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嵐の前

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「良かった。いきなり飛び出していっちゃうからさ、ずっと探していたんだよ」

 そう言って笑顔で声をかけてきたエリアスに、タニヤは眩暈を起こしそうになった。
 
「ここで会えて本当に良かった。みんな、あの子を見つけたよ!」

 エリアスが大声で仲間に声をかけるので、タニヤは驚いてびくりと身体を震わせた。すぐに彼の仲間の三人が、通りの人混みから姿をあらわす。
 タニヤは銀の冒険者たちの姿を見て、縋るようにマルクの手を強く握ってしまう。

「タニヤさん、この方々はお知合いですか?」
 
 タニヤのただならぬ様子に、マルクが気遣うように優しく声をかけてくれる。

「……か、顔見知り程度です。あ、あの、やっぱり宿に戻りましょう。早く帰りたいです!」
 
 タニヤはエリアスの視線から逃れるように、慌ててマルクの背に隠れる。
 しかし、エリアスの仲間である魔術師の女が、そんなタニヤを覗き込んで声を上げた。
 
「あらま、これがあの子なの? うわあ、すっかり見違えちゃったわ。エリアスったらよく気がついたわね」

 魔術師の女が大げさに驚いた仕草をしながら言うので、残りの二人の仲間も何事かとタニヤの姿をじろじろと見つめてくる。
 タニヤは居た堪れなくなってしまい、その場で地面に視線を落とした。
 
「たしかに服装はこの間と変わっているけど、可愛いのはもともとだよ。同じ人なんだからすぐに気がつくさ」

 仲間の発言にエリアスがけろっとした態度で答える。すると、魔術師の女はからかうようにエリアスを肘でつつきながら、にやけた顔をする。

「ええ、なによ。今回はやけに親切だと思っていたけど、もしかしてそういう感じなのかしら?」

「困っている人がいたら親切にするのは当たり前だろ? この子はどことなく存在感があるから、前から気になっていただけだよ」

「へえそう。ま、いいけどね。そういうことにしておくからあ」

 エリアスは仲間の態度に訳が分からないといった様子で首を傾げている。
 銀の冒険者たちは、そのままタニヤの前で会話を続けていた。

 タニヤは彼らの声を聞いていて、だんだんと身体が震えてきてしまった。
 今すぐに逃げ出したい、そう思っていたときマルクに抱き寄せられた。

「申し訳ないが、とくに用事がないようなら私たちは失礼させていただく。タニヤさん行きましょう」
 
 マルクは震えるタニヤの背中を優しく撫でながら、エリアスたちを睨みつける。

「――いや、ちょっと待ってくれ。用事ならそちらのお嬢さんにある!」

 エリアスはうろたえながら大きな声を出すと、マルクの前に立ち塞がった。
 その場から立ち去ろうとしていたマルクは、エリアスに行く手を阻まれ不機嫌そうに舌打ちをした。
 しかし、エリアスはマルクの態度にはまったく怯むことなく、堂々と胸を張った。

 エリアスはそのままマルクに抱きしめられているタニヤに向かって、勢いよく手を差し出してくる。
 その手には、銅色のプレートが握られていた。
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