離婚したので冒険者に復帰しようと思います。

黒蜜きな粉

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散策

7

「今日は天気も良いし、遠乗りするには丁度いいわね」

 現れたのは美しい容姿の女だった。
 女はこちらを見ながら明るく声をかけてくる。まるで以前からの知り合いのような自然な調子だった。

 ライラは目の前の女性が、マスターの執務室で見た似顔絵の女だと気がついた。
 女の声掛けにすぐに応じようと思ったが、彼女の隣にいる少年を見て、先に馬から降りる。

 女は生気のない顔をした少年を一人連れていた。
 虚ろな目をした少年の肩に寄り掛かり、女は妖艶な笑みを浮かべている。
 
「あの少年、行方不明者のリストにあった者と特徴が一致します」

「あら奇遇ね。私もそう思っていたところよ」

 ライラに続いて馬を降りたエリクが、こっそりと耳打ちしてきた。
 彼は隠し持っていた短剣を取り出して構える。
 
「お名前はたしか、エセリンドさんだったかしら?」

 ライラは女に微笑み返しながら声をかけた。
 エセリンドは唇に人差し指を当ててゆっくりと首を傾げる。

「あら、私のことをご存じなのね。どこかでお会いしたかしら?」

「いいえ。お会いするのは初めてよ」

「だったら人の名を呼ぶ前に、先にご自分が名乗られたらいかがかしら?」

 エセリンドは顔を歪めてライラを睨みつけてくる。
 せっかくの美しい顔が台無しだ。

「申し訳なかったわ。私の名前は……」

「ああ、別に名乗って頂かなくて結構よ。私はアンタに興味ないから」

 ライラがエセリンドに言われた通りに名乗ろうとすると、彼女は舌打ちをして話を遮ってきた。

「私はエリク様に用事があるの。アンタは引っ込んでて」

 ライラはエセリンドの態度に腹が立ち、隣にいるエリクを見上げて睨みつける。

「なんでさまとかつけられているわけ? まさかあなたの女とか言わないでしょうね」

「こんなところでわざわざ姿を見せたのは目的があるからだろう。早く用件を言え」

 エリクはライラの問いかけを無視してエセリンドに向かって話しかける。
 しかも、彼はライラを自分の背後に追いやってエセリンドの姿が見えないようにしてしまうので、ますます腹立たしくなる。

「ちょっと無視しないでよ。あの女は何なの⁉」

 ライラはエリクの服の裾を引っ張るが、彼はその場を動こうとしない。

「あら、エリク様は随分とそちらの女性を大切になさっているようですわね。なんだか妬けますわ」

 ライラはエリクの背中から顔をだしてエセリンドを見る。
 彼女は憎悪の視線でライラを睨みつけていた。目が合った途端、ライラは全身に悪寒が走る。

「……ちょ、ちょっと待って。何か勘違いなさっているようだけど、私とこの人は別に」

「腕を組んで街中を仲良さげに歩いていたのを見ていたわ。今だって二人で馬に乗って……。許せない、許せないわ」

 エセリンドが小声で何かを呟きながら身体をガタガタと震わせはじめる。
 その尋常じゃない様子に、ライラは真顔でエリクを見上げた。

「あの人、実はちょっとアレな人?」

「あの女は指名手配犯です。立場的に私が追いかける側になるのですが、それを愛されているからだと主張するのですよね」

「ああ、面倒くさいタイプね」

 ライラが呆れていると、エセリンドが叫んだ。

「アンタみたいなぽっと出の女にエリク様は渡さないわよ!」

「――いらないわよ! なんでファルちゃんといい、この人と私をくっつけたがるのよ‼」

 ライラがエセリンドに言い返したとき、目の前に影ができてふっと視界が暗くなった。
 ライラは咄嗟に背後を振り返ろうとする。

 気配はまったく感じられなかった。
 気が付いたときには何かが背後に立っていた。

「――っエリク避けて!」

 ライラは背後を振り返るより先に、声を上げてエリクの背中を押した。
 視界の端に鋭く尖った何者かの爪が見えたのだ。

 エリクはライラに背中を押されてすぐにその場から飛び退いて攻撃をかわした。
 しかし、ライラは避けきれなかった。
 左の二の腕部分の服の生地がぱっくりと裂けた。うっすらと肌に線が入り血が滲む。

 ライラはスカートの中に忍ばせていたナイフを取り出して、攻撃をしてきた相手に投げつける。
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