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転職
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「よい雰囲気のところ悪いね」
タニヤがマルクの手を握ったまま黙って彼を見つめていたところに、グリエラから声がかかる。
その声で我に返って、タニヤはすぐにマルクから手を離した。慌ててグリエラの方へと身体を向けると、背筋を伸ばす。
「な、なんでしょうか?」
グリエラはタニヤの反応に苦笑いをしながら話を続けた。
「タニヤとクヌート。アンタら二人に仕事を頼んでもいいかい?」
「きゅっきゅい?(え、僕も?)」
クヌートは自分の名前が呼ばれたことが意外だったのか、素っ頓狂な声をあげる。
「領主のところにいるワンコちゃんなのだけど、クヌートはモンスター同士だろう。意思疎通を取ることは可能だろうか?」
クヌートはグリエラの言葉を聞いて、驚いたようにタニヤを見つめてくる。
クヌートはこれまでずっと隠れて過ごしてきた。
タニヤ以外の人間と触れ合う機会が少なかったので、いまの状態に戸惑いがあるのかもしれない。
クヌートに相談せずここへ来てしまったことを、タニヤは反省した。
謝罪の意味を込めて、タニヤは相棒の背中を落ち着かせるように優しく撫でる。
「どうなのクヌート、あの子とお話はできそうだった?」
タニヤはクヌートにグリエラと話をするよう促しながら問いかける。
すると、クヌートはグリエラの方を見て落ち着かない様子で話し出した。
「……きゅきゅきゅー。きゅきゅい、きゅきゅきゅきゅ」
「えっと、それはちょっと難しいかもしれないそうです。路地裏であの子を見つけたときも、クヌートは声をかけたそうなのです。でも、相手がとても混乱していてまったく話を聞いてくれなかったって……」
グリエラはクヌートの言葉を聞いて腕を組むと、真剣な顔でなにかを考えはじめた。
そんなグリエラに、クヌートは懸命に語り続けた。
「きゅきゅきゅー、きゅいきゅいきゅきゅ。きゅきゅい」
「でも、痛いことをしている人間たちから引き離せれば少しは落ち着くかもしれない、と言っています」
クヌートは一角狼の子供とじっくり話をする場をつくれるならば、親が街で暴れないよう自分がどうにか言い聞かせると言う。
「……うむ。それは一度ワンコをこちらでさらった方がよいのかい?」
「きゅきゅ。きゅいきゅいきゅいきゅい」
「はい。匂いに敏感なので、話をするならあの子を痛めつけた連中から少しでも引き離したほうが落ち着くだろう、と」
「……いいだろう。ワンコの説得はクヌートに任せよう」
グリエラはそう言うと、組んでいた腕をおろしてタニヤに視線を向けてきた。
「クヌートに説得を任せるなら、アンタにワンコをさらう役目を負ってもらいたいのだが、問題ないね?」
「もちろんです。お任せくださいませ」
「きゅきゅい!(任せて!)」
タニヤとクヌートは、グリエラの言葉に揃って返事をした。
「よし、この件はアンタらに任せよう。タニヤはこの街の事情に詳しくないだろうからマルクを貸してやる。いいね?」
「かしこまりました」
グリエラの言葉に、マルクは即座に返事をして頭を下げる。
「よし。では領主のところからワンコをさらっておいで。万が一でも商会に損害が出るようなことは避けなければならないからね。いいね!」
タニヤがマルクの手を握ったまま黙って彼を見つめていたところに、グリエラから声がかかる。
その声で我に返って、タニヤはすぐにマルクから手を離した。慌ててグリエラの方へと身体を向けると、背筋を伸ばす。
「な、なんでしょうか?」
グリエラはタニヤの反応に苦笑いをしながら話を続けた。
「タニヤとクヌート。アンタら二人に仕事を頼んでもいいかい?」
「きゅっきゅい?(え、僕も?)」
クヌートは自分の名前が呼ばれたことが意外だったのか、素っ頓狂な声をあげる。
「領主のところにいるワンコちゃんなのだけど、クヌートはモンスター同士だろう。意思疎通を取ることは可能だろうか?」
クヌートはグリエラの言葉を聞いて、驚いたようにタニヤを見つめてくる。
クヌートはこれまでずっと隠れて過ごしてきた。
タニヤ以外の人間と触れ合う機会が少なかったので、いまの状態に戸惑いがあるのかもしれない。
クヌートに相談せずここへ来てしまったことを、タニヤは反省した。
謝罪の意味を込めて、タニヤは相棒の背中を落ち着かせるように優しく撫でる。
「どうなのクヌート、あの子とお話はできそうだった?」
タニヤはクヌートにグリエラと話をするよう促しながら問いかける。
すると、クヌートはグリエラの方を見て落ち着かない様子で話し出した。
「……きゅきゅきゅー。きゅきゅい、きゅきゅきゅきゅ」
「えっと、それはちょっと難しいかもしれないそうです。路地裏であの子を見つけたときも、クヌートは声をかけたそうなのです。でも、相手がとても混乱していてまったく話を聞いてくれなかったって……」
グリエラはクヌートの言葉を聞いて腕を組むと、真剣な顔でなにかを考えはじめた。
そんなグリエラに、クヌートは懸命に語り続けた。
「きゅきゅきゅー、きゅいきゅいきゅきゅ。きゅきゅい」
「でも、痛いことをしている人間たちから引き離せれば少しは落ち着くかもしれない、と言っています」
クヌートは一角狼の子供とじっくり話をする場をつくれるならば、親が街で暴れないよう自分がどうにか言い聞かせると言う。
「……うむ。それは一度ワンコをこちらでさらった方がよいのかい?」
「きゅきゅ。きゅいきゅいきゅいきゅい」
「はい。匂いに敏感なので、話をするならあの子を痛めつけた連中から少しでも引き離したほうが落ち着くだろう、と」
「……いいだろう。ワンコの説得はクヌートに任せよう」
グリエラはそう言うと、組んでいた腕をおろしてタニヤに視線を向けてきた。
「クヌートに説得を任せるなら、アンタにワンコをさらう役目を負ってもらいたいのだが、問題ないね?」
「もちろんです。お任せくださいませ」
「きゅきゅい!(任せて!)」
タニヤとクヌートは、グリエラの言葉に揃って返事をした。
「よし、この件はアンタらに任せよう。タニヤはこの街の事情に詳しくないだろうからマルクを貸してやる。いいね?」
「かしこまりました」
グリエラの言葉に、マルクは即座に返事をして頭を下げる。
「よし。では領主のところからワンコをさらっておいで。万が一でも商会に損害が出るようなことは避けなければならないからね。いいね!」
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