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嵐の前
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タニヤはエプロンの女の店を後にしてから、マルクに街の中を案内されていた。
実際に街を見ながら、明日についての打ち合わせをしていたのだ。
「なにか想定外の事態が起きたときは、この道の先で合流するということでよろしいですか?」
「わかりました。それで問題ありません」
「では、ここで確認することは以上ですね。あとは宿に戻ってお話をしましょうか」
話に集中しなくてはいけないと思うのに、タニヤはマルクと肩を並べて街中を歩いていることにどうしても緊張してしまう。
しかし、あとはもう宿に帰るだけだという時になって、もう少しこのまま街中を歩いていたいと思ってしまった。
選んだ装備品は調整をしてから宿に届けてくれるとのことだったので、タニヤはシエナが朝に着せてくれた服を再び身につけている。
今のままなら、ただ街へ遊びにきた年頃の娘に見えているのではないか。
そう考えてしまい、少しでもこの時間が続けばよいのにと、足が重くなり歩調が緩やかになってくる。
ぼんやりしながら宿に向かって歩いていると、先日みかけたカフェが目に留まった。
タニヤは立ち止まって、カフェの店内をじっと見つめてしまっていた。
今日も流行の服に身を包んだ少女たちの姿がある。少女たちが楽しそうにおしゃべりをする姿を見て、タニヤは今の自分なら違和感なく彼女たちの輪の中に入れるのではないかと思ってしまった。
「お疲れですよね。少し休みますか?」
タニヤがよほど羨ましそうに少女たちを見てしまっていたのだろう。マルクが困った顔をして尋ねてきた。
タニヤはそのマルクの誘いが嬉しかった。
顔がにやにやとだらしない表情になってしまう。それを見られたくなくて、タニヤは勢いよく頭を振って気持ちを落ち着かせようとする。
マルクはグリエラの命令でタニヤに付き合ってくれているだけなのだ。
これ以上はマルクに迷惑をかけてはいけないのだと、タニヤは後ろ髪を引かれながら誘いを断った。
「い、いいえ! 明日のことでまだ確認をしなければいけないことがありますから、早く宿に戻らないと」
タニヤは大げさに手を振ってから宿に向かって歩きだそうとした。しかし、マルクに腕を掴まれてその場から動けなくなってしまう。
「せっかくですから少し休んでいきましょう。宿に戻ったらすぐに打ち合わせをしなければなりませんしね」
「だ、大丈夫ですよ。もうクヌートが宿に戻ってきているかもしれませんし、私の帰りが遅いって怒っているかも」
今日のタニヤとクヌートは別行動をしている。
タニヤが装備品を新調している間、クヌートは街の外を飛び回ってモンスターが迫ってきていないか確認をしているのだ。
「少し休むだけでクヌートさんは怒らないですよ」
あきらかにカフェに立ち寄りたいという雰囲気を出しながら言い訳をしようとするタニヤに、マルクがはっきりと言った。
「今日は朝からずっと歩きっぱなしでしたからお疲れでしょう。甘いものは疲れにも良いですし、ご一緒しませんか?」
マルクが爽やかな笑顔で手を差し出してきた。
この手を取ってもよいものか。タニヤは迷いながら、じっと彼の手を見つめる。
「……私なんかが、カフェでお茶をしてもいいのでしょうか……?」
迷惑をかけてはいけないとわかっているのに、タニヤは顔がにやつくのを止められなかった。
「私なんか、ではありませんよ。誰にだってお茶をする権利くらいあります」
顔を覗き込まれながら言われた。タニヤは気まずくなってマルクから視線を逸らす。
「それに、私なんかと言われてしまったら、ご一緒したいとお誘いしているこちらが申し訳ない気持ちになってしまいます。それこそ、私なんかが一緒では楽しめないかなと、そう思ってしまいますよ」
そう言ってマルクが悲しげに微笑むので、タニヤは慌てて彼の手を握って首を横に振った。
「そんなことはありません。是非ご一緒したいです!」
タニヤが力強く言うと、マルクが笑って手を握り返してくれた。
タニヤは気持ちが抑えきれなくなってしまい、満面の笑みを浮かべるとマルクに向かって話しかけた。
「あのですね、私……」
「――ああ! やっと見つけたあ」
その声が聞こえた瞬間、それまでの浮かれていた気持ちが一気に冷めてしまった。
最高潮に気分が盛り上がっていただけに、その落差でタニヤはいっそのこと気を失ってしまいたいとすら思った。
実際に街を見ながら、明日についての打ち合わせをしていたのだ。
「なにか想定外の事態が起きたときは、この道の先で合流するということでよろしいですか?」
「わかりました。それで問題ありません」
「では、ここで確認することは以上ですね。あとは宿に戻ってお話をしましょうか」
話に集中しなくてはいけないと思うのに、タニヤはマルクと肩を並べて街中を歩いていることにどうしても緊張してしまう。
しかし、あとはもう宿に帰るだけだという時になって、もう少しこのまま街中を歩いていたいと思ってしまった。
選んだ装備品は調整をしてから宿に届けてくれるとのことだったので、タニヤはシエナが朝に着せてくれた服を再び身につけている。
今のままなら、ただ街へ遊びにきた年頃の娘に見えているのではないか。
そう考えてしまい、少しでもこの時間が続けばよいのにと、足が重くなり歩調が緩やかになってくる。
ぼんやりしながら宿に向かって歩いていると、先日みかけたカフェが目に留まった。
タニヤは立ち止まって、カフェの店内をじっと見つめてしまっていた。
今日も流行の服に身を包んだ少女たちの姿がある。少女たちが楽しそうにおしゃべりをする姿を見て、タニヤは今の自分なら違和感なく彼女たちの輪の中に入れるのではないかと思ってしまった。
「お疲れですよね。少し休みますか?」
タニヤがよほど羨ましそうに少女たちを見てしまっていたのだろう。マルクが困った顔をして尋ねてきた。
タニヤはそのマルクの誘いが嬉しかった。
顔がにやにやとだらしない表情になってしまう。それを見られたくなくて、タニヤは勢いよく頭を振って気持ちを落ち着かせようとする。
マルクはグリエラの命令でタニヤに付き合ってくれているだけなのだ。
これ以上はマルクに迷惑をかけてはいけないのだと、タニヤは後ろ髪を引かれながら誘いを断った。
「い、いいえ! 明日のことでまだ確認をしなければいけないことがありますから、早く宿に戻らないと」
タニヤは大げさに手を振ってから宿に向かって歩きだそうとした。しかし、マルクに腕を掴まれてその場から動けなくなってしまう。
「せっかくですから少し休んでいきましょう。宿に戻ったらすぐに打ち合わせをしなければなりませんしね」
「だ、大丈夫ですよ。もうクヌートが宿に戻ってきているかもしれませんし、私の帰りが遅いって怒っているかも」
今日のタニヤとクヌートは別行動をしている。
タニヤが装備品を新調している間、クヌートは街の外を飛び回ってモンスターが迫ってきていないか確認をしているのだ。
「少し休むだけでクヌートさんは怒らないですよ」
あきらかにカフェに立ち寄りたいという雰囲気を出しながら言い訳をしようとするタニヤに、マルクがはっきりと言った。
「今日は朝からずっと歩きっぱなしでしたからお疲れでしょう。甘いものは疲れにも良いですし、ご一緒しませんか?」
マルクが爽やかな笑顔で手を差し出してきた。
この手を取ってもよいものか。タニヤは迷いながら、じっと彼の手を見つめる。
「……私なんかが、カフェでお茶をしてもいいのでしょうか……?」
迷惑をかけてはいけないとわかっているのに、タニヤは顔がにやつくのを止められなかった。
「私なんか、ではありませんよ。誰にだってお茶をする権利くらいあります」
顔を覗き込まれながら言われた。タニヤは気まずくなってマルクから視線を逸らす。
「それに、私なんかと言われてしまったら、ご一緒したいとお誘いしているこちらが申し訳ない気持ちになってしまいます。それこそ、私なんかが一緒では楽しめないかなと、そう思ってしまいますよ」
そう言ってマルクが悲しげに微笑むので、タニヤは慌てて彼の手を握って首を横に振った。
「そんなことはありません。是非ご一緒したいです!」
タニヤが力強く言うと、マルクが笑って手を握り返してくれた。
タニヤは気持ちが抑えきれなくなってしまい、満面の笑みを浮かべるとマルクに向かって話しかけた。
「あのですね、私……」
「――ああ! やっと見つけたあ」
その声が聞こえた瞬間、それまでの浮かれていた気持ちが一気に冷めてしまった。
最高潮に気分が盛り上がっていただけに、その落差でタニヤはいっそのこと気を失ってしまいたいとすら思った。
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