離婚したので冒険者に復帰しようと思います。

黒蜜きな粉

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問題発生

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「――ぐるるるるるるるるるるるるっ!」

 モンスターが上半身を起こして前足を高く掲げた。
 モンスターは、間髪入れずにその前足を勢いよくイルシアに向かって振り下ろす。

 ここまで逃げてきていた受験者の一人が、モンスターの迫力を前にしてその場にへたりこんでしまった。
 受験者は逃げようとするでもなく、ただ茫然とイルシアとモンスターの動きを眺めている。圧倒的な力を前にして、腰が抜けてしまったらしい。

 ライラは咄嗟にその受験者のそばに行って手を伸ばす。
 震える身体を無理やり抱きかかえると、戦いの衝撃波から逃れるためにその場から飛びのいた。
 あのモンスターとイルシアが戦えば、周囲に何らかの影響がでるはずだ。ライラは抱えた受験者の身体をぎゅっと力強く抱きしめる。
 そんなライラの行動に構わず、イルシアは派手にモンスターへ攻撃を仕掛けてその巨体を退かせた。

「――っちょっとイルシア君! もう少し静かにできないかな。周りに人がたくさんいるんだからね‼」
 
 ライラはイルシアが動くたびに周囲に舞う火の粉を払う仕草をしながら、必死に訴えかける。
 しかし、モンスターと戦うことだけに夢中なイルシアの耳には届かない。周囲にいる人々に配慮をした動きをみせることはまったくない。
 イルシアは真剣に戦っているつもりなのかもしれないが、ライラにはただひたすら暴れまわっているようにしか見えない。

「私の言葉が何一つ聞こえないくらい暴走中なのね。これは教えがいがありそうだわ!」

 ライラは嫌味っぽく言いながら、呼び出した水の精霊に他にも動けなくなっている受験者たちを瘴気から守るように心の中で念じる。
 そんなライラに、マスターから落ち着き払った声がかかる。

「ほら。あなたお一人でなんとかなりそうでしょう?」

 マスターは戦いの影響を受けないように結界を作りあげ、ちゃっかりとその中にいた。しかも、彼のいる結界の中には、周囲にいた人々が集められている。
 強大なモンスターを前にしても動ける者は、あらかたマスターが指示を出して結界の中に避難させたらしい。

 そんなマスターをライラはぎろりと睨みつけた。
 さすがは冒険者組合のマスターだ。やる気を出せばきちんと場に応じた対処ができるのだということを目の当りにさせられて、妙に腹立たしい気持ちになってしまう。

「――ええ、なんとかするわよ! それよりも、動けなくなっている子たちの方にこそ、救いの手を差し伸べてほしかったけれどね」

「私はこれ以上近付いたら瘴気の影響が心配ですから。そちらはお任せしましたよ」

「ああ、はいはい任されましたけどね。それより、瘴気に侵されたモンスターの出現なんて異常事態を、冒険者組合の独断で済ませていいと思えないわ。軍に連絡くらい入れなくて大丈夫なの?」

 ライラは結界の中に抱えていた受験者をおろすとマスターに問いかけた。
 結界の外ではイルシアがモンスターの相手をしていて、激しい戦闘音が響いてくる。

「それは君の気にすることではないですよ」

 相変わらず涼しい顔で言ってのけるマスターに、ライラは毒気を抜かれて肩をすくめた。

「たしかに管轄争いなんて私が口を出すことじゃないわね。上の連中とのやり取りはマスターのお仕事だもの」

「君はこの場の者たちを瘴気から守り、イルシアをうまく使ってあのモンスターを討伐してくれればいい」

「簡単に言わないでちょうだい。あなた、相手が私じゃなければとっくに殴られているわよ?」

「ひどいですね。面と向かって性格が悪いだなんて言ってくるのは君ぐらいですよ」

 ライラは深いため息をついた。笑顔を浮かべたままのマスターから視線を逸らす。
 
 ――さて、これからどうしたものかしらね。

 ライラは周囲をじっくりと眺めながら思案する。
 マスターはイルシアをうまく使ってモンスターを倒せと言った。
 あの程度のモンスター、ライラ一人であれば討伐することなど容易だ。
 しかし、暴走したイルシアに言葉は届かないし、腰が抜けて動けなくなっている受験者たちは邪魔すぎる。

「とりあえず、イルシア君はモンスターの足止めができているからいいとして……。問題は受験者たちの方よね」

 ライラはぶつぶつと独り言をつぶやきながら考えをまとめる。
 一人一人を結界内に運ぶには時間がかかる。
 時間がかかれば瘴気の影響を受けてしまう可能性が高い。

「――ああ、面倒くさい! 今日はただの冒険者登録試験だったはずなのに、どうしてこんなことになったのよ?」
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