立ち上がって、周囲をキョロキョロと見渡した。
 しかし、ゲス・エストの姿はどこにもない。おそらく、遠方からの空気操作により空気を振動させ、自身の声を再現しているのだ。

「エアは倒した。だが、消耗しきったところをイーターに襲われた。サンディアが喰われそうになっている。加勢に来い!」

「え、サンディアが!? 馬鹿な! 未開の大陸で戦っているんだよね? サンディアがそんなところにいるはずがないじゃないか! どういうことだよ!」

「説明している暇はない。経緯はあとで説明してやるから、とにかく見に来い! おまえの能力ならすぐに来られるだろう?」

 サンディア・グレイン。彼女は魔導学院における風紀委員の副委員長だ。同委員長を務めるルーレ・リッヒの右腕的存在でもある。

 だが、彼女はダースにとってはそれだけの存在ではない。彼女はダースの最愛の人なのだ。
 それをエストが知っていることには驚かされたが、情報に金や時間と同等の価値を見出している彼ならば知っていてもおかしくはない。

「分かったよ。すぐ行く」

 サンディアの危機と聞いては、のんきにはしていられない。
 すぐさま闇の魔法を使って未開の大陸へのワープゾーンを作った。異空間型のワープゾーンで、移動先に直接つなげるのではなく、いったん異次元空間に入ってから、そこから目的地へつなぐ。
 リオン城に流れ弾が飛び込んでこないよう配慮した形だ。ダースはその選択をできた自分がまだ冷静であると再認識した。

「すまない、リーン・リッヒ。未開の大陸に行ってくる。話の続きはまた後日ということで」

「構わない。私は先ほどの話について、議会の承認を得ておく」

 ダースはワープゾーンへ向かって走った。リーン・リッヒに背を向けたままの状態で片手を挙げた。

「では」

「気をつけて」

 彼は躊躇ちゅうちょなく、黒い穴へと頭から飛び込んで消えた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します

名無し
ファンタジー
 毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。

無能な勇者はいらないと辺境へ追放されたのでチートアイテム【ミストルティン】を使って辺境をゆるりと開拓しようと思います

長尾 隆生
ファンタジー
仕事帰りに怪しげな占い師に『この先不幸に見舞われるが、これを持っていれば幸せになれる』と、小枝を500円で押し売りされた直後、異世界へ召喚されてしまうリュウジ。 しかし勇者として召喚されたのに、彼にはチート能力も何もないことが鑑定によって判明する。 途端に手のひらを返され『無能勇者』というレッテルを貼られずさんな扱いを受けた上に、一方的にリュウジは凶悪な魔物が住む地へ追放されてしまう。 しかしリュウジは知る。あの胡散臭い占い師に押し売りされた小枝が【ミストルティン】という様々なアイテムを吸収し、その力を自由自在に振るうことが可能で、更に経験を積めばレベルアップしてさらなる強力な能力を手に入れることが出来るチートアイテムだったことに。 「ミストルティン。アブソープション!」 『了解しましたマスター。レベルアップして新しいスキルを覚えました』 「やった! これでまた便利になるな」   これはワンコインで押し売りされた小枝を手に異世界へ突然召喚され無能とレッテルを貼られた男が幸せを掴む物語。 ~ワンコインで買った万能アイテムで幸せな人生を目指します~

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

処理中です...