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遭遇

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「──ええ、ダグさん? どうしてここに」

 人影の中にマルクの兄であるダグの姿を見つけた。
 フェリシアの話にすっかり気を取られていた。周囲にこれだけの人が集まっていたというのに、まったく気がついていなかったタニヤは驚愕する。

「やっと来ましたね。遅いので冷や冷やしていましたが、ここは兄さんたちに任せて行きましょう」

 マルクが馬上からタニヤに向かって手を伸ばしてくる。しかし、タニヤはその手を取ることを躊躇ってしまう。

「あの、でも。私たちもダグさんに加勢した方が……?」

「私たちはもう一匹の一角狼を探すべきです。さあ、早く!」

 スヴェンたち四人は、突然の襲撃をいともたやすく受け流している。
 正確に言えば、スヴェンは驚いてただ悲鳴を上げていただけだ。他の三人が連携して攻撃をかわしながらスヴェンを守っている。三人で一人を守りながら襲撃に対応しているというのに、彼らには多勢に無勢といった様子は少しもない。

「兄さんなら大丈夫です。我々は敵対組織の親玉をずっと探していたのですよ。それがようやく姿をあらわしたのですから、ここはずっと探していた人に譲ってあげてください」

 マルクが力強く言うので、タニヤは戸惑いながらも彼の手を取った。
 マルクはタニヤの手を握ると、そのまま馬上に引き上げて馬を走らせる。

 タニヤは馬に揺られながら、路地に崩れ落ちている氷の塊を見て眉間にしわを寄せる。
 行く手を阻んだとはいえ、殺すつもりはなかった。クヌートのかけた魔法は一定時間が経過すれば解けるはずだった。

 タニヤが自分の手で彼らを殺したわけでない。しかし、クヌートに彼らの足止めを指示したのはタニヤだ。
 直接的ではないにしろ、理不尽に人の命を奪ったことになるのではないかと、落ち着いてはいられなくなる。

「待って! 行かせないよ」

 その場から去ろうとするタニヤとマルクを見て、フェリシアが叫んだ。

「アンタたちはリーダーを安全なところまで連れて行って。リーダーに傷ひとつつけさせるんじゃないよ!」

 そのフェリシアの指示に、ダガーと剣の男が同時に返事をした。それまで防戦のみだった彼らはダグたちに反撃をはじめる。
 そして、フェリシアは馬に乗ってその場から離れていくタニヤとマルクの後を、走って追いかけてきた。
 

「――っな⁉ こっちは馬なのに、どうしてあのフェリシアとかいう女はついてこれるのですか。魔法は使えないのですよね?」

 マルクがちらりと背後を振り返りながら、信じられないといった顔で声を上げる。
 マルクは馬に急ぐように指示しているが、フェリシアは一定の距離を保ってしっかりとついてくる。
 
 タニヤは追いかけてくるフェリシアの姿を見て、今の状況に集中しなければと頭を振った。先ほどまでの話は頭の片隅に追いやって、気持ちを切り替える。

「やっぱり只者ではありませんね。冒険者であれば余裕で銀ランクになれる素質をお持ちの方だと思います」

 タニヤは全速力で走る馬から振り落とされないようにしながら、フェリシアを冷静に眺める。

「なるほど、クヌートが攻撃をしかけにくい絶妙な距離を保っているのね」

 世話係とはいえ、フェリシアには魔術師育成機関として国内最高峰の魔術学園に通える実力がある。油断をすれば足をすくわれるかもしれない。

「おそらくフェリシアさんは、私たちが魔法無効化の効果範囲を出るまでは、この距離を保ってついてくるだけだと思います。魔法無効化なんてことが広範囲でできるとは思ってはいないでしょうから」

「そうですか。無効化の効果範囲はどれくらいなので……」

 マルクが言い終わるより先に、タニヤは指環の中から弓を取り出すと、あとをつけてきているフェリシアに向かって矢を放った。

「たった今、無効化の範囲外に出ました。こちらの方が少しだけ早く出るので攻撃を仕掛けたのですが、お見通しでしたね」

「……よくわかりました。もう少し早く言ってもらえたら嬉しかったですが」

 背後を走っていたはずのフェリシアが、あっという間に馬の前に移動して杖を構えている。
 マルクは慌てて馬をその場に止めると、煩わしそうに舌打ちをした。

「これで私も戦える、と言いたいところだけどね。私は戦うために追いかけてきたわけじゃないの。私じゃタニヤさんには絶対に勝てないことくらいわかっているしさ」

 そう言ってフェリシアは杖をしまった。  

「戦うつもりがないならば、なぜそこまで必死になって追いかけてくる必要があった。どうして私たちの前に立ち塞がる?」

 マルクがフェリシアを睨みつけながら問いかけた。
 フェリシアはマルクの言葉を聞いていたはずだが、彼には何も答えなかった。

 フェリシアは機嫌がよさそうに満面の笑みを浮かべて立っている。
 その笑顔はタニヤに向けられていた。

「私ね、タニヤさんとお友達になりたくなっちゃったの」
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