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遭遇
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目の前にいる者たちが憎くてどうしようもない。
タニヤの心の中にそんな憎悪の感情がわき起こってきた時だった。
どこからともなく声が聞こえてきた。
『……………………………………』
男とも女とも判断できない不思議な声がする。
しかも、声だとはっきりと認識しているのに、なんと言っているのかはわからない。
これまでに経験したことのない感覚だった。
「……だれ、どこにいるの?」
今もどこかから聞こえてくる謎の声に、タニヤは痛みを忘れて問いかけていた。
『……………ゾ。……………ク…………』
謎の声はすぐにタニヤの問いに答えてくれた、ような気がした。
なにを言っているのかはさっぱりわからない。わからないのに、不思議と気持ちが落ちついてきた。
「ごめんなさい。どうしてもあなたがなんて言っているのかわからないの」
タニヤは視線を動かして周囲を見てみるが、タニヤのそばには自分を取り押さえている警備の人間と正装の男しかいない。声の主はその者たちではない。
『………………クル……。ハヤ……ニゲ………』
「なに? わからないわ。もっとはっきり言ってちょうだい!」
タニヤは謎の声と会話をしようと、声を張り上げた。
すると、タニヤが逃げようとしていると思ったのか、身体を拘束している警備の人間が力を入れた。
「暴れるな! 大人しくしていろ!」
「──っうう」
両手を後ろに固定されて体重をかけられる。タニヤは息が苦しくなって身を捩るが、拘束はきつくなるだけだった。
『逃げろ。もうすぐ狼がくるぞ!』
目の前が暗くなりかけていた時、ようやくはっきりと声が聞こえた。
『お前が巻き込まれることはないのだから、こんな奴らは放っておけ!』
タニヤは謎の声が、身につけている耳飾りの中から聞こえてくるのだと気がついた。
クヌートが心配していた通りだった。
耳飾りには意思のある存在が閉じ込められている。
『こいつらが狼に殺されるのは自業自得だが、お前が殺されてやることはないだろう。さっさと逃げろ!』
その言葉を聞いて、タニヤは自分を取り押さえていた警備の人間を、魔法を使って吹き飛ばした。
タニヤがいきなり魔法を使って自由の身になったので、周囲の者たちは呆気に取られている。
「念のためお伝えします。今そこで死んでいるのは一角狼というS級ランクモンスターの子供です」
すぐに逃げてもよかったが、タニヤは呆然と立ち尽くしている者たちに声をかけた。
タニヤの言葉を聞いた者たちの反応はさまざまだった。
領主は慌てふためき、領主の娘は顔色が青ざめてしまった。
エリアスたち銀の冒険者は呆気に取られたままだ。
そんな中、正装の男は一切の感情をみせず、ただタニヤをじっと見つめていた。
タニヤは自分を見つめてくる男を睨みつける。
「あなたはご存じでしょうけど、一角狼は愛情深い生き物です。親は必死になって子を探していることでしょう。早く逃げないと大変なことになりますよ」
タニヤが必死に語りかけても、正装の男は黙ってこちらを見つめてくるだけだった。
「私は親が子を見つけてここへやってくる前に、子供を街の外に連れ出そうと思っていました。ですが、子が死んでしまってはもう親は止まりません」
「え、待って待って。モンスターの子供ってなに?」
タニヤが正装の男に向かって話をしているところに、正気に戻ったエリアスが割って入ってきた。
タニヤはエリアスの相手をする気はないので無視をしてそのまま話を続けた。
「親は子の命を奪った者の息の根を止めるまで暴走することでしょうね。街にどれほどの被害がでることやら……」
タニヤがそう言ったところで、ようやく正装の男が反応を示した。不機嫌そうに顔を歪めて拳を握る。
「あら、もしかしてそれが狙いなのですか?」
「だったらなんだ。どうせお前もここにいれば狼に殺される」
「ずいぶんとご無理をなさるのねと思っただけですわ。私は殺されるつもりはないのでさっさと逃げます。それではさようなら」
タニヤは言い終わると同時に温室を飛び出した。
そのまま庭を突き進み、屋敷の外へ出ようとする。
タニヤの心の中にそんな憎悪の感情がわき起こってきた時だった。
どこからともなく声が聞こえてきた。
『……………………………………』
男とも女とも判断できない不思議な声がする。
しかも、声だとはっきりと認識しているのに、なんと言っているのかはわからない。
これまでに経験したことのない感覚だった。
「……だれ、どこにいるの?」
今もどこかから聞こえてくる謎の声に、タニヤは痛みを忘れて問いかけていた。
『……………ゾ。……………ク…………』
謎の声はすぐにタニヤの問いに答えてくれた、ような気がした。
なにを言っているのかはさっぱりわからない。わからないのに、不思議と気持ちが落ちついてきた。
「ごめんなさい。どうしてもあなたがなんて言っているのかわからないの」
タニヤは視線を動かして周囲を見てみるが、タニヤのそばには自分を取り押さえている警備の人間と正装の男しかいない。声の主はその者たちではない。
『………………クル……。ハヤ……ニゲ………』
「なに? わからないわ。もっとはっきり言ってちょうだい!」
タニヤは謎の声と会話をしようと、声を張り上げた。
すると、タニヤが逃げようとしていると思ったのか、身体を拘束している警備の人間が力を入れた。
「暴れるな! 大人しくしていろ!」
「──っうう」
両手を後ろに固定されて体重をかけられる。タニヤは息が苦しくなって身を捩るが、拘束はきつくなるだけだった。
『逃げろ。もうすぐ狼がくるぞ!』
目の前が暗くなりかけていた時、ようやくはっきりと声が聞こえた。
『お前が巻き込まれることはないのだから、こんな奴らは放っておけ!』
タニヤは謎の声が、身につけている耳飾りの中から聞こえてくるのだと気がついた。
クヌートが心配していた通りだった。
耳飾りには意思のある存在が閉じ込められている。
『こいつらが狼に殺されるのは自業自得だが、お前が殺されてやることはないだろう。さっさと逃げろ!』
その言葉を聞いて、タニヤは自分を取り押さえていた警備の人間を、魔法を使って吹き飛ばした。
タニヤがいきなり魔法を使って自由の身になったので、周囲の者たちは呆気に取られている。
「念のためお伝えします。今そこで死んでいるのは一角狼というS級ランクモンスターの子供です」
すぐに逃げてもよかったが、タニヤは呆然と立ち尽くしている者たちに声をかけた。
タニヤの言葉を聞いた者たちの反応はさまざまだった。
領主は慌てふためき、領主の娘は顔色が青ざめてしまった。
エリアスたち銀の冒険者は呆気に取られたままだ。
そんな中、正装の男は一切の感情をみせず、ただタニヤをじっと見つめていた。
タニヤは自分を見つめてくる男を睨みつける。
「あなたはご存じでしょうけど、一角狼は愛情深い生き物です。親は必死になって子を探していることでしょう。早く逃げないと大変なことになりますよ」
タニヤが必死に語りかけても、正装の男は黙ってこちらを見つめてくるだけだった。
「私は親が子を見つけてここへやってくる前に、子供を街の外に連れ出そうと思っていました。ですが、子が死んでしまってはもう親は止まりません」
「え、待って待って。モンスターの子供ってなに?」
タニヤが正装の男に向かって話をしているところに、正気に戻ったエリアスが割って入ってきた。
タニヤはエリアスの相手をする気はないので無視をしてそのまま話を続けた。
「親は子の命を奪った者の息の根を止めるまで暴走することでしょうね。街にどれほどの被害がでることやら……」
タニヤがそう言ったところで、ようやく正装の男が反応を示した。不機嫌そうに顔を歪めて拳を握る。
「あら、もしかしてそれが狙いなのですか?」
「だったらなんだ。どうせお前もここにいれば狼に殺される」
「ずいぶんとご無理をなさるのねと思っただけですわ。私は殺されるつもりはないのでさっさと逃げます。それではさようなら」
タニヤは言い終わると同時に温室を飛び出した。
そのまま庭を突き進み、屋敷の外へ出ようとする。
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