36 / 54
第四章 絶望のクライ
036
しおりを挟む
「なにが『テロに負けません』だよ。自分が犯人なんじゃん」
「自爆しちゃったね。格好わるー」
翌朝の学園では莉々亜への非難やばかにする言葉が相次いでいたが、彼女のSNSや動画サイトはそれ以上に大炎上だった。
莉々亜を罵る汚い言葉であふれかえり、彼女自身の個人情報はもちろん、家族までもさらされた。自宅住所、父母の勤め先、中学生の妹の学校名とプリクラ写真等々。また、どうやって入手したのか、ライブ直前の莉々亜の楽屋でのスッピンオフショットまでも流出していた。
一年一組の教室前の廊下では遠峰と梅村が立ち話をしていた。登校してきためぐるはあいさつだけしてそのまま通りすぎようとしたが、遠峯はめぐるを見つけるなり呼び止める。
「高比良さんはなにか聞いてる? 野垣さんから連絡あった?」
「ううん、なにも。わたしもニュースを見て初めて知った。なんで莉々亜があんなことしたんだろう?」
「世間に注目されたかったんじゃないか?」
確信がないため自信がなさそうに梅村が言う。
「有名になりたいってだけで、あんな大それたことをするかな? 警察に捕まるリスクを考えて、普通はそこまでしないと思うんだけど」
四方堂も言っていた自己顕示欲だが、めぐるはいまいち理解できなかった。
莉々亜はあの騒動で知名度があがったことを心から喜んでいたのだろうか。
中止になりかけたライブが開催されることになってうれしそうではあったけれど、トップアイドルになって自分をいじめた人間を見返してやると言った莉々亜は勇ましくも、どこか不安げだった。
また、四方堂のもうひとつの見解である警察への挑戦ということとも違うような気がした。
一限目は緊急の全校集会だった。体育館に集められた生徒たちはなにが語られるのだろうと興味津々。
如月学園長が壇上にあがると、ざわざわとした体育館が一気に静まり返った。
「すでに報道にありますように、昨日わが校の生徒が逮捕されました。在学中の生徒から逮捕者を出したことは創立以来初めてのことであり、大変遺憾であります。なぜ犯行を止めることができなかったのか、なぜそこまで思いつめていることに気づけなかったのか……。学園長として深く悔い、そして反省しております。生徒のみなさんや親御さん、そして市民の皆様に不安な日々を過ごさせてしまったことも心からお詫び申しあげます」
如月学園長が深々と頭をさげた。
ここにいる誰もが、まさか如月学園長が謝罪の意を述べるとは想像していなかったため、ほとんどの生徒や教師はぼう然としていた。
その後、事件についてのこれまでの経緯がざっくりと説明された。内容はニュースで報じられているものと変わりないもので、みんなおとなしく聞いていた。しかし如月学園長の次の言葉に生徒たちがどよめくこととなる。
「共犯の男は十一年前に建物を爆破する目的で爆発物を製造し、逮捕された前科があります。つまり、わが校も爆破される危機にあったということです。そんな人間とかかわりを持ち、多くの人々を危険にさらした生徒の行動は大変許しがたいことです。よって今回の騒動を起こした生徒については厳しい処分を検討しています」
おそらく莉々亜は退学処分になるだろう。当然のことながら全国区のアイドルになる夢も絶たれてしまった。
きっとほとんどの人間は彼女に同情しない。しばらくは徹底的にたたかれるだろう。
だがそれは永遠には続かない。そのうち誰からも相手にされなくなり、やがて世の中から忘れ去られる運命だ。
けれどインターネットのアーカイブには残り続けることになる。
名前を検索すれば数々の画像とともに情報を呼び出すことができる。就職試験を受けるたびに過去を調べられるかもしれない。交際相手の親にバレたら猛反対されるかもしれない。報道機関による実名報道は免れても、私生活では過去に脅える日が延々と続くことになるはずだ。
その日、各局のワイドショーでは人気アニメの劇場版の試写会に出席していた有名アイドル、呉羽美々のコメントが取りあげられていた。
【彼女とは同い年で、おもにSNSを通して仲よくしていました。彼女はとてもいい子で、悪いことをするような人には見えませんでした。なので今回のことは本当に残念でなりません】
呉羽美々は前日、自身のSNSで莉々亜について触れていた。名前は伏せられていたが、世間には『彼女』というのが莉々亜だとバレバレだった。
ふたりが知り合ったのは二年前に東京で行われたオーディション。初めてのオーディションで緊張していた呉羽美々を励ましてくれたのが莉々亜だった。そのオーディションで呉羽美々は見事優勝、半年後に華々しくデビューした。
この日は映画のエンディングを呉羽美々が担当したということで試写会に出席していたが、SNSでのコメントアップはもちろん呉羽美々の作戦。試写会でマスコミが食いついてくるのを想定してのことだ。
さらに、共犯の蛯名が莉々亜の熱心なファンであったと、芸能会の裏情報を扱うインターネットサイトで報じられ、一部のユーザーの間でヒートアップ。莉々亜は自分のファンであった蛯名と個人的に親しくなり、そこで爆破予告という計画をくわだてたというのだ。
それは双方の承認欲求を満たせるというメリットがあった。
莉々亜はアイドルとして有名になれる。蛯名にとっても同じだった。
前回製造した爆発物は試作段階で捕まってしまい、思うような結果にならなかったが、今回は見事にそれを果たせたのだ。爆破という目的は叶わないが、大勢に注目されたことは快感だった。
なかには蛯名の才能を認める者がいたのは事実。その才能を別のことに発揮すればいいものをという言葉は、蛯名にとって最高のほめ言葉だった。
「自爆しちゃったね。格好わるー」
翌朝の学園では莉々亜への非難やばかにする言葉が相次いでいたが、彼女のSNSや動画サイトはそれ以上に大炎上だった。
莉々亜を罵る汚い言葉であふれかえり、彼女自身の個人情報はもちろん、家族までもさらされた。自宅住所、父母の勤め先、中学生の妹の学校名とプリクラ写真等々。また、どうやって入手したのか、ライブ直前の莉々亜の楽屋でのスッピンオフショットまでも流出していた。
一年一組の教室前の廊下では遠峰と梅村が立ち話をしていた。登校してきためぐるはあいさつだけしてそのまま通りすぎようとしたが、遠峯はめぐるを見つけるなり呼び止める。
「高比良さんはなにか聞いてる? 野垣さんから連絡あった?」
「ううん、なにも。わたしもニュースを見て初めて知った。なんで莉々亜があんなことしたんだろう?」
「世間に注目されたかったんじゃないか?」
確信がないため自信がなさそうに梅村が言う。
「有名になりたいってだけで、あんな大それたことをするかな? 警察に捕まるリスクを考えて、普通はそこまでしないと思うんだけど」
四方堂も言っていた自己顕示欲だが、めぐるはいまいち理解できなかった。
莉々亜はあの騒動で知名度があがったことを心から喜んでいたのだろうか。
中止になりかけたライブが開催されることになってうれしそうではあったけれど、トップアイドルになって自分をいじめた人間を見返してやると言った莉々亜は勇ましくも、どこか不安げだった。
また、四方堂のもうひとつの見解である警察への挑戦ということとも違うような気がした。
一限目は緊急の全校集会だった。体育館に集められた生徒たちはなにが語られるのだろうと興味津々。
如月学園長が壇上にあがると、ざわざわとした体育館が一気に静まり返った。
「すでに報道にありますように、昨日わが校の生徒が逮捕されました。在学中の生徒から逮捕者を出したことは創立以来初めてのことであり、大変遺憾であります。なぜ犯行を止めることができなかったのか、なぜそこまで思いつめていることに気づけなかったのか……。学園長として深く悔い、そして反省しております。生徒のみなさんや親御さん、そして市民の皆様に不安な日々を過ごさせてしまったことも心からお詫び申しあげます」
如月学園長が深々と頭をさげた。
ここにいる誰もが、まさか如月学園長が謝罪の意を述べるとは想像していなかったため、ほとんどの生徒や教師はぼう然としていた。
その後、事件についてのこれまでの経緯がざっくりと説明された。内容はニュースで報じられているものと変わりないもので、みんなおとなしく聞いていた。しかし如月学園長の次の言葉に生徒たちがどよめくこととなる。
「共犯の男は十一年前に建物を爆破する目的で爆発物を製造し、逮捕された前科があります。つまり、わが校も爆破される危機にあったということです。そんな人間とかかわりを持ち、多くの人々を危険にさらした生徒の行動は大変許しがたいことです。よって今回の騒動を起こした生徒については厳しい処分を検討しています」
おそらく莉々亜は退学処分になるだろう。当然のことながら全国区のアイドルになる夢も絶たれてしまった。
きっとほとんどの人間は彼女に同情しない。しばらくは徹底的にたたかれるだろう。
だがそれは永遠には続かない。そのうち誰からも相手にされなくなり、やがて世の中から忘れ去られる運命だ。
けれどインターネットのアーカイブには残り続けることになる。
名前を検索すれば数々の画像とともに情報を呼び出すことができる。就職試験を受けるたびに過去を調べられるかもしれない。交際相手の親にバレたら猛反対されるかもしれない。報道機関による実名報道は免れても、私生活では過去に脅える日が延々と続くことになるはずだ。
その日、各局のワイドショーでは人気アニメの劇場版の試写会に出席していた有名アイドル、呉羽美々のコメントが取りあげられていた。
【彼女とは同い年で、おもにSNSを通して仲よくしていました。彼女はとてもいい子で、悪いことをするような人には見えませんでした。なので今回のことは本当に残念でなりません】
呉羽美々は前日、自身のSNSで莉々亜について触れていた。名前は伏せられていたが、世間には『彼女』というのが莉々亜だとバレバレだった。
ふたりが知り合ったのは二年前に東京で行われたオーディション。初めてのオーディションで緊張していた呉羽美々を励ましてくれたのが莉々亜だった。そのオーディションで呉羽美々は見事優勝、半年後に華々しくデビューした。
この日は映画のエンディングを呉羽美々が担当したということで試写会に出席していたが、SNSでのコメントアップはもちろん呉羽美々の作戦。試写会でマスコミが食いついてくるのを想定してのことだ。
さらに、共犯の蛯名が莉々亜の熱心なファンであったと、芸能会の裏情報を扱うインターネットサイトで報じられ、一部のユーザーの間でヒートアップ。莉々亜は自分のファンであった蛯名と個人的に親しくなり、そこで爆破予告という計画をくわだてたというのだ。
それは双方の承認欲求を満たせるというメリットがあった。
莉々亜はアイドルとして有名になれる。蛯名にとっても同じだった。
前回製造した爆発物は試作段階で捕まってしまい、思うような結果にならなかったが、今回は見事にそれを果たせたのだ。爆破という目的は叶わないが、大勢に注目されたことは快感だった。
なかには蛯名の才能を認める者がいたのは事実。その才能を別のことに発揮すればいいものをという言葉は、蛯名にとって最高のほめ言葉だった。
0
あなたにおすすめの小説
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
お飾り王妃の死後~王の後悔~
ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。
王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。
ウィルベルト王国では周知の事実だった。
しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。
最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。
小説家になろう様にも投稿しています。
公爵令嬢は結婚式当日に死んだ
白雲八鈴
恋愛
今日はとある公爵令嬢の結婚式だ。幸せいっぱいの公爵令嬢の前に婚約者のレイモンドが現れる。
「今日の結婚式は俺と番であるナタリーの結婚式に変更だ!そのドレスをナタリーに渡せ!」
突然のことに公爵令嬢は何を言われたのか理解できなかった。いや、したくなかった。
婚約者のレイモンドは番という運命に出逢ってしまったという。
そして、真っ白な花嫁衣装を脱がされ、そのドレスは番だという女性に着させられる。周りの者達はめでたいと大喜びだ。
その場所に居ることが出来ず公爵令嬢は外に飛び出し……
生まれ変わった令嬢は復讐を誓ったのだった。
婚約者とその番という女性に
『一発ぐらい思いっきり殴ってもいいですわね?』
そして、つがいという者に囚われた者の存在が現れる。
*タグ注意
*不快であれば閉じてください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる