束縛フィアンセと今日も甘いひとときを

さとう涼

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4.ふたりの間の不協和音

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 ふと目を開けると、外はすっかり暗くなっていた。
 大きな窓の向こうに都会の街並みが見おろせ、遠くにビルの窓明かりが光の粒のように見える。
 いつの間にか眠ってしまったらしい……?

「嘘!?」

 ハッとして飛び起きると、航がミネラルウォーターのペットボトルを手にしたまま、けだるそうにベッドのヘッドボードに背中を預けていた。

「今、何時!?」
「六時半を過ぎたとこ」
「やだ! 二次会、はじまっちゃう!」

 どうやら寝ていた時間は三十分にも満たないほど。二次会の会場はここからタクシーで七、八分もあれば着く。だけど、あまりにも時間がない。

「少しぐらい遅れても平気だって」
「お水飲む暇があるなら起こしてよ。あーん、シャワー浴びたかったのに!」
「浴びればいいだろう。どうせ新郎新婦も七時には間に合わないよ」

 航はそう言うと、のんびりとペットボトルに口をつけた。

「俺も浴びようかな、汗かいたし。美織、せっかくだから一緒に浴びるか」
「こんなときにふざけないでよ」
「それはこっちのセリフ。終わった途端、さっさと寝やがって」
「……それは、ごめん」
「謝ってすまそうなんて、調子いいなあ。前に先に寝た俺に向かって、デリカシーがないだの、自己中だのって怒ったの、どこのどいつだよ?」
「しょうがないでしょう。ここのところ忙しかったし。それに夕べは雑誌を見ながら、お色直しはどんなドレスにしようかなとか、ブーケはどういうアレンジがかわいいかなって想像してたら、寝るのが遅くなっちゃったんだもん」

 智花の結婚は、わたしにとって重大な出来事だった。だからなのか、夕べはなかなか寝つけなかった。それで枕元に置いてあった結婚情報誌を眺めていたら、いつの間にか夢中になって、自分の結婚式のことをあれこれ想像していた。

「なるほどね、そういうことなら仕方ないか。俺も最近よく考えるよ、美織の花嫁姿」
「本当?」
「すっごく楽しみだよ。どんなドレスも似合うと思う」
「へへっ、ありがと。でもこれから準備や挨拶で大忙しになるね。なんか不安だなあ」
「そうか? 俺はけっこう楽しみだけど。一生に一度のことだし、苦労もいい経験になると思うんだ。お祝いに来てくれる人のためだと思ったら、美織だってがんばれるよ」

 わたしの頭を撫でる航は、年上の頼れる男の人の顔。
 こんな余裕を見るたびに、わたしはいつも敬服させられる。育った環境も大きいのだろうけれど。航の場合、天性なのだと思う。苦手も困難も、全部プラス思考で処理して立ち向かう強さがある。

「航は好奇心旺盛で、なにが起きても動じない性格だもんね。わたしも見習わないといけないな。はぁー……わたしも航みたいになりたいよ」
「美織は美織のままでいいんだよ。美織にできて俺にできないことが山ほどあるんだし。俺も美織に助けられてること、数えきれないくらいたくさんあるから」

 下手をすると歯の浮くように感じてしまうセリフも、航が言うと心にストンと落ちてくる。言葉にこめられた想いがわたしの胸を熱くした。

「わたしも自分ができることを精いっぱいがんばるよ。ふたりでいい結婚式にしようね」
「ああ、でもその前に式の日取りを決めないとな」
「うん、そうだね」

 両家の顔合わせの食事会が、いよいよ来週の土曜日に迫っていた。本当はもっと早く日程を組みたかったのだけれど、みんなのスケジュールが合わず、延び延びになっていた。
 その食事会のときに、式の日取りや場所について軽く打ち合わせをする予定。わたしとしては半年後くらいにと思っていたのだけれど。航が言うにはそうはいかないかもという話。

 航のご両親はお忙しい方なので、たとえ半年先でもスケジュールの確認をする必要がある。
 また日比谷家と深見家にかかわる招待客のリストアップもかなり慎重にならないといけないし、様々な関係者への挨拶もしなくてはならない。もしかすると婚約パーティーなるものを開催しないとならない可能性もなきにしもあらずとか。

 話を聞いているだけで、ぶるぶると震えてくる。航に、「簡単な英会話はできるようにしておかなきゃな」と脅され(?)、慌てて英会話教材を買い、現在密かに勉強中。

「美織、シャワーは?」

 バスルームから航の声がした。
 一緒にって、さっきのあれは本気だったのか。

「やっぱりいい。航ひとりでどうぞ」

 結局、すぐに支度をすることにした。やはり遅れていくのは失礼だし、スマホを確認したら真野ちゃんから鬼のような着信履歴とメッセージが届いていたので、シャワーはあきらめることにした。
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