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第二章 距離が縮まるオリエンテーション!
16話 オオカミ出没注意報?
しおりを挟む「ふわぁあ……。ん~、眠い」
私はこみ上げてきた、あくびを噛みしめる。
寝不足のまま迎えた、オリエンテーション二日目。
外はあいにくの雨だった。
朝ごはんを食べたあとのレクリエーションは、体育館での活動になってしまった。
でも大きな体育館はいつくもあって、それぞれに班が振り分けられているから人はそこまで多くない。
私が振り分けられた体育館は、男子のドッチボール大会が開かれるようだ。
女子はというと、観戦するもよし、何か他のことをやっても良いとなっている。
でも、ほとんどの子が観戦を希望した。
男子たちがドッチポールの練習中、女子のみんなは壁ぎわでイケメンウォッチングだ。
「黒羽くんがんばれー!」
「天内くんこっち向いてー!」
「柊くん可愛すぎるっ!!」
「瀬尾くんが動いてるぅ! カッコいい!」
……まぁ、主に魔央くんたち四人をだけどね。
私も壁ぎわに座りこんで、魔央くんたちの練習を見ている。
それにしても、みんな運動神経がいい。
でも意外だったのは界李くん!
いつも眠たそうでゆったりとした動きなのに、今日はまだ一度もボールに当たっていない。
最小限の動きでボールを避けていた。
「きゃあ!」
近くから悲鳴が聞こえた。
「(な、なにっ! また低級悪魔!?)」
──いや違う、こっちにボールが飛んできてるんだ!
ボールはもう目の前だ。
これは、ぶつかるやつ……!
私は腕を前に出して、身構えた。
「イチカ、大丈夫?」
「……柚瑠くんっ!?」
飛んできたボールを、柚瑠くんが片手で受け止めていた。
「まったく、危ないなぁ。イチカに当たってたらどうするのさ」
「ありがとうっ柚瑠くん。私、もう絶対ぶつかる! って思ったのに、すごいね!」
「それはボクがイチカを見……、いやなんでもない!」
顔が赤い柚瑠くん。
汗を少しかいていたから、タオルを差し出すとガバッと顔をおおった。
「ねぇ、今の柊くんみた?」
──ピクリ。
近くで私たちを見ていた女の子がそう言った。
柚瑠くんにも聞こえたのか、動きを止める。
「柊くん、ボールをキャッチしてた!」
「細くて小さいから、ドッチポールなんて出来ないと思ってたのに!」
「しかも片手!」
「あ、……でも黒羽くんには勝てないかな?」
「うーん、まぁそうかもね」
プルプルと震えている柚瑠くん。
柚瑠くん? と声をかければ、その目はやる気に満ちていた。
「みんな、ボクをなめすぎなんだけどっ。……イチカ!!」
「は、はいぃぃ!」
「──ボクから目を離さないで、応援して?」
「へ?」
「返事は!」
「う、うんっ! まかせて!」
私の返事を聞いて、満足そうな顔をした柚瑠くん。
「じゃあ、ボクが試合でマオたちに勝ったら『ごほうび』ね!」
「ごほうび? ってなに……あ! 行っちゃった」
ごほうびが何かを聞きそびれてしまった。
でもまぁ、私にできることならなんでもするし、いっか。
先生が練習終了の合図を出し、いよいよ本番。
トーナメント制のドッチポール大会が始まった!
柚瑠くんが、それはもうすごかった。
天内くんと界李くんが居るチームとの試合。
みんな、天内くんたちのチームが勝つと思って見ていた。
でも柚瑠くんが相手チーム全員を一人で倒したの!
それには、見ていた女の子たちもびっくり。
壁ぎわで観戦していた私のところに、負けてしまった天内くんと界李くんがやってくる。
「お疲れさま、二人とも!」
「ん、ありがと。柚瑠、本気出してた……」
「当たったポールが結構痛かったな。柊くん、うますぎないか?」
「意外だよね? 私も柚瑠くんにはあまり、スポーツのイメージは無かったよ」
──そして決勝戦。
柚瑠くんのチームと、勝ち上がってきた魔央くんのチームとの戦い。
「柚瑠、珍しくやる気だね」
「ボクは本気出せば強いから。マオよりも~」
「ふふっ……。それはどうかな?」
二人のチームの試合は白熱した。
両チーム、エースの柚瑠くんと魔央くんだけがコートに残っている。
魔央くんはまだ体力に余裕がありそう。
柚瑠くんは……つらそうだ。
私にできる事は何かと考える。
そうだ、応援してって言ってたから、柚瑠くんを応援しよう!
「がんばれ! 柚瑠くーん!!」
「……そんなっ、一華!?」
ショックを受けた顔をした魔央くんが、バッと私を見る。
あれ、なんか心苦しい……!
「油断したね、マオ!」
「くっ!」
──ビッピー!
試合終了の笛が鳴る。
勝ったのは……。
「やったー! ボク勝ったよ、イチカっ!!」
「わあっ!?」
勝った興奮のまま、私に抱きついてくる柚瑠くん。
「ボクの活躍見てた? イチカ!」
「うん! ちゃんと見てたよ。おめでとう!」
「ん、ありがと! これでわかったでしょ? ボクだって強いんだから!」
なんだか、柚瑠くんが素直だ。
これはこれで、悪い気はしない。
「そうだ。ごほうびって……っ!?」
「ごほうび、いただき。へへっ」
柚瑠くんは、私の頬に……キスをした。
直後に、魔央くんと天内くんの悲鳴のような声が。
「柚瑠……!!」
「柊くん!?」
そんな二人に、「べー」と下を出した柚瑠くん。
「負けた人たちは静かにしててよね~」
ゆ、柚瑠くんは可愛いだけじゃない。
可愛い顔をしたウサギじゃなくて、ウサギの皮を被った狼だ!!
◇◇◆◇◇
帰りのバスの中。
行きのバスと同じ席に座っている私たち。
バスの中は、みんな疲れているのか静かだ。きっと寝ているんだと思う。
「ふわぁ……」
私もあくびが出てしまった。
横を見れば、柚瑠くんも界李くんもぐっすり寝ている。
柚瑠くんが界李くんの肩に頭を乗せていた。
ふふ、可愛い。
その時、コテンと私の両肩にわずかな重みが。
右肩には魔央くん。
左肩には天内くん。
二人とも寝息が聞こえる。
これじゃ、うっ動けない……!
……でもまぁ、いっか。
──いろいろなことがあったけれど。
「二日間、楽しかったなぁ」
私も疲れが溜まっていたのか、そのまま深い眠りについた。
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