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店員さん~?~
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しおりを挟む私の頭をポンポンと撫でて、拓己さんはまた別室に行ってしまった。少し経って帰ってきたときに手に持っていたのは真っ赤な縄だった。
「それ、使うんですか」
「ええ。もちろん」
私は急いで立ち上がり、ソファの後ろに避難する。
「無理無理無理! 無理です!」
「大丈夫です、初心者用のあんまり痛くないやつなんで」
「あんまりって痛いんじゃないですか」
拓己さんが段々ソファに近づいてくる。
「個人差ありますから」
近くになると彼が持っている縄が結構太めなことに気づく。彼は私を捕まえようとソファの後ろに回り込もうとする。
「無理です!」
「大丈夫ですから」
私はソファを挟んで彼との対角線上を保つ。どちらかが動いたらそれに合わせて動く。お互い譲らずにフェイントの掛け合いが始まる。
「あきらめてください!」
「凪さんこそあきらめてください。これはお仕置きですから」
「拓己さんの趣味が入ってるじゃないですか!」
「そうですよ! 縄が映えてきれいですよ!」
「うれしくないです!」
段々笑えてくる。さっきまで涙を流していたのに、今はこうして子供みたいな追いかけっこを楽しんでいる。
私はもう、心も拓己さんじゃないとダメなのかもしれない。
……でも、しばらくは言わないことにする。
もう少しだけ、彼に私のことを追いかけていてほしいと思ったから。
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