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第2章 サファ戦乱
戦国
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「……世界を統べる。その夢の始まりは、いつだって小さな対話から始まるんだよ」
サファ国王カイ・ガイスト・サファの口元には、穏やかで、それでいて確固たる信念を宿す笑みが浮かんでいた。
玉座の間にて、ケイは王のすぐ横に座を与えられていた。
それは形式上、王の右腕たる者のみが許される席。
カイは、干渉の神ケイを**「この国の守護神」**として迎え入れたのだった。
その場に並び立つもう一人の男、サファ国の戦士であり、総大将でもあるサーベルは、軍務机に広げられた巨大な地図を静かに指差した。
「ケイ殿。まず、この世界の地理と勢力状況についてお話ししましょう」
その声は落ち着いていたが、背後にある緊張感と重責は、容易に聞き手を包み込んだ。
サーベルの指がまず、北の端にある大地をなぞる。
「ここが我がサファ国。我が国は民主制と軍国主義が併存する特殊な体制ですが、かつてのゼファーム帝国の技術と教育制度を受け継ぎ、現在では世界でも有数の軍事大国にまで成長しました」
ケイは頷いた。首都サーファリアの整然とした都市構造、そして黒い三角型ヘルメットと軍服を纏う規律正しい兵士たち——彼らの様子からもその片鱗は窺えた。
サーベルの指は、サファ国の左隣に位置する大地へと動く。
「北西にはファーム国。ここも元は我が国と同じゼファーム帝国の一部でした。しかし内政の崩壊と内戦により分裂。現在は共産体制で、白い三角ヘルメットと白軍服を特徴としています。思想の違いから、我が国と何度も軍事衝突を起こしています」
「宿敵……ということですね」とケイが口を挟む。
サーベルは頷いた。
「ですが、彼らもまた誇り高い民。蔑ろにはできません」
サーベルの指は、今度は西の広大な大陸へ移った。
「この西大陸は二国に分かれています。上部はエダ国、下部はモダ国。どちらも原始的な部族国家で、戦い方も旧来の槍、弓、盾が中心です。組織だった軍というより、戦士の集団に近い。ただし、地理的には資源が豊富で、どの国も干渉したがる場所です」
「エダとモダ……統治よりも“共存”が難しそうですね」
「仰る通りです」
次に、サーベルは北東へと視線を移す。
「こちらには、二つの大国が並び立っています。一つがカーザリア連邦。帝国主義と軍国主義が支配する強権国家で、軍事技術と動員力に優れています。対してその隣がベルゼート共和国。こちらは共産と民主の混合体で、社会主義的要素を多く持つ国家です」
「この二国は……?」
「現在、戦争中です。漁業権、制海権、さらには資源問題を巡って、激しい戦闘が断続的に発生しています」
ケイは眉を寄せた。戦火の香りは、この世界のあちこちに染みついている。
「東側にはアールスワート王国。立憲君主制を敷き、中立国としての立場を保っていますが、近代化が遅れているため、周辺国にとっては格好の“的”でもあります」
「中立は、崩れれば一気に飲み込まれる……微弱の王国か」
「ええ。我々にとっても、重要な鍵を握る存在です」
サーベルの指は、サファ国の南部に広がる海と、その中に点在する諸島に止まる。
「ここがタルガン国。原始的な部族社会ですが、漁業においては卓越した技術を持ちます。現在、我が国とアグゼル合衆国の双方と貿易関係にあり、その主導権を巡って両国は対立中です」
「つまり、タルガンの中立を維持することが、この世界のバランス維持にも繋がる」
「その通りです」
そして、サーベルは南へと指を滑らせた。
「こちらがアグゼル合衆国。我が国と並ぶ、自由主義と民主主義を掲げる大国。現代兵器を有し、思想面では我々に近いものの、タルガンや制空圏、海洋資源を巡って、衝突が絶えません」
「サファ国に並ぶ大国だが、同時に最大のライバルか」
サーベルは静かに目を細めた。
「……そして、最後にご覧いただきたいのがこちら」
サーベルの指が向いたのは、アグゼル合衆国のさらに南西。そこに広がる、黒い影のような大地。
「ゾルア帝国。近年、急速に勢力を拡大しつつある軍国国家です。特徴的なのは、その住民の多くがファントムであるということ」
ケイの瞳が鋭くなった。
「ファントム……神をも殺す者たち」
「はい。ゾルアは、エダ・モダ、アグゼルと現在三正面作戦を行っていますが、それでも劣勢に陥らないほどの脅威。おそらく、神殺しの兵器や力を国内で生産・制御していると見られています」
サーベルは地図から手を離し、ケイと正面から向き合った。
「以上が、我々の世界の勢力図と主要国家の概要です。今後、ケイ殿がどのような干渉を行うにしても、この地理と関係性を踏まえなければ、命を落とす神々と同じ轍を踏むことになります」
ケイはしばし黙し、やがて口を開いた。
「ありがとうございます、サーベル殿。……実に険しい世界だ。全てが繋がっていて、誰もが他者の選択で生死を分けている」
その目には、かすかな光が灯っていた。
「——いいでしょう。俺は俺なりのやり方で、この世界に“統一”をもたらしてみせますよ」
その瞬間、静かな決意の声が、サーファリアの玉座の間に響き渡った。
その声は、いつか黒き地に希望をもたらす鐘の音となり、やがてこの世界を大きく揺るがす干渉の序章として、刻まれていくことになる。
サファ国王カイ・ガイスト・サファの口元には、穏やかで、それでいて確固たる信念を宿す笑みが浮かんでいた。
玉座の間にて、ケイは王のすぐ横に座を与えられていた。
それは形式上、王の右腕たる者のみが許される席。
カイは、干渉の神ケイを**「この国の守護神」**として迎え入れたのだった。
その場に並び立つもう一人の男、サファ国の戦士であり、総大将でもあるサーベルは、軍務机に広げられた巨大な地図を静かに指差した。
「ケイ殿。まず、この世界の地理と勢力状況についてお話ししましょう」
その声は落ち着いていたが、背後にある緊張感と重責は、容易に聞き手を包み込んだ。
サーベルの指がまず、北の端にある大地をなぞる。
「ここが我がサファ国。我が国は民主制と軍国主義が併存する特殊な体制ですが、かつてのゼファーム帝国の技術と教育制度を受け継ぎ、現在では世界でも有数の軍事大国にまで成長しました」
ケイは頷いた。首都サーファリアの整然とした都市構造、そして黒い三角型ヘルメットと軍服を纏う規律正しい兵士たち——彼らの様子からもその片鱗は窺えた。
サーベルの指は、サファ国の左隣に位置する大地へと動く。
「北西にはファーム国。ここも元は我が国と同じゼファーム帝国の一部でした。しかし内政の崩壊と内戦により分裂。現在は共産体制で、白い三角ヘルメットと白軍服を特徴としています。思想の違いから、我が国と何度も軍事衝突を起こしています」
「宿敵……ということですね」とケイが口を挟む。
サーベルは頷いた。
「ですが、彼らもまた誇り高い民。蔑ろにはできません」
サーベルの指は、今度は西の広大な大陸へ移った。
「この西大陸は二国に分かれています。上部はエダ国、下部はモダ国。どちらも原始的な部族国家で、戦い方も旧来の槍、弓、盾が中心です。組織だった軍というより、戦士の集団に近い。ただし、地理的には資源が豊富で、どの国も干渉したがる場所です」
「エダとモダ……統治よりも“共存”が難しそうですね」
「仰る通りです」
次に、サーベルは北東へと視線を移す。
「こちらには、二つの大国が並び立っています。一つがカーザリア連邦。帝国主義と軍国主義が支配する強権国家で、軍事技術と動員力に優れています。対してその隣がベルゼート共和国。こちらは共産と民主の混合体で、社会主義的要素を多く持つ国家です」
「この二国は……?」
「現在、戦争中です。漁業権、制海権、さらには資源問題を巡って、激しい戦闘が断続的に発生しています」
ケイは眉を寄せた。戦火の香りは、この世界のあちこちに染みついている。
「東側にはアールスワート王国。立憲君主制を敷き、中立国としての立場を保っていますが、近代化が遅れているため、周辺国にとっては格好の“的”でもあります」
「中立は、崩れれば一気に飲み込まれる……微弱の王国か」
「ええ。我々にとっても、重要な鍵を握る存在です」
サーベルの指は、サファ国の南部に広がる海と、その中に点在する諸島に止まる。
「ここがタルガン国。原始的な部族社会ですが、漁業においては卓越した技術を持ちます。現在、我が国とアグゼル合衆国の双方と貿易関係にあり、その主導権を巡って両国は対立中です」
「つまり、タルガンの中立を維持することが、この世界のバランス維持にも繋がる」
「その通りです」
そして、サーベルは南へと指を滑らせた。
「こちらがアグゼル合衆国。我が国と並ぶ、自由主義と民主主義を掲げる大国。現代兵器を有し、思想面では我々に近いものの、タルガンや制空圏、海洋資源を巡って、衝突が絶えません」
「サファ国に並ぶ大国だが、同時に最大のライバルか」
サーベルは静かに目を細めた。
「……そして、最後にご覧いただきたいのがこちら」
サーベルの指が向いたのは、アグゼル合衆国のさらに南西。そこに広がる、黒い影のような大地。
「ゾルア帝国。近年、急速に勢力を拡大しつつある軍国国家です。特徴的なのは、その住民の多くがファントムであるということ」
ケイの瞳が鋭くなった。
「ファントム……神をも殺す者たち」
「はい。ゾルアは、エダ・モダ、アグゼルと現在三正面作戦を行っていますが、それでも劣勢に陥らないほどの脅威。おそらく、神殺しの兵器や力を国内で生産・制御していると見られています」
サーベルは地図から手を離し、ケイと正面から向き合った。
「以上が、我々の世界の勢力図と主要国家の概要です。今後、ケイ殿がどのような干渉を行うにしても、この地理と関係性を踏まえなければ、命を落とす神々と同じ轍を踏むことになります」
ケイはしばし黙し、やがて口を開いた。
「ありがとうございます、サーベル殿。……実に険しい世界だ。全てが繋がっていて、誰もが他者の選択で生死を分けている」
その目には、かすかな光が灯っていた。
「——いいでしょう。俺は俺なりのやり方で、この世界に“統一”をもたらしてみせますよ」
その瞬間、静かな決意の声が、サーファリアの玉座の間に響き渡った。
その声は、いつか黒き地に希望をもたらす鐘の音となり、やがてこの世界を大きく揺るがす干渉の序章として、刻まれていくことになる。
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