ありのままでいたいだけ

黒蜜きな粉

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 祖母は気が強い女性だった。
 自分の考えを曲げない人で、他人と意見が合わずトラブルばかり起こしていた。
 近所の鼻つまみ者で、祖父の存在がなければ我が家はきっと村八分にあっていたと思う。

「古い考えの人だから。しょうがないことなのよ」

 母や周りの人々はそう言っていたが、真奈美はそうではないと思っている。
 祖母にとって女は自身の存在を脅かす邪魔な存在なのだ。相手が子供だとか、身内であるということは関係ない。
 自分と同性であれば、とにかく気に入らない。そういう人だった。
 真奈美はそんな祖母が大嫌いだ。

「──女のくせに!」

 これが祖母の口癖だった。祖母はそう言っては、幼い真奈美の頬を叩いて罵ってきた。


 祖母について特に印象的だったのは、真奈美が七五三のときの出来事だ。

 真奈美はそれまでスカートというものを穿いたことがなかった。
 そのときはもう真奈美は幼稚園の年長だったので、いわゆる女の子らしいとか、可愛いという物に興味があった。

 だが、祖母がそういった物に真奈美が触れることを許さなかった。
 祖母がそんな調子だったため、当然ながら真奈美は物心ついた頃からスカートを穿くことを禁じられていた。

 当時は六歳だ。
 幼かった真奈美は、大人がそう言うのであれば、そんなものなのだと疑問を持つことはなかった。スカートというものは、自分は身に着けてはいけないのだと、素直に受け入れていた。

 そんな日々を過ごす中での真奈美の七五三だった。
 さすがの祖母も、七五三で着物を着ることは許してくれた。普段とは違う綺麗な格好ができて、真奈美は上機嫌だった。

「可愛い! このお洋服はどうしてここにあるの?」

 七五三で着物を着た真奈美は、記念写真を撮るために家族で写真館を訪れていた。
 その写真館には、貸衣装のドレスがあった。しかも、写真館の壁には近所の子供がそのドレスを着ている写真が飾ってあったのだ。

「このお洋服を着て写真を撮っていいんだよ。真奈美ちゃんもこれで写真を撮りたいのかな?」

「誰でも着ていいの? お写真が撮れるの?」

 上機嫌だった真奈美は、ドレスを見てはしゃいだ。写真館のおじさんは調子を合わせて愛想よく話をしてくれていた。
 真奈美は子供だったのだ。近所の同年代の子が可愛らしいドレスを着ている姿を見てしまえば、うらやましくなってしまうのは当然の感情だと思う。

「お着物じゃなくて、この可愛いお洋服を着てお写真が撮りたいな」

 スカートを穿いてはいけない。可愛らしい格好をするのは禁止。
 普段の生活はそうしなくてはならないと言い聞かせられていたが、七五三は特別だ。
 今日だけは着物を着ることが許された。ドレスを着ることだって問題ないだろう。
 そう期待してしまったことがいけなかった。
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