枯れない命と紡ぐ花

空崎 たると

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それだけは絶対にダメ

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「――それではお背中失礼します」

 後ろからシャカシャカと小気味よい音と共に、柔らかいスポンジが僕の肌に触れる。

「はうっ!?」
「ご、ごめんなさいっ」
「ううん、」

 そしてサクラさんが腕を動かすたびに、弾力のある泡をまとったスポンジが優しく丁寧に僕の背中を走っていく。

「どうでしょうか? 結構チカラを入れてしまっているのですが、痛くないですか?」
「ううん、全然大丈夫だよ」

 僕としてはもっと強くしてもらっても大丈夫なくらいだ。

「それは良かったです。私なんかこれくらいで体を洗うと、後になって肌がヒリヒリしちゃうんです」
「それは大変ですね」
「(次は僕がサクラさんの背中を流さないといけないから気を付けないと……)」
「(ついうっかり力を入れてサクラさんの肌を傷つけでもしたら二度と顔を合わせられない……)」
「それにしても肇さんの背中はおっきいですね。洗っても洗っても全然終わりません」
「はは、まぁこれでも男だからね。それにサクラさんが丁寧にやってくれているし」
「もしかしてどんくさい、ですか……?」

 そこでサクラさんの手がぴたりと止まる。

「そんなことないよ。僕もそれなりに気を使って洗ってはいるけど、どうしてもどこか雑になってしまうし……」
「でもサクラさんはずっと丁寧に洗い残しがないようにしてくれているのがわかるから」
「えへへ、そう言って貰えると嬉しいです」
「それにしても肇さんのお背中、とっても大きいです」
「そうかな?」
「はい。ユズお姉ちゃんやアオイお姉ちゃんよりもずっと大きいです。それに……」

 ――ぴとっ。
 背中にサクラさんの手が触れる。小さくて、ぷにぷにしていて、暖かい。

「さ、サクラさん!?」
「やっぱり触った感じが全然違います。お姉ちゃん達のお肌はもっとすべすべでもちもちしているのに、肇さんのはなんだかごつごつした感じです」
「そんなにごつごつしている、かな?」

 自分の体を見るがそこまで鍛えられているとは思えないけれど。

「んー、なんでしょう。特にこの肩の辺りでしょうか」

 言いながら軽く揉まれる。
 だけどその力は弱くなんだか撫でられているみたいでくすぐったい。

「あ、あの、くすぐったいのでそろそろ……」
「いいじゃないですか、もう少しだけですから」

 そう言いながら溢れ出る探求心に身を任せるように肩周りだけではなく、背中や腰まで触りだす。
 流石にこれ以上はマズい。

「これ以上は本当にダメですっ!」
「むぅ、わかりました。ではお背中流しますね」

 後ろから伸びてきたサクラさんの手が蛇口をひねり、程よい温度のお湯が身体に少し当たる。

「これくらいで大丈夫ですか?」
「うん、丁度いいよ」
「ではしっかりと流していきますね~」

 首から肩、背中、腰と体の上の方からゆっくりと泡をおとしていく。
 シャワーから出るお湯の勢いも自分でやった時とは違い、肌への刺激が少ないように調節されている。

「(あぁ、これは少し癖になってしまいそうだ……)」
「はい、終わりましたっ」

 やがて後ろから元気な声が聞こえてくる。

「ありがとう。これ以上ないってくらい気持ち良かった」
「喜んでもらえたのなら良かったです。では次はわたしの番です!」
「あ、あぁ、うん」

 どこか嬉しそうにサクラさんは、僕と場所を入れ替える。
 その際になるべくサクラさんの身体は見ないように努力はしたけれど……。

「(うっ……)」

 サクラさんが椅子に腰を掛けたところまでは良かった。しかし、鏡に反射してうっすらとだが前の方が見えてしまっている。

「(まさかこんなところにもトラップがあったとは……)」 

 なるべく鏡も視線に入れないように視線を下へと向ける。
 すると、彼女のピンク色の髪先から一粒の雫が首元に落ちて、そのまま肩甲骨から腰、お尻へ向けて肌の上を滑っていき、ついその動向を見続けてしまう。

「…………」

 サクラさんって見た目は完全に幼いけれど意外と出るところは出ている……のか?
 背中や腰回りも華奢ではあるものの、くびれも出てきているし、椅子に潰れたお尻のラインだって……。

「(って、僕は何を考えているんだ!? こんな不純な視線で見てはいけない)」
「? 肇さん、どうかしましたか?」

 いつまで経っても始まらないことに不安を感じたのか、サクラさんは視線をこちらに向ける。その際に体も少しだけ動いてしまい、小さな膨らみの先端がチラリと映る。

「――っ!? な、なんでもないです。大丈夫ですから前を向いていてください」
「わ、わかりました!」
「(ふぅ、なんとか前を向いてくれた)」

 正直今のはかなりヤバイ。僕の男の子である場所がしっかりと反応してしまっている。
 不慮の事故で背中に当たってしまうこともあるかもしれないから、本当は収まるまで待ちたいところなのだが……。

「(このままだと今度はしっかり振り返るかもしれないし、その時はお互いに隠しようがないからなぁ。やるしかないか)」

 最大限に気を付けながらやればなんとかなる、はずだ。自分を信じろ。

「それじゃあいきますね」
「はいっ、お願いしますっ」

 ボディーソープをスポンジにかけて泡を立てる。念入りにしっかりと。

「で、ではいきます」
「(相手は女の子だ。割れ物を扱うように丁寧に……)」

 そーっとスポンジを近付けて肌に当てる。
 スポンジ越しでもわかる。自分とサクラさんの肌の違い。なんというか質感からして違うし、かなり小さい。
 ゆっくりとなるべく力を抜いて腕を動かす、が、

「ぁっ」
「す、すみませんっ、痛かったですか?」
「い、いえ、そのお姉ちゃんたちに洗ってもらうのとは全然違ってびっくりしてしまって……」
「痛かったとかではないので、今のままで大丈夫です!」

 ああビックリした。でも特に問題はなさそうだから、良いのかな?
 先ほどよりも込める力は優しく、洗い残しがないよう丁寧に腕を動かしていく。
 シャカシャカシャカ。

「はふぅ……」
「力加減とかはどうですか?」
「バッチリです。と~っても気持ちよくてつい声が出ちゃいます」
「ではこのまま続けますね」

 まずは首から肩、背中、腰と上から順に洗っていく。

「ほわぁ……」
「はうぅぅ……」

 洗う場所が変わる度に漏れ出る声も変わるのが、なんだか少しだけ面白い。

「(それにしても、本当に小さいな)」

 傷つけないように優しくゆっくりと洗っていたが、自分の時の半分にも満たない時間で終わってしまった。

「シャワーで流しますね」
「はいっ」

 お湯で流すと、泡で隠れていた彼女の白い背中が現れていく。
 見たところ赤くなっている場所はなさそうだ。

「はい、終わりましたよ」
「肇さんありがとうございました。とっても気持ちよかったですっ」
「(なんとか終わった……)」

 何事もなく終えたことにほっと胸を撫でおろす。

「(あとはユズさんとアオイさんに見つからないうちにさっさと出ないと……)」

 特にアオイさんに見つかったらどうなるのか……。ただでさえ自分に対して良く思っていないのに。
 なんて思っていたが、

「肇さん肇さん」
「ん?」
「その、よかったら一緒に湯船にも……」
「それだけは絶対にダメです!」
「あっ、肇さん、待ってください!」

 これ以上は流石に不味いと感じた僕は、彼女の引き留める声を振り切って、そのままお風呂場を後にした。
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