離婚したので冒険者に復帰しようと思います。

黒蜜きな粉

文字の大きさ
56 / 151
問題発生

4

しおりを挟む
「――ぐるるるるるるるるるるるるっ!」

 モンスターが上半身を起こして前足を高く掲げた。
 モンスターは、間髪入れずにその前足を勢いよくイルシアに向かって振り下ろす。

 ここまで逃げてきていた受験者の一人が、モンスターの迫力を前にしてその場にへたりこんでしまった。
 受験者は逃げようとするでもなく、ただ茫然とイルシアとモンスターの動きを眺めている。圧倒的な力を前にして、腰が抜けてしまったらしい。

 ライラは咄嗟にその受験者のそばに行って手を伸ばす。
 震える身体を無理やり抱きかかえると、戦いの衝撃波から逃れるためにその場から飛びのいた。
 あのモンスターとイルシアが戦えば、周囲に何らかの影響がでるはずだ。ライラは抱えた受験者の身体をぎゅっと力強く抱きしめる。
 そんなライラの行動に構わず、イルシアは派手にモンスターへ攻撃を仕掛けてその巨体を退かせた。

「――っちょっとイルシア君! もう少し静かにできないかな。周りに人がたくさんいるんだからね‼」
 
 ライラはイルシアが動くたびに周囲に舞う火の粉を払う仕草をしながら、必死に訴えかける。
 しかし、モンスターと戦うことだけに夢中なイルシアの耳には届かない。周囲にいる人々に配慮をした動きをみせることはまったくない。
 イルシアは真剣に戦っているつもりなのかもしれないが、ライラにはただひたすら暴れまわっているようにしか見えない。

「私の言葉が何一つ聞こえないくらい暴走中なのね。これは教えがいがありそうだわ!」

 ライラは嫌味っぽく言いながら、呼び出した水の精霊に他にも動けなくなっている受験者たちを瘴気から守るように心の中で念じる。
 そんなライラに、マスターから落ち着き払った声がかかる。

「ほら。あなたお一人でなんとかなりそうでしょう?」

 マスターは戦いの影響を受けないように結界を作りあげ、ちゃっかりとその中にいた。しかも、彼のいる結界の中には、周囲にいた人々が集められている。
 強大なモンスターを前にしても動ける者は、あらかたマスターが指示を出して結界の中に避難させたらしい。

 そんなマスターをライラはぎろりと睨みつけた。
 さすがは冒険者組合のマスターだ。やる気を出せばきちんと場に応じた対処ができるのだということを目の当りにさせられて、妙に腹立たしい気持ちになってしまう。

「――ええ、なんとかするわよ! それよりも、動けなくなっている子たちの方にこそ、救いの手を差し伸べてほしかったけれどね」

「私はこれ以上近付いたら瘴気の影響が心配ですから。そちらはお任せしましたよ」

「ああ、はいはい任されましたけどね。それより、瘴気に侵されたモンスターの出現なんて異常事態を、冒険者組合の独断で済ませていいと思えないわ。軍に連絡くらい入れなくて大丈夫なの?」

 ライラは結界の中に抱えていた受験者をおろすとマスターに問いかけた。
 結界の外ではイルシアがモンスターの相手をしていて、激しい戦闘音が響いてくる。

「それは君の気にすることではないですよ」

 相変わらず涼しい顔で言ってのけるマスターに、ライラは毒気を抜かれて肩をすくめた。

「たしかに管轄争いなんて私が口を出すことじゃないわね。上の連中とのやり取りはマスターのお仕事だもの」

「君はこの場の者たちを瘴気から守り、イルシアをうまく使ってあのモンスターを討伐してくれればいい」

「簡単に言わないでちょうだい。あなた、相手が私じゃなければとっくに殴られているわよ?」

「ひどいですね。面と向かって性格が悪いだなんて言ってくるのは君ぐらいですよ」

 ライラは深いため息をついた。笑顔を浮かべたままのマスターから視線を逸らす。
 
 ――さて、これからどうしたものかしらね。

 ライラは周囲をじっくりと眺めながら思案する。
 マスターはイルシアをうまく使ってモンスターを倒せと言った。
 あの程度のモンスター、ライラ一人であれば討伐することなど容易だ。
 しかし、暴走したイルシアに言葉は届かないし、腰が抜けて動けなくなっている受験者たちは邪魔すぎる。

「とりあえず、イルシア君はモンスターの足止めができているからいいとして……。問題は受験者たちの方よね」

 ライラはぶつぶつと独り言をつぶやきながら考えをまとめる。
 一人一人を結界内に運ぶには時間がかかる。
 時間がかかれば瘴気の影響を受けてしまう可能性が高い。

「――ああ、面倒くさい! 今日はただの冒険者登録試験だったはずなのに、どうしてこんなことになったのよ?」
しおりを挟む
感想 248

あなたにおすすめの小説

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシェリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜

光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。 それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。 自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。 隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。 それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。 私のことは私で何とかします。 ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。 魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。 もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ? これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。 表紙はPhoto AC様よりお借りしております。

石しか生成出来ないと追放されましたが、それでOKです!

寿明結未(旧・うどん五段)
ファンタジー
夏祭り中に異世界召喚に巻き込まれた、ただの一般人の桜木ユリ。 皆がそれぞれ素晴らしいスキルを持っている中、桜木の持つスキルは【石を出す程度の力】しかなく、余りにも貧相なそれは皆に笑われて城から金だけ受け取り追い出される。 この国ではもう直ぐ戦争が始まるらしい……。 召喚された3人は戦うスキルを持っていて、桜木だけが【石を出す程度の能力】……。 確かに貧相だけれど――と思っていたが、意外と強いスキルだったようで!? 「こうなったらこの国を抜け出して平和な国で就職よ!」 気合いを入れ直した桜木は、商業ギルド相手に提案し、国を出て違う場所で新生活を送る事になるのだが、辿り着いた国にて、とある家族と出会う事となる――。 ★暫く書き溜めが結構あるので、一日三回更新していきます! 応援よろしくお願いします! ★カクヨム・小説家になろう・アルファポリスで連載中です。 中国でコピーされていたので自衛です。 「天安門事件」

追放された回復術師は、なんでも『回復』できて万能でした

新緑あらた
ファンタジー
死闘の末、強敵の討伐クエストを達成した回復術師ヨシュアを待っていたのは、称賛の言葉ではなく、解雇通告だった。 「ヨシュア……てめえはクビだ」 ポーションを湯水のように使える最高位冒険者になった彼らは、今まで散々ポーションの代用品としてヨシュアを利用してきたのに、回復術師は不要だと考えて切り捨てることにしたのだ。 「ポーションの下位互換」とまで罵られて気落ちしていたヨシュアだったが、ブラックな労働をしいるあのパーティーから解放されて喜んでいる自分に気づく。 危機から救った辺境の地方領主の娘との出会いをきっかけに、彼の世界はどんどん広がっていく……。 一方、Sランク冒険者パーティーはクエストの未達成でどんどんランクを落としていく。 彼らは知らなかったのだ、ヨシュアが彼らの傷だけでなく、状態異常や武器の破損など、なんでも『回復』していたことを……。

お言葉ですが今さらです

MIRICO
ファンタジー
アンリエットは祖父であるスファルツ国王に呼び出されると、いきなり用無しになったから出て行けと言われた。 次の王となるはずだった伯父が行方不明となり後継者がいなくなってしまったため、隣国に嫁いだ母親の反対を押し切りアンリエットに後継者となるべく多くを押し付けてきたのに、今更用無しだとは。 しかも、幼い頃に婚約者となったエダンとの婚約破棄も決まっていた。呆然としたアンリエットの後ろで、エダンが女性をエスコートしてやってきた。 アンリエットに継承権がなくなり用無しになれば、エダンに利などない。あれだけ早く結婚したいと言っていたのに、本物の王女が見つかれば、アンリエットとの婚約など簡単に解消してしまうのだ。 失意の中、アンリエットは一人両親のいる国に戻り、アンリエットは新しい生活を過ごすことになる。 そんな中、悪漢に襲われそうになったアンリエットを助ける男がいた。その男がこの国の王子だとは。その上、王子のもとで働くことになり。 お気に入り、ご感想等ありがとうございます。ネタバレ等ありますので、返信控えさせていただく場合があります。 内容が恋愛よりファンタジー多めになったので、ファンタジーに変更しました。 他社サイト様投稿済み。

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む

家具屋ふふみに
ファンタジー
 この世界には魔法が存在する。  そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。  その属性は主に6つ。  火・水・風・土・雷・そして……無。    クーリアは伯爵令嬢として生まれた。  貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。  そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。    無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。  その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。      だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。    そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。    これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。  そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。 設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m ※←このマークがある話は大体一人称。

普段は地味子。でも本当は凄腕の聖女さん〜地味だから、という理由で聖女ギルドを追い出されてしまいました。私がいなくても大丈夫でしょうか?〜

神伊 咲児
ファンタジー
主人公、イルエマ・ジミィーナは16歳。 聖女ギルド【女神の光輝】に属している聖女だった。 イルエマは眼鏡をかけており、黒髪の冴えない見た目。 いわゆる地味子だ。 彼女の能力も地味だった。 使える魔法といえば、聖女なら誰でも使えるものばかり。回復と素材進化と解呪魔法の3つだけ。 唯一のユニークスキルは、ペンが無くても文字を書ける光魔字。 そんな能力も地味な彼女は、ギルド内では裏方作業の雑務をしていた。 ある日、ギルドマスターのキアーラより、地味だからという理由で解雇される。 しかし、彼女は目立たない実力者だった。 素材進化の魔法は独自で改良してパワーアップしており、通常の3倍の威力。 司祭でも見落とすような小さな呪いも見つけてしまう鋭い感覚。 難しい相談でも難なくこなす知識と教養。 全てにおいてハイクオリティ。最強の聖女だったのだ。 彼女は新しいギルドに参加して順風満帆。 彼女をクビにした聖女ギルドは落ちぶれていく。 地味な聖女が大活躍! 痛快ファンタジーストーリー。 全部で5万字。 カクヨムにも投稿しておりますが、アルファポリス用にタイトルも含めて改稿いたしました。 HOTランキング女性向け1位。 日間ファンタジーランキング1位。 日間完結ランキング1位。 応援してくれた、みなさんのおかげです。 ありがとうございます。とても嬉しいです!

処理中です...