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商会

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「……えっと、専属ってどういうことなのでしょうか?」

 この店のことは、どうしても食うに困ったので、しかたなく訪ねた怪しい金貸しから紹介された。
 非合法な金貸しから紹介されたので、当然ながらこの店も法に触れる存在だということは理解している。
 タニヤの目の前にいるグリエラは、悪事に手を染めている犯罪者なのだ。

 金貸しは、ただと呼ばれる組織だと言っていた。
 タニヤは金貸しに商会とはなにかと聞いたが、詳しくは話せないと教えてくれなかった。
 金貸しはタニヤが担保として差し出したアイテムを見て、自分には扱いきれないからここを訪ねろと一方的に言ってきたのだ。

「そりゃそのままの意味さ。アンタは冒険者組合をクビになるのだろう? そうしたら、商会に転職してこないかということさね」

 タニヤが困惑しているのはグリエラに伝わっているだろう。
 タニヤの正体が露呈しても、疎まれるどころか仲間にならないかと誘われたのだ。犯罪者から声をかけられれば誰だって警戒くらいはする。

「商会はね、金になればなんだって商品として扱う。冒険者組合なんかじゃ扱えない品だって立派な売り物になるんだ。非合法で非道徳的で危険な依頼だろうが、需要があれば手に入れて売りつける」

 グリエラは穏やかな笑顔を浮かべて優しく語りだした。
 その様子を見て、タニヤは恐ろしくなり身体を強張らせた。

「そりゃ今までのようには外を歩けなくなることもあるだろう。だがね、手に入れたアイテムをうちにだけ売ってくれれば、きちんと正当な値段で買い取ると約束しよう。今のように困窮することはなくなるだろうさ」

 タニヤはいつの間にかテーブルの上で紅茶を飲んでいるクヌートに視線を向けた。
 クヌートは気配に敏感だ。そのクヌートがすっかり気を抜いた姿で紅茶を飲み続けている。
 
 クヌートはこの場が安全だと確信している。
 グリエラが今すぐにタニヤを害するつもりはないのだと判断して、おずおずと口を開いた。

「……で、でも私は」

「出自なんて気にすることはないさ。そんなことを追求するような野暮な奴はうちにはいないよ」

 タニヤの言葉を遮ってグリエラがはっきりと言った。
 その言葉に同意するように、室内にいる男二人が大きく頷いている。
 
「商会専属になれば支部のある街では支援が受けられる。商会は大陸全土の地下に根を張る巨大な組織だよ。悪い話じゃないだろう?」

 タニヤはグリエラの問いかけにどう答えたものかと悩んで黙り込んでしまった。
 相手にタニヤを害するつもりはなくとも、いい話だとすぐに飛びつくことはできない。

「ま、すぐに答えがでるものでもあるまい。ゆっくりと考えたらいいさ」

 タニヤが黙ったままでいると、グリエラは笑って話を打ち切った。 
 それから、グリエラはタニヤに冒険の話を聞かせてくれと言ってきた。

 タニヤは他人とじっくり話をしたのが久しぶりだった。
 グリエラが犯罪組織の一員とわかっていても、嬉しくてつい長話をしてしまった。

 これからも冒険を続けられる。しかも、支援が受けられて金に困らない。
 それもいいかと考えてしまうくらい、居心地がよかった。
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