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誕生
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五月七日。ゴールデンウィーク明けの月曜日。
連休明けの朝の教室は、なにかと騒がしいものだ。
生徒たちは「久しぶりね」とか「熱海へ旅行に行っていたのよ」とか、連休中の思い出などを楽し気に語り合う。それはまるで宿り木に止まった小鳥たちのさえずりの様。
話題が尽きるまで、小鳥たちはさえずり続ける。
また連休明けといえば、突然あかぬけたりしてイメージをガラッと変える生徒が現れるものだ。
それは抹茶の水女学園のような、伝統あるお嬢様校でも例外ではない。
だがそのような生徒が現れたとしても、小鳥たちのさえずりを止めることはできない。
小鳥たちにとって、そんなことすら話題のタネにしかならないのだ。
ところが、そのように他の教室が騒がしく賑わう中、一年三組の教室だけはまるでお通夜みたいな静寂が支配していた。
始業前にもかかわらず、小鳥たちはみな行儀よく自分の椅子に座り、ちらちらと一人の生徒をただ盗み見るだけだった。
今年の一年三組に現れた、イメチェンしてきた生徒は小鳥たちの常識を超越していたのだ。
小鳥たちは完全にその生徒の雰囲気にのまれていた。
彼女らは、ある童話『みにくいアヒルの子』を思い出した。
これはリアル『みにくいアヒルの子』なの?
だけど、おかしいわ。
あれは確かアヒルの中に白鳥が混じっていた話だったはずよ。
断じてモナリザが混じっていたのではなかったわ。
私の目はおかしくなったのかしら?
だって、クラスメイトがモナリザだったなんて、骨董無形過ぎる!
人に話しても、きっと笑うばかりで誰も信じてくれない。
自分でも信じられないんだから。
……でも、確かにそこに居る。
もしかして、実はまだ夢の中でゴールデンウィークの最中なのではないかしら?
その証拠に、まだまだ休み足りないし。
小鳥たちはかくして順調に迷走し、言葉を失ったままちらちらと突然現れたモナリザを盗み見るだけだった。
(……どうしてこんなことになったのだろう?)
アヒルの中に混じっていたモナリザ、もとい理沙は心の中で嘆息した。
心の中の溜息が表情に響かないように注意する。あくまで顔は微笑みをキープしなければならない。それが『モナリザの君』なのだ。
今日の理沙はいつもの伊達メガネもしておらず、髪型にも手を加えられて文句なしのモナリザだった。
そう、今日の理沙はモナリザに似ているというレベルでなく、モナリザそのものだった。
理沙は隣のクラスにいるはずの志摩に向かってテレパシーを飛ばす。
(これで本当に当選しなかったら覚悟してもらうわよ、志摩ちゃん……)
すべては志摩が提唱した『モナリザの君』計画が原因だった。
あの志摩の「──『モナリザの君』になるのよ!」宣言の後には長々とした説明が続き、なんだかわからないうちに理沙は志摩の『モナリザの君』計画に乗ることになっていた。
志摩曰く「これ以外に生徒会長に当選する方法はない! 命賭ける!」とのことだったのだ。
命まで賭けると言われて、よっぽど自信があるのかと納得してしまったが、よくよく思い出してみたら志摩が命を賭けるのはこれで三度目だったりした。
しかも、一度は賭けに負けている。
その時はおふざけ半分のどうでもいい賭けだったので、負けた罰にしてもイチゴミルクと抹茶ミルクを両鼻からとも一気に飲ませるなど、大した事をさせていないからすっかり忘れていたのだ。
しかし、志摩の「命を懸ける」が絶対ではないことを思い出してしまってから不安で仕方なくなっていた。
なにしろ今回はどうでもいい話でなく、人生が掛かっているのだ。
とりあえずダメだったら本当に志摩の命を貰おう、と固く心に誓う理沙だった。
*『みにくいアヒルの子(モナリザ)』
連休明けの朝の教室は、なにかと騒がしいものだ。
生徒たちは「久しぶりね」とか「熱海へ旅行に行っていたのよ」とか、連休中の思い出などを楽し気に語り合う。それはまるで宿り木に止まった小鳥たちのさえずりの様。
話題が尽きるまで、小鳥たちはさえずり続ける。
また連休明けといえば、突然あかぬけたりしてイメージをガラッと変える生徒が現れるものだ。
それは抹茶の水女学園のような、伝統あるお嬢様校でも例外ではない。
だがそのような生徒が現れたとしても、小鳥たちのさえずりを止めることはできない。
小鳥たちにとって、そんなことすら話題のタネにしかならないのだ。
ところが、そのように他の教室が騒がしく賑わう中、一年三組の教室だけはまるでお通夜みたいな静寂が支配していた。
始業前にもかかわらず、小鳥たちはみな行儀よく自分の椅子に座り、ちらちらと一人の生徒をただ盗み見るだけだった。
今年の一年三組に現れた、イメチェンしてきた生徒は小鳥たちの常識を超越していたのだ。
小鳥たちは完全にその生徒の雰囲気にのまれていた。
彼女らは、ある童話『みにくいアヒルの子』を思い出した。
これはリアル『みにくいアヒルの子』なの?
だけど、おかしいわ。
あれは確かアヒルの中に白鳥が混じっていた話だったはずよ。
断じてモナリザが混じっていたのではなかったわ。
私の目はおかしくなったのかしら?
だって、クラスメイトがモナリザだったなんて、骨董無形過ぎる!
人に話しても、きっと笑うばかりで誰も信じてくれない。
自分でも信じられないんだから。
……でも、確かにそこに居る。
もしかして、実はまだ夢の中でゴールデンウィークの最中なのではないかしら?
その証拠に、まだまだ休み足りないし。
小鳥たちはかくして順調に迷走し、言葉を失ったままちらちらと突然現れたモナリザを盗み見るだけだった。
(……どうしてこんなことになったのだろう?)
アヒルの中に混じっていたモナリザ、もとい理沙は心の中で嘆息した。
心の中の溜息が表情に響かないように注意する。あくまで顔は微笑みをキープしなければならない。それが『モナリザの君』なのだ。
今日の理沙はいつもの伊達メガネもしておらず、髪型にも手を加えられて文句なしのモナリザだった。
そう、今日の理沙はモナリザに似ているというレベルでなく、モナリザそのものだった。
理沙は隣のクラスにいるはずの志摩に向かってテレパシーを飛ばす。
(これで本当に当選しなかったら覚悟してもらうわよ、志摩ちゃん……)
すべては志摩が提唱した『モナリザの君』計画が原因だった。
あの志摩の「──『モナリザの君』になるのよ!」宣言の後には長々とした説明が続き、なんだかわからないうちに理沙は志摩の『モナリザの君』計画に乗ることになっていた。
志摩曰く「これ以外に生徒会長に当選する方法はない! 命賭ける!」とのことだったのだ。
命まで賭けると言われて、よっぽど自信があるのかと納得してしまったが、よくよく思い出してみたら志摩が命を賭けるのはこれで三度目だったりした。
しかも、一度は賭けに負けている。
その時はおふざけ半分のどうでもいい賭けだったので、負けた罰にしてもイチゴミルクと抹茶ミルクを両鼻からとも一気に飲ませるなど、大した事をさせていないからすっかり忘れていたのだ。
しかし、志摩の「命を懸ける」が絶対ではないことを思い出してしまってから不安で仕方なくなっていた。
なにしろ今回はどうでもいい話でなく、人生が掛かっているのだ。
とりあえずダメだったら本当に志摩の命を貰おう、と固く心に誓う理沙だった。
*『みにくいアヒルの子(モナリザ)』
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