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転職
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「はあ、温まるなあ。こんなにゆっくりお風呂に入るなんて久しぶりだわ。ね、クヌート?」
「きゅきゅい!」
タニヤはゆっくりと風呂を堪能していた。
おもいきり足をのばしながら、水しぶきをあげて泳いでいるクヌートに声をかける。
「グリエラさんたち、ちゃんと調べてくれるみたいで安心したわ。これで良い方向にむかえばいいのだけれど……」
店をあとにしてからあまり間をおかずに戻ってきたタニヤを、グリエラは何も言わずに迎えてくれた。
タニヤはグリエラと顔を合わせた途端、挨拶もせずに冒険者を辞めてきたとだけ告げた。
すると、グリエラは自分の服が濡れることもかまわずタニヤを抱きしめてきた。
タニヤは黙って背中を撫でてくれたグリエラに、心があたたかくなった。
「早くモンスターの子供を見つけないと。もし親が子供を探しに街まできたら、この店だって危険です!」
タニヤは勇気を出して、モンスターの子供の件をグリエラに相談した。
しどろもどろになりながら話し終えたタニヤに、グリエラはわかったとだけ言った。
そして、最初に会ったときにもいた二人の男に、モンスターの子供の件を調べろと命じたのだ。
グリエラたちの様子を見て、タニヤは自分を信じて受け入れてもらえたのだと安堵した。
やはりここにきて正解だったと、目頭があつくなる。
涙がこぼれ落ちそうになっているタニヤに、グリエラは風呂に入れと優しく声をかけてくれた。
風呂から上がると、脱衣所には新しい服が一式揃えられていた。
オープンテラスのカフェで見た少女たちが着ていたような流行の服だ。
ひさしぶりに華やかな服を手にしたタニヤは少しばかり心を躍らせて、ありがたく袖を通した。
「そんなに昔のことでもないのに、すごく懐かしいわ。見てよクヌート、可愛いでしょう?」
脱衣所にある鏡の前で、タニヤは服の裾を掴んでその場で回転してみせた。
「きゅきゅい? きゅきゅきゅー(ええ? 動きにくそうじゃん)」
「あら、野暮なことを言うのね。こういう服に動きやすさは関係ないのよ」
つまらなそうに言ったクヌートに、タニヤは唇を尖らせた。
「きゅきゅい、きゅきゅきゅ、きゅきゅー(わざわざ動きにくい服を着るなんて、人間はよくわからないね)」
「そりゃあなたは常に全裸だものね。私も一応は年頃の女なのよ。おしゃれに興味があってもいいじゃない」
「きゅきゅいきゅい。きゅきゅきゅ?(全裸とか言わないでくれるかな。君が今さらおしゃれとか、意味をわかって言っているの?)」
「クヌートはいちいちうるさいわねえ。せっかく用意してくれたのだから、どうせなら可愛らしく着こなしたいじゃない」
風呂上りのタニヤは、しばらくクヌートとくだらない言い合いをしていた。
そこへ、タイミングを見計らっていたかのようにメイドがあらわれた。取引をしていた部屋に紅茶を運んできたメイドだった。
「お着替えがお済みでしたら、グリエラ様のところまでご案内させていただきます」
「あ、ありがとうございます」
メイドはタニヤの姿を見ると、満面の笑みを浮かべた。その笑顔を圧が強くて、タニヤは少しばかりたじろいでしまった。
「あら、失礼いたします。少しだけ整えさせていただきますわね」
メイドはタニヤが戸惑っていることに構うことなく、一気にそばまで歩み寄ってきた。彼女はタニヤの髪に触れると、手早く整えてくれた。
「うん、完璧だわ。さあさあ、皆さまお待ちでございますよ」
メイドは上機嫌にタニヤの腰に手を回してエスコートをしてくれる。
そんなメイドの態度にタニヤは違和感を覚えるが、逆らうこともできずにされるがまま廊下を歩いていく。
「きゅきゅい!」
タニヤはゆっくりと風呂を堪能していた。
おもいきり足をのばしながら、水しぶきをあげて泳いでいるクヌートに声をかける。
「グリエラさんたち、ちゃんと調べてくれるみたいで安心したわ。これで良い方向にむかえばいいのだけれど……」
店をあとにしてからあまり間をおかずに戻ってきたタニヤを、グリエラは何も言わずに迎えてくれた。
タニヤはグリエラと顔を合わせた途端、挨拶もせずに冒険者を辞めてきたとだけ告げた。
すると、グリエラは自分の服が濡れることもかまわずタニヤを抱きしめてきた。
タニヤは黙って背中を撫でてくれたグリエラに、心があたたかくなった。
「早くモンスターの子供を見つけないと。もし親が子供を探しに街まできたら、この店だって危険です!」
タニヤは勇気を出して、モンスターの子供の件をグリエラに相談した。
しどろもどろになりながら話し終えたタニヤに、グリエラはわかったとだけ言った。
そして、最初に会ったときにもいた二人の男に、モンスターの子供の件を調べろと命じたのだ。
グリエラたちの様子を見て、タニヤは自分を信じて受け入れてもらえたのだと安堵した。
やはりここにきて正解だったと、目頭があつくなる。
涙がこぼれ落ちそうになっているタニヤに、グリエラは風呂に入れと優しく声をかけてくれた。
風呂から上がると、脱衣所には新しい服が一式揃えられていた。
オープンテラスのカフェで見た少女たちが着ていたような流行の服だ。
ひさしぶりに華やかな服を手にしたタニヤは少しばかり心を躍らせて、ありがたく袖を通した。
「そんなに昔のことでもないのに、すごく懐かしいわ。見てよクヌート、可愛いでしょう?」
脱衣所にある鏡の前で、タニヤは服の裾を掴んでその場で回転してみせた。
「きゅきゅい? きゅきゅきゅー(ええ? 動きにくそうじゃん)」
「あら、野暮なことを言うのね。こういう服に動きやすさは関係ないのよ」
つまらなそうに言ったクヌートに、タニヤは唇を尖らせた。
「きゅきゅい、きゅきゅきゅ、きゅきゅー(わざわざ動きにくい服を着るなんて、人間はよくわからないね)」
「そりゃあなたは常に全裸だものね。私も一応は年頃の女なのよ。おしゃれに興味があってもいいじゃない」
「きゅきゅいきゅい。きゅきゅきゅ?(全裸とか言わないでくれるかな。君が今さらおしゃれとか、意味をわかって言っているの?)」
「クヌートはいちいちうるさいわねえ。せっかく用意してくれたのだから、どうせなら可愛らしく着こなしたいじゃない」
風呂上りのタニヤは、しばらくクヌートとくだらない言い合いをしていた。
そこへ、タイミングを見計らっていたかのようにメイドがあらわれた。取引をしていた部屋に紅茶を運んできたメイドだった。
「お着替えがお済みでしたら、グリエラ様のところまでご案内させていただきます」
「あ、ありがとうございます」
メイドはタニヤの姿を見ると、満面の笑みを浮かべた。その笑顔を圧が強くて、タニヤは少しばかりたじろいでしまった。
「あら、失礼いたします。少しだけ整えさせていただきますわね」
メイドはタニヤが戸惑っていることに構うことなく、一気にそばまで歩み寄ってきた。彼女はタニヤの髪に触れると、手早く整えてくれた。
「うん、完璧だわ。さあさあ、皆さまお待ちでございますよ」
メイドは上機嫌にタニヤの腰に手を回してエスコートをしてくれる。
そんなメイドの態度にタニヤは違和感を覚えるが、逆らうこともできずにされるがまま廊下を歩いていく。
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