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20話 完璧という責任
20話 完璧という責任
王都の春は、穏やかだった。
廃嫡の混乱も、モニカという名を巡る噂も、ようやく沈静化しつつある。第二王子は王位継承者としての公務を着実にこなし、王家の威信は徐々に回復していた。
そして――
プロミシング公爵家は、以前にも増して安定していた。
広大な領地の税収は順調。
農村支援策は実績を上げ、若手貴族の研修制度は他家にも広がり始めている。
執務室で報告を受けたフローレスは、静かに頷いた。
「良い流れでございます」
側近は微笑む。
「王国の柱、と呼ばれるようになっております」
「そのような大仰なものではございません」
彼女は淡々と書類を整える。
だが事実として、貴族社会の中心は今や彼女のもとにある。
清楚で奢らず、誰も悪く言わない。
それでいて、盤面を読む。
完璧。
その評価は揺るがない。
その日の午後、王宮から正式な招待が届く。
王家主催の晩餐会。
第二王子の王位継承者披露を兼ねた公式行事。
公爵としての出席は当然である。
晩餐会当日。
王宮の大広間は華やかな光に包まれていた。
第二王子は堂々と立ち、貴族たちへ語る。
「王位とは、責任であると学びました」
その視線は真っ直ぐだ。
「私は、事実を確かめ、均衡を守ります」
会場に拍手が広がる。
その視線の先に、フローレスがいる。
彼女はただ静かに微笑む。
上下はない。
支配もない。
対等。
それが今の王家と公爵家の形だった。
宴の後半。
国王がフローレスを呼び止める。
「公爵」
「陛下」
「王国は、お前に救われた」
率直な言葉。
だがフローレスは首を横に振る。
「陛下が信義をお守りになった結果でございます」
国王は苦笑する。
「お前は、王位を望まぬのだな」
「望みません」
迷いのない答え。
「わたくしは、公爵で十分でございます」
王位は重い。
だが柱であることもまた、重い。
彼女はその重さを選んだ。
離宮。
元王太子は晩餐会の報告を聞く。
「第二王子殿下は、立派に振る舞われました」
静かな声で報告が終わる。
彼は窓の外を見つめる。
「……彼女は、何も奪っていない」
自分が手放したのだ。
完璧すぎると、逃げた。
守るという物語に酔い、確認を怠った。
結果は、廃嫡。
誰も彼を責めなかった。
それが、何より重い。
公爵邸へ戻った夜。
庭園で風に揺れる花を眺めながら、フローレスは静かに呟く。
「完璧、とは不自由な言葉でございます」
側近が問いかける。
「お疲れではございませんか」
「いいえ」
彼女は微笑む。
「完璧であることを求められるのなら、応えましょう」
完璧とは、誤らないことではない。
誤りを許さない責任を負うこと。
悪役令嬢の仮面の下で、彼女はそれを選んだ。
王国は安定し、王家は立ち直り、貴族は均衡を保つ。
誰も傷つけず、誰も罵らず。
それでも結果は動いた。
完璧という責任を背負い、
フローレス・プロミシングは今日も静かに盤面を整える。
王都の春は、穏やかだった。
廃嫡の混乱も、モニカという名を巡る噂も、ようやく沈静化しつつある。第二王子は王位継承者としての公務を着実にこなし、王家の威信は徐々に回復していた。
そして――
プロミシング公爵家は、以前にも増して安定していた。
広大な領地の税収は順調。
農村支援策は実績を上げ、若手貴族の研修制度は他家にも広がり始めている。
執務室で報告を受けたフローレスは、静かに頷いた。
「良い流れでございます」
側近は微笑む。
「王国の柱、と呼ばれるようになっております」
「そのような大仰なものではございません」
彼女は淡々と書類を整える。
だが事実として、貴族社会の中心は今や彼女のもとにある。
清楚で奢らず、誰も悪く言わない。
それでいて、盤面を読む。
完璧。
その評価は揺るがない。
その日の午後、王宮から正式な招待が届く。
王家主催の晩餐会。
第二王子の王位継承者披露を兼ねた公式行事。
公爵としての出席は当然である。
晩餐会当日。
王宮の大広間は華やかな光に包まれていた。
第二王子は堂々と立ち、貴族たちへ語る。
「王位とは、責任であると学びました」
その視線は真っ直ぐだ。
「私は、事実を確かめ、均衡を守ります」
会場に拍手が広がる。
その視線の先に、フローレスがいる。
彼女はただ静かに微笑む。
上下はない。
支配もない。
対等。
それが今の王家と公爵家の形だった。
宴の後半。
国王がフローレスを呼び止める。
「公爵」
「陛下」
「王国は、お前に救われた」
率直な言葉。
だがフローレスは首を横に振る。
「陛下が信義をお守りになった結果でございます」
国王は苦笑する。
「お前は、王位を望まぬのだな」
「望みません」
迷いのない答え。
「わたくしは、公爵で十分でございます」
王位は重い。
だが柱であることもまた、重い。
彼女はその重さを選んだ。
離宮。
元王太子は晩餐会の報告を聞く。
「第二王子殿下は、立派に振る舞われました」
静かな声で報告が終わる。
彼は窓の外を見つめる。
「……彼女は、何も奪っていない」
自分が手放したのだ。
完璧すぎると、逃げた。
守るという物語に酔い、確認を怠った。
結果は、廃嫡。
誰も彼を責めなかった。
それが、何より重い。
公爵邸へ戻った夜。
庭園で風に揺れる花を眺めながら、フローレスは静かに呟く。
「完璧、とは不自由な言葉でございます」
側近が問いかける。
「お疲れではございませんか」
「いいえ」
彼女は微笑む。
「完璧であることを求められるのなら、応えましょう」
完璧とは、誤らないことではない。
誤りを許さない責任を負うこと。
悪役令嬢の仮面の下で、彼女はそれを選んだ。
王国は安定し、王家は立ち直り、貴族は均衡を保つ。
誰も傷つけず、誰も罵らず。
それでも結果は動いた。
完璧という責任を背負い、
フローレス・プロミシングは今日も静かに盤面を整える。
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