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遭遇
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「待って、行かないで!」
エリアスが大声をあげてから、後を追ってくる気配を感じる。
タニヤはそれを無視して走り続けた。すぐ目の前に屋敷を囲む塀が見えてくる。
「────────!」
タニヤが塀を乗り越えようとしていたとき、外から遠吠えが聞こえてきた。
タニヤはその叫びを聞いて、立ち止まってしまう。
子に向かって必死に呼びかけている声が辛くて悲しくて、どうにも足が動かなくなってしまった。
「やっと追いついた! って、この鳴き声はなんだよ⁉︎」
立ち竦んでいるタニヤの元に、エリアスが追いついてきた。
タニヤはエリアスに強く肩を引かれて、彼を振り返る。ちょうどそのとき、塀の向こう側で激しい物音と人々の悲鳴が聞こえはじめた。
「──っ今度はなんだよ! いったいどうなっているんだ⁉︎」
エリアスが困惑した様子で声を上げる。
すると、彼の仲間たちもやってきてタニヤに詰め寄ってきた。
「ねえ、ちょっとなによこれ。あなたはなにが起きているのか知っているの?」
「さっき屋敷の人間を外に出せって言っていたよね。それはどういうことなの?」
タニヤは銀の冒険者に囲まれて質問攻めにされる。
彼らの態度を見ていると、まるで自分がモンスターを呼び寄せたのだと責められているように感じられた。
タニヤは腹立たしくなって彼らを睨みつける。
「そうやって私が悪いことをしたみたいな……。ええ、別にもうどうだっていいのですけど。そうやってなんでも私のせいにすればいいわ!」
タニヤが叫んだのと同時に、屋敷を囲む塀が吹き飛んだ。
「──っきゃあ!」
タニヤは衝撃でよろめいた。身体のバランスを崩して倒れそうになる。
しかし、タニヤの肩を掴んでいたエリアスが抱き留めてくれたので、転ぶことはなかった。
「……ありがとうございます。助かりました」
助けてもらって礼を言わないのは人としてどうかと思った。
最低限の礼節も弁えていないと思われるのが嫌で、いやいやながらでも礼を言っただけだ。
それだけなのに、エリアスがぱあっと明るい表情を浮かべてタニヤに微笑みかけてくる。
「どういたしまして。怪我がなくてよかったよ」
エリアスは照れ臭そうにはにかんだ。
タニヤはエリアスの態度も嫌だったが、触れられていることが気持ち悪くておもいきり彼の手を振り払った。
「えっとさ、本当はもっとちゃんと話がしたいんだ。だけど、今はあっちをどうにかしなくちゃいけないと思うから」
エリアスは姿をあらわした一角狼の親を指さした。
「後できちんと話そうね! 絶対だよ」
エリアスはそう言い残して、仲間と共に一角狼の元へ向かっていく。
タニヤはこれ以上エリアスに気分を害されたくなくて、彼から視線を逸らした。
タニヤはそのまま突き破られた塀を見つめる。
「ずいぶん早かったわね。そうか、子供の断末魔が聞こえたのね。そりゃそうよね、大切な我が子だもの」
塀の向こうに見える街の光景は凄まじいものだった。
なりふり構わず、子のいる場所まで真っすぐに突き進んできたことがわかる。
街を囲む城壁には警備兵がいたはずであるが、ものともしなかったのだろう。
「────────!」
背後から叫び声が聞こえた。
変わり果てた我が子の姿を目にしたのだろう。
タニヤはおもわず涙が出てきてしまった。
悲痛な叫びに耐えられず、タニヤはマルクの待つ場所まで立ち止まらずに走り続けた。
エリアスが大声をあげてから、後を追ってくる気配を感じる。
タニヤはそれを無視して走り続けた。すぐ目の前に屋敷を囲む塀が見えてくる。
「────────!」
タニヤが塀を乗り越えようとしていたとき、外から遠吠えが聞こえてきた。
タニヤはその叫びを聞いて、立ち止まってしまう。
子に向かって必死に呼びかけている声が辛くて悲しくて、どうにも足が動かなくなってしまった。
「やっと追いついた! って、この鳴き声はなんだよ⁉︎」
立ち竦んでいるタニヤの元に、エリアスが追いついてきた。
タニヤはエリアスに強く肩を引かれて、彼を振り返る。ちょうどそのとき、塀の向こう側で激しい物音と人々の悲鳴が聞こえはじめた。
「──っ今度はなんだよ! いったいどうなっているんだ⁉︎」
エリアスが困惑した様子で声を上げる。
すると、彼の仲間たちもやってきてタニヤに詰め寄ってきた。
「ねえ、ちょっとなによこれ。あなたはなにが起きているのか知っているの?」
「さっき屋敷の人間を外に出せって言っていたよね。それはどういうことなの?」
タニヤは銀の冒険者に囲まれて質問攻めにされる。
彼らの態度を見ていると、まるで自分がモンスターを呼び寄せたのだと責められているように感じられた。
タニヤは腹立たしくなって彼らを睨みつける。
「そうやって私が悪いことをしたみたいな……。ええ、別にもうどうだっていいのですけど。そうやってなんでも私のせいにすればいいわ!」
タニヤが叫んだのと同時に、屋敷を囲む塀が吹き飛んだ。
「──っきゃあ!」
タニヤは衝撃でよろめいた。身体のバランスを崩して倒れそうになる。
しかし、タニヤの肩を掴んでいたエリアスが抱き留めてくれたので、転ぶことはなかった。
「……ありがとうございます。助かりました」
助けてもらって礼を言わないのは人としてどうかと思った。
最低限の礼節も弁えていないと思われるのが嫌で、いやいやながらでも礼を言っただけだ。
それだけなのに、エリアスがぱあっと明るい表情を浮かべてタニヤに微笑みかけてくる。
「どういたしまして。怪我がなくてよかったよ」
エリアスは照れ臭そうにはにかんだ。
タニヤはエリアスの態度も嫌だったが、触れられていることが気持ち悪くておもいきり彼の手を振り払った。
「えっとさ、本当はもっとちゃんと話がしたいんだ。だけど、今はあっちをどうにかしなくちゃいけないと思うから」
エリアスは姿をあらわした一角狼の親を指さした。
「後できちんと話そうね! 絶対だよ」
エリアスはそう言い残して、仲間と共に一角狼の元へ向かっていく。
タニヤはこれ以上エリアスに気分を害されたくなくて、彼から視線を逸らした。
タニヤはそのまま突き破られた塀を見つめる。
「ずいぶん早かったわね。そうか、子供の断末魔が聞こえたのね。そりゃそうよね、大切な我が子だもの」
塀の向こうに見える街の光景は凄まじいものだった。
なりふり構わず、子のいる場所まで真っすぐに突き進んできたことがわかる。
街を囲む城壁には警備兵がいたはずであるが、ものともしなかったのだろう。
「────────!」
背後から叫び声が聞こえた。
変わり果てた我が子の姿を目にしたのだろう。
タニヤはおもわず涙が出てきてしまった。
悲痛な叫びに耐えられず、タニヤはマルクの待つ場所まで立ち止まらずに走り続けた。
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