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戦火の後宮に芽生えたのは……
しおりを挟む数日前から、後宮に人はいません。わたくしを除いては。
大陸の東に位置するこの国は、とても小さく貧しい。それ故に周りの国々から相手をされることもなく奇跡的に生き延びてきました。ですが、隣国の新しい王は血気盛んで、周辺諸国を平定して大国にせんと野望に燃えていました。まずはその足掛かりにと、この国へ攻め入ったのは僅か一週間前のことでした。
貧しい国ながら、数人の妃を娶っていた王は小さな後宮に赴き、妃らと、彼女らに仕える宦官全ての者に、国外へ逃げよと命じました。ほぼ全ての者は、王の命令に従い僅かばかりの荷物を纏めて国外へと逃げだしました。王宮の貴族も官吏も、ほぼ全ての者は逃げ出しています。
僅かな王族は隣国の軍に捕らえられました。
そして、わたくしはただ一人、この後宮に佇んでいるのです。
その人は大きな人でした。
返り血に汚れた鎧を纏った姿は異様で、とても恐ろしいはずなのに、わたくしを見る目には子供のような好奇心が見て取れました。
「王族は全て捕らえた。貴族も妃達も逃げた。なぜお前は此処にいる? 」
敵国の将軍は不思議そうにわたくしに問いました。
「わたくしは宦官、後宮の他に居場所などございません」
わたくしは宦官で、後宮で事務方を任され、歴史書の編纂にも携わらせて頂いておりました。わたくしはこの場所が好きでした。仕事に生き甲斐を感じておりました。
だから、死ぬならば此処でと、そう決めていたのです。
「では、お前は何処へも行くな。お前は俺が貰い受ける」
その言葉で、わたくしは生かされたのです。
将軍は隣国の軍の総大将であり、王の叔父でもある人でした。
彼はわたくしを妻とすると宣言し、甥でもあり主君でもある王を説得して戦を止めました。
彼は戦を好きではないと言いました。自分は若くはない。前妻に先立たれ、戦さ場で死ぬのも一興だと、総大将を引き受けていたそうです。
「我が国も、周辺諸国を平定できるほどの財も材もあるわけじゃない。まぁ、だからこそ王は野心を抱いたのだがな」
「わたくしを妻としたのは、戦を止める為ですか? 」
「いや、お前を妻にする為に戦を止めたのさ。まだ生きていたくなったんだ。こんなおっさんが一目惚れなんてな。笑うか? 」
日に焼けた浅黒い顔が僅かに赤く染まっています。
彼は本当にかわいいお人なのです。
「笑うはずなどございません。わたくしは貴方の妻なのですから」
その夜、彼はいつにもまして激しかったのです。
わたくしは彼が生きている限り共に生きたいと、そう思いました。
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