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遭遇
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「――っタニヤさん! ご無事でしたか」
合流地点にやってきたタニヤのもとに、マルクが安堵した顔をしながら駆け寄ってきた。
「ど、どうなさったのですか? どこかお怪我でも……」
マルクは傍までやってくると、タニヤがぼろぼろと泣いていることに気がついて顔を覗き込んでくる。
「ご、ごめんなさい。なんでもないのです!」
「なんでもないわけはないと思いますが……。ところでモンスターはどうしたのですか?」
マルクが自分を心配してくれる声を聞いて、タニヤは余計に涙が溢れてくる。
そんな自分に戸惑いつつ、こんなことに時間を割いている場合ではないのだと、タニヤは頬を強く叩いた。それからすぐに、温室内での出来事をマルクに報告する。
「もうあの親は止まりません。屋敷に侵入した親の対応は銀の冒険者に任せましょう。狼は番ですから、私たちはもう一匹の親を探して対処するべきだと思います」
そうは言ったものの、タニヤはどうしても涙を止めることができず、マルクに背を向けて目元を拭う。
どうして声を聞くだけで、こんなにも自分は安心しているのだろうかと戸惑いが隠せない。
急いでもう一匹の一角狼の親を見つけにいかなくては街に大きな被害が出てしまう。早く泣き止めと慌てふためくタニヤを、マルクはそっと背後から抱きしめた。
「大丈夫。大丈夫ですから」
優しく声をかけられて、タニヤはびくりと身体を震わせた。
マルクの声を聞いていると、どうしても父の姿がちらつく。
「…………私も、助けにきて欲しかったな」
さきほどの一角狼の親のように、憲兵に捕らわれていたタニヤを助けるために駆けつけてほしかった。
タニヤは一角狼の子に自分を重ねて涙が出たのだ。
「もう大丈夫だって、お父様にそう言って欲しかった」
現実はそうはならなかった。
タニヤは身に覚えのない罪で捕らわれて、屈辱的な仕打ちを受けた。しかし、命まで奪われたわけでない。
きっとタニヤより父の方が誰かに助けて欲しかったに違いない。
理不尽に殺されて地面に横たわっていた一角狼の子供が、父の姿と重なった気がした。涙はもう出てこなかった。
「ご心配をおかけしました。私はもう大丈夫です」
タニヤはマルクを振り返って微笑んだ。
モンスターに自分の境遇を重ねてしまった。今はそんなことで嘆き悲しんでいる余裕はないとタニヤは気持ちを切り替える。
「先ほどの番の遠吠えを聞いて、もう一匹の親も街にきます。その前になんとしても止めないといけません」
マルクは怪訝そうな顔をしてタニヤを見ていたが、黙ったまま頷いた。
そのとき、領主の屋敷で大きな爆発音がした。タニヤは慌てて屋敷の方角に視線を向ける。
領主の屋敷は半壊状態になっていた。屋敷の庭では、一角狼と銀の冒険者たちが対峙している姿が見える。
一角狼はすでにかなりの手負いだ。
だが、エリアスたちも仲間の魔術師に回復魔法をかけられながら、なんとか戦い続けている状態だった。
「さすが銀ランクになるだけの者たちですね。S級モンスター相手に渡り合っているとは」
マルクがエリアスたちに向けて感心したように声を出す。
しかし、タニヤは冷めた視線をエリアスたちに向けていた。
「そうですか? 私は少しがっかりしました。一匹相手にするだけなのに、四人がかりで互角程度なのですね」
タニヤが吐き捨てるように言うと、マルクが驚いた顔をする。
「そ、そうでしょうか? よくやっている方だと思いますが……」
「へえ、そうなのですね。だってあれは父親ですよ? 子育て期の母親に比べれば、力が劣るはずなのですが……」
エリアス達の戦いを冷静に眺めていると、マルクがタニヤの腕を引いた。
「……ひとまず、私たちは街の城壁に向かいましょう。城壁からならば街の周囲が見渡せます。警備の兵には話をつけてありますから」
「わかりました。行きましょうか」
タニヤはマルクが用意していた馬に乗って街の城壁を目指す。
合流地点にやってきたタニヤのもとに、マルクが安堵した顔をしながら駆け寄ってきた。
「ど、どうなさったのですか? どこかお怪我でも……」
マルクは傍までやってくると、タニヤがぼろぼろと泣いていることに気がついて顔を覗き込んでくる。
「ご、ごめんなさい。なんでもないのです!」
「なんでもないわけはないと思いますが……。ところでモンスターはどうしたのですか?」
マルクが自分を心配してくれる声を聞いて、タニヤは余計に涙が溢れてくる。
そんな自分に戸惑いつつ、こんなことに時間を割いている場合ではないのだと、タニヤは頬を強く叩いた。それからすぐに、温室内での出来事をマルクに報告する。
「もうあの親は止まりません。屋敷に侵入した親の対応は銀の冒険者に任せましょう。狼は番ですから、私たちはもう一匹の親を探して対処するべきだと思います」
そうは言ったものの、タニヤはどうしても涙を止めることができず、マルクに背を向けて目元を拭う。
どうして声を聞くだけで、こんなにも自分は安心しているのだろうかと戸惑いが隠せない。
急いでもう一匹の一角狼の親を見つけにいかなくては街に大きな被害が出てしまう。早く泣き止めと慌てふためくタニヤを、マルクはそっと背後から抱きしめた。
「大丈夫。大丈夫ですから」
優しく声をかけられて、タニヤはびくりと身体を震わせた。
マルクの声を聞いていると、どうしても父の姿がちらつく。
「…………私も、助けにきて欲しかったな」
さきほどの一角狼の親のように、憲兵に捕らわれていたタニヤを助けるために駆けつけてほしかった。
タニヤは一角狼の子に自分を重ねて涙が出たのだ。
「もう大丈夫だって、お父様にそう言って欲しかった」
現実はそうはならなかった。
タニヤは身に覚えのない罪で捕らわれて、屈辱的な仕打ちを受けた。しかし、命まで奪われたわけでない。
きっとタニヤより父の方が誰かに助けて欲しかったに違いない。
理不尽に殺されて地面に横たわっていた一角狼の子供が、父の姿と重なった気がした。涙はもう出てこなかった。
「ご心配をおかけしました。私はもう大丈夫です」
タニヤはマルクを振り返って微笑んだ。
モンスターに自分の境遇を重ねてしまった。今はそんなことで嘆き悲しんでいる余裕はないとタニヤは気持ちを切り替える。
「先ほどの番の遠吠えを聞いて、もう一匹の親も街にきます。その前になんとしても止めないといけません」
マルクは怪訝そうな顔をしてタニヤを見ていたが、黙ったまま頷いた。
そのとき、領主の屋敷で大きな爆発音がした。タニヤは慌てて屋敷の方角に視線を向ける。
領主の屋敷は半壊状態になっていた。屋敷の庭では、一角狼と銀の冒険者たちが対峙している姿が見える。
一角狼はすでにかなりの手負いだ。
だが、エリアスたちも仲間の魔術師に回復魔法をかけられながら、なんとか戦い続けている状態だった。
「さすが銀ランクになるだけの者たちですね。S級モンスター相手に渡り合っているとは」
マルクがエリアスたちに向けて感心したように声を出す。
しかし、タニヤは冷めた視線をエリアスたちに向けていた。
「そうですか? 私は少しがっかりしました。一匹相手にするだけなのに、四人がかりで互角程度なのですね」
タニヤが吐き捨てるように言うと、マルクが驚いた顔をする。
「そ、そうでしょうか? よくやっている方だと思いますが……」
「へえ、そうなのですね。だってあれは父親ですよ? 子育て期の母親に比べれば、力が劣るはずなのですが……」
エリアス達の戦いを冷静に眺めていると、マルクがタニヤの腕を引いた。
「……ひとまず、私たちは街の城壁に向かいましょう。城壁からならば街の周囲が見渡せます。警備の兵には話をつけてありますから」
「わかりました。行きましょうか」
タニヤはマルクが用意していた馬に乗って街の城壁を目指す。
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