ユークロニア 〜蒼い輝に包まれて〜

雨宮濛

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神の化身

逃げたい。

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「逃げる......?」

「うん、逃げるの!一緒に!」

 エルフィスは輝いた瞳でルリアを見つめた。
 だが、ルリアの瞳には闇があった。

「何言ってるの?私は只、少し皆と違うだけで普通の人間だよ......?兄さんみたいな、母さんみたいな......そんな醜いものじゃないんだから......!醜いものと一緒にしないでよ!もう嫌なの!悪魔の血が少し流れていただけで、自分が悪魔と呼ばれるのを!」

 ルリアの瞳は遂に黒く染まった。涙を流し、全てを失った様に。

「前世の私は、どれだけ悪事を働いてきたのよ......何で、今生まれてきた私が前の私の代わりに罪を償わないといけないの......!?」

「ルリア......」

 エルフィスは優しくルリアを抱きしめた。
 ルリアは何も理解できなかった。

「ならば、もうそこからは逃げよう。もう、辛くならないように。私が、守ってあげるから......」

「お取り込み中失礼~。ルリア、お前は死刑に処すぅ~。」

 ヒールの音と共に声が聞こえた。
 ルリアの方に向かって来たのは、シスターだった。

「マーシャ様......!?」

「なぁに、偽物と絡んでんのさぁ?エルフィスちゃんとは話しちゃダメぇってさぁ?長も言ってたよぉねぇ?」

 マーシャというシスターはルリアに鋭く尖った刃物を近づけた。

「エルフィスゥ~?初めましてぇ~マーシャよぉ。あんたとは違うサバトの信仰する死神の化身、それがアタシよ。」

「ルリアに手を出さないで。」

 エルフィスはマーシャの腕を掴んだ。

「あんたはさぁ、そんな怒りと憎しみだけの感情で勝てると思ってるの?」

 マーシャはもう片方の手でエルフィスに刃を向けた。

「今サバトには創世神が味方に着いてるの。だからもうあんたは偽物、もうあんたの生きる価値などないのよ。」

「だから、あんたには......」

 マーシャはルリアに黒い塊の魔法を心臓に埋め込んだ。

「ルリアに何をした!?」

「ふふっ......絶望を与えたのよ。もう2度とあんたと話せない様にね。」

「ルリアっ!」

 エルフィスは気絶したルリアを支えた。エルフィスがルリアから感じ取った魔力は重かった。

「ルリア・バーベルタは死んだ。その魂はもうルリアではない。ルリアは亡き罪人となった。今埋め込んだ魂は、『魔女王 シュドノ』私達サバトの信仰する死神の1人だ。」

「ルリアが、死んだ?」

 エルフィスは急な出来事に理解が追い付けず、ルリアが死んだ事だけを理解した。

 エルフィスの神蒼しんそうの目からは透明な涙が溢れた。

「まぁ、完全に殺した訳ではないわ。死人の魂が残っている時間は約20年、あんたが本気でルリアを救いたいと言うならば、この私、マーシャと、サバト協会6人幹部、長 ルビーレッド・アスター、そして、魔女王 シュドノを倒せば、全ては無になる。魂はルリアの本体へと還り、おまけに悪魔の存在が消滅し、魔界の力も半分減少する。だが、その反対に、あんたが負けたとすれば、あんたが死んだとしたら、この世は壊滅し、民は苦しみ、魔界に支配される。創世神に裏切られた神の子、エルフィス・ナタリアよ!私達、サバトに挑むか?」

 エルフィスは深呼吸した。エルフィスは神の化身だとしても、言わばまだ幼き子。世の知識も一般人と同様だった。あるのもは力のみ。でもそれは1部の制限だけであり、下手をすれば他人にも影響を及ぼし、暴走してしまう。
 だが、そんな事、今考えている場合では無い。

「私は、数年後、お前達を殺す......」

「ふふっ......そう。楽しみにしているわ......」

 マーシャはルリアを抱え背を向けた。
 マーシャはふと足を止めると、少し顔を後ろへ向けた。恐ろしい笑みだった。

 エルフィスは気を失い、倒れた。

 5年後 206年 ナタリア王国

 エルフィスはあの日倒れてから、足が麻痺し、自由に動かす事ができなくなった。教会の神父が見たところ、マーシャがかけた呪いの魔法のせいで、エルフィスの精神がやられかけていた。
 今は仕方なく、治療の方に集中している。

「お前、体調は大丈夫なのか?」

 悪魔の少年、ルリア・バーベルタの兄、ネレル・バーベルタがエルフィスを支えた。

「触んないで......」

 ネレルと出会ったのはあの日の夜、私が昼間に倒れていたところを助けてくれた。ルリアからは私の話を聞いていたらしく、とても親切にしてくれた。ネレルは完全な悪魔で、サキュバスらしい。
 ルリアと似ていて、異性だからだろうか、恋をしてしまった。だが、こいつはサバト派の子供、警戒はしないといけない。だからこうして冷たく接している。

「......すまない。」

 ネレルは悲しそうな表情を一切しなかった。だが、エルフィスを気にかけているのは本当だ。

「姫様、失礼します。」

 ユノがいつも通り菓子を持ってきてくれた。そして、その後ろには、1つ年上の兄、ゼファ・ナタリアがいた。
 ゼファはずっと北のメサリア王国に留学している。

「ユノ、ありがとう。それで、ゼファお兄様はどうしてここに?」

 ゼファはエルフィスに抱きついた。

「エルフィス......僕の愛しいエルフィス......守ってあげられなくてごめんね......」

 ゼファはエルフィスを力強く抱きしめながらネレルを睨んだ。

「すまない、エルフィス、少し触るよ......」

 ネレルがエルフィスを自分の方に寄せた。
 エルフィスが一体何が起きたのか分からず戸惑っていた。

「こいつはお前を殺そうとしてる......殺気がとても伝わる......サバトに殺られている......逃げるぞエルフィス。」

「おい、悪魔、お前は何を言っている?」

「言ったままです。ゼファ王子はサバトに殺られました。多分、他の悪魔が本体を乗っ取っています。」

「はぁ......?どうしてそんな......」

 ユノは普通だと思っているが、ネレルにはゼファからの強い闇を感じた。

「感じるんです。闇を。とにかく安全な所へエルフィスを連れて行きます。」

「連れて行くって、何処へ......?」

「悪魔、言っている事がよく分からないね。僕は普通の人間だ。」

「ユノさん、多分、数年帰って来ませんが、ザムキアの森へ......」
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