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願わくは、きみに愛を届けたい。
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それからのわたしは、がむしゃらに働いた。ちょうど連日アルバイトを入れていたため、働くことに没頭した。
余った時間は図書館に行ったり、ウインドウショッピングをしたり。映画も見にいった。とにかくなるべく家にいる時間を少なくした。じゃないと、降矢くんのことを考えてしまう。
だけど神様のいたずらなのか、ある日の深夜、お風呂上がりになんの気なしにつけたテレビに降矢くんが映っていて、飲んでいたミネラルウォーターにむせてしまった。
どうやらスポーツニュースのなかのコーナーらしく、競泳界のアスリート特集をやっていた。
また別の日にはコンビニでたまたま手に取った雑誌に降矢くんの記事が載っていた。いきなりあらわれた降矢くんのアップの写真に驚いて、雑誌を落としそうになったとき、雑誌のページを破ってしまい、買う羽目になってしまった。
その雑誌を目の前に、わたしは今ひとり寂しく遅めの夕食を食べている。
本当は見たくてしょうがない。でも一度見てしまったら、この先も同じことを繰り返してしまいそうで怖かった。
「怖い?」
だけどわたしはいったい、なにに怯えているんだろうか。
どうして必死になって降矢くんのことを考えないようにしているんだろうか。
降矢くんと会わなくなって三週間ほど過ぎ、お盆になった。
わたしは二日間、アルバイトの休みをもらい、実家に帰省していた。
帰省一日目の午後、地元の大学に通うすずちゃんと駅前で待ち合わせし、久しぶりの再会を果たした。
「急に呼び出してごめんね」
昨日、すずちゃんから『会えない?』と電話をもらった。お盆中にもかかわらず、急遽アルバイトのシフトを交換できて休めることになったらしい。
すずちゃんのアルバイト先は郊外にあるショッピングモールのフードコート。今の時季はとんでもない忙しさのはずだ。
「いいのいいの。ずっと休みなしだったんだもん。それに五月の連休も働きづめだったんだから」
「同じだ。でもわたしの場合はお盆に休みをもらうためだったけど」
わたしたちは駅ビルのファッションフロアを歩きながら、ひと通りお互いの近況を報告し合った。大学生になって半年も経っていないけれど、すずちゃんはすっかり垢抜けて、キャンパスライフを満喫しているようだった。
すずちゃんとはたまに電話やメッセージのやり取りはしていたけれど、実際に会うと話したいことが次から次へとあふれてきて話がつきない。
結局、「ぜんぜん買い物にならないね」というすずちゃんの言葉で、どこか休憩できるお店に入ろうということになった。
とはいっても、お盆中のためどこも満席。あちこち歩きながら、ようやくファストフード店で空席を確保でき、ひとまず飲み物を頼み席についた。
「で、最近、降矢とはどう?」
これまで降矢くんの話なんて一切していなかったのに、すずちゃんが急に降矢くんの話題を振ってくるものだから目が点になる。
「突然、なに?」
「明日、降矢がこっちに帰省するんだって」
「なんで知ってるの?」
連絡を取り合う仲だったっけ? と思っていたら、すずちゃんが思いもよらない情報を教えてくれた。
「うちの弟が水泳部で、降矢のファンだって前に話したことあったじゃん」
「うん」
すずちゃんの弟は今年、中学を卒業したのだけれど、わたしたちの母校に進学し、水泳部に入部していた。水泳は中学の頃から本格的にはじめたそうで、きっかけが降矢くんに憧れてというから驚きだ。
──と、ここまでは以前すずちゃんから聞いていた。
余った時間は図書館に行ったり、ウインドウショッピングをしたり。映画も見にいった。とにかくなるべく家にいる時間を少なくした。じゃないと、降矢くんのことを考えてしまう。
だけど神様のいたずらなのか、ある日の深夜、お風呂上がりになんの気なしにつけたテレビに降矢くんが映っていて、飲んでいたミネラルウォーターにむせてしまった。
どうやらスポーツニュースのなかのコーナーらしく、競泳界のアスリート特集をやっていた。
また別の日にはコンビニでたまたま手に取った雑誌に降矢くんの記事が載っていた。いきなりあらわれた降矢くんのアップの写真に驚いて、雑誌を落としそうになったとき、雑誌のページを破ってしまい、買う羽目になってしまった。
その雑誌を目の前に、わたしは今ひとり寂しく遅めの夕食を食べている。
本当は見たくてしょうがない。でも一度見てしまったら、この先も同じことを繰り返してしまいそうで怖かった。
「怖い?」
だけどわたしはいったい、なにに怯えているんだろうか。
どうして必死になって降矢くんのことを考えないようにしているんだろうか。
降矢くんと会わなくなって三週間ほど過ぎ、お盆になった。
わたしは二日間、アルバイトの休みをもらい、実家に帰省していた。
帰省一日目の午後、地元の大学に通うすずちゃんと駅前で待ち合わせし、久しぶりの再会を果たした。
「急に呼び出してごめんね」
昨日、すずちゃんから『会えない?』と電話をもらった。お盆中にもかかわらず、急遽アルバイトのシフトを交換できて休めることになったらしい。
すずちゃんのアルバイト先は郊外にあるショッピングモールのフードコート。今の時季はとんでもない忙しさのはずだ。
「いいのいいの。ずっと休みなしだったんだもん。それに五月の連休も働きづめだったんだから」
「同じだ。でもわたしの場合はお盆に休みをもらうためだったけど」
わたしたちは駅ビルのファッションフロアを歩きながら、ひと通りお互いの近況を報告し合った。大学生になって半年も経っていないけれど、すずちゃんはすっかり垢抜けて、キャンパスライフを満喫しているようだった。
すずちゃんとはたまに電話やメッセージのやり取りはしていたけれど、実際に会うと話したいことが次から次へとあふれてきて話がつきない。
結局、「ぜんぜん買い物にならないね」というすずちゃんの言葉で、どこか休憩できるお店に入ろうということになった。
とはいっても、お盆中のためどこも満席。あちこち歩きながら、ようやくファストフード店で空席を確保でき、ひとまず飲み物を頼み席についた。
「で、最近、降矢とはどう?」
これまで降矢くんの話なんて一切していなかったのに、すずちゃんが急に降矢くんの話題を振ってくるものだから目が点になる。
「突然、なに?」
「明日、降矢がこっちに帰省するんだって」
「なんで知ってるの?」
連絡を取り合う仲だったっけ? と思っていたら、すずちゃんが思いもよらない情報を教えてくれた。
「うちの弟が水泳部で、降矢のファンだって前に話したことあったじゃん」
「うん」
すずちゃんの弟は今年、中学を卒業したのだけれど、わたしたちの母校に進学し、水泳部に入部していた。水泳は中学の頃から本格的にはじめたそうで、きっかけが降矢くんに憧れてというから驚きだ。
──と、ここまでは以前すずちゃんから聞いていた。
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