年上の恋人は優しい上司

木野葉ゆる

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ハンバーガー

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「ハンバーガーが食べたい」
 休日の朝、二人で朝食を食べているとき、突然課長がそう言った。
「ハンバーガーですか? 」
 ダイニングテーブルの上には、白いご飯と焼き鮭とお味噌汁、そしてグリーンサラダ。
「うん。お昼に食べに行かないか? あきも、ハンバーガー、嫌いじゃないよな? 」
 課長はちょっと不安そうだ。俺達はたまに外食するけれど、ハンバーガーショップには行ったことがない。俺は課長がファーストフードを食べているところを見たことがない。課長もファーストフードを食べたいなんて思うのか、と、その時は思っていた。
「ハンバーガーが嫌いな男って、あんまり聞いたことがないですよ。もちろん、俺も好きですよ」
 俺は課長を安心させるように笑った。

 そして、お昼、車で連れてこられたのは、ファーストフード店じゃなかった。
「幸也さん、ハンバーガーって言っていませんでした? 」
「ハンバーガーだよ。ここのアボカドベーコンチーズバーガー、旨いよ? 」
「はぁ、そうなんですか」
 俺は、マッ〇とか、ケン〇とか、ロッテリ〇とか、そういうのを想像していたが、そのお店は洒落たレストランだった。やっぱり課長は課長なのだと、俺はちょっと笑った。
「想像していたお店と違ってビックリしました。でも、旨そうですね、アボカドベーコンチーズバーガー」
 二人で食べたハンバーガーは、ボリュームたっぷりで、パンズもお肉もジューシーで、とても美味しかった。

 課長は、お金持ちだ。住んでいるマンションだって、広くて新しくて、三十代の不動産屋さんの課長職の人間が住むにはちょっと不釣り合いな気がする。車だって、俺は詳しくはないけれど、高級車だと思う。ちゃんと聞いたことはないけれど、お金持ちのお家で育ったのだろうと思う。俺にも、さりげなく贅沢をさせてくれているように思うのだ。
 課長はハイスペックだ。背も高いし、端整な容姿をしている。声も良くて、しかもお金持ちなのだ。
「幸也さんは、なんで俺を選んだのですか? 幸也さん、モテたでしょう? 」
 時々、疑問に思っていたことを、口にした。課長が、モテないはずはない。ゲイなのか、バイなのか、それは知らないけれど、男でも女でも、より取り見取りだと思うのだ。
「ばか、好きになったからに決まっているだろ。そしてな、モテてるからって、本当に好きなやつと付き合えるとは限らないんだぜ。だから、俺は幸運だな」
 ニヤリと笑ってウィンクまでしてくれた。
「幸也さん、俺を好きになってくれてありがとうございます」
「うん? 」
「俺の方が幸運ですよ。きっと世界一の幸せ者だと思っていますよ」
 俺は、外だというのに課長の腕に抱きついた。
「おう、俺も世界一の幸せ者だな。あきに、ハンバーガーくらいでそんなこと言って貰えるんだから」
「別に、ハンバーガーが理由じゃないですけどね。課長は世界一の彼氏ですよ」
「あきも、世界一かわいいと思っているよ。愛しているからな」
 自分から言い出したけれど、改めてそう囁かれたら、ちょっと照れる。
「はは、顔赤いぞ」
 多分、ここに佐々木さんがいたら、バカップルもいい加減にしなさいって、そう言われたかもしれない。生憎、今は二人きりだ。俺は思う存分、課長に甘えていられる。
「キスしてくれますか? 」
「もちろん」
 誰も見ていないとはいえ、公園のベンチで、俺達はキスをした。
 
 課長と俺の、休日デートは、大体にして甘い。付き合って三年目になるけれど、倦怠期なんてまだまだやってきそうにはなかった。
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