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いつか訪れるその日まで
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「ん、んぅー……っ!」
カーテンの隙間から差し込んだ暖かな日の光を受け、目を覚ます。
知らない部屋、知らない世界での初めての朝は、なんだか少しだけ心地よい目覚めだった。
「一晩寝たら何かが変わる……なんてことはないよね」
なにか思い出せないか頭を働かせてみるが、相変わらずモヤがかかったように真っ白のまま。
(結局、思い出せたことは昨日のアレだけ……か)
思い出せたと言っても戻り方なんかは相変わらずわからないままだし、それ以外の情報も一切わかっていないんだけど……。
「そうは言っても、ここで悩んでいても何か変わらない、よね」
何か迷ったら一旦行動に移す。何もできずに停滞していると掴めるチャンスだって逃してしまうかもしれない。
ひとまずは……。
「とりあえずみんなに挨拶から、かな」
そう呟いてから、僕は部屋を後にした。
「ユズさんおはようございます」
「あ、肇くんおはようございます」
部屋から出て下の階へ降りると、ユズさんが大きな籠を抱えていた。
ここはリビングになっているらしく、大きなソファにテレビのようなものまで。
この部屋に対して違和感を抱いていない辺り、どうやらこういったところは元いた世界とさほど変わらないらしい。
「肇くんは私と同じで早起きなのね」
ユズさんはそう言って僕に優しく微笑む。
言われてみれば他の人はまだ寝ているのか、ここには僕とユズさんしかいない。
「ユズさんはいつもこの時間に?」
「そうね。私はみんなのお洋服を洗濯して干さないといけないから」
慣れた手つきで次々と籠の中に入っている服を、次々とハンガーにかけていく。
昨日もそうだったけれど、ユズさんは三人の中でも一番しっかりしていて、包容力もあるように思える。
それでいて、家族の中で一番早くに起きて、洗濯などの家事もして……。
「なんだかお母さんみたいですね」
「そうかな? ……まぁ、そうかも。これでもこの家の中では一番お姉さんだし、私自身こういった家事とか大好きなの」
ユズさんは僕と会話しながらも手を動かし続けていた。
けれど、その表情は先ほどから変わらず優しい笑顔のままで、心から本当にそう言っているのだと伝わってく
る。
「そういえば肇くんの服も買わないといけないね」
「僕のですか? 流石にそこまでしてもらうには……」
「記憶、まだ戻ってないでしょ?」
「それは、はい。少し思い出せたこともありますが……」
「ふふっ、そんなに焦らなくてもいいのよ。ゆっくりでいいんだから」
「…………はい」
しかしアオイさんは僕がここにいるのを嫌がっていた。いくら記憶が無く、行く当てもないとはいえ、嫌がっている女性がいるのにいつまでもここにいるわけにはいかない。
「……アオイちゃんのこと、気になる?」
「え、あ、はい。あ、いいえっ」
顔に出ていたのか、考えていたことを言われ、つい慌ててしまう。
「ふふっ、隠さなくていいよ」
「……はい。その、アオイさんは僕のことを嫌っていたみたいだから、やっぱりあんまり長くいないほうがいいのかなって」
「肇くんって優しいのね」
「どう、ですかね。正直昔のことがわからないのでなんともいえないです」
「ううん、優しいわよ。アオイちゃんにあれだけ言われてそれでもアオイちゃんのことを考えてくれているんだもん」
「さてと、そろそろみんなを起こさないといけない時間だけど……」
「ふわぁ~、ユズしゃん、肇しゃん、おはよーございますぅ~」
「おはようユズ」
ユズさんが階段へと目を向けると、上から眠たそうに瞼を擦るサクラさんと、身支度までしっかりと整えているアオイさんが降りてきた。
「おはよう。でもアオイちゃん、もう一人忘れているわよ」
「……おはよう」
「お、おはようございます」
アオイさんから明らかに不服そうな表情を浮かべられながら挨拶を交わす。
その一方でサクラさんは身体を左右に揺らしながら、僕の前に立ち、
「肇さんも早起きさんなんですね~」
「今日はたまたまだよ」
「一人で起きられるなんて偉いですよぉ」
まだ寝ぼけているのだろう、呂律が回りきっていないし、なんだかぽわぽわしている。
「ほら、サクラ。顔を洗うわよ。そうすれば目が覚めるから」
「はぁ~い。それでは肇さん、またあとで~」
サクラさんはそう言って、アオイさんに背中を押される形でリビングをあとにする。
そんな二人を見ていると、つい本音が零れてしまう。
「……良いお姉さんなんですね」
「本当の姉妹ではないけど、一緒に暮らしていたら自然とそうなっちゃうのよ。サクラちゃんって、どこか放っておけないようなところがあるから」
「あはは、なんとなくわかります」
知らない世界で僕を助けてくれた優しい女の子。
もちろんユズさんの優しさも負けず劣らずだけど、サクラさんにはもっと別のものを感じる。
人を引き付ける、思わず魅了されてしまうような……。
「それじゃあみんな起きたからご飯の準備をしないと」
「あ、僕も手伝います」
「ふふ、ありがとう。助かるわ」
いつまでもこの優しさに甘えてばかりではいけない。
僕にも出来ることを見つけていくんだ。いつか別れの日が訪れるその時まで。
カーテンの隙間から差し込んだ暖かな日の光を受け、目を覚ます。
知らない部屋、知らない世界での初めての朝は、なんだか少しだけ心地よい目覚めだった。
「一晩寝たら何かが変わる……なんてことはないよね」
なにか思い出せないか頭を働かせてみるが、相変わらずモヤがかかったように真っ白のまま。
(結局、思い出せたことは昨日のアレだけ……か)
思い出せたと言っても戻り方なんかは相変わらずわからないままだし、それ以外の情報も一切わかっていないんだけど……。
「そうは言っても、ここで悩んでいても何か変わらない、よね」
何か迷ったら一旦行動に移す。何もできずに停滞していると掴めるチャンスだって逃してしまうかもしれない。
ひとまずは……。
「とりあえずみんなに挨拶から、かな」
そう呟いてから、僕は部屋を後にした。
「ユズさんおはようございます」
「あ、肇くんおはようございます」
部屋から出て下の階へ降りると、ユズさんが大きな籠を抱えていた。
ここはリビングになっているらしく、大きなソファにテレビのようなものまで。
この部屋に対して違和感を抱いていない辺り、どうやらこういったところは元いた世界とさほど変わらないらしい。
「肇くんは私と同じで早起きなのね」
ユズさんはそう言って僕に優しく微笑む。
言われてみれば他の人はまだ寝ているのか、ここには僕とユズさんしかいない。
「ユズさんはいつもこの時間に?」
「そうね。私はみんなのお洋服を洗濯して干さないといけないから」
慣れた手つきで次々と籠の中に入っている服を、次々とハンガーにかけていく。
昨日もそうだったけれど、ユズさんは三人の中でも一番しっかりしていて、包容力もあるように思える。
それでいて、家族の中で一番早くに起きて、洗濯などの家事もして……。
「なんだかお母さんみたいですね」
「そうかな? ……まぁ、そうかも。これでもこの家の中では一番お姉さんだし、私自身こういった家事とか大好きなの」
ユズさんは僕と会話しながらも手を動かし続けていた。
けれど、その表情は先ほどから変わらず優しい笑顔のままで、心から本当にそう言っているのだと伝わってく
る。
「そういえば肇くんの服も買わないといけないね」
「僕のですか? 流石にそこまでしてもらうには……」
「記憶、まだ戻ってないでしょ?」
「それは、はい。少し思い出せたこともありますが……」
「ふふっ、そんなに焦らなくてもいいのよ。ゆっくりでいいんだから」
「…………はい」
しかしアオイさんは僕がここにいるのを嫌がっていた。いくら記憶が無く、行く当てもないとはいえ、嫌がっている女性がいるのにいつまでもここにいるわけにはいかない。
「……アオイちゃんのこと、気になる?」
「え、あ、はい。あ、いいえっ」
顔に出ていたのか、考えていたことを言われ、つい慌ててしまう。
「ふふっ、隠さなくていいよ」
「……はい。その、アオイさんは僕のことを嫌っていたみたいだから、やっぱりあんまり長くいないほうがいいのかなって」
「肇くんって優しいのね」
「どう、ですかね。正直昔のことがわからないのでなんともいえないです」
「ううん、優しいわよ。アオイちゃんにあれだけ言われてそれでもアオイちゃんのことを考えてくれているんだもん」
「さてと、そろそろみんなを起こさないといけない時間だけど……」
「ふわぁ~、ユズしゃん、肇しゃん、おはよーございますぅ~」
「おはようユズ」
ユズさんが階段へと目を向けると、上から眠たそうに瞼を擦るサクラさんと、身支度までしっかりと整えているアオイさんが降りてきた。
「おはよう。でもアオイちゃん、もう一人忘れているわよ」
「……おはよう」
「お、おはようございます」
アオイさんから明らかに不服そうな表情を浮かべられながら挨拶を交わす。
その一方でサクラさんは身体を左右に揺らしながら、僕の前に立ち、
「肇さんも早起きさんなんですね~」
「今日はたまたまだよ」
「一人で起きられるなんて偉いですよぉ」
まだ寝ぼけているのだろう、呂律が回りきっていないし、なんだかぽわぽわしている。
「ほら、サクラ。顔を洗うわよ。そうすれば目が覚めるから」
「はぁ~い。それでは肇さん、またあとで~」
サクラさんはそう言って、アオイさんに背中を押される形でリビングをあとにする。
そんな二人を見ていると、つい本音が零れてしまう。
「……良いお姉さんなんですね」
「本当の姉妹ではないけど、一緒に暮らしていたら自然とそうなっちゃうのよ。サクラちゃんって、どこか放っておけないようなところがあるから」
「あはは、なんとなくわかります」
知らない世界で僕を助けてくれた優しい女の子。
もちろんユズさんの優しさも負けず劣らずだけど、サクラさんにはもっと別のものを感じる。
人を引き付ける、思わず魅了されてしまうような……。
「それじゃあみんな起きたからご飯の準備をしないと」
「あ、僕も手伝います」
「ふふ、ありがとう。助かるわ」
いつまでもこの優しさに甘えてばかりではいけない。
僕にも出来ることを見つけていくんだ。いつか別れの日が訪れるその時まで。
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