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相談
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『あっはっはっはっはっは! 理沙ちゃん面白ーい!』
理沙の相談に対する志摩の第一声は大爆笑だった。
「……切るわよ」
『ごめん、ごめん。それにしても思い切ったじゃない、生徒会長なんて?』
「思い切ったわけじゃなくて仕方なくよ。他にいい言い訳がなかったのだから。まったく自分でもなんで生徒会長なんて言っちゃったんだろう……」
『それじゃあ、いまから生徒会長の話をなしにして、別の理由をでっちあげたら?』
「……たぶんダメね。いまさらその話をなしにしたら、親父様は最初の話がなしになるんだったら後からの話も全部なしだ、とか言ってたたみみこんでくるわ」
『そっか、それじゃ仕方ないね。頑張って生徒会長を目指そうか、理沙ちゃん?』
電話越しの声が弾んでいた。
「……志摩ちゃん。面白がってない?」
『ソンナコトナイヨ?』
……絶対面白がっている。
理沙はため息を吐いた。
『まあまあ、それで理沙ちゃんは生徒会選挙についてどれだけ知ってるの?』
「実はほとんど知らないわ。抹茶の水女学園では日蔭蝶の様に生きていこうと思っていたから……」
『日蔭蝶ってなに? まあ、察するにこっそり生きていたかったんだと思うけど……まったく、理沙ちゃんは妙なところで博識よね』
志摩の声があきれていた。
『って、そうじゃなくて! とにかく生徒会長になろうと思ったらこっそりはダメよ、理沙ちゃん! 積極的にアピールしていかなきゃ。もう今年の生徒会長の下馬評も固まっているんだから!』
「えっ、もう? 立候補の受付だって、今日始まったばかりでしょ?」
生徒会選挙に興味はなかったが、クラスがその話題でざわついていたからそのことは知っていた。
というか、その話題が耳に残っていたからこそ、とっさに生徒会長に推薦されているなどと言ってしまったのだ。
『そうよ。つまりそれだけ有力な候補がいるの。しかも二人も。これは理沙ちゃん気合入れないとただの泡だよ、泡』
「泡?」
『泡沫候補ってこと。当選する見込みがないのに立候補して泡の様に消えちゃう人のこと』
「志摩ちゃんも妙なところで博識よね」
『あのねぇ、あたしはこれでも中学で生徒会長だったのよ。理沙ちゃんも知ってるでしょ?』
理沙と志摩は小学校からの幼馴染。もちろん中学校も一緒で、しかも三年間ずっとクラスメイトだった。その分、裏の裏まで知っていた。
「そうだけど……志摩ちゃんは副会長に仕事全部投げてたじゃない。会長挨拶も全部副会長が台本を用意してたんでしょ?」
『それがヒロヒロ……あの副会長の策だったの! 自分は表に立たずに裏から実質的に実権を握りたがっていたんだから!』
「そうだったの?」
意外だった。
志摩がヒロヒロと呼んだ福原博明という副会長の男の子も、理沙たちと同じ地区の出身で理沙も見知っていた。
だが、理沙の知る限り彼は非常に無口でおとなしく、はた目には志摩が副会長を振り回しているようにしか見えなかった。
『そうなの! まあ、お陰で裏から手を回す方法はよく知ってるから、理沙ちゃんは安心してあたしについてきてね。大丈夫、入学してからあたしも学内カーストの上位に食い込むように手を回して派閥を作ったから、それなりの影響力があるんだよ!』
逆に言うと、裏から手を回す方法しか知らない気がする。
安心感と一緒に不安感が広がる。
だが、だからといって他に頼る人もいない。
「仕方ないわね。安心しないけどついていくわ」
理沙が不安感を抱いているのは、志摩にも伝わっていた。志摩が口調を変えた。
『アンシンシテイイヨ』
「ゼッタイシナイ」
電話越しに、二人は笑い合った。
『あっはっはっは! まだまだ話したいところだけど、今日はもう遅いし、調べたいこともあるから明日にしようか? ねえ、明日の昼頃に遊びに行っていい?』
「ええ、特に予定もないからいいわよ」
今日は五月一日火曜日。振り替え休日のため、明日からがゴールデンウィークの始まりの日。
今年のゴールデンウィークは五連休だったが、インドア派の理沙には趣味である絵を描くぐらいしか予定はなかった。
『オッケー。それじゃまた明日ね。お休み、理沙ちゃん』
「ええ、お休み、志摩ちゃん」
電話を切って、携帯を充電アダプタに接続する。
理沙は心が軽くなっていることを自覚した。
志摩に相談してよかったと思う。
志摩は家柄のせいか、可愛い見かけと裏腹に義侠心にあふれている。
小学生の時『恐怖のモナリザ』とからかわれていた私を助けてくれたのは志摩だったのだ。
些細なことだけど、明日はとっておきの菓子折りを出そうと思った。
********
「やっほー。おはおは、理沙ちゃん」
「はい、おはおは、志摩ちゃん。でもおはおはって、もうお昼じゃないの?」
「じゃあ、こんこん、理沙ちゃん」
「昼がこんこんなら、夜はどうなるの?」
「う~ん……ばんばん?」
「びりー?」
「そのネタがわかる高校生はいないと思うよ、理沙ちゃん」
「志摩ちゃんには通じているじゃない」
「うちにはおじさんがたくさんいるからね。その内の一人がよくCDを聞いてるし。それより、理沙ちゃんの方こそなんでわかるの?」
「そのCDを私に貸してくれたのは志摩ちゃんじゃない」
「そんなこともあったような、なかったような?」
「あったわよ。しかも無断で私に貸して怒られたんでしょ」
「昔のことは忘れたよ」
「まったく、志摩ちゃんには勝てないわね。もういいから、上がりなさい」
「は~い、おじゃましま~す」
次の日の昼になり、志摩がやってきた。
淡いイエローのデザインシャツに白いフリルスカート。アクセントに胸元に猫のブローチを付けている。右手にかけている大き目のファンシーなカバンにも、いろいろなアクセサリーやらなんやらがぶら下がっていた。自分の可愛いさの引き出し方がわかっているコーディネートだ。
それに対して、
「理沙ちゃんは相変わらずだね。とても花の女子高校生とは思えないよ、その服なに?」
「えっ、ツナギだけど?」
──ツナギ。
広義で単純にオーバーオールとも言う。
上下一体型の服で、自動車の整備士などの職業の人が作業服としているのが一般的だろう。
理沙は髪を後ろで無造作に一つに縛り、まっ黄色なツナギを着ていた。しかもツナギはところどころべったりと絵具が付いて汚れていた。
理沙の部屋に向かいながら志摩が質問する。
「そうじゃなくて、なんでそんな服を着てるの?」
「さっきまで油絵を描いていたからだけど?」
理沙も一直の影響で、暇があれば絵を描いていた。
絵を描いていると、よほど注意深くしないと服を汚してしまう。しかし、絵を描く時は服が汚れるとかに意識を向けたくない。絵だけに集中したい。
絵描きはたいてい自分の作業着を用意しているものだ。
人によっては白衣やエプロンや割烹着などで済ますが、理沙は結構汚すタイプの人間だったので、全身を覆っているツナギが一番都合がよかったのだ。
理沙の百八十オーバーという長身に合うサイズで種類が豊富にあるのも、ツナギを選んだ理由でもある。
「複雑だけど、やっぱり『モナリザの微笑み』は名すごいわ。あんなに深く滑らかに描くなんて……」
理沙は自身で油絵を描いてみて改めて実感していた。
レオナルド・ダ・ビンチはやはり天才である、そして『モナリザの微笑み』は名画である、と。
「あれ、理沙ちゃんは『モナリザの微笑み』は嫌いじゃないの?」
「別に嫌いじゃないわ。私が嫌なのは『モナリザ』ってからかわれたりすることなのだから」
本心だった。
モナリザに似ていることは、とっくにあきらめがついていた。それに、絵画という芸術そのものを理沙は愛していた。売れない画家である一直や、『モナリザの微笑み』のモデル自体に複雑な思いを抱いてはいたが。
理沙は思う。絵画そのものに罪なんてない。憎むべきは卑しい人の心なのだ。
『恐怖のモナリザ』とからかわれていた小学生時代を思い返してみたらわかる。
あのいじめっ子たちは人をからかうことが目的であって、モナリザに似ていることはネタでしかなかった。モナリザに似ていなかったら似ていなかったで、別のネタを見つけてからかってきただろう。本質的な問題はモナリザに似ていることじゃなかった。
それがわかるほどには大人になった理沙だった。
だが、すべてを割り切れるほど大人になったわけではない。わざわざ知り合いのいない抹茶の水女学園に入学したのも、入学してから色々と工夫を凝らしているのも、モナリザと似ていると言われないためなのだ。
「志摩ちゃん、適当にくつろいでいて」
理沙の部屋に着いた。着替えるために理沙はクローゼットに向かい、志摩は慣れた様子で自分の定位置と決めているテーブルの前に座ってくつろぐ。幼馴染である志摩にとっては勝手知ったる理沙の部屋だった。
志摩はテーブルの上にあるお菓子に手を伸ばしながら呟いた。
「よかった。理沙ちゃんが『モナリザ』を嫌いじゃなくて安心した」
不穏なニュアンスを感じ取り、理沙は振り返って聞き返す。
「なにか言った、志摩ちゃん?」
「いや、こっちの話。理沙ちゃんは気にしないで」
志摩は何事もなかったかのように、おいしそうにお菓子を食べている。
「そう……?」
気のせいだったのかなと思い直し、理沙は着替え始める。
着替えるといってもツナギを脱ぐだけ。ツナギの下からは紺色のサマーセーターとジーンズが姿を現す。
普段着の上に重ねて着れるのもツナギの利点だ。
最後に伊達メガネをかけて理沙が志摩の対面に座る。
「お待たせ」
「……ねえ、理沙ちゃん。芸術家の娘らしく服のセンスがぶっ飛んでいるのはいいんだけど、そのメガネはなんなの? 目は悪くないし伊達でしょ? かけ始めたのは抹茶の水女学園に通い始めてからだよね?」
「その通り、変装用よ」
眼鏡をくいっとあげて答える。黒縁の丸メガネだ。その中でも理沙がかけているのはかなり大きいサイズだった。
変装用と言った通り、これもモナリザと似ていると思われないための理沙の工夫である。学校の間はもちろん、家でも宅配便など突然の来客があったりするので普段からかけるようにしていた。
さっきまでかけていなかったのは、絵を描いていたからだ。理沙にとって絵を描くときに伊達メガネは邪魔にしかならない。
「これなら、誰もモナリザだって思わないでしょ?」
「……確かにモナリザとは思わないけど……なんだろう? どこかで見た顔のような気がする……」
「モナリザと思わないなら成功ね。よかったわ」
理沙はホッと安心した。今までの学園生活でモナリザだと噂が立っていなかったから上手くいっていると思っていたが、社交性が低い自分では噂の全ては把握できない部分がある。社交性が高い幼馴染が指摘しないということは、本当に噂は立っていないのだろう。完璧だ。もう『恐怖のモナリザ』とは誰にも言わせない。
もっとも、志摩は他に言いたいことが満載だったのだが。
「ま、いっか。理沙ちゃんがそれでいいなら、それにどうせすぐに……」
「えっなに? 志摩ちゃんよく聞こえなかったんだけど?」
「なんでもないよ。それよりも時間がもったいないし『目指せ! 生徒会長!』会議を始めようか。とりあえず生徒会選挙の基礎知識からだね──」
志摩が説明を始めた。
抹茶の水女学園の生徒会選挙は五月一日から六月一日にかけて行われる。
五月十日までが立候補期間。十一日以降が選挙期間で六月一日が選挙日である。一日日が祝日の時は前日が選挙日になるが、今年は金曜日なので予定通り。
抹茶の水女学園の生徒会選挙で選ばれるのは生徒会長と副会長の二人だけ。書記や会計は生徒会長の指名制で、たいていは選ばれた生徒会長の応援者が選ばれる。
また、立候補の時点では生徒会長、副会長の区別がなく、票が多かった人から順に生徒会長、副会長と選ばれる。
「──おおまかには、こんな感じだね。何か質問ある?」
「確認するけど、立候補は生徒会長と副会長に分かれてないのね?」
「そうよ。抹茶の水女学園では伝統的なやり方で、なんでも生徒会長に優秀な人が集中し過ぎて副会長におざなりな人が就くのを防ぐためなんだって」
「これは……競争率が高そうね」
立候補がわかれていたら、ライバルは生徒会長に立候補した人だけだけど、この方法なら副会長を目指して立候補した人も全員ライバルになる。
「まあ、実際はそんなことにならないと思うよ。たぶんライバルは二人だけなんじゃないかな?」
「志摩ちゃん、どういうこと?」
「昨日言ったでしょ? 二人有力な候補がいるって。おそらく二人以外に立候補する人はいないと思うよ。当選する見込みがないからね」
「……なんなの、その人たちは?」
「一人は六千院千景。六千院家のお嬢様で二年生。六千院は日本古来から伝わる名家で、昔に比べたら衰えたそうだけど、それでも今も表に裏と強力な影響力を持っているんだって。これパパ情報ね」
「あのおじさんの情報ならなら、六千院家は相当なのね」
志摩の家は何かと曰くある極道の家なのだ。主に裏方面にだが、様々なパイプを持っていてその情報力には定評がある。
「この人は普通に人気があって通称『千景姫』。名家の生まれなのにそれを誇ることもなく優しく穏やかな性格で、しかも絶世の美人。彼女を慕っている生徒は高等部だけでなく中等部にもいるって話よ。頭も良くて万年学年首位。生徒会長候補筆頭はこの千景姫ね」
「……なにその完璧超人?」
早くも勝てる気がしなくなって、理沙はテーブルにつっぷした。
「まあまあ、理沙ちゃん大丈夫だって。ちなみに千景姫の欠点は穏やか過ぎる性格のせいか、競い合い自体が苦手なことね。中等部の頃から学級委員長以上役職はしたことないらしいよ。学級委員長にしても他薦だったって話だから筋金入りね」
「えっ、そんな人ならなら、そもそも生徒会選挙に立候補しないんじゃない?」
ちっちっち、と志摩は指を振って否定した。
「ところがどっこい、今年はその千景姫の信奉者が署名集めて千景姫に無理矢理立候補を迫ったんだな。それで優しい千景姫はとうとう押し切られたらしいよ」
「それって本当に信奉者なの? 本人にとってはありがた迷惑以外のなんでもない気がするけど?」
「間違いなく信奉者だよ、理沙ちゃん。彼女たちの中では生徒会長には千景姫が一番ふさわしく、そしてこれが千景姫のためになると信じてるんだよ。もっとも、理沙ちゃんみたいに考える人もいるみたいで、いま千景姫の信奉者は二つの派閥に分かれて争っているらしいね。……くっくっく、ここが千景姫の泣き所ってわけよ」
「志摩ちゃん、悪い顔してるわよ」
ほくそ笑む志摩に、一言注意する理沙。
理沙はちょっと千景に同情した。
千景姫は目立ちたくないという自分の性格に近いのかもしれない。もしかしたらいい友達になれるのかもしれない、と。
「次にもう一人ね。こっちは藤原道子、一年生。こっちも古くからの名家らしいけど、ホントかどうかは知らないけど藤原道長の子孫なんだって。あくまで噂だし、パパが知らなかったから自称かもしれないけどね。だけどお金持ちの家系であるのは確かみたいよ。抹茶の水女学院の理事長の孫でもあるしね」
「理事長の孫……ね」
お金を持った権力志向のわがまま娘か、もしくはこっちも完璧超人のどちらかかな、と理沙は想像した。
理沙の頭の中を見透かして、志摩はニヤリと笑った。
「理沙ちゃんもどうやらいくつか想像したみたいだけど、わがまま娘が正解よ。こいつは権力志向が強くて、中等部の頃から何度も生徒会に立候補しているらしいね。だけど最高位は副会長。性格に難があって、支持を得られなかったって話。それで今年は開き直って、理事長の孫って権力を活かして堂々と裏から手を回しているみたいよ。他に立候補しようと考えている人にお話ししたりしてね」
「……堂々と裏から手を回す?」
「うん。だから今年は立候補者がめっちゃ少なくなりそうで、この二人だけしか立候補しないと予想されているわけ。……くっくっく、ライバルを減らしてくれるうえに墓穴を掘ってくれるんだから有難いことね」
また志摩の顔が悪党面に変わった。
しかし、今度は理沙が志摩を注意することはなかった。
気分がげんなりしてきて、注意する気力もわかなかったのだ。
「日本有数の名家の完璧お嬢様と自分の通う学校の理事長のわがままな孫か…………立候補する前から絶望的に思えてきたわ……」
「まあまあ、理沙ちゃん元気出して。抹茶の水女学園はエスカレータ式の学校だから、あたしたちみたいに外部編入組のよそ者には不利だけど。そもそも一年生である時点で二年生より不利だけど。元気出して、ね?」
「……ますます元気なくなったわ。……やっぱり私はパリに行く運命なのね。そしてモナリザの様に散々モデルにされた挙句みじめに死んでいくのよ……」
「モナリザの死因ってそうなの?」
もちろんそんなことはない。
死因も何も、モナリザは肝心のモデルの人物でさえ特定されていない。ダ・ヴィンチが自身の理想の女性像を描いた説など、モデルの存在を否定している説もあるのだ。
しかし、理沙の頭の中ではモナリザのモデルになった女性が確かに存在していて、望まぬ絵のモデルにされて絶望の中死んでいったという勝手なイメージが出来上がっていた。
理沙本人に自覚はなかったが、自分の母親がイメージの元になっていた。
「理沙ちゃん、ホントに元気出して。長所は短所に、短所は長所になるんだから。理沙ちゃんは外部編入組の短所を長所にしたらいいのよ!」
「外部編入組の短所を長所に?」
「外部編入組であるうえに一年生の理沙ちゃんは学園にほぼ知られていない。知名度がないという意味では短所だけど、逆にいえば華々しくデビュー出来たら強烈なインパクトをあたえられるんだよ! ふっふっふっ、考えるだけで面白くない?」
志摩が下品に笑いながら手をワキワキさせていた。
面白いことじゃなく、ろくでもないことを考えていることはよくわかった。
「志摩ちゃん、何を企んでいるの?」
「ぐふふ、もちろん楽しいことだよ」
今度はヨダレをたらしそうな表情になっていた。
と、急に表情を一転させて真面目な顔になって言う。
「とりあえず理沙ちゃん、しっかり覚悟を決めて。生半可な覚悟なら生徒会長になれない、日本に残れないよ」
志摩は真剣だった。
理沙も居ずまいを正して答える。
「もちろん生徒会長になって日本に残るわ。そのための覚悟ならすでに出来てる」
パリに行ったら、モナリザの娘と言われモデルの誘いがひっきりなしにやって来る生活になるだろう。それに比べたら、志摩にどんなことを迫られようとなんてことはないと思っていた。
「オッケー。それが聞きたかったのよ」
破顔一笑する志摩。
そしておもむろに理沙の顔に手をかけた。
「志摩……ちゃん?」
志摩は理沙の眼鏡を外し、ペタペタと理沙の顔を触りまくる。
やがて「うん!」と声をかけると自分のカバンから数々の化粧品を取り出し始めた。
「志摩……ちゃん? なにしてるの?」
「決まってるじゃない。理沙ちゃんを変身させるのよ」
「変身?」
「そうよ、外見だけじゃなく内面まで完璧に変身するのよ。幸い今日から五連休だし時間はたっぷりあるしね」
志摩が立ち上がり、両手に筆やブラシを持った手を理沙に突きつけて堂々と宣言した。。
「理沙ちゃんは抹茶の水女学園を守る守護神『モナリザの君』になるのよ!」
──理沙の私服。
理沙の相談に対する志摩の第一声は大爆笑だった。
「……切るわよ」
『ごめん、ごめん。それにしても思い切ったじゃない、生徒会長なんて?』
「思い切ったわけじゃなくて仕方なくよ。他にいい言い訳がなかったのだから。まったく自分でもなんで生徒会長なんて言っちゃったんだろう……」
『それじゃあ、いまから生徒会長の話をなしにして、別の理由をでっちあげたら?』
「……たぶんダメね。いまさらその話をなしにしたら、親父様は最初の話がなしになるんだったら後からの話も全部なしだ、とか言ってたたみみこんでくるわ」
『そっか、それじゃ仕方ないね。頑張って生徒会長を目指そうか、理沙ちゃん?』
電話越しの声が弾んでいた。
「……志摩ちゃん。面白がってない?」
『ソンナコトナイヨ?』
……絶対面白がっている。
理沙はため息を吐いた。
『まあまあ、それで理沙ちゃんは生徒会選挙についてどれだけ知ってるの?』
「実はほとんど知らないわ。抹茶の水女学園では日蔭蝶の様に生きていこうと思っていたから……」
『日蔭蝶ってなに? まあ、察するにこっそり生きていたかったんだと思うけど……まったく、理沙ちゃんは妙なところで博識よね』
志摩の声があきれていた。
『って、そうじゃなくて! とにかく生徒会長になろうと思ったらこっそりはダメよ、理沙ちゃん! 積極的にアピールしていかなきゃ。もう今年の生徒会長の下馬評も固まっているんだから!』
「えっ、もう? 立候補の受付だって、今日始まったばかりでしょ?」
生徒会選挙に興味はなかったが、クラスがその話題でざわついていたからそのことは知っていた。
というか、その話題が耳に残っていたからこそ、とっさに生徒会長に推薦されているなどと言ってしまったのだ。
『そうよ。つまりそれだけ有力な候補がいるの。しかも二人も。これは理沙ちゃん気合入れないとただの泡だよ、泡』
「泡?」
『泡沫候補ってこと。当選する見込みがないのに立候補して泡の様に消えちゃう人のこと』
「志摩ちゃんも妙なところで博識よね」
『あのねぇ、あたしはこれでも中学で生徒会長だったのよ。理沙ちゃんも知ってるでしょ?』
理沙と志摩は小学校からの幼馴染。もちろん中学校も一緒で、しかも三年間ずっとクラスメイトだった。その分、裏の裏まで知っていた。
「そうだけど……志摩ちゃんは副会長に仕事全部投げてたじゃない。会長挨拶も全部副会長が台本を用意してたんでしょ?」
『それがヒロヒロ……あの副会長の策だったの! 自分は表に立たずに裏から実質的に実権を握りたがっていたんだから!』
「そうだったの?」
意外だった。
志摩がヒロヒロと呼んだ福原博明という副会長の男の子も、理沙たちと同じ地区の出身で理沙も見知っていた。
だが、理沙の知る限り彼は非常に無口でおとなしく、はた目には志摩が副会長を振り回しているようにしか見えなかった。
『そうなの! まあ、お陰で裏から手を回す方法はよく知ってるから、理沙ちゃんは安心してあたしについてきてね。大丈夫、入学してからあたしも学内カーストの上位に食い込むように手を回して派閥を作ったから、それなりの影響力があるんだよ!』
逆に言うと、裏から手を回す方法しか知らない気がする。
安心感と一緒に不安感が広がる。
だが、だからといって他に頼る人もいない。
「仕方ないわね。安心しないけどついていくわ」
理沙が不安感を抱いているのは、志摩にも伝わっていた。志摩が口調を変えた。
『アンシンシテイイヨ』
「ゼッタイシナイ」
電話越しに、二人は笑い合った。
『あっはっはっは! まだまだ話したいところだけど、今日はもう遅いし、調べたいこともあるから明日にしようか? ねえ、明日の昼頃に遊びに行っていい?』
「ええ、特に予定もないからいいわよ」
今日は五月一日火曜日。振り替え休日のため、明日からがゴールデンウィークの始まりの日。
今年のゴールデンウィークは五連休だったが、インドア派の理沙には趣味である絵を描くぐらいしか予定はなかった。
『オッケー。それじゃまた明日ね。お休み、理沙ちゃん』
「ええ、お休み、志摩ちゃん」
電話を切って、携帯を充電アダプタに接続する。
理沙は心が軽くなっていることを自覚した。
志摩に相談してよかったと思う。
志摩は家柄のせいか、可愛い見かけと裏腹に義侠心にあふれている。
小学生の時『恐怖のモナリザ』とからかわれていた私を助けてくれたのは志摩だったのだ。
些細なことだけど、明日はとっておきの菓子折りを出そうと思った。
********
「やっほー。おはおは、理沙ちゃん」
「はい、おはおは、志摩ちゃん。でもおはおはって、もうお昼じゃないの?」
「じゃあ、こんこん、理沙ちゃん」
「昼がこんこんなら、夜はどうなるの?」
「う~ん……ばんばん?」
「びりー?」
「そのネタがわかる高校生はいないと思うよ、理沙ちゃん」
「志摩ちゃんには通じているじゃない」
「うちにはおじさんがたくさんいるからね。その内の一人がよくCDを聞いてるし。それより、理沙ちゃんの方こそなんでわかるの?」
「そのCDを私に貸してくれたのは志摩ちゃんじゃない」
「そんなこともあったような、なかったような?」
「あったわよ。しかも無断で私に貸して怒られたんでしょ」
「昔のことは忘れたよ」
「まったく、志摩ちゃんには勝てないわね。もういいから、上がりなさい」
「は~い、おじゃましま~す」
次の日の昼になり、志摩がやってきた。
淡いイエローのデザインシャツに白いフリルスカート。アクセントに胸元に猫のブローチを付けている。右手にかけている大き目のファンシーなカバンにも、いろいろなアクセサリーやらなんやらがぶら下がっていた。自分の可愛いさの引き出し方がわかっているコーディネートだ。
それに対して、
「理沙ちゃんは相変わらずだね。とても花の女子高校生とは思えないよ、その服なに?」
「えっ、ツナギだけど?」
──ツナギ。
広義で単純にオーバーオールとも言う。
上下一体型の服で、自動車の整備士などの職業の人が作業服としているのが一般的だろう。
理沙は髪を後ろで無造作に一つに縛り、まっ黄色なツナギを着ていた。しかもツナギはところどころべったりと絵具が付いて汚れていた。
理沙の部屋に向かいながら志摩が質問する。
「そうじゃなくて、なんでそんな服を着てるの?」
「さっきまで油絵を描いていたからだけど?」
理沙も一直の影響で、暇があれば絵を描いていた。
絵を描いていると、よほど注意深くしないと服を汚してしまう。しかし、絵を描く時は服が汚れるとかに意識を向けたくない。絵だけに集中したい。
絵描きはたいてい自分の作業着を用意しているものだ。
人によっては白衣やエプロンや割烹着などで済ますが、理沙は結構汚すタイプの人間だったので、全身を覆っているツナギが一番都合がよかったのだ。
理沙の百八十オーバーという長身に合うサイズで種類が豊富にあるのも、ツナギを選んだ理由でもある。
「複雑だけど、やっぱり『モナリザの微笑み』は名すごいわ。あんなに深く滑らかに描くなんて……」
理沙は自身で油絵を描いてみて改めて実感していた。
レオナルド・ダ・ビンチはやはり天才である、そして『モナリザの微笑み』は名画である、と。
「あれ、理沙ちゃんは『モナリザの微笑み』は嫌いじゃないの?」
「別に嫌いじゃないわ。私が嫌なのは『モナリザ』ってからかわれたりすることなのだから」
本心だった。
モナリザに似ていることは、とっくにあきらめがついていた。それに、絵画という芸術そのものを理沙は愛していた。売れない画家である一直や、『モナリザの微笑み』のモデル自体に複雑な思いを抱いてはいたが。
理沙は思う。絵画そのものに罪なんてない。憎むべきは卑しい人の心なのだ。
『恐怖のモナリザ』とからかわれていた小学生時代を思い返してみたらわかる。
あのいじめっ子たちは人をからかうことが目的であって、モナリザに似ていることはネタでしかなかった。モナリザに似ていなかったら似ていなかったで、別のネタを見つけてからかってきただろう。本質的な問題はモナリザに似ていることじゃなかった。
それがわかるほどには大人になった理沙だった。
だが、すべてを割り切れるほど大人になったわけではない。わざわざ知り合いのいない抹茶の水女学園に入学したのも、入学してから色々と工夫を凝らしているのも、モナリザと似ていると言われないためなのだ。
「志摩ちゃん、適当にくつろいでいて」
理沙の部屋に着いた。着替えるために理沙はクローゼットに向かい、志摩は慣れた様子で自分の定位置と決めているテーブルの前に座ってくつろぐ。幼馴染である志摩にとっては勝手知ったる理沙の部屋だった。
志摩はテーブルの上にあるお菓子に手を伸ばしながら呟いた。
「よかった。理沙ちゃんが『モナリザ』を嫌いじゃなくて安心した」
不穏なニュアンスを感じ取り、理沙は振り返って聞き返す。
「なにか言った、志摩ちゃん?」
「いや、こっちの話。理沙ちゃんは気にしないで」
志摩は何事もなかったかのように、おいしそうにお菓子を食べている。
「そう……?」
気のせいだったのかなと思い直し、理沙は着替え始める。
着替えるといってもツナギを脱ぐだけ。ツナギの下からは紺色のサマーセーターとジーンズが姿を現す。
普段着の上に重ねて着れるのもツナギの利点だ。
最後に伊達メガネをかけて理沙が志摩の対面に座る。
「お待たせ」
「……ねえ、理沙ちゃん。芸術家の娘らしく服のセンスがぶっ飛んでいるのはいいんだけど、そのメガネはなんなの? 目は悪くないし伊達でしょ? かけ始めたのは抹茶の水女学園に通い始めてからだよね?」
「その通り、変装用よ」
眼鏡をくいっとあげて答える。黒縁の丸メガネだ。その中でも理沙がかけているのはかなり大きいサイズだった。
変装用と言った通り、これもモナリザと似ていると思われないための理沙の工夫である。学校の間はもちろん、家でも宅配便など突然の来客があったりするので普段からかけるようにしていた。
さっきまでかけていなかったのは、絵を描いていたからだ。理沙にとって絵を描くときに伊達メガネは邪魔にしかならない。
「これなら、誰もモナリザだって思わないでしょ?」
「……確かにモナリザとは思わないけど……なんだろう? どこかで見た顔のような気がする……」
「モナリザと思わないなら成功ね。よかったわ」
理沙はホッと安心した。今までの学園生活でモナリザだと噂が立っていなかったから上手くいっていると思っていたが、社交性が低い自分では噂の全ては把握できない部分がある。社交性が高い幼馴染が指摘しないということは、本当に噂は立っていないのだろう。完璧だ。もう『恐怖のモナリザ』とは誰にも言わせない。
もっとも、志摩は他に言いたいことが満載だったのだが。
「ま、いっか。理沙ちゃんがそれでいいなら、それにどうせすぐに……」
「えっなに? 志摩ちゃんよく聞こえなかったんだけど?」
「なんでもないよ。それよりも時間がもったいないし『目指せ! 生徒会長!』会議を始めようか。とりあえず生徒会選挙の基礎知識からだね──」
志摩が説明を始めた。
抹茶の水女学園の生徒会選挙は五月一日から六月一日にかけて行われる。
五月十日までが立候補期間。十一日以降が選挙期間で六月一日が選挙日である。一日日が祝日の時は前日が選挙日になるが、今年は金曜日なので予定通り。
抹茶の水女学園の生徒会選挙で選ばれるのは生徒会長と副会長の二人だけ。書記や会計は生徒会長の指名制で、たいていは選ばれた生徒会長の応援者が選ばれる。
また、立候補の時点では生徒会長、副会長の区別がなく、票が多かった人から順に生徒会長、副会長と選ばれる。
「──おおまかには、こんな感じだね。何か質問ある?」
「確認するけど、立候補は生徒会長と副会長に分かれてないのね?」
「そうよ。抹茶の水女学園では伝統的なやり方で、なんでも生徒会長に優秀な人が集中し過ぎて副会長におざなりな人が就くのを防ぐためなんだって」
「これは……競争率が高そうね」
立候補がわかれていたら、ライバルは生徒会長に立候補した人だけだけど、この方法なら副会長を目指して立候補した人も全員ライバルになる。
「まあ、実際はそんなことにならないと思うよ。たぶんライバルは二人だけなんじゃないかな?」
「志摩ちゃん、どういうこと?」
「昨日言ったでしょ? 二人有力な候補がいるって。おそらく二人以外に立候補する人はいないと思うよ。当選する見込みがないからね」
「……なんなの、その人たちは?」
「一人は六千院千景。六千院家のお嬢様で二年生。六千院は日本古来から伝わる名家で、昔に比べたら衰えたそうだけど、それでも今も表に裏と強力な影響力を持っているんだって。これパパ情報ね」
「あのおじさんの情報ならなら、六千院家は相当なのね」
志摩の家は何かと曰くある極道の家なのだ。主に裏方面にだが、様々なパイプを持っていてその情報力には定評がある。
「この人は普通に人気があって通称『千景姫』。名家の生まれなのにそれを誇ることもなく優しく穏やかな性格で、しかも絶世の美人。彼女を慕っている生徒は高等部だけでなく中等部にもいるって話よ。頭も良くて万年学年首位。生徒会長候補筆頭はこの千景姫ね」
「……なにその完璧超人?」
早くも勝てる気がしなくなって、理沙はテーブルにつっぷした。
「まあまあ、理沙ちゃん大丈夫だって。ちなみに千景姫の欠点は穏やか過ぎる性格のせいか、競い合い自体が苦手なことね。中等部の頃から学級委員長以上役職はしたことないらしいよ。学級委員長にしても他薦だったって話だから筋金入りね」
「えっ、そんな人ならなら、そもそも生徒会選挙に立候補しないんじゃない?」
ちっちっち、と志摩は指を振って否定した。
「ところがどっこい、今年はその千景姫の信奉者が署名集めて千景姫に無理矢理立候補を迫ったんだな。それで優しい千景姫はとうとう押し切られたらしいよ」
「それって本当に信奉者なの? 本人にとってはありがた迷惑以外のなんでもない気がするけど?」
「間違いなく信奉者だよ、理沙ちゃん。彼女たちの中では生徒会長には千景姫が一番ふさわしく、そしてこれが千景姫のためになると信じてるんだよ。もっとも、理沙ちゃんみたいに考える人もいるみたいで、いま千景姫の信奉者は二つの派閥に分かれて争っているらしいね。……くっくっく、ここが千景姫の泣き所ってわけよ」
「志摩ちゃん、悪い顔してるわよ」
ほくそ笑む志摩に、一言注意する理沙。
理沙はちょっと千景に同情した。
千景姫は目立ちたくないという自分の性格に近いのかもしれない。もしかしたらいい友達になれるのかもしれない、と。
「次にもう一人ね。こっちは藤原道子、一年生。こっちも古くからの名家らしいけど、ホントかどうかは知らないけど藤原道長の子孫なんだって。あくまで噂だし、パパが知らなかったから自称かもしれないけどね。だけどお金持ちの家系であるのは確かみたいよ。抹茶の水女学院の理事長の孫でもあるしね」
「理事長の孫……ね」
お金を持った権力志向のわがまま娘か、もしくはこっちも完璧超人のどちらかかな、と理沙は想像した。
理沙の頭の中を見透かして、志摩はニヤリと笑った。
「理沙ちゃんもどうやらいくつか想像したみたいだけど、わがまま娘が正解よ。こいつは権力志向が強くて、中等部の頃から何度も生徒会に立候補しているらしいね。だけど最高位は副会長。性格に難があって、支持を得られなかったって話。それで今年は開き直って、理事長の孫って権力を活かして堂々と裏から手を回しているみたいよ。他に立候補しようと考えている人にお話ししたりしてね」
「……堂々と裏から手を回す?」
「うん。だから今年は立候補者がめっちゃ少なくなりそうで、この二人だけしか立候補しないと予想されているわけ。……くっくっく、ライバルを減らしてくれるうえに墓穴を掘ってくれるんだから有難いことね」
また志摩の顔が悪党面に変わった。
しかし、今度は理沙が志摩を注意することはなかった。
気分がげんなりしてきて、注意する気力もわかなかったのだ。
「日本有数の名家の完璧お嬢様と自分の通う学校の理事長のわがままな孫か…………立候補する前から絶望的に思えてきたわ……」
「まあまあ、理沙ちゃん元気出して。抹茶の水女学園はエスカレータ式の学校だから、あたしたちみたいに外部編入組のよそ者には不利だけど。そもそも一年生である時点で二年生より不利だけど。元気出して、ね?」
「……ますます元気なくなったわ。……やっぱり私はパリに行く運命なのね。そしてモナリザの様に散々モデルにされた挙句みじめに死んでいくのよ……」
「モナリザの死因ってそうなの?」
もちろんそんなことはない。
死因も何も、モナリザは肝心のモデルの人物でさえ特定されていない。ダ・ヴィンチが自身の理想の女性像を描いた説など、モデルの存在を否定している説もあるのだ。
しかし、理沙の頭の中ではモナリザのモデルになった女性が確かに存在していて、望まぬ絵のモデルにされて絶望の中死んでいったという勝手なイメージが出来上がっていた。
理沙本人に自覚はなかったが、自分の母親がイメージの元になっていた。
「理沙ちゃん、ホントに元気出して。長所は短所に、短所は長所になるんだから。理沙ちゃんは外部編入組の短所を長所にしたらいいのよ!」
「外部編入組の短所を長所に?」
「外部編入組であるうえに一年生の理沙ちゃんは学園にほぼ知られていない。知名度がないという意味では短所だけど、逆にいえば華々しくデビュー出来たら強烈なインパクトをあたえられるんだよ! ふっふっふっ、考えるだけで面白くない?」
志摩が下品に笑いながら手をワキワキさせていた。
面白いことじゃなく、ろくでもないことを考えていることはよくわかった。
「志摩ちゃん、何を企んでいるの?」
「ぐふふ、もちろん楽しいことだよ」
今度はヨダレをたらしそうな表情になっていた。
と、急に表情を一転させて真面目な顔になって言う。
「とりあえず理沙ちゃん、しっかり覚悟を決めて。生半可な覚悟なら生徒会長になれない、日本に残れないよ」
志摩は真剣だった。
理沙も居ずまいを正して答える。
「もちろん生徒会長になって日本に残るわ。そのための覚悟ならすでに出来てる」
パリに行ったら、モナリザの娘と言われモデルの誘いがひっきりなしにやって来る生活になるだろう。それに比べたら、志摩にどんなことを迫られようとなんてことはないと思っていた。
「オッケー。それが聞きたかったのよ」
破顔一笑する志摩。
そしておもむろに理沙の顔に手をかけた。
「志摩……ちゃん?」
志摩は理沙の眼鏡を外し、ペタペタと理沙の顔を触りまくる。
やがて「うん!」と声をかけると自分のカバンから数々の化粧品を取り出し始めた。
「志摩……ちゃん? なにしてるの?」
「決まってるじゃない。理沙ちゃんを変身させるのよ」
「変身?」
「そうよ、外見だけじゃなく内面まで完璧に変身するのよ。幸い今日から五連休だし時間はたっぷりあるしね」
志摩が立ち上がり、両手に筆やブラシを持った手を理沙に突きつけて堂々と宣言した。。
「理沙ちゃんは抹茶の水女学園を守る守護神『モナリザの君』になるのよ!」
──理沙の私服。
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