異世界の神様

神町 恵

文字の大きさ
40 / 88
第2章 サファ戦乱

戦国

しおりを挟む
「……世界を統べる。その夢の始まりは、いつだって小さな対話から始まるんだよ」

サファ国王カイ・ガイスト・サファの口元には、穏やかで、それでいて確固たる信念を宿す笑みが浮かんでいた。
玉座の間にて、ケイは王のすぐ横に座を与えられていた。
それは形式上、王の右腕たる者のみが許される席。
カイは、干渉の神ケイを**「この国の守護神」**として迎え入れたのだった。

その場に並び立つもう一人の男、サファ国の戦士であり、総大将でもあるサーベルは、軍務机に広げられた巨大な地図を静かに指差した。

「ケイ殿。まず、この世界の地理と勢力状況についてお話ししましょう」

その声は落ち着いていたが、背後にある緊張感と重責は、容易に聞き手を包み込んだ。

サーベルの指がまず、北の端にある大地をなぞる。

「ここが我がサファ国。我が国は民主制と軍国主義が併存する特殊な体制ですが、かつてのゼファーム帝国の技術と教育制度を受け継ぎ、現在では世界でも有数の軍事大国にまで成長しました」

ケイは頷いた。首都サーファリアの整然とした都市構造、そして黒い三角型ヘルメットと軍服を纏う規律正しい兵士たち——彼らの様子からもその片鱗は窺えた。

サーベルの指は、サファ国の左隣に位置する大地へと動く。

「北西にはファーム国。ここも元は我が国と同じゼファーム帝国の一部でした。しかし内政の崩壊と内戦により分裂。現在は共産体制で、白い三角ヘルメットと白軍服を特徴としています。思想の違いから、我が国と何度も軍事衝突を起こしています」

「宿敵……ということですね」とケイが口を挟む。

サーベルは頷いた。

「ですが、彼らもまた誇り高い民。蔑ろにはできません」

サーベルの指は、今度は西の広大な大陸へ移った。

「この西大陸は二国に分かれています。上部はエダ国、下部はモダ国。どちらも原始的な部族国家で、戦い方も旧来の槍、弓、盾が中心です。組織だった軍というより、戦士の集団に近い。ただし、地理的には資源が豊富で、どの国も干渉したがる場所です」

「エダとモダ……統治よりも“共存”が難しそうですね」

「仰る通りです」

次に、サーベルは北東へと視線を移す。

「こちらには、二つの大国が並び立っています。一つがカーザリア連邦。帝国主義と軍国主義が支配する強権国家で、軍事技術と動員力に優れています。対してその隣がベルゼート共和国。こちらは共産と民主の混合体で、社会主義的要素を多く持つ国家です」

「この二国は……?」

「現在、戦争中です。漁業権、制海権、さらには資源問題を巡って、激しい戦闘が断続的に発生しています」

ケイは眉を寄せた。戦火の香りは、この世界のあちこちに染みついている。

「東側にはアールスワート王国。立憲君主制を敷き、中立国としての立場を保っていますが、近代化が遅れているため、周辺国にとっては格好の“的”でもあります」

「中立は、崩れれば一気に飲み込まれる……微弱の王国か」

「ええ。我々にとっても、重要な鍵を握る存在です」

サーベルの指は、サファ国の南部に広がる海と、その中に点在する諸島に止まる。

「ここがタルガン国。原始的な部族社会ですが、漁業においては卓越した技術を持ちます。現在、我が国とアグゼル合衆国の双方と貿易関係にあり、その主導権を巡って両国は対立中です」

「つまり、タルガンの中立を維持することが、この世界のバランス維持にも繋がる」

「その通りです」

そして、サーベルは南へと指を滑らせた。

「こちらがアグゼル合衆国。我が国と並ぶ、自由主義と民主主義を掲げる大国。現代兵器を有し、思想面では我々に近いものの、タルガンや制空圏、海洋資源を巡って、衝突が絶えません」

「サファ国に並ぶ大国だが、同時に最大のライバルか」

サーベルは静かに目を細めた。

「……そして、最後にご覧いただきたいのがこちら」

サーベルの指が向いたのは、アグゼル合衆国のさらに南西。そこに広がる、黒い影のような大地。

「ゾルア帝国。近年、急速に勢力を拡大しつつある軍国国家です。特徴的なのは、その住民の多くがファントムであるということ」

ケイの瞳が鋭くなった。

「ファントム……神をも殺す者たち」

「はい。ゾルアは、エダ・モダ、アグゼルと現在三正面作戦を行っていますが、それでも劣勢に陥らないほどの脅威。おそらく、神殺しの兵器や力を国内で生産・制御していると見られています」

サーベルは地図から手を離し、ケイと正面から向き合った。

「以上が、我々の世界の勢力図と主要国家の概要です。今後、ケイ殿がどのような干渉を行うにしても、この地理と関係性を踏まえなければ、命を落とす神々と同じ轍を踏むことになります」

ケイはしばし黙し、やがて口を開いた。

「ありがとうございます、サーベル殿。……実に険しい世界だ。全てが繋がっていて、誰もが他者の選択で生死を分けている」

その目には、かすかな光が灯っていた。

「——いいでしょう。俺は俺なりのやり方で、この世界に“統一”をもたらしてみせますよ」

その瞬間、静かな決意の声が、サーファリアの玉座の間に響き渡った。

その声は、いつか黒き地に希望をもたらす鐘の音となり、やがてこの世界を大きく揺るがす干渉の序章として、刻まれていくことになる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

処理中です...