愛しい王子様、どうか私を愛してください。

黒蜜きな粉

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 愛されるように努力する、そう言ったエドワードの言葉に間違いはなかった。

「すまない、起こしてしまったようだね」

 隣でもぞもぞと誰かが動く気配がして、ラティファは目が覚めた。

「おはよう。ティファはもう少し寝ていてかまわないよ」

「……いいえ。どうせすぐに起こされるでしょうから、このまま目覚めてしまいますわ」

 ラティファは勢いよく身体を起こすと、そのまま自分の頬を叩く。
 パンと乾いた音が寝室の中に響いてエドワードが顔をしかめた。

「……そうやって無理やり気合いを入れるのはよくないよ。見ているこっちが痛くなってくる」

 エドワードがラティファの頬にそっと唇をよせる。
 心配そうな顔をしたエドワードに、至近距離のままじっと見つめられる。
 ラティファはそんな夫を安心させようと、彼の胸に飛び込んでぎゅっと抱きついた。

「これをしないとしゃきっと目が覚めなくて一日が始まらないの。ただの習慣だからそんなに心配しないでくださいませ」

 エドワードは優しい。
 初めて出会った日から、常にラティファの身を案じてくれている。

「いくら習慣でもティファの体が傷つけられているようで嫌だな。もっと自分を大切にしてほしい」

 ラティファは人から優しくされることに慣れていない。
 だからこそ、最初は疑心暗鬼になっていた。
 エドワードの態度は敵国から嫁いできたラティファを油断させる罠なのではと警戒していたのだ。
 しかし、優しくされることに慣れていなかったからこそ、エドワードの言動のひとつひとつがラティファの心に深く入り込んできた。
 死を覚悟してまで敵国に嫁いできたラティファがエドワードにほだされてしまうのに、時間はかからなかった。

 エドワードは兄である前王太子が亡くなって、その地位を継いだばかりだ。
 なにかと公務が立て込んでいるようで、毎日があわただしい。
 人間と魔族は和解したばかりである。王太子となった彼が忙しくないわけがない。
 だというのに、出会った日から一日も欠かさずにラティファのもとへ足を運んでくれる。
 二人の時間を大切にしたいというのも嘘ではなかった。
 
「すっきり目覚めたいなら飲み物でも用意させればいいだろう?」

「……そうね。前向きに検討したいとは思っているわ」

 以前に目覚めの一杯を頼んだら、冷めた薄茶色い液体を出された。
 最初はこういった飲み物を魔族は好むのかと思って口にした。
 しかし、カップを運んできた使用人の表情を見て嫌がらせだとすぐに気がついた。
 雑巾のしぼり汁でも飲まされたのかとぞっとしたが、出がらしのお茶を飲まされたのだと信じたい。

「ご心配ありがとうございます。私のことはお気になさらずに、どうぞお仕事へ向かってくださいませ」

 目覚めてすぐにそんな心配をしながらお茶など嫌だ。そう考えていたのが態度に出てしまっていたのかもしれない。
 エドワードがまだ心配そうにしているので、ラティファはにっこりと微笑んだ。

「悪いな。一緒に朝食をとれないが、ティファはゆっくりしていてくれ」

「ええ、そうさせていただくわ。いってらっしゃいませ」

 ラティファはエドワードを見送ると、もういちど頬を叩いた。

「さてと、私もゆっくりはしていられないのよね。今日も気合いをいれて挑まなくては」

 今日は現魔王の妃から茶会に誘われている。
 王太子妃となったラティファには、王妃の誘いを断るという選択肢はない。

「エディの優しさに少しでもお返しできるように、私も妻として頑張らないとね」
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