トレントなどに転生して申し訳ありません燃やさないでアッ…。

兎屋亀吉

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3.ゴブリンの集落

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 あれからたぶん1ヶ月くらいが経った。

 なんとなく1ヶ月くらいだと思う。

 正確な日数なんて数えてないからわからない。

 壁とかに刻んでおこうにも、壁ないからね。

 まあとにもかくにも僕は森のモンスターを倒しまくって吸収しまくった。

 そのおかげで僕は急速に成長した。

 いまや高さ3メートルほど、太さは直径1メートルほどもある太短い見事なトレントボディだ。

 触手のように動く便利な根を3、4本絡めてスマートに2足歩行し、余った根を腰蓑のようにゆらゆらと揺らす姿は、まるでオーストラリアの先住民族とトレントを足して2で割ったようだ。

 うん、いけてる。

 体感時間で1ヶ月以上過ごすうちに段々この姿にも愛着が湧いてきた。

 最近では木目がまるで黒檀のように黒ずんできて高級感というか、気品のようなものが出てきたようにも思える。

 トレントの中でもなかなかのイケメンなのではないだろうか。

 モテ期が来るかもしれないな。

 モンスターを吸収してこれ以上気品が出てきちゃったらどうしようかな、なんてことを考えながら今日も僕は森を彷徨う。

 

 
 いつものようにモンスターを吸収するべく森をうろついていた僕だけれど、今日はいつもとは違うものを発見した。

 森を切り開いた広場のような場所に、みすぼらしいあばら家のようなものが30軒ほど並び、その中をゴブリンが我が物顔で歩いている。

 人間の集落にしては建物がみすぼらしすぎるし、おそらくはゴブリンの集落なのだろう。

 遠巻きにゴブリンの集落を観察してみると、ゴブリンの数は100匹もいないだろう。

 ゴブリン以外のモンスターはいない。

 中には普通のゴブリンより少し強そうな上位種みたいなやつも数匹いるようだが、誤差の範囲内だ。

 これはもしかするとおいしい狩場なのではないだろうか。

 いまさらゴブリンなんかが束になってかかってきても全然負ける気がしないし、この身体は傷を負ってもすぐに再生する。

 僕は正面から突っ込んでも何も問題はないと判断してゴブリンの集落に特攻した。




 突然2足歩行する変なトレントが突っ込んできたゴブリンの集落は阿鼻叫喚の地獄となっていた。

 触手のように自由自在に動く根が振るわれるたびにゴブリンの首が飛び、胴体を串刺しにされる。

 逃げようとすれば魔法が飛んできて殲滅される。

 たとえなけなしの勇気を振り絞って剣や槍でもってそのトレントに立ち向かったとしても、黒く艶やかな樹皮に刃が通ることはない。

 すべてキンッという甲高い金属音を立てて弾かれる。

 さらには、ゴブリンの中でただ1匹だけ魔法を使える固体が放つ火球までもが、その樹皮にわずかな焦げ跡を刻む程度のダメージしか与えることは叶わなかった。

 通常のトレントとは明らかに異なるその奇妙なトレントによって、ゴブリンの集落はただの1匹とて逃すことなく殲滅された。




 いやぁ、やっぱり集落はおいしいね。

 あたり一面地獄の針山のような光景が広がっている。

 無数の根によって大量のゴブリンが串刺しにされて、滴る鮮血によって地面に真っ赤な絨毯が今も広がり続けていた。

 僕は根に刺さったゴブリンをそのまま吸収すると、地面に転がっている魔法で倒したゴブリンなども、次々に吸収していった。

 ようやくすべてを吸収し終えたので、集落を見て回る。

 まだ、生き残りがいるかもしれないし、ファンタジーの世界ではゴブリンの集落によくいるいわゆるくっ殺さんがいるかもしれないからだ。

 いたらいたでどうしようか困るところだけれど、幸いにもこの集落にはいないみたいだ。

 ゴブリンの数もそこまでではなかったし、まだできてから間もない集落だったのかもしれない。

 と、ここまでゴブリンが他種族と交わることを前提で考えていたけれど、どうなのかな。

 いや、やるでしょあいつらは、いやらしい顔してたし、ぶらぶらしてたものも人間のものに近かったし、メスが少なかったし。

 もし、この世界のゴブリンがゴブリンしか愛せない種族だったらごめんなさい。

 独断と偏見だけど、たぶんやるでしょ。

 オークとかも何度か狩ったけど、あいつらもやりそうだな。

 エルフとか女騎士とか好きでしょ。

 もし、この世界のオークが…以下略。

 そんなこんなで1軒1軒あばら家をまわっていたのだけれど、1軒のあばら家から人間から奪ったと見られる武器や財宝なんかが出てきた。

 財宝はゴブリンには価値があまり分からなかったのか少ししかなかったが、武器がたくさんあった。

 僕はおもむろにその武器を吸収してみる。

 今までにも変なものを吸収してみたことはあった。森の木の実や草、きのこ、石ころ、ゴブリンの持っていた武器などだ。

 そのなかで、木の実や草なんかの植物は普通に吸収できた。

 その結果、わずかながらの生命力や魔力を吸収できたのと、吸収した木の実や草を自分の身体から生やせるようになった。

 僕の存在の格が上がったからできるようになったことなのか、最初からできたのかはわからないが、僕と植物には親和性があるようだ。

 それ以外に、無機物でひとつだけ吸収できたものがあった。

 それが、ゴブリンの上位種が持っていた、おそらく人間から奪ったであろうなにやら高そうな剣だ。
 
 これは魔力を帯びた剣で、僕の固い樹皮をにんじんを切るようにスパスパ切るような切れ味の剣だった。

 あれは魔剣だったのではないだろうか。

 その剣は吸収したら砂になって消えてしまったが、あれを吸収してからなにやら根が鋭くなったような気がする。

 もしかしたら吸収したものの性質をわずかではあるが、取り込めるのではないだろうか。

 これは、スライム転生などに見られる、吸収無双では!?

 などと興奮して、強そうな特殊能力を持ったモンスターを満身創痍になりながら倒して吸収してみたが、普通に生命力と魔力を吸収できただけだった。

 そんなにうまい話は無い。

 スライムはスライム、トレントはトレントだ。

 そんな理由から、あの時の魔剣みたいなものはないかと、一通り吸収してみたがめぼしいものはない。

 あたりまえの話だ。

 魔剣なんてあったら使ってるよね。

 めぼしいものはないかと物色していると、なにやら魔力を帯びた品物を発見した。

 それは見た目は古びたウェストポーチだが、僕には確信に似たものがあった。

 これはアイテムボックスだ!!

 魔力を帯びた鞄なんてそれ以外にないでしょ。

 マジックバックもしくはアイテムボックス、またはストレージなどと呼ばれているもの。

 見た目は文庫本2冊分くらいしか入らなさそうだが、これには大量の物が入るはずだ。

 僕は試しに根でその辺の武器を掴んでポーチに入れてみる。

 おおっ、入る。どんどん入る。

 結構容量は大きいみたいだ。

 これは、悩むね。

 もしかしたらこれを吸収したらアイテムボックスが使えるようになるかもしれない。

 でも、もしこれを吸収しただけではアイテムボックスが使えないのならば、これをこのまま持っていたほうがお得なのではないだろうか。

 そこまで考えて、僕は気づいた。

 今の生活のどこにアイテムボックスが必要なことがあっただろうか、と。

 僕は結局アイテムボックスが使えるようになったら儲けもの程度の気持ちでその鞄を吸収した。

 あと、ついでに乱雑に置いてあった本も吸収した。

 なんて書いてあるかは分からなかったけれど、羊皮紙でできているようだったので吸収できた。

 もしかしたら、吸収したら知識が取り込めるかもしれないと思ってのことだ。

 その結果、幸いにもアイテムボックスも知識も取り込めた。

 これは結構すごいことなのではないだろうか。

 アイテムボックスはともかく、本は読まなくても吸収するだけで勉強できるということだ。

 瞬間学習能力とも言える。

 今吸収したのは子供が使うような教本と料理本というどうでもいい本だったが、図書館などに行って片っ端から本を吸収していけば1日で学者になれそうだ。

 まあ、本は全部借りパクになるだろうが。

 借りパク、ダメ絶対。

 借りパクはダメだが、ゴブリンから奪うのはいい。

 なるほど、そういう意味でも集落を狩るのはおいしいかもしれない。

 こうして僕はモンスターの集落を襲うのに味をしめた。


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