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第二章 距離が縮まるオリエンテーション!

8話 バスの席を決めましょう!

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 オリエンテーション当日。
 クラスごとにバスの前に集合して、今まさにバスへ乗りこんでいる。

 ……私は、バスの席決めが苦手だ。

 小学生の時。
 先生に、席は自由に決めてって言われると、みんな仲のいい子と座ると思う。
 ぼっちだったから、先生の横に座ることが多かった私。
 
 だから、中学生になった今もまだ、苦手意識は消えていない。
 前にいる魔央くんに続いて、私もバスに乗りこむ。今回はどうなるんだろう……。

「一華、こっちにおいで」 

 バスの一番後ろの席。
 広々と横に五人座れる席で、一番左端の窓ぎわに座ってとなりをポンと叩いた魔央くん。

「となり、……私が座っていいの?」

 私がそう聞き返すと、魔央くんは目を大きく見開いて驚いた。
 でもすぐに、ふふっ、と柔らかい笑顔を浮かべる。

「もちろん。むしろ俺が、一華のとなりに座りたいんだ。ほら、おいで」
「……うん」

 魔央くんのとなりに座ってから、「あれ?」と違和感におそわれた。
 バスって、隣とこんなに近かったっけ?

 少し動けば、肩がくっついてしまう。
 魔央くんの体温が伝わって……って、何考えてるの私!

 いつもとなりは先生だったから、男の子ととなりになることはなかった。
 だからなのか、余計に意識してしまう。
 ちょっとだけ魔央くんとの間にスペースを作って、深呼吸。
 よし、これならなんとか意識せずにいられそう。

 ──でも安心したのは、ほんの一瞬だった。

 背中側から腰に手をまわされて、ぐいっと体を引きよせられた。

 誰にって、それは魔央くんに決まっている。
 さっきとは比べ物にならないくらい、魔央くんと近くなってしまった。

「いま、俺と離れようとしたでしょ。悪い子だね、一華?」
「ひゃあっ」

 みっ、耳に魔央くんの息が……!

「お仕置きしちゃおうかな?」

 ううっ、もうダメッ。
 心臓がっ、心臓がもたないっ!

「──ちょっと近すぎやしないか? 君たち」

 心臓が爆発寸前の私に、救世主があらわれた。
 救世主……それは、目を細めて私たちを見下ろしている天内くんだ。

「となり、失礼するよ神城さん」
「うん、どうぞどうぞっ」

 どさくさにまぎれて、魔央くんとまた距離を取り、なんとか私の心臓を救出に成功する。

「ねぇー、ちょっとぉ。先に座られてたら、奥に行きづらいんだけど?」

 柚瑠くんと界李くんも、バスに乗ってきた。

 いま五つの席の内、左から三つ分の席が埋まっている。 
 柚瑠くんの言うとおり、残りの二つの席に行くには、通路に面している真ん中の席に人がいると、ちょっと行きづらいかもしれない。

「はい、どいたどいたー」
「すまないっ、柊くん」

 天内くんは柚瑠くんたちが通りやすいように、体をかたむける。

「(わっ!)」
「っ!」
 
 私……と多分、天内くんも息をのんだ。
 もうちょっとで、唇がくっつきそうなくらい近くに、天内くんの顔が。

「……天内こそ、一華と距離が近すぎるんじゃないかな?」
「なっ! 今のは、そのっ、わざとじゃ!」
「ふーん?」

 今度は魔央くんが目を細めて、私たちを見る。
 天内くんはというと、顔を真っ赤にして口元を手で隠していた。

「全員乗ったな? じゃあ、出発するぞー」

 先生の鶴の一声で、妙な緊張感から解放された。

 いつも先生の横が定位置な私。
 だけど中学生になってはじめてのバスの座席は、イケメン二人に挟まれるという、大事件になっていた。

 これはこれで、心臓がもちません!


◇◇◆◇◇

 バスが走ること数時間。
 ゆっくりとスピードを落としていくバスに、ようやく目的地に到着したみたいだと気づく。

「神城さん、手を」

 先に降りた天内くんが、私がバスのステップを降りる時に手を出してくれた。

「ありがとうっ、天内くん」
「どういたしまして」

 バスを降りて、まず新鮮な空気を胸いっぱいに吸いこむ。

 私たちがやってきたのは、標高が高い場所にある施設。
 宿泊用のホテルや、大きな体育館、サッカーコートやテニスコートまである巨大な施設で、しかも全部、紅魔こうま中学校専用!

 これだけ広かったら、のびのびと過ごせそう。
 
 このあとは先生から説明を受けたあと、施設の案内や体験授業がある。
 そして、軽くお昼ご飯を食べてからレクリエーションの山登りだ。

 そんなに過酷な山じゃないって、先生は言っていたよ。
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